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おしまいの聖女  作者: とりさし
逃亡の聖女
6/53

6 ルイージの酒場王都西口3号店にて

ヨウ視点です。

※お下品注意。

 陽が傾き西の空が朱に染まる。段々と深い紫と混じり夕闇となり街を覆う。

 もうじき夜だ。



 あれからさらに西へ歩き、酒場に入った。

 [ルイージの酒場王都西口3号店]。店によって雰囲気が違うらしく、この店は庶民向けだが荒っぽい客の少ない、どちらかといえばカップルからファミリー向けのファミレス居酒屋と言った様相だ。因みに二階は宿らしい。

 

 入口近くの席に座った。ドアの影になる位置だ。


 お品書きを見て店員に注文する。私とリオンはビール、ソフィはジュースだ。肉の煮込み、焼鳥、パスタ、本日の魚料理、エビとニンニクのオイル煮など適当に注文する。


 「お待ちど!」と焦げ茶の髪を後ろで緩く纏めた中年の女性がテーブルに飲み物をドン! と豪快に置いた。三人とも半分ほど一気に飲み喉の渇きを癒した。ビールは日本でおなじみのラガーではなくエールだった。大手企業のラガービールも嫌いじゃないがクラフトビールの独特なコクが大好きなのでとても嬉しい。


 食べ物が来るまでの間として野菜が深皿いっぱい出てきた。……これは、パリパリキャベツ。カラフルな髪の毛、コスプレ紛いな服装の異世界で日本の焼鳥居酒屋定番お通しを食べていると妙な気分になる。うん、パリパリとしたキャベツの絶妙な塩加減が当たり前に美味しい。

 ソフィに可愛らしいピックが刺さった肉団子がこれまた可愛らしい果物を模したお皿に乗せられ出された。星形に切り抜かれた人参も添えてある。お通しがこれとか店主は子供好きに違いない。というか、お通し制度があるってどういうことよ。


「ところで、この状況を説明いただけますでしょうか?」


 リオンが、つい数時間前の――いろいろありすぎて随分前のことに思えるが――私のセリフを意識しているのかしていないのか、心底嫌そうに聞いてきた。


 さっきも軽く説明したけれど、と前置きして。


「テッテレー! 小型消音結界~!」


 ポーチから魔道具を取り出しテーブル中央に置く。魔道具屋で購入した物の一つだ。三センチ四方程の小さな立方体でスイッチに触れると作動する。結界外の音は聞こえるが、結界内の音は聞こえないよう作用する。最大で半径二メートルに満たない小範囲の球形結界だが、三人で聞かれたくない話をするには十分だ。因みに金貨五十枚した。


 それぞれ取り分けて食べながら話を進めていく。


 まずはエビを取り分ける。普通にアヒージョ的なものだろうと思っていたけど、予想外の大きさで出てきた。幼児の肘から先程の大きさの殻付きのエビをみじん切りのニンニクとともにたっぷりのオリーブオイルで煮込んである。食べ方に悩んでいると、先ほどの中年女性が身振り手振りで教えてくれた。皿に取り分け、手で掴み曲がった背の方へ折り頭と体を分ける。頭からミソが垂れてくるのを指ですくって舐める。美味しい。殻を剝き身も口に入れる。プリっとしているのにとろっとした旨味が溢れて手間や汚れが気にならないくらいだ。オイルにも旨味がたっぷり出ているので、パンを追加注文して浸して食べる。


 肉料理は…牛テール煮込みに似ているけど肉の味に少し癖がある。何の肉だろうとは思うけど材料を《閲覧(みる)》のはやめておこう。美味しいのには変わりはない。知らないほうがいいことは往々にしてあるものだ。



 魚は…サーモンだ! 添えてあるハーブは何だろ? バターの風味と濃厚なクリームソースが食欲をそそる。酒はエールよりワインの方がいいかも。……でもやっぱり焼き鮭には醤油がいいな。皮をカリカリに焼いて。醤油もどこかにあるのかな。百年前の聖女様、醤油開発してないだろうか。



「そうだねぇ。見たほうが早い。あそこの男女見て」


 少し離れたカウンター前。祭りを楽しみに来た若いカップルだろう。つまらない喧嘩でもしたのだろうか。男は不機嫌そうに女から顔を背け、女は無表情でうつむいている。


 男女の頭上へ人差し指を向け左から右へヒョイヒョイと動かす。



 二人は目を潤ませて互いの頬に手を添えキスをしだした。男は右手を女の後頭部に滑るように回し入れる。うなじから指を入れ、髪をかき上げつつ上を向かせ抱き寄せた。反対の手の指は絡まり、しっとりとした情事を連想させるような、互いの形を確かめるような動きになる。女の手も男の腰に回っている。キスも啄むようなものから、角度を変え段々と互いの唇の感触を味わうものへ。招くように半開きになった女の口へ男の舌が性急に入り込みくちゅくちゅと淫靡な水音を鳴らす。二人の喉を唾液が垂れ落ち、服に染みを作る。脚をモジモジと摺り合わせている女にに気づいた男が膝を割り込ませていく。それから――



「はーい。ソフィにはまだ早ーい」


 にっこり顔を作り、両手でソフィの頬を挟みテーブルに――カウンターの反対へ――向かせた。


 あれぇ?こんなに効くと思わなかった。やっべえ。想定外だ。軽くキスとかするかなとは思っていたんだけど。お子様の教育に超絶よろしくない。内心冷汗が止まらない。


 顔を真っ赤にしたリオンは指の隙間から光景を覗いている。周りの客は「いいぞもっとやれー!」「ヒュー!」などと囃し立てている。もはや余興だ。


「何なんです?」


 顔を真っ赤にしたリオンが聞いてきた。むっつりか。むっつりだな。神官のくせにむっつりか。神殿は大丈夫なのか。


「えーとねぇ。何でか知らないけど状態?なのかな?が見える」

 

「何で疑問形」


「いろいろ悪趣味過ぎて信じたくないというかね。いろいろ《状態》が見えて操作できる。何というか、横棒のゲージって言ってもわからないよね……。今のは《好意》を上げてみた。トリアタマーズや謁見の間の人たちにしたのよりずっと控え目にしたつもりなんたけど。お互い素直になれなかったんだろうね。お祭りだし、良い記念じゃないかな。多分……!」


 やりすぎた感に遠い目になってしまう。城の奴らはどうでもいいけど。


「他人の人生を何だと思っているんですか!? 何かあったらどう責任取るんです?!」


「少し見たけど大丈夫そうだよ。性格、借金、ヤバい性癖、他に付き合っているのがいる影もない」


「それもわかっちゃうんです?」


 どこか投げやりに言葉を返す。

 当たり前だ。こんなのすぐ信じろという方が無理だ。


「《情報》を《閲覧》できる。何もしなければ《名前》と《職業》くらいで大したことないけど、対価を払えば他の《項目》を開くことができる。召喚されたときにいた人らの大体の立ち位置をこれで知った」


 ギル 大工見習 ▽ 

 シェリー パン屋店員 ▽  


 この様に。三角を押すと項目を開くことができる。


 情報というかこれはまるでWikip〇diaだ。有名人を検索したら出てくるやつだ。スマホで見ていたものとは所々違うけど、身長、体重、生まれてから今までの個人情報がひたすら羅列されている。普通、こういうのってステータスだとかじゃないのかよ。スキルだとか強さだとかの表示はなくひたすら毎日の出来事や行動が簡潔に記載されている。そのくせ《性癖》だの何だの知りたくもない余計な項目まである。その辺の人の好さそうなお兄さんのエグい性癖とか知ってどうする! 

 ともかく、能力の使い方の説明が一切ないし本当に使えない。漫画や小説でスキルとかレベルとかステータスオープンとか鑑定とか萎えるわーとか思っていてごめんなさい。こんな悪趣味なのより実用的だし必要だわ。


 お店の《情報》が見れたのには感謝している。何にかはわからないけど。おかげで変わった道具を扱う少し後ろ暗い経歴のいい感じの店を見つけることができた。



 ワインを追加注文する。ソフィは肉団子のクリームパスタを器用にフォークに巻いて頬張っている。まだ心なしか少し顔が赤いけど大丈夫だったかな。出来たら忘れさっててほしいけど。


「対価?」


「頭が痛くなる。徹夜が続いた時の感じ。ていうか確実に命削っていると思う。でも! なんと! リオンの恥ずかしい情報と引き換えならリスクなしで見れる!」


「何ですかそれ!!」


 リオンがむせた。

 うん。よくわかる。何だよそれだよな!


「誰かの《情報》の《項目》を開こうとすると、リオンのそれはそれは恥ずかしい黒歴史がポップアップ広告の様に出てくるんだよね。カットインしてきたり。いろんなパターンで。それが邪魔で邪魔で。どうにかしてタッチさせたいのかな?それでポイントが貯まるみたいで。まあでも安心して。別に心の中まで読めるとかじゃないみたい」


「ポップ……?」


「いやぁ、神に愛され過ぎているねリオン!」


 リオンも女神とやらをぶん殴る権利があると思うわ。


 ふと、青ざめた顔で小声で聞いてきた。


「……《状態》、そういえば城では?」


 忘れてなかったようだね! 


「思いっきり振り切ってきちゃったね!」


 イェイ!



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