表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おしまいの聖女  作者: とりさし
逃亡の聖女
4/53

4 お祭りを楽しもう

引き続きリオン目線で進みます。

少なめです。

 路地を出て古着屋で服を買い、三人ともごく普通の平民服に着替えた。元々着ていた服は鞄に入れ込んだ。便利すぎるなこの鞄。高価すぎて持つのが怖いけど。


 聖女は古着屋で買った服の上から魔道具屋で買った黒いローブを羽織っている。口調も慣れたのか初めに比べ崩れてきている。



 不意にに手をヒラヒラしたかと思えば見た目が変わっていった。髪の色が漆黒から光放つような銀色に、目も黒から鮮やかな赤色に。


「何ですかそれ……」


「んー、何か出来ちゃった」


何かってなんだよ! 出来ないよ! 大体髪色を変えるなんて禁忌だぞ!


「派手過ぎません? って、色を偽るのは禁じられてます!」


「出来ちゃったものはしょうがないでしょ」

 

 睨まれた。


 何それズルい。髪の色は魔力を現す。色で系統、濃さで強さ。目の色は血統。最早身分証のようなものだ。それに縛られている人間がどれほどいるのかわかって言っているのか。

 

 市場をブラブラと歩く。大通りはたくさんの屋台が軒を連ね、見上げると道向かいの家々の屋根やベランダからひいたロープに色取り取りの旗が吊るされている。広場では楽団が楽し気な曲を奏で、小さな子どもから大人まで思い思いに踊っている。街中が祭りの賑やかな雰囲気に包まれる。


 昼時だ。いい加減腹も空いたのでソフィに聖女を見張らせ適当に屋台で調達する。肉串が旨いんだよな。来年はエイミーちゃんと来るんだ絶対!!


 どうやってこの人大神官様のところに連れて行こうかな。


「今日は何?お祭りなの?」


「今日は初代聖女様……つまり女神様です、が降臨なさった記念日なんですよ。まあ、お祭りのようなものです。なので、はいどうぞ」


 渡せばものすごく驚かれた。馴染みのあるものらしい。


「ありがとうって。カップ木製なんだ! 可愛いね。て、クレープ? パンケーキ? お好み焼き?! フライドポテト?! ハンバーガー?! 唐揚げ? 串焼き? 一体何なん世界観?!」


「今日は聖女祭なので聖女様関連の屋台がほとんどですね。例の百年前、正確には九十六年前の方ですね、が特に凄かったらしいですけど、他にも色々な方のものがありますよ」


「聖女様、同郷の匂いがプンプンする……」


 たっぷりのクリームとベリーソースが乗ったパンケーキを見つめ聖女が訝しげにつぶやいた。



 木陰のベンチに座り、買った食べ物をテーブルに広げる。酒場の屋台で買ったサングリアを聖女に渡す。ソフィには葡萄ジュースだな。この店のサングリアはたっぷりの果物をワインに漬け込みブランデーで風味付けをしたものを冷たい炭酸水で割ってある。酒精は高くないが奥深い味わいと清涼感がとても美味しい。


「これとっても美味しい!! どの店の?」


 気に入ったようだ。店の方を指差し説明する。


「右の方のあれです。酒場の出店ですね。この酒場はあちこちに支店があって仕事の斡旋や人員の紹介もしていたりするので機会があれば見てみるといいですよ」


「ふーん。店名は?」


「ルイージの酒場です」


「惜っしい!! 非常に惜しい!!」


 ……様子がおかしい。まさか、たったあれだけの酒で酔ったと?!




 

 聖女はベンチの背にゆったりともたれ掛け、サングリアのカップの縁を上から掴みゆっくりと回すように振り液体をゆらゆらさせている。

 

 女の子って、カップはこう、両手で持って少しずつ飲むものだろう? エイミーちゃんはそうしてたし。女らしさはどこいったんだ。そりゃ、形のよさそうな胸とかスラリと伸びた脚とかはまぁぐっと来ないでもないし、顔も綺麗だとは思う。意志を感じる眉、アーモンド形の大きな黒い目に長い睫毛。形のいい小ぶりな鼻。薄く色づいたぽってりとした唇。艶やかな黒髪……目も髪も色が変わってしまったけど。


 これで黙っていれば。ケタケタ笑わなければ!

 

 ……召喚されて目が合ったとき、鋭い眼光に射すくめられた。喰われる、と思った。だた美しいとかじゃない、鉤爪で首を抑えられたように感じた。ソフィに預けた後廊下の隅でこっそり首を擦って息を整え冷汗が引くのを待ったほどだった。のだけど。


 

「こっちの人って髪の毛カラフルだよねー。鳥か! 鳥から進化したのか?! ねぇ、ダンスとかあるのやっぱり」


「進化って何ですか。そりゃ貴族は社交がありますし、嗜みとしては当然あるんじゃないですか」


「ヒャー! やっぱり鳥か! 求愛ダンス? マイコドリかな? 師匠の真似するんだっけ? 出産は胎生? 卵生? 頭に殻乗せるタイプ?」


 バチバチ手を叩いて奇声を上げて笑う。この人、素面でも酔っててもとても面倒くさい!


「ねぇ、ピーちゃんって呼んでいい? 髪の色ひよこみたいだしー」


 髪をワサワサ触られた! 何するんだ!


「絶対嫌です!!」


 ひよこって! 「ひよこじゃないっピー」ってうるっさいわ!


「ねぇねぇ、鳥ってさぁ、おしどり夫婦とか言ってるけどメスが卵温めている間オスは浮気してるんだと」


「一生知りたくなかった真実ですね。というか、それ二杯目ですか?」


 いつの間に買ってきた! あー、ソフィか!


「城で見た」


「あぁ……」


 二杯目、は無視か。


 浮気性のあの文官でも見たんだろうか。あのクズも時と場所をわきまえろよ。


 




「ねえねえ! どっかに婚約破棄された令嬢落ちてないかな!」


「御令嬢はその辺に落ちていません! というか、婚約破棄騒ぎなら先ほど殴り合っていた方々が一年と少し前に」


「ああ! あの第二王子とその仲間たち! もったいないことをしたー! どうせなら二年前に来たかった!! 悪役令嬢助けてみたかった!! ザマァ見たかった!!」


 第二王子紹介したっけ?

 顔をしかめて心底悔しそうにしてるけど何なんだもったいないって。


「何すかアクヤクレイジョウとかザマァとか。確か……、隣国の王族に嫁いで行ったとか聞きましたよ。あ……、あの後第二王子殿下方どうなったんでしょう……」


 すごく、ものすごく大変なことになっていた。この聖女が何かしたに違いないけど。


「ああ、トリアタマーズはぁ無事繁殖期を迎え巣ごもりに入ったことでしょう! 来年の春には新しい命が見られるかもしれませんね! 現場からは以上です!」 


「現場って何?! 鳥頭て! 巣……。あー、離宮……。何したんすかもう……。て、三杯目?!」


 ソフィ!! いつの間に酒買ってきた!

マイコドリ・・・求愛ダンスがトニカクカワイイ。オナガセアオマイコドリは師弟がタッグを組んで雌の前で踊る。弟子は引き立て役。鳥のオスってどうしてあんなに派手で面白いんでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ