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おしまいの聖女  作者: とりさし
逃亡の聖女
2/53

2 逃亡


 謁見の間。

 

 高さ三メートル以上はあるだろう大きな両開きのドアが二人の見目麗しい男性使用人により開けられ、入場を促された。


 白い円柱が左右に並んでいる、召喚された部屋の数倍の広さはあるだろう大理石造りの広間。青地に金糸の装飾のあるタペストリーが左右の壁にズラッと並んでいる。全体的に装飾過多だ。

 上方にはガラス製の多面体が内側から白い光を放ち等間隔に多数浮かんでいる。

 奥へと続く深紅の絨毯の先には階段状の王座。そこにいるのは王と王妃か。王太子もいる。広間の両脇には先ほどの比じゃない大勢の騎士や貴族たちがこちらを向き立ち並んでいる。壮観だ。

 

 目を合わさないように進み、絨毯の中央あたりで止まり片膝を折り右手を胸に当て礼を取る。リオンとソフィを横目で見る限りこれで合っているはずだ。リオンはもう少し前まで進ませたかったようだが、ここでいい。余り出口から遠くなるのは良くない。 


「よく来た。異世界の聖女よ。面をあげよ」


 私の好みよりは少々高いがよく通る良い声で王が話しかけてきた。目の端で王の横にいる王太子を見るに、金髪碧眼が王族の証とされているのだろう。誇らしげに、手入れの行き届いた艶やかな黄金の髪を背中で結わえている。王も王太子も作り物の様に整った顔をしている。好きな人にはたまらないだろうザ・王子様という顔だ。王妃様も素晴らしく美しい。スタイル抜群のゴージャス系美人だ。


 日本で生活しているときはこんな最高権力者と会話する機会などない。あるわけがない。慎重に言葉を選びつつ主張を通す。曖昧にして時間を失うわけにはいかない。


「お目に掛かれて光栄にございます。ヨウ・マエダと申します。誠に残念と存じますが、現状私に助けとなれるようには思えません。なので、こちらに世話になるのも心苦しく、市井に下りたく存じます」


「いや、聖女殿にしかできない事なのだ。これより「あぁ! ジビョウノシャクが! 二日酔いが!!」」

 

 言わせてたまるか! とてもこの場で使う言葉と態度ではないが仕方ない。

 直ぐには殺さない程度に甘いことは召喚直後のやり取りで分かっている。このまま押し通す。


 どう乗り切ろうか。

 

 とりあえず、気になることの検証をさせてもらおう。今にも取り返しのつかない危機が迫っていることに気づきましたとでもいうような、切羽詰まった顔を作る。


「偉大なる王よ。どうかこの場での発言のご許可をお願いいたします」


 読んでてよかった異世界物。王族への対応こんな感じだったよな。多少おかしくても何とかなるだろう。


「許そう」


 睥睨し、尊大に答えた。


 広間の右側に固まっている集団を深刻そうに見つめて言う。

 

「早速ではありますが、あちらの方々をこちらへお呼びいただけませんでしょうか?えー、金髪の男性、ピンクの髪の女性、青と緑と赤と黄色の」


 段々と面倒臭くなってきた。

 自分で言うのも何だが、頭戦隊かよ!


「それはこの場よりも大事なことなのか?」


 王が少し機嫌を損ねた様に言う。不満げな態度を隠さない。それでいいのか王様。


 今不興を買ってもしょうがない。王の目を見つめ、ゆっくりと頷く。


「一刻を争います」


 誰にとってとは言わないが。


 王が目配せをすると、彼らが目の前にやってきた。私も王に目配せされ立ち上がる。ピンク頭を中心に緑青ピンク金赤黄色と横一列に並んでいる。



 ……名乗りと決めポーズ取ってくれないだろうか。



「「「「「「お呼びでしょうか聖女様! 」」」」」」


 決め台詞並みに息ぴったり。すごい誇らしげだ。

 でも、多分、ごめんよ。検証に付き合ってくれ。


「えーと、ねぇ……、ファイ!!」


 彼らの()()に手を向け、左から右へに一気に振る。


 一斉に男どもがピンク頭を蕩けたような目で見る。ほほう。


 「「「「「……――!!」」」」」


 男ども、状況に気づいたのか顔を見合わせたのち一呼吸おいて顔を真っ赤にした。ふむ、クール枠も赤くなるのか。


「てっめ!! こいつは俺のだ!!」


「私の声が堪らないと!!」


「昨晩もあんなに激しく求「私を誰だと思っている!!」」


「…………!!」


「「「「「まさか!!!!」」」」」



 繰り出される拳が鳩尾にヒット! 後ろから蹴らないであげて! あー、立派な服がボロボロに……! 髪引っ張ると禿げるよ! 氷と炎出てきた?! 魔法は流石にやばそうだからやめてあげて!て、魔法のある世界なのね。羽交い絞めにしてる緑偉い! でもあれ落ち着かせようとしているわけじゃなくて盾にしているな?


 うん、ス〇ブラかな?

 ピンク頭の彼女、流れ弾に当たっているけど大丈夫ぅ?


 あー、気になるもの二つ確定してしまった……


 広間にいる人間は突然始まった狂乱に思考がついていけないのか一歩も動けないでいるようだ。


 え、だとしたら、あれは。

 顔も動かせず、斜め後ろで呆然と立っているリオンに尋ねる。

 

「ねぇ、リオン。右列の体格の良い騎士とその横の彼。左列の青髪の彼と水色の小柄な彼」


 ……

 …………

 ………………


「じゃあ、あなたと左奥の「流石は聖女様素晴らしい! 流石です!!」」


 被せてきやがった!


 あー、ヒエロスロコス組めるな。


「ねぇ、リオン。初等科の教室で我慢できずにおも「あー!!」」


「ねぇ、リオン。好きな女の子の笛「あー!!」」


「ねぇ、「あー!!!!」」


 気になるもの三つ目も確定。正しいっぽい。

 ちなみに止められたのは『リオン愛のポエム』笑

 

 てことは、

 てことは。

 ヤバい。ヤバすぎる。


 広間は未だ大乱闘中だ。もう少し動かしておこう。左右は別の調整も試してみようか。

 うん、いい感じになった。


「ねぇ、リオン。この国同性婚は?」


「禁じられております」


「そっか」


「しかし抜け道などいくらでもあります」


「だよね!」

 

 なら問題なし!


 

 広間のあちらこちらへ向け左から右へ手を振りまくる。さあ、がんばれ!




「ねぇ、ソフィ。私たちと一緒についてこない? きっと今よりずっと楽しいし、助けてあげれるかもしれないよ?」

 

 膝を曲げてソフィと目線を合わせて微笑みできる限り優しく尋ねる。子供を保護するのは大人の役目だ。


「私たちって何ですか?! 俺に拒否権は?!」

 

 残念だリオン! 無いよ!


「それでいいなら、首を縦に二回振って」


 ほんの少し目を潤ませたソフィは小さく息を飲み、首を振った。小さいが、確かに二回だ。



                『管理者権限を得ました』



「ヨッシャ!!」


 思った通り!! 早くここから去らなくては。手早く済まそう。

 ソフィに付いている下矢印をタップ。画像の喉の上にある謎の記号を削除。


「アッガッァ!」

 

 一瞬、頭を抉るような激しい痛みに襲われた。反射的に手で抑える。

 急に何だ? 頭痛か? まあいい。予想通り、上手くいくだろうか?


「ぁ……ぇぁあ……」


 よし!!


「声、久しぶりだね。練習しよっか。これから時間はたっぷりある」


 呆然としているソフィの栗毛色の頭を優しく撫でる。その髪は子供らしく細く柔らかだ。


「じゃ、リオン、私を背負って走れ! ソフィついてきて!」


 私に与えられた布製の靴は走るのに耐えられるように思えない。服もヒラヒラと無駄に長く、足に絡まり転倒することが容易に想像できた。


「なんなんすかもう! わかりましたよ!」


 はっはっはっ。それが素か。いいね。

 リオンの肩を掴み首に腕を回し負ぶさる。


「あー、あのしわしわの? ヨーダみたいな爺さんとこに近寄って」


「爺さんて! 大神官様ですよ!?」


 ヨーダ似の大神官の近くを三人で駆け抜けていく。正確には私を背負ったリオンとソフィが。

 目が合った。驚いたように大きく見開いている。

 右手の指を広げ左から右に振りぬく。


 出来るだけ苦しんで死ぬといい。


「城外まで全力ダッシュ!!」


「何で俺が?!」


「あー、十四歳の時左腕に「わかりました聖女様! どこまでもお供いたします!!」」



 厨二病って世界共通なんだな。

ヒエロスロコス・・・古代ギリシャ(テーバイ)最強の歩兵部隊。150組の男性カップルで編成されていた。互いに守り、恋人にかっこ悪いとこを見せるわけにいかないという思いからとにかく強かった。後のアレクサンダー大王に敗れる。



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