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おしまいの聖女  作者: とりさし
百鬼夜行の聖女
15/53

15 ようこそ新天地

予告より一日ずれました。申し訳ないです。


二章開始です。よろしくお願いします。

※セーフだと思いますが、初っ端から割と下品です。苦手な方は、新しい土地で職探し、《情報閲覧》と《体液可視化》は自主的に封印、とだけ覚えてスルーしてください。

「大変残念なお知らせがあります。もうすぐお金が尽きます」


 昼下がり、そっと目を逸らしリオに切り出した。「ごめんなさい」と付け足して。




***




 あれから商隊に連れられ一か月。ここ、エンフィールド領にやってきた。

 

 王都の外、集落と集落の間は聞いていた通り霧がこもり薄暗くそして酷く寒かった。冬の荒野といった感じだろうか。領壁の外に出ることのある商隊の馬車は安全に旅ができる(まじな)い付きだそうで思っていたよりもずっと快適だった。異世界の交通安全お守り凄い。稀に襲ってくる魔獣を護衛が追い払いながら移動し、焚火を囲んで夜営したり、小さな村々をめぐって行商したりと、日本にいたときに憧れていたキャンプの様でとても楽しかった。


 領都に入ってすぐに、ここに隠れろと言われた意味が良く分かった。人は人の中に隠すものだ。ここはありとあらゆる欲望渦巻く大歓楽街だったのだ。

 漫画や昔の映画やでしか見れない風営法改正以前の新宿や昔の香港などがごっちゃになったいかがわしさとカラフルなネオンライトの光溢れる雑多な街の様子に、少し古い飲食業界の日本人経営者が来ていただろうことを確信した。


 隠れるのに丁度いいのはわかる。だけど、ちびっこ連れというのを失念していないかなぁ? シーグさん。



 ここに来て()ずしたことは、王都の魔道具屋で購入した伊達眼鏡(ブルーグラス)を掛けることだった。



 着いたのは夜。高い壁に囲まれた街の門を(くぐ)ると、少しの蒸し暑さとともに魔道灯のネオンの眩しい劇場が待ち構えていた。もちろん健全じゃないほうの。官能的な女性の看板があちこちに並び呼び込みのオニーサンやセクシーな衣装のオネーサンで騒がしい。リオは固まって動けないでいる。フィーは思った以上に順応性があるようで平然としていた。


 あちこちで喧嘩騒ぎが起き、酔っぱらった半裸のオネーサンやオニーサン、オッサンが練り歩き、そこらの人がいろんな体液でピカピカ光ってそれはそれは大変だった。好奇心に負けて適当な人の性癖を覗いてみると盛大に後悔する羽目となった。好奇心は猫をも殺すというじゃないかとその時の自分の引っぱたきたい。【おっぱい】や【お尻】ならば微笑ましい。健全さを感じる。安心する。【全身舐めまわし※脇※足指】【犬】【よしよし】【山羊】【ののしられながら踏まれたい】【NTR】【調教したい】【多人数】【調教されたい】【覗き】【魔獣に〇〇れるところを大勢に見られたい(三十代男性屈強冒険者)】で、ん? となり【風呂で〇愛後〇がったまま〇動し〇っても〇っても許さずガ○攻〇〇キ地獄(十代ポメラニアン系男性)】で《情報》と顔を二度見しギブアップとなった。業が深い。素面ではきつすぎる。怖い怖い怖い! 後、文字数の違いは何。


 ところで、趣味がぴったりと合うのにすれ違っていった二人。非常にもったいなゲフンゲフン、幸せになってほしいと思いそうっと《操作》してみた。これでも日本人の端くれ、もったいない精神を遺憾なく発揮してしまったのである。

 見知らぬ他人同士なので好意などは皆目見受けられなかったのだけど、流石にこの場所この時間。ふさわしいものを発見し、ついでに新たなトンデモ能力を知ってしまった。【性欲】のベクトルを動かすことができてしまったのだ。【性欲】のゲージの端を指で長押しすると動かせることが判明。もしやこれは? と思い二人の【性欲】をくっつけてみた。すると【好意】(最初から劇高)にポンッと進化したのである。この能力でやれてしまうであろう()()のことを思い浮かべ戦慄した。果たして【調教】の二人は欲望の街で星の数ほどの人の中から奇跡的なマッチングを成し、夜の闇に消えていった。こうしてこの街に新たな愛と平和が生まれたのであった。

 

 のであったじゃないよ。何なんだよもう。碌なもんじゃない。何をさせたいんだ。私が温厚で善良な日本人じゃなかったらどうなっていたことか。この世界の人は全員私に感謝すべきだ。


 泣けてきた。


 ……私の繊細で柔らかな心を守るため、この《情報閲覧(下品でふざけた力)》は少なくとも人間相手には封印することにした。そっ閉じだ。眼鏡を掛けて体液関係も出来るだけ見なかったことにする。見えさえしなければなんということもない。触ってしまったなら洗えばいい。それだけのことだ。臭いものには全力で蓋をする。



 その後はオルソン商会の伝手で宿を紹介してもらったりざっと治安の比較的いいところ、絶対に近づいてはいけないところ、良心的な店(――これは《情報》を読めば済むのでいいのだけど)を教えてもらったりした。要る要らないではなく、心遣いがありがたい。シーグさんとこでの就職、真剣に考えよう。


 そんなこんなで商会の荷運びの手伝いをしたりお別れをしたりして、一週間が過ぎた。




***




 昼下がり。

 例によって、[ルイージの酒場 エンフィールド店 キジ猫の前足]の四人掛けのテーブルに付き神妙な顔で切り出した。酒場ではあるが王都での反省を踏まえ只今自主的に禁酒中である。今はカフェタイム。私はカフェフロートをチビチビと啜る。リオはバニラミルクフラペチーノにホイップクリームとシロップとキャラメルソースを足していた。女子か。誰だス〇バ文化伝えたの。見ただけで胸焼けしそう。

 エンフィールドに到着しこの店を発見して以来入り浸っている。その理由は……



「なっっ!! あれだけあったお金はどこに消えたんです?!」


「仕方ないの! この魅力には逆らえないの!」


「ヨウ! オプション使いまくりましたね! 全部出して!」


 クッと溢れる涙を堪えてリオを睨みつけ持っている特級猫じゃらし、魅惑の猫おやつ、鼠型のぬいぐるみを出す。


「何だこの量は……一体いくらつぎ込んだの……」


 山盛りの猫おやつの前でリオが頭を抱えて呆然としている。猫たちも寄ってきた。ナァーゴナァーゴと足に体を摺り寄せてくる。かっわっいっいー

 待っててね。リオオカンを何とかしたら順番ですからねぇー


「もしや……、フィー、お前も出せ!」


 ギギギギと効果音が付きそうな動きで首をフィーに向けてリオが言った。


「リオさんのわからずや!!」


 オレンジジュースを飲みながらフィーが上目遣いでキッとリオを睨みつけ、カリカリの入った小袋十袋、カシャカシャした感触の玩具、猫ブラシ四種(グローブタイプ、ラバータイプ、獣毛タイプ、スリッカータイプ)を出した。猫ブラシはどれも全て職人の銘入りの逸品である。


「ヨウの悪影響受けてるじゃないか!」


「猫グッズだけじゃないよ。途中の村々でもいろいろ買ったしね。食費や宿泊費もあるし」


 民族衣装やアクセサリーや食べ物やお酒をね!


 リオが唸りながら頭を抱えてテーブルに突っ伏した。この仕草お気に入りだねー。


 フィーと目を合わせ、ニヤリと笑う。フィーは猫しっぽ(茶トラ)を、私は猫耳カチューシャ(茶トラ)をそれぞれ取り出し、気づかれないように近付きそうっとリオに装着する。


「何するんですか!」


 リオが顔を上げ私たちを見て絶句した。じわじわと顔を赤らめる。大成功だ。

 

「なっなっなっ」


 私もフィーも髪色に合わせた猫耳カチューシャを装着済だ。猫耳の魔力に勝てるやつはいない。この猫耳は歴とした魔道具で、本物の様に、つまりは装着者の情動を反映して動くのだ。


 さらに猫グローブ(靴下猫)を装着しにじり寄っていく。因みに今の外見は栗色、黒目だ。フィーは柔らかなクリーム色に黒目。目立つより街に溶け込む地味カラーを選択した。


「にゃーん」

 

 伸びやかな声で私が言う。


「にゃーん」


 可細い声でフィーが言う。


「にゃあーお」


 今度は少し低めに私が。


「なぁーご」


 少し高めの声を震わせてフィーが。リオは耳を伏せ所謂イカ耳になる。


 フィーがシュッとマタタビの粉をリオに振りかけた。

 猫たちがリオに跳びかかる。


「……やめてぇーー!!」


 宇宙一幸せな猫まみれ地獄の完成だ。うらやまけしからん。





「とりあえず、そこの掲示板から適当に取ってきました」


 頭と背中に猫を乗せ、あちこちに猫毛とひっかき傷を付けげっそりとした顔のリオが求人の広告を手にテーブルに戻ってきた。コロコロで服に付いた毛を取ってやりながら話をする。


「薬草採取なんてのはどう?」


「それは子供の小遣い稼ぎです。お金になりません」


「大角兎の角十本、食人花の雄しべ二十本、水晶蛇の鱗あるだけ」


「俺たちが弱いの忘れていません?」



 そうだった。対人はともかく魔獣が群れで襲ってきたら対処できる自信はない。戦闘力が皆無なのだ。 


 この街にたどり着くまでに魔獣の群れに囲まれたが、集団でかつ本能で動く生き物に私の能力は見事に役に立たなかった。リオは言わずもがな。動きが素早いうえにやっと数匹動けなくしたところで次々と襲い掛かってくるのだ。結局パニックを起こした私は馬車の中で商隊の護衛に守られるしかなかった。役立たずも甚だしい。そう。私は所詮か弱い現代人。力押しで囲まれると詰むのだ。


 ていうかなんだよ。巨大ゴキブリ型魔獣って! 普通サイズでも恐ろしいのに! 何で寒いのに動いているのよぉ! 

 

 それしても神官見習い、子供、聖女(?)って、パーティバランスが悪すぎる。



「モンスターをハンティング的なことしてみたかったの……」


 フィーが広告を読み上げる。


「[下働き急募 使用人に昇格あり エンフィールド領主館]」


「「これだ!」」


 リオと顔を見合わせた。

 ここは私が頑張らなきゃ。


「私が行く」


「お屋敷のマナー、わからないですよね?」


「う……」


「僕が行きます。王城で働いていたので所作には自信がありますし」


「いやいや、児童労働禁止法的にだめだよう。働くのは大人」


「ヨウのところではそうだったのでしょうけど、こっちじゃ働ける人間は働くのです。皆で暮らすために働きます」


「でも、子供」


「じゃ、俺が」


「リオは顔が割れてるかもしれないから駄目」


 求人広告をめくってみる。これはいいかも?


「こんなのもあるのね。これは? [食堂 兎のしっぽ ランチの部を始めるためホール係募集]」


「いかがわしいところは駄目です!!」


「ランチタイムだから大丈夫だよぉ。てか、この文字列のどこにいかがわしさを感じるのよ?」


 ニヤニヤして問い詰めると顔を真っ赤にした。ははん。二点、どれだろう。どっちもかな? 《情報》を見るまでもない。


 純粋無垢なフィーが尋ねる。


「これのどこがいかがわしいの?」


「んー、リオは知識がどうも著しく偏っているみたいだねぇ。本当に神官なの? 煩悩に塗れすぎじゃない? フィーはこんな大人になっちゃだめだよぉ」


「わかりました。リオさんがいかがわしいということですね!」


「よくできました! んー、うちの子天才!」


 フィーの頭をなでなでした。賢くていい子だ。


「あー!! もう! あ、皿洗い係も募集とありますね。わかりました。[兎のしっぽ]に向かいましょう」





ブックマークしてくれた方!ありがとうございます。やる気出ました。


書いていくうちに、一章終了時に構想していた内容の九割が吹き飛んで原型がほぼ消えました。面白くなるよう頑張ります。ここ、予定では寂れた山村の予定だったんですよ?


評価していただけたらとっても喜びます!

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