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おしまいの聖女  作者: とりさし
逃亡の聖女
12/53

12 復讐の行方と黄キュアの顛末

シーグムンド目線で進みます。

アンにグラスを四個用意させソファーに座り、無言で飲み干す。


 ざっと、城でのあらましを聞いた。


 《血》の(あと)がわかること。誰の物かもわかること。召喚魔方陣に大量のローザの血が使われていたこと。痕を辿れること。痕を辿ったら大神官の手に行きついたこと。魔方陣を用意したのは大神官だということ。






 ローザが聖女として城に召し上げられたのは七年前。それから二年間は聖女として王城のテラスから国民へ向けて手を振っているのを遠くから眺めるしかなかった。


 任期を終え世話役と結ばれ故郷に帰ったと知らされてからの五年間。絶対に嘘だと思った。まだ王城か神殿にいると。


 もちろん故郷も探した。勘を裏付けるように何もなかった。


 平民のままでは会うことはおろか、近くで見ることすら叶わなかった。だがどうにかこの手に取り戻したかった。そのために人脈を広げ商会を作りいけ好かない上位貴族共に媚を売り爵位を買い手も身も汚してきたというのに。どういうわけかどの計画もすんでのところで邪魔が入る。今度こそはと思っていた。


 全部、


 全部、


 全部、


 遅かった。


「大神官が殺したんだな」


 一生かけて、刺し違えてでも殺す。俺からローザを奪いこんな仕打ちをした王太子もだ。

 


 


「……あー、その、大神官? ってしわしわのヨーダみたいなおじいさん? 白ヨーダ?」


 なんだ? ヨウの目が泳ぎだした。ヨーダが何かは知らんが。


「年を理由に表に出てくることはないから顔は知らないが、かなりの高齢だ。そりゃしわしわだろうよ」


「お城から逃げてくるとき、力の使い方とか威力とか? わかってなくてね?」


 何で疑問形なんだ? 「チュートリアル一切ないとか酷くない? お城がチュートリアルイベントなの?」とか何とかぼそぼそ言っている。こういう時は無視するに限る。


「リオからも聞いたと思うけど、ちょっと引っ掻き回してきたのね」


 何がちょっとだ。


「ああ聞いた。地獄絵図だったらしいな」


 余りの惨状を思い浮かべ思わず遠くを見た。


 王城に潜り込ませていたヤツによると、あちらこちらでむさい男どもや男女が嬌声を上げて絡みだし、第二王子と腰巾着共と糞ビッチは壮絶な痴話喧嘩を始め、服を脱ぎだしたり放尿脱糞するものも出て、王族に殴り掛かるやつもいたそうだ。正直引いた。ドン引きだ。何をやったらそうなるんだ。 王族や高位貴族や神官ども明日から生きていられるかね。


「あ、一応配慮はしたよ! 女を同意なく襲いそうなやつは男を二、三人向かわせた!」

 

 腕を広げてドヤ顔をしやがった。

 やはりこいつは悪魔だ。


「……やりたいことをさせてあげただけだよ。ただ、加減も何も知らなくてね。思いっきりやっちゃたんだよね……」


 疲れた顔で首を振るが、張本人がする態度じゃない。


「でね、大神官だけど……、殺しちゃったと思う!」


 何でこっちを見てどうしようみたいな顔をするんだ。


「痛風、群発頭痛、心筋梗塞、尿路結石、癌、虫歯、腋臭、水虫とか、とにかくものすごく痛かったり嫌だったりする病気を限界まであげてきた」


 あげる、の意味がよくわからないがメアリーたちにしたようなことだろう。「完全に健康な人間なんていないんですよ。ましてや年寄り」と続ける。何だこいつの思考回路は。どうしてコレが聖女召喚で出てきた?


「死んだ、と思う! さっさと逃げたから確認はしていないけど、高齢であれだけ喰らって生きていられる方がおかしい。いや、若かろうが死ぬかな」


 少なくとも笑って言うことじゃない。テヘっじゃねえ。「リオたちは知らないと思うのでまだ言わないであげてくださいね。怖がられたくないですし」と続けた。そのうち嫌でも知ることになるだろうからわざわざ話題にすることはない。逆らったら後が怖い。


 急に姿勢を正し、神妙な顔になった。一体どうした?


「ごめんなさい。シーグさんの復讐を横取りしてしまった」


 ……俺の、何を、知っているというんだ。


「怒るのも当然です。最初に言うべきだった。ごめんなさい。シーグムンドさんの《情報》を読んだ。これも私の力。したこと……()()()()()()()()のようなものを読める。何を考えたかまではわからない。……踏み込んじゃいけないものだった。これが私の誠意です」


 ソファーにもたれかかり大きく息を吐いた。これまでのやり取りは能力を(さらけ)け出す為でもあったのか。聖女とは規格外だな。しかし、これらの能力だと致命的な欠点がある。


「能力の欠点を教えたってのはわかっているんだな?」


「当然です。なので、もし私に何かあったら、リオンとフィーをよろしくお願いします。二人も捕まれば命がない」


 ヨウが頭を下げた。


 そうだな。二人とも知り過ぎている。






 空のグラスに蜂蜜酒を注ぐ。呑むか。


「そうだ、リオン。あいつのこと気付いてるか?」


 リオンのヨウを見る目に熱が籠っている。ベッドどうするかなと楽しみにしていたんだが。


「もちろん。そっとしてあげて」


 意外だな。おもちゃにでもするかと思ったんだが。

 ニヤつく口元を抑えることなく揶揄いを込めて尋ねる。 


「ほー。そりゃどうして」


「ん、可哀そうなリオンはストックホルム症候群と吊り橋効果を併発しつつこっぴどい失恋をしたので脳がバグって惚れやすくなっているから。そのうち正気に戻る」


 あんまりな内容に似つかわしくない気遣わしげな表情をし、息を小さく吐いた。


 よくわからんがヨウが言うにはセリフの内容は、誘拐犯に好意を持つ特殊心理と緊張や恐怖を恋愛の興奮に置き換えてしまう現象のことらしい。違いない。異世界には便利な言葉があるもんだな。失恋とやらは聞いていないな。リオンのやつこんな面白い話を端折りやがって。


「そりゃ雷神様も大変だな」


「何その雷神って」


「昼の雷撃だよ。余りにも強大なのに何故か死者も怪我人も出なかったものだから奇跡の御業だの雷神からの警告だの大騒ぎしていたぞ。城と神殿の連中が」


「あー、あれは面白かった! リオもよく似合ってたよ。黄キュア!」


「しばらくは騎士団も外に出れないだろう。王都内で手いっぱいだ。治安が最悪な上に雷神様のご降臨だ」


「あはははは雷神て! 人間電気治療機なのに雷神て! 魔法少女リオンー!!」





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