1 突然の召喚
本日からよろしくお願いします。夏休みの暇つぶしにしてくれたらいいなと思います。
短編を練り直して中編くらいにしました。
一週間連続更新頑張ります。
「おお!?」
女子にあるまじき声を上げてしまったが、きっと私は悪くない。
あぁ、夢だわこれ……ここんとこスマホでネット小説読んで晩酌して寝落ちだし?
定番だが頬を摘まんでみたらしっかりと痛かった。痛いからといって夢ではないという証明にはならないのだけれど。
薄ら赤く発光する半径三メートル程の大きな円。その中にいくつかの小さな円があり直線や曲線で繋がっている。よく見るとカクカクした記号が重なっている。
その中心に私はいた。
ヨレヨレのTシャツと花柄〇ラコで。
中世だか近世だかのヨーロッパ風な白く広い部屋に白いゆったりとしたワンピースのような服を着た神官、白い鎧に藍色のマントを付け帯剣した騎士、奥に白地に金糸で刺繍された服にこれまた金糸で縁取られた鮮やかな青色――サファイアブルーのマントの王様と王太子までもが勢揃いしている。皆が皆キラキラしい顔をしており髪がカラフルだ。
夢であれ。
二度寝したら覚めるだろう。
スヤァ……
スヤァ……スヤァ……
「「「「「「「∂∃∅∆∇∉⊄∏∅ー!!」」」」」」」
「「「「「「「OOooooooooOooーー!!」」」」」」」
「うっさいわー!!人が寝てるのに!」
……
…………
………………
黄色のふわふわショートボブの神官見習いが近づいてくる。中々目鼻立ちのはっきりとしたイケメンだ。……二十一歳? それにしては童顔だな。琥珀色の目とか実物初めて見た。綺麗なものだな。でも、やめてくれ。私はまだ寝そべっているんだぞ。来ないでほしい。来るな。
「∧∏∑∝∞∈⊗リオン、⊄∥∑∨∧≯∇∬?」
右手を自分の胸に手を当て、その後手の平を上に返し私に向けてきた。名前を聞いているのか?
「ヨウ・マエダ」
後ろで神官服のじいさんの口がモゴモゴ動いた。
ニヤリと笑った、気がした。
***
本日の更新分を読み終えて寝転がる私は、九州の離島で一人暮らし、求職中の二十七歳だ。漫画・ゲームは日本人としてそこそこ嗜んでいる。好きなジャンルはRPG。乙女ゲームはやったことがないというかパッケージを見たことすらない。
研究所の職員だったのだが、実家にいた姉が幼い双子の甥姪を残して失踪したので世話のため帰省し三年と少しが経った。つい先日、買い物で家を空けている隙に姉の夫の親戚とやらがやってきて甥姪を引き取っていったらしい。らしいというのは、同居しているクソ親父がその時に受け取った大金を見せつけながら、良かったとかほざいてニヤニヤしていたからだ。ちなみに夫が何とかという話もこの時初めて聞いた。シングルじゃなかったのか。
自他ともに認める熱しやすく飽きっぽい性格で、このところのブームがネット小説だ。同時に数作品読み進め少し飽きてきたら新たにインポートしまくり、読みかけが百近くになっている。お気に入りタグは悪役令嬢とかの雑食。最近は悪徳領主とかも美味しいと思っている。
つまりは、聖女系は興味の対象じゃないし、読んだ話が多すぎて、この人ら何の誰だよ?ってこと。
そして、先程に戻る。
「ヨウ様。言葉が通じるよう呪いを掛けさせていただきました。いかがでしょう?」
柔らかな物腰で近づいてきた黄色頭の神官見習いが右手の平を胸に当て腰を折って礼をし、作り物のような笑顔で話しかけてきた。
「はい。通じます。ありがとうございます」
何とはなしに立ち上がり服の皺を整え姿勢を正す。負けじと外用の顔を作り目を合わせる。状況や目的がはっきりわからないうちは大人しくしておくべきだろう。イケメン(笑)にメロメロ(笑)になっているフリでもしておくべきか?
「改めまして。私は聖女様の世話役となりますリオンと申します。これより何なりとお申し付けくださいませ」
「改めまして。ヨウ・マエダと申します」
リオン……ねぇ?本名隠すのは鉄則だとして。因みに前田は母方の姓だ。というかこれ、やっぱり聖女召喚なのね。何かの作品だったりするのだろうか?
「ところで、この状況を説明いただけますでしょうか?」
なるべく人畜無害そうな、庇護欲をそそる態度をとる。ほんの少しの、やり過ぎない程度の上目遣い。目指すは記憶の中の姉だ。とっととこの場所から移動したい。ここは薄気味悪すぎる。
「これは失礼いたしました。ヨウ様の余りの美しさに惚けておりました」
嘘くさい。揃いも揃って皆ハリウッド俳優並みじゃないか。というか、もう名前呼びか。馴れ馴れしいにも程がある。日本語上手いし外タレ事務所という線も捨てきれない。うん、これはモニ〇リング?
チラチラと目を動かしカメラを探してみたがわからなかった。
「(スルーしてと)何かお困りのことと存じますが、私に出来る事は既にないように思いますが……」
コテンと首をかしげてみる。周りが色めき立った。成功だ。
「いいえ! 聖女様にしかできないことなのです! 女神に祈りを捧げ、聖女召喚の儀を行い、ヨウ様が顕現なさいました。どうか我が国をお導きください! 我が国に正当な世継「あぁ!! 疲れで立ち眩みが!! ジビョウノシャクが!! 二日酔いが!!」」
セフセフだよな?! 聞かないし言わせないぞ!!
「……これは気付かず。部屋に案内いたしますのでしばしお休みくださいませ。この者はソフィ。聖女様付きの侍女でございます。口が利けないのが難点ですが、賢く気が利きます。さ、ソフィ、案内しなさい」
子供が? 侍女? 七歳か? 栗毛色の髪をおかっぱにした可愛らしい子がスッと入ってきた。原色とキラキラに参っていた目に優しい色だ。目は……ヘーゼルアイか。良い。
ソフィに先導され白を基調とした、豪奢な部屋に案内された。明らかに一人用じゃない天蓋付きのベッド、クローゼット、チェスト、小さなテーブルと椅子が二脚、全身鏡、浴室、トイレに、隣の部屋へ続くドア。どれも金で装飾が施されている。
何の為の部屋か説明されなくとももわかるので乾いた笑いしか出ない。
まあいい。ともかく今は。
おやすみなさいだ!!
スヤァ……
スヤァ……スヤァ……
「夢だけど! 夢じゃなかった! 夢だけど! 夢じゃなかった!!」
夢オチじゃない……
ベッドから体を起こしこれからのことを考え頭を抱えていると、ドアがノックされた。……リオンだ。一時間ほど経ったので様子を見に来たというが。これでは仮眠だ。体内リズムの正確さが恨めしい。
ソフィが目覚めにとジュースを用意してくれた。
「ありがとうソフィ。ずっと待っていたの?疲れたでしょう?ごめんね」
「………………」
声を掛けると首を振り、笑顔で頭を下げる。口が利けないというのは本当だろうか。ソフィの右を見る。
これは……
テーブルに置かれたのは、ぽってりとしたクラフト感のある厚みのある青いグラスだ。ジュースは……、何だろう。ミカンと桃を混ぜたような香りがする。
毒が入っているとかは流石にないだろう。軽くグラスを回し美しい色合いを眺め、口にする。予想よりは甘みが強いが、美味しい。
さて、これからどうするかな。検証したいことがいくつもある。
飲み終えたところで着替えとヘアセットが始まった。何とこれもソフィがしてくれた。他に人員がいないのだろうか。子供に押し付けすぎでは?
白地に裾のみ金糸の刺繍の入ったゆったりとしたロングワンピースを着せられる。布のひだを整え金糸で織られた細い帯を腰に巻き付けられる。コルセットとかあったら嫌だなと思っていたが無いようでよかった。
伸びるに任せた黒髪が、金細工と青い宝石で作られた繊細なアクセサリーと共に編み込まれていく。仕上げにと、ヘアアクセサリーと同じ意匠の美しい黄金のネックレスを付けられた。中央の青い宝石は四センチと大きく主張が強い。全体に色とりどりの宝石が散りばめられている。中央のものよりも小さめとはいえ一センチから五ミリはある。……正直重い。
鏡の前で全身をチェックしてみる。布のドレープも、スリットの入ったゆったりとした袖もエレガントだ。自分で言うのもなんだが、悪くない。聖女と言い張れないこともない仕上がりだ。ソフィの腕は素晴らしい。腕がいいから任されているのかもと考えてみよう。そうでないと色々と勘繰りたくなる。
今更だがさっきまでTシャツ〇ラコだったのが恥ずかしくなってきた。
支度が終わると、ものすごくいいタイミングでリオンが入ってきた。
監視、されているな?
「お疲れでのところ申し訳ございません。王がお待ちです。謁見の間へお越しいただけませんでしょうか」
「わかりました。本調子ではありませんが、参りましょう。ソフィにも付いてきてもらってよいですか?」
念のため疲れていると強調しておこう。
「随分と気に入られたようですね。私どもとしましても嬉しく思います。ソフィ、付いてきなさい」
リオンに案内され謁見の間に通された。