第三話異世界デビューは井の中の蛙!?
ぼっちゃんと水の中に落ちた。ここは一体どこなんだと言いたいが井戸の奥深くだ。肩まで見ずに沈んでしまっている。ここは異世界なのかあいつら異世界に行けるとは言ったけど場所もっと考えろよ、てか急すぎるだろ!
まずはここから脱出することを考えるか。おそらく水は、汚くないので、この井戸は機能していてどこかの村の井戸だろう。
えっと井戸だから桶で水を救う滑車があるはずだよな。桶が上にある....そうだよな、付けっ放しにしないよな。それなら桶とは別で引っ張る縄があるはずだ。あーそれも井戸の外側にあるのか。
井戸を登るとしてもこの高さで掴むところもままならないぞ。助けを呼んだ方がいいか。だがそれはここが村だと確定するまでは危険行為だ。井戸の外側にもしモンスターとかいたら、襲われてしまう。
うーん悩んでいても始まらないなとりあえず登ってみるか。石垣が積み重なって出来てる井戸だ、石の間には僅かだが隙間はある。
そこに指を入れて登っていくだけなんだが、俺の体力で保つか。俺は万年引きこもりで運動なんかあまりしないし、ボルダリングの選手でもない。
ん、よくよく見てみると自分の体が軽い、そして筋肉質になっている。もしかして奴らが身体能力を強化してくれたのか。それだったらもしかして魔法とかも使えたりして。
そうだよな、異世界に丸腰で送るわけがないよな俺はお客様だからな。じゃあ呪文唱えさせてもらいますか。
「風を吹け、ウィンド!」
何も起きない呪文が違ったのかとりあえず詠唱寄りの魔法を唱えたが、もしや無詠唱でも構わないのかもしれない。
風を吹け、ウィンド! 飛べ!飛べ!エアロ、何も起きないぞ。やっぱりそう甘くないか、だって井戸スタートだぞ。俺の異世界デビューは、井戸から始まり井戸で終わるんだな。
もういい意地でも登ってやる。奴らを見返してやる。俺を舐めてやがるな前のやせてうる俺ではないのだ。
石垣隙間に指を入れる。指は入るが、足はどこに掛ければいいんだ。いやでもギリかけられそうだ。
井戸の外には青空が見える。日が暮れないうちに登ってしまおう。大体15メートルくらいの深さの井戸を登っていく。一つ一つ慎重に指を入れ、足を掛け、半分くらい登ったときだろうか。
指が限界だ。いや普通に考えて無理なことをしているのにできるわけないだろう。指が引きちぎれますよ。少しは役に立っている筋力でも負荷が一番かかるのは指だぞ。
俺よく半分まで登ったな。ここまで登ったなら最後まで登りきりたいがもう無理。もう異世界やめる。
現実に戻るにはどうしたらいいんだ。隣の海草は青く見えるなんて言うけどホントその通りだわ。
異世界転生とか転移って根本的にはチート能力とか誰かの助けがないと成立しないんだよ。異世界に丸腰で放り出されて、生きろとか思われても、異世界という世界で生きられるわけないだろ。
現実と異世界は違うんだよ馬鹿野郎。あれなんだか指の疲れが引いてきたぞ。もう奴らは信用しないぞ。これは俺の精神力が高いからなんだぞ。
登ってやる、俺は登るぞ。半分まで来るときよりもペースを上げて登る。疲れが少し引いたとはいえ限界には変わりないので、がむしゃらにいっそのこと落ちても構わないと思いながら最後の石垣に足を掛けて井戸の丸い手すりに手をかけ勢いよく飛び出た。
やった、登りきったぞこんなの無理だって思ってたが、案外できるもんだな。いけない、早く周りを確認せねば。
やはりこの井戸は村の中にあったが、まわりを見ても人の姿がない。民家がいくつか立っていて近くには田んぼがあってあとは何もない。
家の中にいるのかな、家の中を覗いてみても人はいない。何か生活感があるか探してみるがそれもない。田んぼには稲や野菜が植えられていて、誰かが植えたはずなのにその姿がない。モンスターに襲われたあとなどは見当たらないので日も落ちて来たし今日はここで少し休ませてもらうか。
次の日、朝起きてみて昨日と違うことがあった。それは俺の頭の横に宝箱のようなものが置いてある。絶対に怪しい。ただの宝箱じゃなくてモンスターかもしれない。だがこんなことをするのは奴らだ。てか奴ら異世界に直接干渉できるのかよ。なら井戸の時も助けてくれよ。
中身は一体なんなんだ。宝箱だから相当いいものが入ってるんだろうな。仕方ないから開けてみる。
ガチャ、ガチャガチャ
ふざけるなぁー!鍵がかかってんじゃねぇーか。鍵はどこにあるんだ。宝箱を俺が寝ている間においたってことだろ。
やることが悪質すぎないか、でも奴らがこんなことをする理由はなんだろう。このキャンペーン自体無料で俺たち参加者はただ会社側に従うだけで、まだなんの役にも立っていない。
身体能力は上がっていて、魔法は使えないそして謎の宝箱。なんだか腑に落ちない点が多い。とにかく行動するのみだ。民家の中に使えそうなものはないか探してみることにする。
小一時間探してみるも武器になりそうなものや道具で使えそうなものはなくてここに留まる理由もなさそうだ。
「あの男やっちゃっていいよね」
「派手にやってしまいましょう、凪、依頼通りに....」
お読みいただきありがとうございました。