懸念
度毎に、不安が頭をもたげる。その度に情け無い思いに囚われる自分を思い知るアレンだった。
変化を恐れる自分を奮い立たせて歩を踏み出す!
クリストファーがオックスフォードに戻り、南の執務室にはアウルが登省して居て、久し振りに日常が戻ってきていた。
こうして、書架を背景にした樫のデスクに、アウルが付いているのを見るのは、俺の安堵を醸しだした。
「クリスの執事?!良い人の見当がついたんですか?!」
「うん。お前にべったりと言う訳にもいかないだろう?!ケインの進言で…彼の既知で、今は無くなってしまったが、フランスの地方貴族の傍流だと言う事だ」
「其れは…願っても有りませんね」
「ソルボンヌを出ている。ん~6つも上だから、面識は無いだろうが…」
ソルボンヌ?!…何だ?!
何かが引っかかる…
「近々此方へ出向いてくる。改めて言うから時間を割いてくれ」
「判りました」
会ってからの話だと、溜め息を付いた俺を、アウルが見上げる。
「何だ?!昔の悪さが心配か?!」
「いいえ。バカな事は色々やらかしましたけど、不実をはたらいた覚えは有りませんから」
ぽかんと呆気にとられて、慌てたように瞳を伏せた顔が赤みを帯びる。
「如何して赤くなるんです?!」
「煩い」
「可愛すぎ」
「からかうな!馬鹿。幾つに成ったと思っているんだ?!」
「26」
「そんな年になって…」
「だから?!もう俺は要らなくなりましたか?!」
「……要る」
「素直で宜しい」
軽口を叩いて、立ち去りかけて、口を突いて出かけた問いを飲み込む。
『また距離を置こうなんて思っていませんよね?!』
当たり前に成ってしまった日常が失われる恐怖が襲ったからだった。
クリストファーの執事とは、主にリント伯爵家で、リント伯爵と成った彼を補佐する人と言うことだが、アウルの傍に加わる人間には変わりは無かった。
全くの部外者が俺達の間に入ってくるのは初めての事だった。
その上、内務省にアウルが不在に成る。
俺がその事を案じて居る等とはおくびにも出してはならず。アウルの真意の中に、特別な意図が無いと言う事は承知している。なのに…だ。
クリストファーが内務省での俺の次席に着き、アウルは王室顧問官として王宮に伺候する。兄王と共に、自分達を苦しめた専制君主制を撤廃して、イギリスや日本の様な立憲君主制を目指す。
ここ6年欠かさず共に有ったものが無くなる事が、不安を醸しているのだ。
区切り…が近付いて来た為の不安なのだろう。
お読み頂き有難う御座いました!
微妙な変化が続く事は仕方が無いとは言うものの、しっかりしなさいと叱咤をくれる毎度です。もう暫くお付き合い下さいませ!