第92話 外の星と精霊王から
「レオン、三人が天龍を攻略したみたい」
「お、漸くか?ま、時間の問題ではあったからな」
「玲音様、指定のポイントまでまもなくです」
「了解。周辺状況は?」
「…人の反応はありませんね。何事もなく進められるかと」
「おっけー。んじゃ、行こうか」
ドクン!
「加護を併用して、世界の一部に穴を開ける。この世界にも外の世界にも影響を与えないよう。細心の注意を払う」
ドクン、ドクン
「開け、渡り扉」
ギィィィィ
宙に浮かぶ巨大な門。音を立てながら開いた先は、暗闇に包まれている。
「第二の世界とやらを拝みに行こうか」
門を潜った先、待ち構えていたのは、何も無い荒廃した世界。
「…魔力が過剰過ぎるのか」
「逆に生きれない世界になってますね」
「この世界の仕組みってどうなってるの?」
レオンとルビア、アイヴィアの三人はこの世界をそう捉え、この世界の仕組みに興味がむく。
「さっきまでいたのが、通常世界。ゲーム内の世界が二つ目、隔離世界。恐らく、ここが三つ目、荒廃世界。更にこの外に最初の防壁、結界世界」
「…凄いですね。1つの世界を守る為に3つも世界を外側に創るなんて」
「この星の神は結界系の権能なのか?」
「いえ、結界ではなく封印系ですね。それと合成系です」
封印系の権能はそのまま名前の通り。
合成系とは、何かと何かを重ね合わせる。神の権能にできないことは殆どない。故に、敵を封印した世界に他の世界を重ねるなんてことができる。
「しかし、その対処で手一杯になっているところで、グレーゴルの強襲。簒奪され、この世界への関心を奪われた」
「最初私が見た、普通の状態はつまるところ、グレーゴルの命令があったからということですかね」
「だけどよ?俺の船とか神器は後付だろ?簒奪された状態でどうやって?」
「そこは封印の権能だと思います。自分の意思か簒奪の力を一時的に封印して…いや、恐らく意思の封印ですね。私達が来たのをトリガーに封印の解除。素早く情報を精査して、落とし込む」
「なるほど。かなり無茶してるな」
「でも、そのおかげで助かっているのでは?」
「それは、まぁそうだな」
確かに、エルニや早霧に村雨、澪達の神器。無ければ危なかった時は何度もあった。
それが無ければ天童、白狼、黒狼、神狼には確実に負けていただろう。
「…助けたくても、簒奪されたモノは戻らない。できることは、これ以上の被害を出さないように葬るだけ」
「でも、相手は神。殺すことなんて…」
神は概念的な存在。一時的に封じたり、倒したりは出来るが、完全な消滅は今のところ確認されていない。これは、ムーが宰相達から聞いた話での確証が取れている。
「…俺の覚醒待ちか」
その時の伝言で伝えられた、玲音の神としての権能。それがあれば、概念的な神すら葬ることができる、はず、らしい。
「まぁ、それはあとだ。今やることは、もう一つ外に出て杭を打ち込むこと」
回復した魔力でもう一度門を創る。
同じような暗闇を潜ると、そこは緑豊かな世界が広がっていた。更に、姿がはっきりしない何かがいる。
「精霊か」
三体の龍が精霊王となり、世界を守る為に外の星を領域とした。そして、その龍達が司る力の恩恵を受け、還元するために精霊達は王の元へ向かった。
「実質、ここが精霊界」
精霊達がこちらに気付いて、散り散りになっていく。
「王達に会っておくか」
ルビアに指示を出し、ノアの高度を上げる。
王達を探す間、玲音はルビアとアイヴィアの質問に答えていた。
「いくつか質問したんですけど、一番気になったというか、分からないことがあって、なんで精霊王である龍精霊はスピリットではなく、フェアリーなんですか?龍精霊なら、スピリットドラゴンになるのでは?」
確かにそうだ。龍精霊と言うなら、フェアリードラゴンではなく、スピリットドラゴンになるだろう。
「アストラルフェアリードラゴン、スピリットでない理由は実態を持つかどうからしい。ここにいる精霊達は姿形が無い。しかし、ゲーム内だからなのか精霊達には姿形、実体がある」
「実体があるかどうかが違い?」
「そうなるな。まぁただ、ゲームの世界にその辺の細かい事を組み込む時間が無かったんだろ。だから、妖精であっても精霊と名乗ってる。その違いを自覚してるのは、恐らく王級と超級」
「つまり、主様や澪さん達の契約精霊は、自身が妖精であると自覚してる?」
「そ。実体を得たら妖精、無ければ精霊。しかし、その区別は人間達のものであって、自分達にはあまり関係ない。だから、周知せず理解しているものだけでいい、だったかな」
アトラルカに聞いた話を思い出しながらそう話す。
「循環の契約者の言う通りだ。我々は実体がある故に王と呼ばれ、その位を超えて超級と呼ばれる」
「初級、中級、上級の精霊は実体を持つものの、まだ姿形が定まっていない。実体と言っても、岩の塊だったり、揺らめく炎だったりと、まだ不安定故」
そう話に介入してきたのは
「自己紹介しよう。変換を司る精霊王だ」
「同じく、分解を司る精霊王」
アトラルカと同じ、龍の精霊。精霊の王達だった。
「初めましてだな。循環を司る精霊王、アトラルカの契約者レオンだ。リアルの身体で会うのが先になってすまないな」
「いや、むしろこちらで先に会えてよかったと言える」
「うむ。主に依頼したいことがあるのでな」
会話しているが、直接声を発しているのは玲音だけだ。精霊王の二体は、思念を飛ばして脳内に響いているように聞こえる。
「依頼は、結界の構築」
「それと、循環の力を貸して欲しい」
「…この身体でアトラルカの力を?」
「可能だ。もう主の魂には、契約精霊や使役獣が結び付いている」
その言い方はつまり、
「魂の誓いを結んだセレス達だけでなく、リジーやトニー達、アトラルカやアカバネを呼べるのか?」
「左様。しかし、アカバネを呼ぶ際は気をつけよ。武具と一緒に来るからな」
「あー。おやっさんに預けてたら、いきなり消えたとかなって困るのか」
即実行しようとして思い止まる。
「ま、依頼については受けよう。結界に関しては元々やろうとしていたからな。それで、アトラルカの力が必要ってのは?」
「間もなく、何者かの攻撃が飛来する。それを分解し、この星のエネルギーに変換、循環させたい」
「ただ流すだけでは、一つ内の世界のようにただ荒れ果てるのみ」
「流したぶん、不必要なものを別の所へか」
恐らく、その不必要な分がゲームの第二の世界に。
「……こい、アトラルカ」
繋がりを意識するように。結び付いていた繋がりを辿り、自身の契約精霊を呼び出す。
「呼べたようだな。そして、久しいな変換と分解の」
初めて見るアトラルカの本体。それも実体を伴って。
全長は350mは、いやそれ以上かもしれない。
瞳は紅く、身体は青と黒。所々に白で模様が混ざる。それは円環を示しているようだ。
そして、最大の特徴が翼はあるのに、翼膜が無いということか。翼をよく見れば、小さな噴出口が幾つもある。あそこから余剰エネルギーを放出するのだろう。そして、それが翼膜の代わりになるのか。
そして、更に不思議なことにこの龍に手脚は殆どない。翼があるのだから、西洋系の竜だと思っていたが、どうも違うようだ。
羽のある蛇、いや翼のある蛇で龍か。
他の王は西洋系でアトラルカだけ違うのは、循環というのが影響してるのか?ウロボロスも確か円形…いやあれは自分の尾を自分で……
「さて、我が主よ手伝ってくれるな?」
「ん?あ、聞いてなかったわ。まぁいいけど」
アトラルカについて考えていたら、何やら話が進んでおり、こちらに矛先が向いたところだった。
「手伝いってのは、攻撃を防げってことか?」
「少々厄介なようでな」
「ふーん。いいぞ、任せな」
霧雨を解放状態で呼び出し、早霧と村雨を構える。
「ルビア、アイヴィア離れてろよ」
「わかってますよ」
「お気を付けて」
ノアが離れていく。と言っても、王達の尾の辺りに避難しただけだが。
まぁ、デカいもんな龍精霊。
「血を啜り、肉を喰らえ。その怨嗟は今、焔のように燃え上がる!」
右手に持つ村雨の柄紐が玲音の腕へ這い上がり巻き付く。そして、玲音の腕をきつく縛り上げる。
「馬鹿みたいに持ってくなァ!」
進行形で吸われ続ける血と、肉が食われたことで腕に埋まったように見える紐に、狂気じみた笑みが零れる。
「俺を殺せるもんならやってみろ!村雨ェ!」
瞬間、弾け飛ぶ柄紐。玲音の腕には紐が巻き付いた跡。右腕はその後に沿って肉が減っている。
「アトラルカ、血を回せ。あと、足場用の魔力」
「循環させる。存分に」
ノアの代わりに立っていたアトラルカの頭から降りる。
ちなみにここは成層圏だ。酸素もやばければ、重力で落下する。
しかし、魔力で作った足場に着地する。
酸素や身体に掛かる負荷は、吸血鬼の肉体やアトラルカの力で既に対処出来ている。
「村雨、早霧、久しぶりにお前たちで暴れてやる」
血の翼を広げ、足場を砕く勢いで飛び出す。
精霊王達が倒してきた敵の残骸や、岩石などを回避しながら敵へと向かう。
「太陽風でいいのか?ここもあるんだな」
玲音の故郷の星がある領域には、太陽風と呼ばれるものが宇宙にも吹いていた。
そして、この星にも同じようなものがあると把握する。
「血翼、ブラッドバレット装填血剣」
血の翼が形を変える。血が吹き出している様に見えた翼は、戦闘機の様に変化して、両翼には血剣が吊るされている。
「接近するまでだ!」
射出された血剣は、太陽風の影響を受け、複雑な軌道を描きながら敵へと向かう。
「数もサイズも最高だなァ!」
巨大な戦艦だろうか。そこから小型の何かが出てくる。恐らく、宇宙空間で戦闘可能な機体。
「そういう世界も掌握してんのか!楽しくなってきたなぁ!」
万弁純華で無限に供給される血剣をばら撒く。
「リロード、血槍・血剣」
血剣だけでなく槍も混ぜる。
速いし硬いな!思考しながら、接近してきた敵機を村雨と早霧で斬り落とす。
飛来したミサイルを相殺し、その爆煙に紛れて高度をさらに上げる。敵の上を取り、
「モードスラッグ!」
乱れ撃つ。血剣と血槍は、途中で弾けるようにその形を小さくしながら、制圧範囲を広げる。
「テンライ!ライソウ、雷獣」
呼び掛けに答えるように、周囲に電撃が放たれ、デブリを足場に雷の獣が現れる。
「追槍雷撃、雷公鳴動、侵食」
ゲームの技を現実でも使用する。自傷ダメージというデメリットを抱える強力なバフも、現実ならデメリット無しで使うことも出来る。それは、玲音の身体がゲームのアバターより優れたものだから。
そもそも、ゲームのアバターへの自傷ダメージは、玲音の本来に近づけようと強化を重ねることへの負荷が分かりやすく可視化した結果だ。
「楽しいなぁ!」
降り注ぐ血槍や剣の中を縦横無尽に駆け抜ける。
一体どんな動体視力をしていたら、あんな高速で動いて、的確に攻撃ができるのだろうか。
瞬間感じた嫌な気配に、コブラの要領で減速。見えた何かを避ける為に上昇する。
光が一瞬駆け抜けた。その後、玲音を追尾するように何かが放たれた。
「ビームとミサイルか。向こうに被害は無いな。てことは、マナを用いた攻撃か」
後方に血剣を撃ち、ミサイルを迎撃。敵本艦へと距離を詰める。
ビームを乱射、というか細かく分けて無秩序に撃ちまくる。それを避けながら接近するが、途中で敵の狙いに気付く。
発射されたビームが消えていない。持続したまま、玲音を囲うように展開され、その範囲を狭めている。
「ま、いいや」
一瞬速度を緩めるが、次の瞬間にはトップスピードに戻る。
先程よりエネルギーを溜めたビームが発射される。逃げ道を塞いで強力な一撃で仕留めに来た。しかし、無駄だ。
「喰らい尽くせ!暴食!」
玲音を囲んでいたものも、今発射されたものも。周囲のデブリも喰らう、七つの大罪の力。
「モード暴食!」
玲音の姿が巨大な狼に変化する。
その狼が触れた箇所は分解され、狼に吸収される。
その口で噛み砕いても同じ。攻撃全てが敵を喰らう手段になっている。
二隻喰らい、狼は姿を元に戻す。
「余剰エネルギーを月影に共有!第五機構・月影改天狼慟哭怨嗟刃」
戦闘で使うのは初めて。1度使った時は、太古の海龍のいるダンジョンまでの道を作るためだった。しかし、その時と同じでは無い。月影の第五機構にだけ加えた変更。白狼、黒狼、神狼の素材を幾つか合成した特殊機構。
元は月影という名の大太刀。しかし、今は天狼慟哭怨嗟刃という名の大太刀。
「山海破断天狼爪牙」
横薙ぎに振るわれた大太刀。そこから伸びる斬撃は残る戦艦を両断し、残る小型機も巻き込む。
「異星の使徒…いや、異星の神か」
「奴が全力を出せば、我らですら勝てないだろうな」
「我が主の枷は必要不可欠。それは、多くのモノを守る為であったか」
「我らが王の成長速度は桁違いですね。尚也達にいい土産話ができました」
「こんなことになっていれば、私達に還元された力も納得よ。二度と敵対するもんですか」
玲音の眷属であるルビア、アイヴィア達は最近になって上昇した自分達の力に困惑していたが、それが玲音の成長によるものだと判明し、その成長具合に驚いているのだ。
「あっちはもういいわね。今更なのだけど、ルビアは自分達の担当は終わったの?」
「いえ、まだですね。ですが、後は尚也とウルスとクレハの仕事です。あの星では、私はいまいち相性があれでしたので」
「こっちもそっちも相性悪そうね」
「次に担当する星では活躍したいところですね」
ルビアとアイヴィアはもう玲音から視線を外す。だってあの男が負けるとは思わないから。撃ち漏らすこともないだろう。そうなったとしても、控えがいるのだから問題は無い。
そう判断して近況報告を始める。
「循環の…いや、アトラルカ、良い主を見つけたな」
「あぁ。色々な意味で面白い主だ。主らも機会があれば主を探してみるといい。存外、誰かに仕えるのも悪くない」
少し羨ましそうに、吸収と分解の王は瞳を閉じ、循環の王は未だその役目に囚われる同胞に同情するのだった。
大変お待たせ致しました。
古戦場とかサマポケとか色々やってたら……
気温が大変なことになっているので、体調に気をつけながら、仕事の合間にまた進めていきます。
ではまた次回




