第90話 贈り物と想い
「レオンの反応が追えない」
「家にも居なかったな」
「ムーちゃんも反応無い」
ミオ、カクラ、マイの三人はクランホームでログアウトを済まして、リビングにて頭を悩ませていた。
「こっちで反応が追えないのは、恐らく試練が関係していると思う」
「そっちはまだいいんだけど、どうして居なくなったの?」
ミオは蹲り、顔を埋める。いなくなったのを知ったのが数時間前。それから連絡の取れないレオンに不安が募る。
「アイツはまた澪を悲しませるのか」
一度目は、奪還作戦に参加し、1ヶ月目を覚まさなかったあの時。本当は止めたかった。行って欲しくなかった。それでも、玲音は行くことを選んだ。
玲音が向かってから、澪が泣いていたのを知っている。
「…今連絡があった。黒狼が守護者に戻ったらしい」
「それってつまり」
「そう。レオンがやったんだろう。黒狼への挑戦権はレオンしか持っていないからな」
「目撃情報は無いの!?」
「巫女姫様が言うには、話し合いが終わるとすぐ何処かに行ったらしい」
「れおん」
とりあえず無事が確認できて、澪はソファーに深く座り込む。
「…ムーちゃんいるでしょ。事情は話さなくて良い。玲音は無事なんだね?」
落ち着きを取り戻した澪が、鋭い口調でムーを問い詰める。
「無事ですよ。護衛にルビアさんとアイヴィアさんが来てますから」
隠れても無駄なのはわかっているムーは、素直に姿を見せて質問に答える。
「何をしているのかは説明できませんが、悪いことでは無いですし、夏休み期間中には戻るとのことです」
森人国との戦争には駆け付けることを考えれば、それまでに終わらせる気なのだろう。
何せ、戦争イベントの翌々日には夏休みが終わるのだから。帰ってこないとマズイだろう。
まぁ場合によっては期間が延びそうですけど。
とは言わない。
「…玲音のことだから、何かに対応する為の何かしてるんでしょう?もういいよ。あのバカ。帰ってきたら正座で説教だ」
頬を膨らませながら拗ねたように顔を背ける。
「それでは私は玲音のサポートがありますので失礼を…と思いましたが忘れてました。皆さんに預かり物ですよ」
そう言ってムーが取り出したのは
「指輪か?」
「玲音曰く、ゲーム内の経験を活かした、魔導製作アクセサリー。名を輪廻と」
「輪廻?」
指輪が三つ…だが、二つはチェーンが通してあり、ネックレスとして使うようだ。
まあつまり、指輪は澪、ネックレスが神楽と舞。
「薬指は早くないか?」
既に指に嵌めている澪を、ジト目で見る神楽。
確かに薬指はちょっと早いか。
「いいじゃん。今くらい」
手を指輪ごと隠すように身体を捻る。頬はほんのり赤くなっているし、頬が緩んでいるのが分かる。
「輪廻ですが、込められた能力は三つ。一つ、物理魔法系統の反転。二つ、装着者に対する悪意に晒された時の警報。三つ、物を収納するための異空間倉庫」
「三つだが、かなり盛り込んだな?」
「加護をフル活用してましたね。反転と呼称してますが、効果そのままで相手に弾くものです。どちらかと言えば反射ですね。ただ、跳ね返るのではなく、位置が入れ替わると言えばいいんですかね?玲音に当たる直前に攻撃してきた相手の目の前に現れる…みたいな?」
「意味がわからないぞ」
「えっと、AがBに向かってCを投げます。CがBに当たる直前、Aの前にCが現れます。」
ムーは図を書きながら説明するが
「反転でもないだろう」
「それは、玲音も言ってました。だから、簡単に説明するの面倒、反転でって」
「玲音様?それは何をお作りに?」
「これか?澪達を守る為の装飾品。あと、男避け」
あっけらかんと、指輪をさしながらルビアに答える。
「あ、そうそう。ルビアとアイヴィアにもこれ」
そう言って渡すのは、ブレスレットタイプの装飾品だ。
「そっちは練習がてら作ったやつで、効果は痛み軽減と異空間倉庫の二つ」
「……痛みってどこまで?」
「基本どんな痛みも軽減するよ。あー、月のやつも多分楽になる」
アイヴィアの躊躇いがちな質問。途中で察して答えておく。
「これ普通に便利ですね」
「倉庫の方も容量的には3LDK位のサイズかな?感覚的にだけど」
「いや充分ですよ」
説明をしながら、玲音は指輪の方の締めに取り掛かる。
「倉庫と警報は刻めた。あとは防御の面…どう刻むか」
ある程度形にできているソレを、どうやって当てはめていくのか。そこをしっかり詰めていく。
「やろうとしているのは、受けた攻撃を相手に返す、を刻むんですよね?」
「そ。なるべく、返したら必中するくらいのがいいんだけど、いい案が思い浮かばなくてな」
「いや、必中にする必要はないだろう」
アイヴィアが呆れるが、必中であれば助かるには助かる。
「反射させるんじゃ相手に向かう時間で避けられるし、かと言って雑に弾くのもなぁ」
ペンを持ち、そばにあった紙にぐるぐると適当に渦を書く。
「しかも相手との距離や角度も考慮しないとだし、人混みでやられた場合二次被害とか…」
ブツブツと、あらゆる事柄を考慮しつつ、左手で持つペンで様々な案を紙に書いていく。
「器用というか気持ち悪いですよね。若干」
「あぁ。考えながら、紙に書き起こして、逆の手で落書き。いや、ゆっくりならできるかもだがあの速度はな」
ルビアとアイヴィアは、そんな玲音にちょっと引き気味だ。
「ん?」
そんな時、気分転換にと思って流していたテレビから聞こえた言葉に、玲音が顔を上げる。
「反転?」
何か引っかかったようだ。
喋るのも手を動かすのもやめて、完全に思考モードに入った。
「できるな」
数分の後、再起動した玲音は予備のアクセサリーを取り出して、試しにそこへ刻む。
「時空と統括の加護を併用、二つ目に刻んだ警報に紐付けた索敵と結びつけて、攻撃元を把握。装備者への攻撃を自動的に反転、襲撃者に返す。返す方法は空間を反転させ、位置を入れ替える。それだと面倒なこともあるから、時空の力で魔法や武器等の害を与えるものを中心に切り取って、相手の目前の空間と入れ替え。そこで生じる時空間のズレによる災害は封護の加護で抑え込んで時空で処理」
神の加護を三つ展開し、それを応用した力で指輪に加護を刻む。
「ルビア、ちょっと撃ってくんね?弱めで」
言ったそばから玲音に向けられるノアの主砲。
「このサイズ怖ぇ」
個人に向ける代物では無いのだから怖くて当然だろう。というか、艦砲に弱いとかあるのか?
腹に響く轟音を響かせながら発射された砲弾は、玲音の眼前に迫った後、突然主砲の前に移動し、主砲めがけて飛んでいく。
「障壁」
最初から返ってくることがわかっていたルビアは、ノアの副兵装の障壁を展開。見えない壁が砲弾を阻んだ。
「これ、厄介ですね」
「これ呪いみたいな概念も弾くんでしょ?貴方、リジェルに怨みでもあるの?ってくらいあの子特効よね」
厄介さを理解したルビアが唸る。
アイヴィアは、リジェルの玲音に対する心内を知っているので呆れ顔になる。
「ま、良いだろ。みんなの安全の為よ」
完成したソレを、他のアクセサリーにも付与していく。
別世界にいる尚也達、ルビア達用も製作。
内側に一人一人の名前を刻んでいく。
「反転というか、カットアンドペースト?」
「空間を切り取って張り替え。まぁそう言えなくもない?」
そう言って、神楽と舞がアクセサリーを手に取る。すると、ソレは光を放ち、収まると姿が変わっていた。
神楽の手にあるのは、イヤーカフとイヤリングのセット。天使の翼と悪魔の翼をもした左右で形違いのデザイン。
舞の手にあるのは、黒のチョーカーとアンクレット。チョーカーを飾るのは、舞の代名詞ヨルムンガンド。ソレはアンクレットにも刻まれている。
「それがお二人のアクセサリーです。デザインセンスはちょっとアレですけどね」
そう言って、ムーは姿を消した。ここでの役目は一旦終わりということだろう。玲音の元に戻ったのかもしれない。
「ま、デザインセンスは求めてないからな」
「お兄にしては悪くない。ヨルムンガンド、うん。かっこいい」
「……羨ましい」
シンプルなのが嫌なわけじゃないが、二人みたいなサプライズが欲しかった。
「でも、ありがとう。大好き」
玲音が何気なく澪の手にキスするみたいに、貰った指輪にキスしてみる。
この想い。玲音に届くといいな。
すると、澪の指輪も光を放ち、姿を変えた。
「この花…なんだっけ、確かオドントグロッサム?」
指輪を飾る花、オドントグロッサム。その花言葉を特別な存在。
指輪と別に、澪の手に掛かっている布がある。
「こっちは飾り紐?と簪?」
簪には、プロポーズや貴方を一生守ります、といった意味があった。
飾り紐の方は玲音のことだ、似合いそうという理由で一緒に贈っただけだろう。
家柄、和物を身につける機会が多かった私に、玲音は色々な小物をプレゼントしてくれた。
「えへへっ」
玲音から貰った今迄のプレゼントを思い出して、今貰ったものとの違いに心が弾み、頬が緩む。
簪と飾り紐を大事に抱える澪を、神楽と舞は呆れた顔で眺めている。
「この差よ」
「お兄は澪姉にゾッコンだから仕方ない」
玲音から貰ったソレを各々身につけ、今後の方針を決める。
「玲音が森人国との戦いに参加するなら、私達もそれに向けて準備しないと」
「少しでもあいつに追い付かないとだな」
「うん。もう、一人で行くことは許さない」
三人は揃ってゲームの世界へと向かう。
玲音は凄いスピードで成長を続ける。
従者である自分達にもその恩恵があるとはいえ、玲音の成長が早すぎて、自分達が引き上げられた能力についていけない。
だから、少しでも追い付けるように、現実とは違う世界だとしても、私達は後を着いていく。
私達の王を一人にしない為に。
「天龍に挑むよ」
未だ、解放者の誰もが挑戦をクリア出来ていない太古の天龍。
三人で挑む。
玲音のような力も技もない。
玲音のような思考能力も反射神経もない。
玲音のような実戦経験も生死の境の経験もない。
それでも、私達は私達なりに追いついて見せる。
「久しぶりの挑戦だね。さぁ掛かっておいで!その覚悟に見合う戦いを!」
大変お待たせいたしました。そして、あけましておめでとう!
久しぶりの本編投稿です。




