第8話 艦隊殲滅と試練殲滅
水柱の数は6。しかし、罠にかかった艦の数は7。
設置された罠のうち、敵艦を完全に破壊する為の罠。超重力による圧殺。
アリアがランダムに設置した罠は、残り12。
その中に、あと2つは完全に破壊する為の罠が設置されている。
敵からすれば、そんなことは知らないし、分からない。わかることは、罠が設置されていて、その中に抵抗も許さず問答無用で破壊してくる罠があるということだけ。
他の6隻も罠によって拘束され、一時的な行動不能に陥っている。
罠の仕掛けは簡単。最初にあえて爆破し、水をまきあげ、敵に満遍なく水を浴びさせ、それを凍らせる。
ただそれだけだが、シンプル故に強力で、何かあるのでは、と相手に疑念を抱かせるのにピッタリなのだ。
「意外と抜けてきましたね」
「元から罠を警戒して、結界を展開していたのでしょう」
「それに、数も、多い、ので」
「どうする?攻撃する?」
上から、颯、ルビア、アリア、神楽の順で神器を顕現させる。
意外と好戦的な4人に苦笑しながら、尚也も神器を顕現させる。
「もうすぐ、罠の第2陣だろう?それで止まったのを、澪とルビアでお願い。罠を突破してくるのは、舞ちゃんの結界で防御しながら、神楽と僕で乗り込んで撃沈しようか」
「抜けてきたのに乗り込むにしても、距離がありますけど?」
「それに関しては問題ないと思うよ?」
「問題ないな。風の力でどうにでもなる」
ルビアの疑問に対して、尚也も神楽も心配は無用だと言わんばかりに余裕の態度を示す。
そうこうしているうちに、罠の第2陣が発動する。
「ルビア!澪!」
尚也の呼び掛けを合図に、澪の周りに数え切れないほどの剣、槍、矢、斧、等の武器が出現。手元の弓を引き絞るのに合わせて、その全てが動きの止まった敵艦へと狙いを定める。
そしてルビアの方は、澪と並ぶようにして佇み、その頭上に『ノア』を移動させ、『ノア』に積載されている全ての砲が、澪が狙うのとは別の艦に狙いを定める。
「一矢・裏!鏖殺」
「リロードバースト。ファイア!」
『ノア』の主砲が火を噴き、空気を揺らし、数多の武器が空をかける。
その攻撃は、的を外すことなく命中し、その力を遺憾無く発揮する。
バースト弾は、着弾後敵艦内部へ侵攻し、ある程度進んだところで爆破し、内部から崩壊へ導く。
数多の武器達は、直撃する前にその大きさを変化させ巨大化する。そして、それらが艦へと突き刺さる。四方八方から突き刺さるそれは、まるで手品師が披露するそれだが、この場合、逃げ道など無い。隙間などないに等しいが、奇跡的に生き延びた者は、次に地獄のような苦しみに出会う。
澪の作り出した武器達。それは重量を持ち、鋼の硬さをも持つ。
故に、艦は浮力が耐えられない程の重量になり沈んでいく。
その光景を、尚也と神楽は海を渡りながら見ていた。
「ルビアの手段はわかってたけど、澪のあれもかなりやることエグいよね」
「澪の裏の面には玲音ですら勝てないからな。その面が反映された結果があれだろう」
尚也は何かをすることなく、ただ海を走っていた。脚が沈む前に次の脚を踏み出す訳ではなく、1歩踏み込んで飛んで、また1歩の繰り返し。
足場の無い海上で一体どうやったら飛べるというのか。神楽はそう思っている。
対して神楽は、自身の神器を魔女の箒のようにして飛んでいる。鎌迅エルドリーパーの力の1つ、風の操作で、空を飛ぶことを可能とする。
魔法が使えず、格闘術と身体能力で戦っている尚也からすれば全てが意味不明である。
そんな2人を目撃した他の面々は、同じ気持ちだった。 どっちも意味不明だと。
「2隻任せるよ」
「任された」
短いやり取りを挟み、2人は距離を開ける。
敵艦からの砲撃が降り注ぐが、2人にはかすりもしない。どころか至近弾にすらならない。
届く前に、澪とルビアに撃ち落とされるか、舞の結界に拒まれるか、射撃のタイミングに合わせて、速度調整を行い狙いをずらしている。
そして、2人が動きを止めた。
それを好機と言わんばかりに集中砲火を浴びせるが、神楽は神器の力を集約させた影響で発生した渦によってその身を守る。
尚也は、停止したのもほんの一瞬。次の瞬間には飛び上がり、海へ落下。そのまま潜っていく。
2人の位置は、偶然にも対角線上。
渦を利用し空へ浮上した神楽が、鎌を上段に構える。
尚也は水中で敵艦を見上げ、拳を握り、体を捻り構える。
エルドリーパーに風が集まり、荒れ狂う暴風となり、巨狼をかたちどる。
「テンペストウルフ」
嵐を体現した狼の顕現により、眼下の海は荒れ、水が巻き上がる。神楽はエルドリーパーを肩に担ぐように構え直す。
「疑似神格四神!青龍!白虎!」
尚也の額から2本の角が、腰より少し下辺りから龍の尾が現れる。そして、握り締める右拳が雷を帯びる。その雷は、周囲に影響を及ぼすこと無く、尚也の拳のみを包む。
「ウルフレイド!」
「白虎抜拳疑似雷龍!」
神楽が敵艦2隻をなぞるように鎌を振るい、尚也が2隻の丁度中間地点目掛け拳を突き出す。
放たれた狼は、敵艦に迫る程その体を更に大きくし、直撃の寸前の大きさは1隻を丸々呑み込めるほどに。
雷龍も突き進む事に、周囲の水を取り込み巨大化。狼と同じ大きさになったところで、敵艦に直撃。
2つの一撃は、敵艦を破壊し、有り余った力は互いに衝突し、衝突地点を中心に広範囲に渡り、海水を吹き飛ばす。
海水の無くなった場所に、破壊された艦の残骸が落ちていく。
それを躱しながら、尚也が飛び上がり、神楽の神器に捕まる。
「流石に飛ぶ手段は持ってないから」
その状態で、海が元に戻ろうとする様子を眺めながら、国へと帰還する。
一方、南西から接近していた敵機の迎撃の為に待機していた戦闘員は、不思議な光景を目撃する。
それは、敵機が舞の展開した結界にぶつかり、爆発四散したり、神楽の影響で巻き上げられた、莫大な水が頭上に落ちてきて叩き落とされたり。
そうして敵機は全滅。彼らがやったことといえば、対空砲で牽制射撃をした程度。
「玲音様、どうします?」
「いや、どうするも何も、次に移行するしかないでしょ」
時は遡り2時間程前。
「なぁ玲音様よ、こんな目立っていいのか?」
「ん?まぁ、目立って注目された方が何かと都合いい気がして」
「どういうことです?」
「三種の神器を手に入れるでしょ?その所持者が、敵とはいえ協力してくれる。そうなれば、向こうは楽に奪還作戦を遂行できる」
「確かにそうかもしれませんが、簡単に行きますかね?」
「確実に罠を仕掛けてくるだろうよ」
「それはそれでいいんだよ。実力で排除できるから」
そんな会話をしながら、玲音一行は伊勢神宮目指して移動していた。
道中、魔獣や日本の戦闘機に襲われたものの、完璧なまでのカウンターで突破している。
「目的地に着いたぞ」
龍の背に乗る玲音達の眼下。
伊勢神宮の天照大御神が祀られている本宮。
「玲音様、外宮の方はよろしいのですか?」
「こいつがこっちを指してるからな。必要ないだろ」
『霧雨』を顕現させながらクレハに答える。
「よし、降りるぞ」
龍の背に立ち、降りようとしたその時、神器が一際眩しく輝き、玲音達を覆い隠す。
「ここは何処だ」
「玲音様!」
ウルスの声に反応し、咄嗟に身を屈める。
「ウルス!自分の周囲も警戒!」
ウルス目掛けて飛来する何かを、クレハが迎撃する。
「すまん!」
全員背中合わせになり、頭上、足元を含む全方位を警戒する。
「襲ってきてるのは」
「金属ではありません。感触的には生き物かと」
「生き物?なら、なんで血が散ってない」
ウルスにつられクレハと玲音も、先程クレハが迎撃した地点をチラッと見る。
そこには、叩き落とした生き物も、その血さえも残っていない。
「可能性は天照大御神の眷属か従魔。もしくは、天照大御神関係なく、神の襲撃」
予想外の展開に、玲音は内心の動揺を隠しながら、至って冷静に振舞おうとする。
振舞おうとして、異変に気付き、混乱する。
「ウルス?クレハ?」
つい先程までそこにいた2人が居なくなっていた。
なんの前兆もなく消えていた。
そして、その代わりと言わんばかりに周囲に魔獣と自律人形が現れる。
それらから向けられる殺気に、玲音は落ち着きを取り戻し刀を構える。
「2人を探すのも鏡を探すのも、こいつらを倒してからってことか」
玲音の目が鋭くなり、その気配が鋭さを増していく。
「炎帝抜刀ソウエンノタチ」
こうして、玲音は戦闘へとその身を投じていく。
その時、ウルスとクレハはと言うと
「そういうわけなので、お2人はここでお待ちください」
天照大御神と名乗った女性と向き合う形で座っていた。
「まぁそれが理由なら」
「それに、玲音なら大丈夫だろ」
「ウルス、様付け」
2人も事を見守る姿勢に。
「彼、凄いですね。襲ってるのあれでも神の端くれ達なのですが?」
「俺達も、全てを見たわけではないからなんとも言えないんだよな」
「言えることといえば、吸血鬼と人間のハーフとはいえ、身体能力が高く、そこが見えない」
「あとはあの神器だな」
「歴書に霧雨の名は無く、神の気配もしない。それなのに」
「御二人の神器と遜色ない力を秘めている?」
「その通りです」
戦う玲音をモニター越しに眺め、3人は玲音の考察を交わす。
「それに関してですが、彼自身の力もその神器も我々神が関与してますからね」
訂正。交わすどころか、一瞬で謎の半分が解ける。
「私から言えることは、あの神器は本来の姿では無いということ。もう1つ、彼の力の根源は我らの主神のもの」
ウルスとクレハは、驚きながらもその情報をすぐさま記録。尚也を経由し伝達していく。
それについて、もう少し情報を、と思い口を開こうとして、天照大御神によって遮られる。
「終わったようですね。なら、コレを渡しにいかなくては」
指パッチン。それだけで景色が切り替わり、玲音の目の前に移動する。
「チッ」
どれくらい経ったのか、数え切れないほどの敵を倒し、終わりの見えない状況に堪らず舌打ちがでる。
「キリがねぇ。ウルスとクレハも探さないといけないってのに!」
イラつき、戦闘から少し意識を外しているにもかかわらず、その動きは洗練されている。
「まぁでも」
右目を閉じ、視覚以外の深度をあげていく。
正面から突き出された槍を半身で躱し、背面からの攻撃に合わせ相殺。脚を払い、その2人のバランスを崩し蹴り上げる。その2人を盾に他の攻撃を凌ぎ、手が緩んだ一瞬の隙をついて2人と2体を『鳴神』にて屠る。
玲音は今のステータスになる前から、かなりの身体能力を発揮していた。常人と比べれば突出しているが、超人の域を出ない。だが、今の玲音は超人を遥かに超えている。人ならざるもの、吸血鬼としてのポテンシャルを秘めている。しかし、これを十分に発揮できてるとはいえない。血を飲むことで、吸血鬼としての格も適応力も上がっている。しかし、根本的に慣れていないのだ。上昇する力に身体と頭が追いつかないでいた。それが今この瞬間、パズルのピースが揃ったように追いつく。
目を閉じていなくても、後ろからの攻撃を最低限の動きで回避、攻撃を仕掛けてきた敵の更に後ろからの遠距離攻撃。それを受けるのでは無く、受け流す。左から迫る2体のうち1体に。複数人からの範囲攻撃も、自分に当たる分だけを受け流し、別の攻撃に相殺させる。
「抜刀炎舞!炎獅子!大蛇!」
ただでさえ一方的な戦場を『炎獅子』と『大蛇』が蹂躙していく。
その2体を掻い潜って来た敵を、玲音が危なげなく対処する。
「そろそろ終いか」
周囲の敵が、これ以上増えない事を確認した玲音が苛烈さを増していく。
「煉獄!」
背後を『炎獅子』と『大蛇』に任せ、正面の敵を排除する。
「火舞!」
自身の周囲の敵を排除し、納刀、一瞬身体を沈め力を溜める。
「抜刀」
敵の上空へと飛び上がり抜刀
「黒陽」
頭上に掲げた刀を振り下ろす。
刀から迸る炎は黒く、球状へと変化する。
そして、直径1メートル程の球体が落ちていく。
『炎獅子』『大蛇』が消滅し、全ての敵が玲音に集中した瞬間、球体が地面に触れ、その猛威を振るう。
解き放たれた炎は焰へと変わり、全てを滅ぼす。
灰になることすら許さない。灰になる前に消滅させる。
「これで終わりだな。あとはどうやって2人を探すかだけど」
顎に手を当てて考え始めた矢先、その場に異様な気配を感じ、咄嗟に神器へと手を伸ばす。
「ウルス!クレハ!」
2人を見つけたことで一安心したものの、もう1人の人物に警戒心は解かない。
「2人を助けてくれたのか分からないけど、感謝はする。で、誰?」
何時でも斬りかかれるように、神器に手を添え脱力。下半身は飛び出せるように少し開く。目は細められていないが、鋭さは健在。力も入りすぎない自然体。その姿は正に剣聖。
「助けたと言えば助けましたが、貴方にアレらを襲わせたのも私です。名前は天照大御神。八百万の神の主神にして、この国を統治する神です」
「シッ!」
一閃。天照が喋り終えた瞬間、玲音の神器がその首元を狙う。
「ホログラム、いやどっちかと言えば霊体か」
「その通りです。そして見事な一撃」
目の前にいた天照が消え、玲音の背後から天照が現れる。
「なるほど。鏡の権能の1つ、霊体か」
「はい。八咫鏡の権能、霊体分身。自身を写すことにより、分身を生み出し、本体と遜色無い力を発揮させます。そして、もう1つの権能、渡り鏡。念じた場所へと移動することができます」
「なるほどな。最後の権能は他の2つ揃ってからか?」
「理解が早いようで助かります。それぞれの神器は、それぞれ強力な権能を宿していますが、本領は全て揃った時に発揮されます。その力は貴方の身を滅ぼすかもしれません」
「そういうハッタリはいらねぇ。使い道を間違えるなと言いたいんだろ」
「本当に理解が早いですね」
「さっきの戦闘のせいで新しいスキルを手に入れたからな」
新規取得スキル一覧
・思考加速
・並列処理
・並列回路
・禁呪耐性
・??????
「訳の分からんものが2つも手に入るし、考え事が捗るスキルも手に入るしで助かった。けどさ、あの数は無いだろ」
「・・・それではこちらをお渡ししますね」
「おい」
玲音の文句を流し、天照は鏡を差し出す。
「剣と珠の守護にも神がいますが、まぁなんとかなるでしょう」
玲音は鏡を受け取ろうとして失敗する。
何故なら、鏡が勝手に浮かび上がり、玲音の顔目掛けて飛来したから。
「!」
咄嗟に避けようとしたが、間に合わず直撃。
光が迸り、鏡は影も形も見えなくなる。
「玲音様!」
手で顔を覆う玲音を心配して、クレハが慌てて近寄る。
「いや、大丈夫だ。驚いたが、特に問題は無い」
それを手で制し、顔を見せる玲音。
「玲音様、その目は」
「これは八咫鏡と融合したらしい」
玲音の片目は鏡のように全てを写し、瞳の色は角度によって変わっていた。
「なるほど。鏡に認められると、そうなるのですね。玲音様、周囲を見て、以前と違うところはありますか?」
「・・・いや、特にはないな。多分、見たいモノを念じれば変わると思う」
それからしばし、鏡の使い方を確認しながら、玲音の疲れを癒す。
「それだけ使えれば十分でしょう。後は慣れですね」
「そうだな。色々と助かった」
「いえ、これも役目ですから。っとそうだ、玲音様に1つだけ」
先程までの優しい雰囲気から、張り詰めたような雰囲気に変わる。
「八尺瓊勾玉を手に入れた時、我らの主神から貴方へと直々にお話があると思います。そして、どうかその願いを叶えてあげてください」
「その時になってみないと分からないが、叶えられるよう努力はする」
「はい。今はそれで結構です」
そう返答すれば、彼女は笑みを浮かべ、肩の力を抜く。
「それではこれでお別れです。皆さんを富士の麓に転移させます」
玲音を中心に、波紋が広がり、足元に富士の景色が映し出される。
「ありがとう天照。またいつか」
「はい。またいつか。ウルス様とクレハ様も」
「おう」
「はい」
「水扉」
最後にもう一度笑みを浮かべ、天照大御神の姿が見えなくなる。
それと変わるようにして、玲音達の前には木々が生い茂る樹海が。
「さて、リオンに連絡入れて次に移るか」
それぞれが神器を手に、魔獣の蔓延る富士の樹海に足を踏み入れる。