第86話 異界の巫女そして龍人と依頼
「玲音は、別件があると言ってどこかへ行ってしまったからな」
「また三人で」
「そうだね。どこ行ってみる?」
澪、神楽、舞の三人は、また玲音と別行動になったので、どこへ行くか相談していた。
「魔法都市か獣国かな?」
「ん。天国と海国は依頼だけど一応行った」
「まぁ、その二択なら使役獣の情報が欲しいから、獣国だろう。魔法都市は、刻印術式を編み出したのが澪だと知れたら大変だろう」
「そうだね...。でも多分知られてそうなんだよね。私達、天照王国の守護四傑として知れ渡ってるから...」
「そういえば」
「そうだった」
そんな流れで、三人は目的地を獣国に決定する。
「それじゃ向こうでまた」
各々の部屋に戻り、ゲームへとログインしていく。
「揃ったな」
「準備も出来た」
「それじゃ向かおうか」
ドワーフの地上都市、その先にある獣人達が暮らす国、獣国。
もちろん他の種族も暮らしているし、その他の種族向けの施設もちゃんとある。
同盟クラン「解放者」や所属ギルド「先導者」のメンバーのうち、獣人に進化したプレイヤー達が必死に街のポータルを解放した。
このゲームは、ギルドメンバーが解放した街なら転移が可能になる。だから、三人が獣国のポータルを解放していなくても転移できたのだ。
「まずは、街を見て回ろうか」
「冒険者ギルドは?」
「あるよ。主要施設は一箇所に集まってるから、そこから行こうか」
街の情報を先にある程度仕入れていたミオの先導で、三人は冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルド、鍛冶場、食堂、宿屋、銀行、素材買取所、解体場、雑貨屋。
冒険者や異界人向けの施設が集まったこの一帯は、ギルド区画と呼ばれ獣国内では、出入り自由の区画とされている。
「ミオ、私は依頼の確認をしてくる」
「それじゃあ、私とマイちゃんは素材売却してくるね」
「私のも頼む」
カクラが冒険者ギルドに通常依頼や特殊依頼の確認に向かい、ミオとマイは溜まっている素材の売却へ。
「すまない。依頼を探しているのだが」
空いている受付の元へ行き、話し掛ける。
「…異界人の方ですね。レベルに合う依頼は現在ありませんね。しかし、虚ろいの森方面の門の近くに、依頼主が立っていることがありますので、たまに確認してみてください。ギルドを通さない代わり、安全は保証されませんが報酬は高額になる場合が多数ありますので」
「それは、認めてもいいものなのか?」
「ギルドを通す依頼と言うのは、主に採取であったり討伐任務であったりと、表側の仕事が主になります。しかし、依頼主から直接受けるものは、暗殺や潜入等の裏側の仕事が半数を占めます。これは、ギルドを通すと情報が各地に広がる為です」
「個人間の依頼であれば、内容は多種多様なわけか」
「はい。噂では、最近になって珍しい依頼があるそうですよ。一度訪れることをオススメします」
話終えると、受付嬢から何やら紙を受け取る。
"後程確認してください"
そう書かれた紙を素早くインベントリにしまい、礼を言って立ち去る。
「ふむ。これは怪しいな」
プレイヤーアナウンス
プレイヤー名 カクラ、ミオ、マイのパーティーに特殊クエスト発生
竜人の依頼を調査せよ
クエスト達成報酬???
達成条件???
失敗条件・他プレイヤーによる依頼達成
インベントリを操作して、紙を確認したと同時に発生したプレイヤー個人に対するアナウンス。
パーティーということで、ミオとマイにもアナウンスがなされている。
手渡された紙には
竜人による不穏な依頼があるため、その調査をお願いしたい。守護四傑である貴女に
とある。
「レオンが居なくとも、面倒事には愛されているみたいだな」
呟きながら視線をあげれば、ミオとマイが走ってくるのが分かる。
そして、三人はクエストの内容を確認し、まずは依頼主の元へと向かった。
「どう思った?」
プレイヤーが集まっていたので後をつけると、噂の依頼主を発見。物陰に隠れながら、他のプレイヤーが受けている依頼の話を盗み聞きした。
「嘘は言っていない。いや、嘘が混じってはいるが八割本当のことだろう」
「二割嘘ってのは、どの辺り?」
「竜人の謀反ってところか」
「逃走して、隠れているのは事実だけど、謀反を起こしたわけじゃない?」
「だと思う」
「とりあえず、私達はその逃げてる竜人を探して話をしよう」
三人は、自分達に発生したクエストと依頼の違いから違和感を覚え、それを解消するために虚ろいの森へと足を踏み入れた。
進む途中、精神耐性が獲得できるようになったことから、何かあると判断しそのスキルを取得。有り余るSPを使いレベルをあげておく。
「この森、魔力が伝播しやすいね」
「この霧のせいだろう」
「魔力は伝わりやすいけど、反応が上手く拾えない」
何度か、他のプレイヤーと出会っているのだが、出会う寸前まで反応が感知できない。
相手側も同じようで、困惑していた。
「ハイバーの能力に似てるかも」
隠れることに秀でた精霊ハイドバード。この森の霧は、その精霊によく似た性質を持っているようだ。
「まぁでも、もう大丈夫」
ミオはそう呟くと、進路を少しずらし始めた。
ミオが手に入れた、レオンの真瞳とは似ているようで違う特殊進化スキル。
名を、神託の瞳
ミオが見ようとすれば、神による啓示によって全てを見通すことの出来るスキル。
ただし、連続発動は出来ない。再使用にゲーム内2時間
そして、そのスキルを使用して探し出すのは、依頼にあった竜人。
「矢よ、導を灯せ路を示せ。アローチャート」
その竜人の痕跡をスキルで辿る。
巧妙に隠されているが、神託によって辿り着くことは約束され、そのスキルは正確に居場所へと導く。
「敵対するつもりはない。話がしたい」
幾重にも隠蔽が施された洞窟の入口で、カクラは中にいる者に声を掛ける。
反応は無いが、敵意は感じる。
「依頼は受けていない。真実を聞くためにここへ来た。天照王国守護四傑の名に誓い、嘘は無いと約束しよう」
巫女姫から守護四傑になる為の説明を受けた時に言われた事だ。
天照王国守護四傑の名に誓う、という事はそこに嘘があれば、国が動くという意味になる。
「…ほう?馬海龍の加護持ちか。リズよ、この者たちなら、信じれるぞ」
ミオ達に最初に反応したのは、全く感知していなかった後方。そこに佇む一人の老人。
振り返り、鑑定、看破を使用する。すると、隠す気が無いのか、その正体を映し出す。
「太古の隠龍…」
「三体目の太古の龍か」
「お兄もまだ会ってないはず」
太古の隠龍は、片目を開きながら顎をさすり三人を眺める。
「じぃ様がそう言うなら信じる。でも」
三人が相手の動きを待っていると、背後の洞窟から声が聞こえる。
こちらは、先程から感知していた気配の主だろう。
「名前を教えて。異界の巫女」
見開かれた瞳は、人のモノとは違う。読み取れるステータスの通りなのだろう。彼女は竜人。それも、竜人族の次期族長候補。
「知りたいのは、お前。生と死の気配漂う貴女。貴女、誰の巫女?」
鋭い瞳で見つめる相手はミオ。
「貴女から感じるソレは、この星に関わる神と一致しない。答えて。答えないなら、ここで殺す」
途端、膨れ上がる莫大な魔力。いや、マナがリズと呼ばれた竜人に集まっている。
「リズ、お前さんは少し我慢を覚えた方がいい。そこのお嬢さんは、最近度々感じる吸血鬼の巫女だろうて」
「大罪と厄災倒して、白狼解放した?」
「似た気配を感じるぞ」
「えっと、生と死の気配に関しては分からないけど、私の名前はミオ。吸血鬼って多分レオンの事だよね。レオンの巫女?なの?私」
隠龍とリズの話についていけないミオ。さすがに困惑している。
「自覚がない?」
「じゃろうな。もしくは、レオンとやらのせいかの。まぁ良い。お嬢さん達は、リズと話がしたいんだったか?」
「そうだった。何の用」
漸く本題に入れるようだ。マナも再び周囲に散った。
「獣国にあった、竜人の里の依頼について」
「私達に発生した、シークレットクエストとの違いが気になったの」
「種族が影響しているんだろう。謀反と言うところに違和感を感じた」
「謀反…。成程。最近この森に感じる沢山の異界の気配はそれが原因。わかった。貴女達になら、話をする」
来て、と言いながら洞窟の中へと戻っていく。
じぃ様と呼ばれた隠龍も後に続くので、ミオ達も続いて中に入っていく。
「まず、私の名前はリズ。竜人の里に産まれた、竜を統べる王。その龍人」
「龍人?」
「じぃ様お願い」
覚えのない単語に反応すると、説明役が隠龍に変わる。
「まず、この世界には竜人族と龍族が存在する。どちらも、この世界創造に関わる種族ではあるが、竜人は龍の零れ落ちた力によって産まれた種族じゃ」
龍族が誕生し、余りに大きな力は、器から溢れ出し、別の種族へ影響を与えた。
その結果誕生したのが竜人族。
「姿形が人族に近いのはそういう理由じゃ。獣人は神獣と人族との愛の結晶。現存するエルフとドワーフも劣化種じゃな」
ついでと言わんばかりに告げられた言葉は、かなり興味深い内容だった。
「待って。種族の話を詳しく」
「む?伝わっておらぬのか?」
「正しい伝承を知らない可能性がある」
「なるほど…種族についてじゃが」
そこから、隠龍による存在が確認されている種族についての話が始まる。
「この世界の創造に関わった種族は、龍族、竜人族、天使族、古森人、古土人、精霊族の六種族。そこに加え、我ら太古の五龍と吸血鬼。創造神によって生み出された我ら五龍と五種族と違い、吸血鬼は自然に生まれ、創造に携わった。何故生まれたのか、どのようにして誕生したのかも不明だが、吸血鬼一族のおかげで世界の均衡が保たれた。
そして、この世界の創造後に神によって人族が生まれ、天使族の力を受けて翼氏族、古土人と違った加護を持つ小人族、吸血鬼の力に反応して鬼族、神獣と人との愛の結晶で獣人族が誕生し、確認された種族は十二種族となった」
「竜人が人族に近いのはなんで?」
「零れ落ちた力では、人種の形になるのが精一杯だったのじゃろうな。それでも、竜人は強大な能力を所持していた。それが龍化。龍の姿に変化することができる能力。と言っても、龍化できる竜人自体今は珍しいが。そして、稀に産まれる特異個体、それがリズの言う龍人じゃ」
「竜を統べる王って言うのは?」
「龍人とは、竜人の上位種族。龍と同等の力をその身に宿す者。そして、龍は現在までに二十体程確認されており、現存する龍の内三体は精霊族へ。三体は魔へと堕ちた。結果、純粋な龍種は八体しか残っておらん。場合によってはリズが九体目の龍となるやもしれん」
「ちなみに、現存する龍の名前は?」
「今の世はそんなにも失伝しておるのか…まぁ良い。
炎を司り、勇気を象徴する炎龍。水を司り、静寂を象徴する水龍。風を司り、喜怒を象徴する風龍。光を司り、平穏を象徴する光龍。闇を司り、闘争を象徴する黒龍。繁栄を司り、豊穣を象徴する緑龍。破壊と再生を司り、輪廻転生を象徴する神龍。神龍を含む全ての龍を統括する王龍。戦闘力順で神龍、王龍、黒龍、炎龍、風龍、光龍、水龍、緑龍。
三魔龍はベヒモス、ディアボロス、ブリトラ。
精霊王となった龍は循環、分解、吸収を司る」
「でじゃ、竜人は竜と同じで、言い方は悪いが龍の劣化種族。しかし、龍人は龍と同等の種じゃ。故に、龍人は次期里長になる。竜や竜人からしたら崇拝の対象じゃからな」
「そう。私が狙われるの理由はそこにある。私みたいな小娘に従いたくない上の奴らが、私を排除しようとしてる。別に、長にはなりたくないから普通に出て行くのに」
トントン拍子で進む話に、三人は必死になってついていき、頭の中で整理し続ける。
三人は情報整理に集中していて、二人は少しだけ気が緩んでいて。だからか、近くに多くのプレイヤーが集っていることに気付けなかった。
「プレイヤーの反応もあるくね?」
「構いやしねぇ。報酬は俺らのもんだ」
「おーけー。纏めて死にな」
三十人以上の同時攻撃。
直接狙える場所に居ないことが幸いした。
魔法での攻撃や近接の遠距離アーツが発動したことで、揺らいだマナに隠龍とリズが反応した。
「リズ!」
「伏せて!」
二人の言葉で、三人も攻撃の兆候を察知。
「結界・堅守」
マイが素早く結界を展開する。
「スポットチェンジ、四矢・破砕、二矢・雨矢鳥」
洞窟の一部に穴を開けて、そこにリズと隠龍を隠れさせる。
スポットチェンジの効果でミオの位置は常に相手に知られることになるが、そこは無視する。
今、大事なことは、リズと隠龍が死んだと思わせること。死体はインベントリに入るため、ミオ達が回収したと勘違いさせる。
だから、反撃の為に洞窟外に向けて無差別に攻撃する。
「テンペストウルフ、ウルフレイド!」
カクラが洞窟の外、自分達の真上に風の巨狼を生み出し、敵に強襲を仕掛ける。
森の木々が刻まれ、禿げていくがそれも無視だ。
反撃があると思っていなかったのか、敵は死に戻ることは無かったが、かなりの痛手を負ったようで、すぐに追撃は来なかった。
「私達も纏めてなんて、大胆ね」
マイの結界によって無傷のミオが相手を睨みつける。
結界によって、洞窟だった瓦礫は邪魔にならないように除けている。隠龍とリズを守っている結界を上手く隠しながら。
「アンタらが誰なのかよく知ってるがな?依頼を受けてねぇのに横取りするのは良くねぇと思うわけよ。だからよ、渡してくれねぇか?」
回復が終わったのだろう。リーダーらしき人物の言葉に続いて、三十人以上。いや、五十人はいるかもしれない。プレイヤーが姿を見せる。
「断ったら?」
「渡してくれるまで痛め付けてやるよ」
ミオは後ろに一歩、敵リーダーは前に一歩踏み出した。
それに続いて、ミオ達を取り囲む敵の近接持ちが飛び出してくる。
「悪いけど介入させて貰うわね」
そんな声とともに、ミオ達を囲うように黒い壁が立ち塞がる。
「主の意向よ。今引くのなら、殺しはしない」
リーダーの前に立ちはだかるのは、フードを深めに被った女。
「構うな!やれ!」
驚いたのは一瞬。即座に反応して、纏めて殺すことを決断する。だが
「判断は素早いわね。でもね、それは愚かな決断よ」
その声を最後に、リーダーを含む五十人は視界が黒く染まり、リスポーン地点に送り返された。
「ミッションクリア。私達の主は人使いが荒いわね」




