第79話 事件そして行動
「ここが私の島か」
カクラはクランホームに戻ってすぐ、マザーから受けとった島へと向かった。
通行証を取りだして、島へ行きたいと願うだけで転移できる。
島から出る場合は、クランホームか各街にあるリスポーン地点のどちらかを選ぶことになる。
この島には、通行証を持っているか、持っている人物の認めた人しか入れない。
不法侵入の場合は、リスポーン地点へと強制的に転移させる。
遭難したプレイヤーの場合は、島所有者にメッセージが入り、許可次第では一部区域に立ち入ることができる。
この世界の住人の場合も即座に島所有者にメッセージが入り、転移を用いた住人の護衛クエストが発生する。
これは、本来なら転移の出来ない住人がプレイヤーと一緒という条件の元、転移が可能になり、住まいに送るというクエストだ。
成功報酬はその住人次第だが、場合によっては島に戻り管理をしてくれる場合もある。
極稀にだが、住人と結婚なんてイベントも用意されている。
そして、島の獲得条件だが、海国、天国である程度の実績を積むか、不動産で購入が可能なのだ。
むしろ、それ以外の獲得方法がないとも言える。
「さて、この島で出来ることを把握しないとだな」
カクラは表示されるUIを弄りながら、この島でできることを探り始める。
この島は、所有者のやり方次第では、その島特有の物が発生したりする。
そういった物を集めたいと思うのであれば、島を開拓していくのは必要なことになる。
カクラは武器を手に持ち、木々の伐採を始める。
家を建てるスペースと鍛錬場のスペースを最初に確保する。
家はUIから自動的に建ててくれるのだが、山小屋みたいな家になる。
それ以上を望むなら、建築のできるプレイヤーを招くか、住人の当てを探すしかないだろう。
鍛錬場は、鎌を振り回せて、動き回れる広さを確保するだけだ。的を置いても、耐久値があるのならば、補充が面倒だ。
後は、住人が流れ着いた時の為に、海岸から家まで続く道を作っておく。と言っても、邪魔な草木を除去して、人が整備したように見せるだけだが。
「これでいいな。ログアウトして、身体を解さないと」
そうして、カクラはログアウトしていく。
部屋を出れば、既に澪と舞はログアウトしていたようで、食事の用意がされていた。
「神楽ちゃんお疲れ様」
「お疲れ様お姉」
「あぁ、お疲れ様」
庭に出て、少し身体を解す。その間に神楽と舞は食事の用意を終わらせていた。
「玲音はまだ?」
「みたいだな。あの後、マザーと何か話してるだろうからな」
「何かあったの?」
「あぁ」
神楽は、イベント終了後のやり取りを伝える。
「へぇ。太古の地龍に報酬で島と太古の魔法か」
「魔法は確認してないけど、島はそこそこ広かった」
「どれくらい?」
「始まりの街と同じくらいか」
「相当大きくない?」
「デカイな。大きすぎて逆にどう開拓するか悩んでる」
そうして3人が楽しく話していると、慌てて階段を降りる音が聞こえ、リビングに玲音が駆け込んでくる。更に、ムーちゃんも一緒だった。
「食事中すまん。舞、俺が補助するから、半径50kmの探索結界を頼む」
「何があった?」
「クラスメイト達の家族が行方不明になってる」
「わかった。対象が分からないから、確定は出来ないよ?」
「人数が集まってるとこが分かればいい」
「ん。探り手繰れ、我が捉える」
手短に必要なやり取りを済ませる。
舞がすぐさま結界を構築するが、範囲は玲音の要求に届かない。
「任せろ」
加護を解放し、範囲を広げ、それを維持する時間を引き延ばす。
「いくつかあるな。記憶する」
更に加護の能力を使って、人の集まっている場所を全て把握。脳内で地図に照らし合わせる。
「澪、神楽、クラスメイトに連絡して。明日の明るい内に探すから、今日は家で待つように伝えてくれ。俺は夜通し探してくる」
「了解なんとか抑えとくね」
「無理そうなら、全員この家に呼んでいい」
そう言うと、玲音の姿は消えてしまう。
八咫鏡の能力、渡り鏡だろう。
「まずは連絡しよう。多分落ち着けないだろうから、全員ここに呼ぼう。舞ちゃん、悪いけど探索の結界は、範囲狭くていいから維持して。合わせて、家に癒しの結界もお願い」
「任せて」
そうして、澪と神楽はクラスメイト達に次々連絡を入れ、家に集める。
家に入れば、舞の結界のおかげで多少は落ち着くことができたようだ。
「玲音が伝手を活用して探してくれてるから、みんな少し落ち着いて」
「なにか手掛かりが欲しいから、詳しく話を聞かせて欲しい」
「あ、あぁ」
全員の話を聞いていくが、共通するのはゲームを始める前には家に居て、家族と連絡もついた。
家を荒らされた形跡も無い。
家族が出掛けた様子もない。
書き置きなく家族全員がいなくなるだろうか?いや、そんなことは普通はありえない。
「……何か嫌な感じがする」
澪は嫌な感じを覚えながらも、今は玲音に任せることにして、家を守るために意識を集中させる。
「ハズレか」
玲音は家を出てすぐに、近場の人が集まっている場所に跳んでいた。
1箇所目は、地下にあったその大きなホールには、産まれたままの姿の男女が重なっていた。
「坊主、どこから入ったか知らねぇが」
「黙れ」
肩を捕まれ声を掛けられるが、玲音はその手を払い除け、膨大な殺気を無差別に放つ。
「この場に今日中に連れてこられた女はいるか?」
「あッ…え?」
「答えろ」
「い、いません。この場にいるのは、事前申告があった者だけです」
「そうか。邪魔したな」
照明の光が消え、次に点灯した時には玲音の姿は消えていた。
「なんだったんだ」
玲音が捜索を初めて2時間が経とうとしている。
「一人じゃ限界があるか...仕方ない」
近くにあった公園に降り立つ。
「血の番犬共、ここら一帯を探れ。大人数が拘束されている場所を見つけたら報告しろ」
泉のように広がる血。そこから産み出されるのは無数の血の狼。
空には紅い月が朧気に見えている。
「……見つからないように小さく分けるか」
産まれ出た狼が分裂し、その体を小さくしていく。先に捜索に出た狼達も、先々で分裂し体は小さくとも数を増やす。
それからまもなく、複数の番犬より報告が入る。
「廃墟か」
報告の場所へ向かえば、そこはかなり昔に破棄されたビルだった。
「……倒壊の危険は無い。罠も…平気そうだなそれで、人の反応は1階だけ。固まってるな。隠れてるのもいない。なら行けるな」
正体を隠すために、八咫鏡の力を応用して自分に幻影を纏わせる。
「あー。うん。声も変わってる」
確認出来ないが、恐らく声的に見た目は女か。
「八咫鏡、私の姿写せる?」
目の前の空間が水面のように揺らぎ、それが収まると玲音の姿を写した。
「わぁお美少女」
銀の髪に赤い瞳。白く煌めく八重歯。身長は玲音の姿と同じで、スタイルはスリムだ。胸部は触れないでおこう。彼女のために。
「少しお借りしますね」
この姿の主を思いながら、一応断りを入れておく。
「番犬達、なにか来たら教えなさい。襲う必要は無いわ」
手のひらサイズの番犬たちに指示を出して、玲音は歩を進める。
「こんばんは〜生きてますか?」
生きているのは遠目で確認できてるし、生体反応もちゃんと確認している。
「だ、誰だ」
「……椚さん、さっきの中にはいなかった人です」
一番俺に近い二人がこちらを睨みつける。
「へぇ?保護者の間でも椚がリーダーなんだ。あぁ、とりあえず安心していいですよ。依頼を受けて捜索に来たので」
と説明してみるが、信じて貰えてないか。
「ちなみに、あそこで纏められてるの、皆さんのスマホですか?代表して椚さんの教えてください」
「……赤色の手帳型スマホケース。ストラップに雫を模した物」
「…これですね。はい持っててください。それでちょっと待ってね」
そう言って、脳内でムーに連絡を取り、澪へ伝言。澪から椚に親にもう一度連絡してみるように伝えてもらう。
手足が縛られていたので開放していると、着信音が鳴り響く。
僅かワンコールで電話に出る。
「宗一!無事なのか!?」
「父さん!それはこっちのセリフだぞ!?」
お互いの無事を確認し、まだ妹が見つかっていないこと、協力者が捜索してくれている事など、数度やり取りして、自分が信じていい人物だとわかって貰えたようだ。
澪がなんか言ったんだろうな。途中から代わってたみたいだし。
「まずは来てくれてありがとう。私は椚鷲朔と申します。貴女の名前をお聞きしても?」
「んー、偽名で申し訳無いんですけど、とりあえずはクオンでお願いします」
「クオンさんか。改めてありがとう」
「いえいえ。仕事ですから。それに、まだ仕事は完遂してませんよ」
こっそりと足元に来ていた番犬達が、敵の情報を伝えてくる。
「危ないので、その場を動かないように。...番犬達、あの人達を守りなさい」
念の為に番犬達を元のサイズに戻し、親御さん達の護衛にする。
「それで?そろそろ出てきたらどうですか?もうバレてるので隠れる意味無いですよ」
反応的には5人。言われて出てきたのは4人。
1人は隠れて死角へ移動。あ、新しい反応が2つ。これは人質を取るために背後から。
「んーー?ねぇ、おじさん達さ……それでバレてないと思ってる?いい加減にして欲しいなぁ?私ね、そこまで待ってあげられる程優しくないんだ」
神から貰った加護や神器の空間拡張能力を組みあわせた次元収納。そこから、BD-42・セリスを取り出し、背後に2発、左後方に1発。警告無しで撃つ。
確認するまでもない。音と漂ってくる臭いが、命中したことを伝えてくるから。
「ほら、出てこないからお仲間さん死んじゃったよ?あ、親御さん達は目瞑って耳塞いでてね」
金属が擦れる音が聞こえる。
それに混じって風きり音。グレネードだ。
一瞬の閃光。そして爆音と衝撃。
それに乗じて4人が動き出すのを感じ取る。
「元軍人かな」
セリスを仕舞い、デザートイーグル二丁を取り出す。
「どうゆう依頼か知らないけど、殺すのに躊躇いがあるなら、もっと早くに出てくるべきだったね」
敵の殺意は弱い。狙う先も、命を奪う箇所じゃなく、手や脚といった無力化が可能な箇所ばかり。
「まぁでも」
飛んできた銃弾に、こちらの銃弾をぶつける。
ナイフを持って懐に潜り込もうとした一人に二発射撃。武器を弾き飛ばし、腰に装備してる拳銃を破壊する。
その後、更に連続で6回の射撃。敵の銃弾を相殺して、残った弾丸が敵の銃口に綺麗に入り込む。
「はい。大人しく投降して」
デザートイーグルのマガジンを交換しながら、四人を睥睨する。
「仲間を殺した奴に大人しく従うと思うか?」
「お、やっと喋ってくれたね」
近接戦を挑もうとしていた男がこちらに応える。
「まぁでもそっか。応える気が無いなら、応えたくなるようにしないとね」
武器を仕舞い、目の前の男の懐に潜り込む。一瞬の出来事に反応できていなかったので、簡単に捕まえることが出来る。
そして、遠慮容赦なく殺気をゼロ距離で叩き付ける。
「大人しく投降して、依頼主と依頼内容を教えろ」
圧倒的なその殺気は、四人に容赦なく襲い掛かり、体重を支えきれなくなったように、地面に倒れ込む。
建物に残っていたガラスも砕けて、落ちてくる程の軋み。
程なくして、クオンが捕えていた男が情報を吐き始める。
「そう。ありがとう。これからは真っ当に生きる事ね」
四人に札束を四つ投げ渡して視線を切る。
「聞いた通りです。皆さんの残りの御家族も私が見つけてきます。場所も大方わかったので、お任せ下さい。皆さんは、御家族を安心させるために、一度家に戻ってあげてください」
そこそこの距離がある為、全員のタクシー代をとりあえず立て替えておく。後日、澪や椚宗一経由で返済してもらうことに。
「クオンさん…いや、玲音君、娘や他の家庭の子も頼むよ」
「……玲音と言う名前は知りませんね。私はクオンですよ。ま、お任せ下さい」
そうして、最後の一組の椚家両親がタクシーに乗って行った。
「……なんでバレた?」
「恐らく、ゲームの動画でも見てたんじゃないですか?あとはその話を子供達に聞いて…みたいな?」
「ありそうだな。んじゃムー、魔力の残滓があったから調査頼むぞ」
「お任せ下さい。玲音は少し休んでくださいね」
「あいよ」




