第76話 合流そして勧誘
「コールオブソウル。アシュト達の魂を呼び出し、ワウテウの幻影に憑依。時間制限はあるが、対人戦の奥の手だ」
現状のな、と小さな声で付け足す。
「ミオ姉もお姉も狡い。二人は攻撃型の精霊なの羨ましい。……別に、ネアとリーネに不満はないけど」
そういうマイは、援護の為に精霊魔法を行使する。
「リーネ、茨の獄」
マイを中心として、茨が地面を埋め尽くすように広がっていく。
「敵対する者には棘を向く」 きば
敵が動く度に5%のダメージを与える。強力な結界だ
「マイちゃんの精霊ってさ、派手では無いけど、効果はかなりだよね?」
「リーネはそう。ネアはまだ全部把握できてない。練度の問題。二人は?」
「私は両方とも第五位階までかな」
「私は、バラけているな。ワウテウに至っては二つだけだ」
基本、精霊魔法とは第一から順に解放されていく。
しかし、ある程度の力を持つ精霊であれば、最初から第五までの魔法が行使可能になる。
上級、王級、超級の3種に分類される精霊は、殆どが当てはまる。
その代わり、第六から先を解放するのに、精霊魔法を使い込み、精霊との親和性を高めることが必要になる。
精霊王のような、何かしらの代償は必要ない。
「俺らからすれば、三人とも羨ましいんだが」
「現状、4人しか契約できていない、王級、超級精霊達ですからね」
「特殊なイベント報酬みたいだから、レア度高いのはわかるけどね」
「第2回イベントの時からだったよね?レオンが精霊使ってるの」
呑気に会話している暇はあるのか?
茨の獄によって動きは鈍くなり、重ね連矢の効果で視界不良、行動阻害とまともに動ける状態では無い。
ワールドアナウンス
七つの大罪・痴情解体・切り裂きジャック
七つの厄災・人斬人災・ジャック(真名・リーパーTheランタン)
が討伐されました
三魔狼の一体、暁光の白狼・暁が浄化され、神獣へと変化。
暁に、人類の守護者の称号を再付与
プレイヤーレオンに特殊称号、白狼の盟友、白狼との契約を付与
ジャック、暁の戦闘に少しでも関与したプレイヤー5レベル上昇、全スキルレベル3上昇
全プレイヤーに暁の加護を付与
ゲーム内明け方~正午までに限り、ステータス1.25倍
「早いなぁ!」
「ほんとアイツ短期決戦大好きだな!?」
「どういうステータスしてんだよアイツは!」
第七位階の精霊魔法。アストラル・ウェポンズゲート。
星を破壊する力を秘めたその武器は、一つ一つが厳重な封印の元、保管されている。
アストラル・ウェポンズは、正確には星ではなく、星を運営する上で欠かせないマナの回路を破壊する特性を持つ。
俗に魔術回路と呼ばれるそれは、人にも動物にも存在し、モンスターも例外では無い。
魔術回路が存在するから、マナは人体に害にならない。しかし、その回路が破壊されれば?
外と内から想像も出来ない痛みに襲われ、常人であれば意識を失い、死に至る。
そんな危険な技が使われた事など知る由もない。
「リック、紛れさせて貰うぞ」
「好きにせぇ。元々、こちらと協力するつもりはないんだろ」
「協力はしない。だが、利用はさせてもらう」
「わかっとる。派手にやるだろうから、上手く頼むで」
「……頼まれよう」
闇に紛れ、標的を確実に暗殺する。それが、暗殺ギルドのやり方だ。
PKギルドと違い、国や貴族からの依頼も報酬次第で受ける。プレイヤー以外も標的。
逆に、リック達のギルドは、どちらかと言えばPKK。プレイヤーキラーを狙うギルドだ。
プレイヤーの暗殺者を返り討ちにしたり、PKされたプレイヤーの復讐代理。そういったことを主にしていた。
会話をしていたこの2人は、憎き商売敵。互いに強敵と認め、時に同じ依頼を受けた者でもあった。
「俺は少し、奴が羨ましい」
「リーダー?」
「俺には、いや、俺達にはあの景色は眩しすぎるだろう」
「……そうですね。リーダーの言いたいこと、わかりました」
「羨むだけでいいのか?その景色を見たいというのなら、俺のとこに来いよ」
暗く沈んだ空気を霧散させるような気配。
振り返れば、そこにはレオンが立っていた。
「何を思ってそう言うのか知らねぇが、コッチとアッチを一緒にするな。アッチでダメなら、コッチだけでもカッコよくなって見せろよ」
レオンの視線はまっすぐ。前を見ている。
「憧れなんだろ?憧れのままで終わらそうとするなよ。何故努力をやめる。何故その才能を捨てようとする。努力する才能は誰にでもあるものじゃない。……もし、努力をしようと、人として強く生きたいと思うなら、俺のとこ来いよ」
「ま、今答える必要はねぇよ。余計なこと言って悪い。……ゲームの世界ってのはいいよな。どれだけ失敗してもやり直せるんだ。前に進む為の練習に丁度いい」
「レオン…」
下を向いていた彼等がやっとレオンを見る。
「下を向くな。そうやって前を見ろ。自分が選ぶべきものは、自分の前にしかないんだから」
いつの間に抜刀したのか。言い終わると同時に、疾風迅雷で敵に強襲する。言っていて、少し恥ずかしくなったようだ。
レオンの参戦に驚くプレイヤー達。
そんな中、レオンを何か決意したような眼差しで見つめる。
「リーダー…」
「いい歳した大人が、子供に説教されるとはな」
「リーダーは30かもですけど、自分、まだ20なんで」
「立派な大人だろうが」
「そうかもっすね」
「行くぞ、お前達。俺達の力を、未来の主に見せてやろう」
「攻撃したはいいが、防がれたんだが。つか、これ俺のッ」
受け止められた刀を、咄嗟に引き戻し、急所を守る。
その判断で、レオンは攻撃を防ぐことに成功する。しかし、防御の上から貫通するなにかに、身体を大きく押し戻される。
「刀で槌術アーツは卑怯だろ」
すぐさまその衝撃が何かを理解し、ボス特有の理不尽に愚痴を零す。
「いや、理不尽の塊が何言ってんだ」
「その通りだ。というか、参加しなくていいぞ」
「そうだな。お前はもう休んでろ。疲れただろ?」
「本音は?」
「「稼ぎすぎ。大人しくしろ。こいつは譲れ」」
「…ま、それでもいいんだけどね。これ、厄介かもしんねぇよ?」
唐突に、残っていた2本目のゲージが消え、最後の一本になる。
そして、偽物の周囲に、黒い刀が無数に現れる。
「へぇ、俺の偽物。しかも影か」
レオンはボスを見つめ、そして、嫌な予感に従い自身のバフを全て解除する。
「やっべ」
近くによっていたプレイヤーに向けて、暴風を叩き付け、強制的に距離を開ける。
彼らがレオンに文句を言う前に、レオンは影の檻に囚われていた。
「あ、これまっずい。ジャックといいこのボスといい、俺の力取るの好きだね」
本当にまずいと思っているのか。疑問に思うところだが、確かにまずい。
「殺す?」
「んー無理かな。どうもこの状態、死亡無効状態らしいのさ。あと厄介なことに、俺のデータが盗まれてるっぽい」
「データ?」
「うん。戦闘データ。スキルとかアーツとか魔法とか刀術とかね」
「あ?」
「やばくね?」
「何?劣化版から通常版にでもなるんですか?」
「多分」
この迷宮は、迷宮内で最も強いモノを読み取り、そのモノに近い影を生み出す。
しかも、その影は元になったモノが入れば、捉えて吸収する。
ボスモンスターのステータスに自身の技を盗まれ手も足も出ない。
それが、このイベントの、この迷宮のコンセプトだ。
「……でもこれあれか、一応魔法とかは使えるな」
「使えたところでどうすんのさ」
「んー試す」
再び、レオンの瞳にⅦの数字が。
「アトラルカ、この迷宮は一つの世界のようなもの。そう言ったな?」
「あぁ」
「それなら、これで荒らすことはできるよな?」
「可能だ」
「じゃぁ、そこにもうひとつ加えて、破壊することは出来るか?」
「…可能ではある。しかし、破壊したあとがどうなるか分からぬ」
「そんときはそんときってことで」
檻の中でも、多少は身体を動かせる。
抜刀と納刀ができるのなら、レオンには結界を断ち切る力がある。
「アストラル・ウェポンズゲート、界断」
アストラルウェポンを納刀する用の鞘を血で作る。
鞘を持つ左手を後ろに引き、柄を持つ右手は前に。前と後ろとするが、実際のところは上と下と言うべきか。
檻の中で1番広く取れる角度で抜刀。檻諸共、界を断ち切る。
「俺を拘束するこの檻、というか、影そのものがマナで構成されている。なら、アストラルウェポンで荒らすことができる。そして、この迷宮が一つの結界、世界だとするなら、俺が認識できているなら、破壊することは容易だ」
問題があるとするなら、アストラルウェポンがないと、この規模を破壊するのは無理だということか
迷宮が崩れ始める。最初に天井が消え、次に壁が消え、最後に床。
全てが消えた後には、何も無い。ただ真っ白な空間が広がっていた。
「白い空間に縁でもあるのか俺は」
最近、2度も遭遇した同じような空間。また、シズの空間かとも疑うが、そうじゃないことはわかった。
「てか、あの影なんか変身しようとしてね?」
誰かの呟き。それに釣られ、影を見れば確かに身体が蠢き、大きくなっているような、変化しているような
「…迷宮が生み出した化け物。その力の源は迷宮そのものだよな。完全に破壊される前に、少しでも取り込んでおこうと」
日曜朝のテレビ番組みたいな巨大化を見せる影レオン。
その姿も、人型から少しずつ変わっていき、巨大化が止まると、辛うじて人の形を保てた化け物になった。
「うーん化け物」
「何この…なんて表現すれば」
「二足歩行で」
「腕?が6本で」
「顔はないけど、至る所に目が合って」
「腰の周りに触手?」
「周囲にはでかい刀が浮いてて」
「黒くて、なんか蠢いてる」
「それなんてクトゥルフ」
ということらしい。
「んーーショゴスよりマシ」
「マジで言ってる?」
「だって一応は定形だぜ?蠢いてるけど、身体が変化する程じゃない。ショゴスはマジで蠢いて不定形だった」
「あー」
近くのプレイヤーが確かに、といったふうに反応する。
それはミオやカクラ、シェンやベルリン達。つまり、レオンとショゴスの戦いを一部見学していたメンバーで
「確かに、あれよりマシか」
「そう…ね」
「分からなくないが、無理なやつには無理だな」
「SANチェックないんだからいいだろ」
「というか、HP増えてますね」
「おーほんとだ。五本になってる」
巨大化し、第二ラウンドと言わんばかりにHPバーが増えている。
「ま、第二ラウンドってことだな」
「俺も参加するが、基本援護に徹する。やばそうなら言えよ?」
俺無しでも平気だろ?それとも、俺居ないと駄目なの?
という含みを込めてニヤリと笑えば、至る所から雄叫びが上がる。
「行くぞぉぉ!!」




