第72話 2対1そして嫉妬の力
「ヴェルウェナ、周りの雑魚は任せる」
霧雨を解放、早霧と村雨に。早霧を百鬼の一体に投げ、宿る神格を憑依させ、周囲の掃討を命じる。
「番犬共、周囲の敵を狙え」
更に眷属も周囲の掃討に加える。
「アトラルカ、MPと血を優先。HPは優先度低めで」
「承る」
「テンライ、第六位階・雷獣」
王級の雷精霊イドラ・テンライの第六位階魔法「雷獣」
術者からの魔力の供給が途切れない限り、不滅の獣。
その身に物理攻撃は効かない。下手に金属や水系統で攻撃しようものなら、感電して何も出来ずに死ぬだろう。
弱点として、土系統の魔法やディスペルや魔力吸収系が存在するが、術者がレオンの時点で弱点にはなり得ない
周囲のモンスターが思ったより堅く、リスポーンが早いため、そちらに追加で増援を送る。
「厄介」
呟きながらも、白狼とジャックの攻撃を受け続ける。
クリーンヒットはないが、本当に僅かにHPが減っている。
しかし、自身の自動回復やアトラルカの能力で問題なく回復しきれている。
ジャックはヒットアンドアウェイを徹底する。
前衛を白狼に任せ、自身は背後や頭上等、レオンの死角を的確に探り攻撃を仕掛けてくる。
ジャックの対応をしようとすれば、白狼が肉薄してくるため、下手に意識を分散出来ない。
故に、感知範囲を極端に狭め、ギリギリで回避出来る範囲まで、ジャックを無視することで対応している。
壊れた壁の瓦礫をジャックが飛ばしてくる。
それに紛れて接近してくるつもりなのは分かる。
狙いが通じたのか、白狼は瓦礫が当たるのを厭わず接近。
三つ、いや四つに対応しなければならない状況にレオンの動きが止まる。
一瞬で再起動。
一番最初に飛んできた噛み付こうとする白狼の下顎を蹴りあげ、先頭の瓦礫を振り向きながら破壊。
すぐさま瓦礫に向かって飛び込む。姿勢は低く、地面を這うように、瓦礫を避ける。
回避したあとは、その場で起き上がらず咄嗟に横へ飛ぶ。
その勢いで身体を起こし、敵を視界に収める。
体重を乗せるように左脚を振り下ろしていた白狼が、脚を捻り体の向きを変え、こちらに突進してくる。
口を開いたのを見て、噛み付きだと思い迎撃しようとして、思い出したように咄嗟に飛び退く。
後ろから飛んできていたナイフに足を少し切られたが、すぐに回復する。
「獣型特有の魔法だなそれ」
先程まで立っていた空間が歪んだように揺らめく。
「ガァ」
先程から聞こえていたが、白狼から漏れる呻き声。とても苦しそうに感じる。ただの疲労じゃない。何かを押さえ込んでそれで消耗している?いや、それに耐えているから普通に声が出ない?
それにしても
「お前、マジで厄介だな?」
飛んできたものを、避けるでも受け止めるでもなく、投げてきたであろうジャックに返す。
投げた位置から動いていなかったのだろう。返されたナイフをキャッチし、構え直していた。
「厄介なのはそっちもだろう。しっかり反撃してきやがってよ。おかげで迂闊に近付けない」
真瞳ですら位置が把握出来ないとなると、ジャックは何かしらの特殊スキル持ちだろう。しかも常時発動型。任意でオンオフの切り替えも出来るような感じか?
「なぁ、ジャック。お前はなんで大罪と厄災に選ばれた」
「あ?」
「ただの興味本位だ」
大罪に選ばれたということは、恐らく何かのために力を願い、それが罪になったのだろう。
二つ名を見るに、人殺し、復讐辺りではなかろうか。いや、見境なしの可能性もゼロではないが
「最初はただの喧嘩だった。それがいつの間にか浮気だのなんだと大きくなってな。うざくなって殺した。先に裏切ったのは向こうだ。ただ、復讐したくとも力が足りなかった。だから願った。復讐する力を、あいつを俺だけのモノにするための力を」
「……愛した女が他の男といるのが気に食わなかったのか?」
「何を当たり前のことを?こんなに俺が愛していたのに……あいつは他の男と楽しげに話していた。それが許せなかった」
痴情のもつれだったか?つまりはそういう事?
「それにしても、何故厄災になんかなってんだよ」
「それはな、楽しかったんだよ」
「……快楽か」
「あ?あーいいなその表現。そうだよ気持ちよかったのさ。今思い出してもゾクゾクする。あの縋るような表情。あの締まり。本当に最高の瞬間だった」
「…それで何人ヤった」
「数えてないね。何しろ今も続けてるんだからよぉ!」
言葉が終わると同時の踏み込み。相手のリーチは短剣、ナイフだ。余裕を持って回避出来
「避けるだろ?だから置いておいた」
瞬間的な魔力の膨張。それが地雷であると理解し、離れない左脚を切り落とし、風魔法で無理矢理離脱。それを見越していた白狼の爪を受けきれず、壁に叩き付けられる。
「ガァッ」
あまりの衝撃に、灰の中の空気が押し出される。
「喰らえ暴食」
追い討ちに飛んできたナイフと白狼の魔法。その気配を感じ、レオンはなにかに引っ張られるようにして、そのワードを口にした。
すると、レオンを中心に強力な力場が発生。レオンの眷属や周囲のモンスター、雷獣や百鬼、敵の攻撃全てがレオンに吸い込まれるようにして消滅。
「暴食の力」
全てを喰らうその力によって、レオンに莫大なエネルギーが集中。その量に、レオンの身体が耐えきれない。
「ぐッ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
それを無理矢理抑え込むために、魔力を叫びと共に放出する。
その叫びは、迷宮を揺らし、レオンの周囲の壁全てを破壊した。
「勝手に 出てきてんじゃねぇよ!使ってやる から 引っ込んでろ!」
苦しそうに放つ言葉は誰に向けてか。
しかし、暴食の能力が止まり、レオンの魔力放出も止まった。
「お前ら使い勝手悪すぎんだよ……。わかってるよ。この相手に使えって言ってんだろ。いいぜ、使ってやる。だから大人しく俺に従え!」
ワールドアナウンス
大罪スキル
暴食、憤怒、傲慢、強欲が宿主にプレイヤーレオンを認定
以後、プレイヤーレオンは大罪プレイヤーとしても扱われます
なお、大罪プレイヤーとは、罪を犯したのではなく、大罪スキルに選ばれたプレイヤーのことを指します。PKプレイヤーと違い、主なデメリットはありません
「お前を殺し、お前を救う。俺は、欲張りだからな」
神代…神の権能を一部行使するそのスキルを起動する。
「その力俺が貰う!」
目の色を変えたように接近戦を挑み始めたジャック。それを受け流し、弾き、反撃する。
白狼の攻撃も同じように防ぎ、時には同士討ちを狙って誘導する。
「雷公脈動」
そろそろ攻勢に出ようと、ギアを一つあげる。
「…そんだけの力があったら、彼女は俺だけを見ていてくれたのかもしれないなァ…ァァ妬ましい。その力貰うぞ」
踏み込むその足から力が抜けた。
「は?」
見れば、全身を覆っていた雷の魔力が消えている。確認すれば、ステータス欄から魔法関連のスキル賢神が消えている。
「いいスキル持ってるなぁ。それ」
なんとなしに向けられた指先。経験による感が警笛を鳴らし、その場から大きく距離を取ろうとして、間に合わない。
「爆雷って言うの?いいオリジナルじゃないか」
HPが半分も削られている。それに、MPがごっそり減っている。
「大罪スキル嫉妬。所有者が妬み欲した力を奪う力だ。俺を倒せばもちろん元に戻るがな?お前の戦い方を支える魔法がなくなって、俺を殺すことはできるのかな?」
「……」
自然と早くなる鼓動を抑え込むように息を整える。
その間も変わらず攻撃を仕掛けてくる白狼は、血刀を増やして強引に足止めする。
「一瞬でも動揺したのが情けねぇ。魔法ぐらいなくてもなんとかできるだろうが。俺にはそれ以外に頼れる経験があるだろ」
インベントリから、受け取っていたポーションを取り出し飲み干す。
「月影、響振」
装備を月影に変更し、地面を殴った時の振動、その響きに乗るようにして白狼に肉薄する。
「かなり痛いぞ。我慢しろよ」
月影の変形機構を解放。第二機構を解放。
始祖化の副効果である武器庫より狼爪・呪刻を呼び出し、月影に装填する。
「ぶちかませ!大物殺し!」
ゼロ距離。打ち込まれた杭は次の瞬間には消えてなくなる。代わりに、白狼を縛るように魔力が発生。その魔力の発生源は白狼の心臓。
「悪いがお前の魔法を封じさせてもらった。流石に俺の魔法無しに、二人の魔法を捌くのは無理だからな」
白狼が魔法を発動しようとして、失敗しているのが確認できる。
「…処理の邪魔だな」
余計な情報を排除するために血刀を解除。周囲の打ち漏らしが出てくるが、物理攻撃のみなら対処可能だ。
「機雷、爆雷、雷鳴、稲妻」
レオンを接近させない為だろう。機雷で戦場を罠だらけにし、爆雷でそれを無理矢理起動。雷鳴で視覚と聴覚を封じ、稲妻で認識できない攻撃を与え動きを封じる。
「開眼・箱庭の瞳、一心同体・刀」
視覚と聴覚が封じられていても、その感知範囲は封じられていない。ならば、感知して対応することも可能。
「心月、極至」
空間に斬撃を刻みつける。空間に歪みが生じ、レオンに命中するはずの稲妻は軌道を変え、機雷や爆雷の爆発に巻き込まれて消える。
「出鱈目な力ですね。奪うのを間違えたか」
術者は影響を受けないことを利用して、懐まで接近していたか。
感知できている
「双伐」
首を落とす為、刀を交差させるように振るう。
しかし、ジャックもしっかり反応する。
「風域」
突如吹き付ける強風に、バランスを崩しそうになり、体勢を維持する為に攻撃を中断。
「暴食!周りの敵を喰らい尽くせ!」
先程からジャックが魔法を使う度に、レオンのMPが減少している。それも、アトラルカの循環を上回るペースで。HPも徐々にだが削られている。その状況を良しとしない。
暴食の力が周囲のモンスターを喰らい始める。
影のような何かがモンスターを喰らう度にレオンのHPとMPが回復する。
「もっと寄越せ!」
それに呼応するように、回復量が増加する。強欲による欲したものを手に入れる力。
「噴火、噴煙、爆雷、疾風迅雷」
マグマや灰が降り注ぎ、そこかしこを爆破する雷の魔力。それに紛れて接近してくるジャック。
「瞬攻、雷砲」
そこで思い出す。今魔法が使えないということを
「しくった」
咄嗟に進路上に刀を置くことで、ジャックの攻撃を最小限で抑えることが出来た。
しかし、
「…そらそうだよな」
吸血鬼の力でもすぐに分解できない毒。身体の力が更に抜けていく。視界がボヤける。耳も変な音を拾っているのか、周囲の音が聞こえない。
毒の効力が弱まるのを感じる。それでも、万全には程遠い。
「風斬り」
ヒュー と風が頬を撫でる。
そして、全身にできる何かで切られた無数の傷跡。
風斬り…吹き抜けた風に触れた箇所に切り傷をつける。裂傷、出血が続く状態異常を与える技だ
「なんて 厄介な」
血が失われるのは問題ない。アトラルカと吸血鬼の力で直ぐに生成されているから。しかし、HPの減りが増えている。
白狼からの攻撃が途絶えているから何とかなっている。
というより、ジャックが見境無しに魔法を使うので、モンスターも白狼も近付けない。
「やばいな。近くに来てる」
簡易表示にしたマップに、近くまでミオ達が来てるのが見える。
壁を壊して広げたとはいえ、プレイヤー全員が参戦しても、ろくに戦えない。
「…ここは俺が引き受けて、先に行かせる。その方法を」
思考を邪魔するように、アローやボール等の比較的狭い範囲を攻撃する魔法が飛んでくる。
周りと強調するような動きに変えてきた。
モンスター達は白狼やジャックを狙わない。迷宮という場所の侵入者だと言うのに。いや、モンスターと同じ括りだからか
毒の効果が抜けきらない。そんな状況で動けば、レオンと言えども脚をもつれさせ、転んでしまう。
そこへ好機と見た白狼やモンスター、ジャックの魔法も襲い掛かる。
丁寧に逃げ道を潰しながら
それを、眺めることしか出来ないレオンの目の前に、見覚えのあるスライムが飛んできた。
それは即座に身体を大きくし、レオンを包み込むように守る。
更に、自身の使役獣達が周囲のモンスターを倒しているのが見える。
そして、援軍はそれだけではなかった。
「重ね連矢」
ジャックの背中、その同じ箇所に矢が2本刺さる。
流石に意表を付かれたその攻撃に、攻撃の手を止めて。周囲を警戒し始める。
背後からの攻撃。いつの間に抜けられたのかと驚いているが、恐らくその攻撃は
「援護、いる?」
声を掛け、レオンの横に立つのは、ジャックの背中に攻撃を命中させた張本人のミオ。
トニーはミオが来たからなのか、レオンから離れて周囲の殲滅に加わっている
一体どういう原理か知らないが、正面からでも、敵の背後に攻撃を当てる何かを手に入れたらしい。
そして、ミオがここにいるということは
「アナウンスがあったからわかっていたが」
「お兄、無理しすぎ」
レオンの後ろにはカクラとマイ。更に後ろからは他のプレイヤー達が向かってくるのが見えた。




