第6話 前哨戦と力の一端
ニノ門:ルビア魚座
「私のところは当たりはなしですか」
虚空から出現した砲で14人を瞬殺したルビアは、そのまま門を破壊し脱出する。
「飛び散った血は回収したから、後で玲音様に献上しなくては」
甲板に戻ってきたルビアは周囲を見渡す。
「クレハ早かったですね」
「あぁルビア。まぁそこまで強かった訳では無いですし」
「そういえば、残っていたのはどうしたんですか?」
周囲を見渡した時に、見つけられなかった居残り組の敵。
「それが、私も知らないんです。私が来た時にはもう居なくて」
まぁ、大丈夫だろうと結論付け、2人は他の面々を待つ。
三ノ門:ウルス牡牛座
「鈴木!合わせろ!蓮薙フレン!」
「欲罪フレン!」
「「合技タロウスの爪!」」
『蓮薙フレン』の斬撃が『欲罪フレン』に吸収され、フレンの刀身が怪物の爪のように変化。それを振り下ろす。
「受け流せラーナ」
ウルスは神器『ラーナ』に命を下す。
命を受けたラーナはウルスの手より離れ、振り下ろされる『タロウスの爪』に刃を立て迎え撃つ。
衝突。『ラーナ』は勢いをそのままに回転。『タロウスの爪』の真上に位置取り、勢いを殺さずその刃を叩きつける。
その行動により、技は本来の方向とは別の方向にズレ、ウルスは動くことなく凌ぐ。
「弧戟!」
「穿戟!」
武器を持たない丸腰のウルス目掛けて、左右から戟が迫る。
迫る2本を屈んで躱し、後ろへ1歩飛び退く。
ドゴッ
数瞬前までウルスの立っていた場所に、上空から戟が突き刺さる。
「ラーナ」
ウルスの呼び掛けに応じて、『ラーナ』がウルスの手に現れる。そして、『ラーナ』で背後を横殴りにする。
ガンッ
鈍い音を響かせながら、『ラーナ』が何かに阻まれる。
「気付かれましたか」
先程の『ラーナ』のように、拮抗させていた力を抜き、勢いを殺さず後退する。
「青龍偃月刀というのだろう?それなのに名前は戟なのか?」
「うるさい。一応は戟の部類ではあるのだ。それに見た目は青龍偃月刀だ。他の名前に合わせるためこうしてる」
冠羽が持つ神器。見た目は青龍偃月刀そのものだが、名前は弧戟。
そして、托童が持つ神器、穿戟。通常の戟を穿く事に特化させた武器。
呂布の持つ神器、神戟・極。方天戟を単純に一回り大きく、そして鋭くしたもの。
欲罪と蓮薙フレンは、本来1つの神器。
片刃の剣が2つに分かれた状態。神器の真名を蓮罪欲・薙。
ラーナの横薙ぎを受けたのが刻宝ユリアンズ。普通の直剣。折れることの無い不壊の剣。しかし、本来の力は空間に斬撃を刻み込む。
「そろそろ、他も終わる頃だろう。だから俺も終わらせるか」
「防戦一方の貴様に何が出来る!」
「なるほど。他もってのは、他も負ける頃ってことか」
「なんだわかってんじゃねぇか」
ウルスの発言が余程おかしかったのか、全員が腹を抱えながら笑う。
「幸せな思考回路だな。まぁそれでいいなら好きにしろ」
神斧ラーナを宙に投げる。
「反転」
『ラーナ』が光に包まれ、辺り一帯を照らす。
「制限解放。神器再顕現。死神斧ラヴェリナ」
死を齎す神の斧ラヴェリナ。ラーナの正体は神そのものだ。神を卸した武器。本当の意味での神器。
以前、神器の説明をしたが改めよう。
殆どの武器が人器、想いを焼べた武器を人想器、神を卸した武器を神器。
「所詮は神からの贈り物に過ぎぬ。誠の神器の一撃を持って手向けとしよう」
『ラヴェリナ』を手に跳び上がる。
敵の頭上、ではなくとにかく上に跳ぶ。
上空で静止。溜めること一瞬。
空中を蹴るように落下。
「烙陽」
『ラヴェリナ』が燦然と輝き、熱を帯びる。
その熱は、ウルス自身をも焼き、地表を灼熱で包み込む。
「須崎健嗣、鈴木・G・フレン、冠羽、托童、呂布、アージェス。神の威光を知るがいい」
太陽を思わせる熱量が地面に迫る。
「神器顕現!赤兎馬!」
呂布が自身のもう1つの神器を呼び出し、ウルスに迫る。
「逝くぞ!神を穿て!神戟!」
『烙陽』が地面にぶつかり、その空間を焼いた瞬間、呂布の神を殺せる一撃がウルスの左腕を消し飛ばす。
「見事」
烙陽で最も被害の少ないウルスの近くにいた呂布は、称賛と共に送られた一撃でその命を散らす。
「やはり、この力は使わない方が良さそうだな。しかし、あの男。人想器でありながら、あのレベルに辿り着くか」
『烙陽』の余波で扉が壊れた為、急いで脱出する。この戦いで、生き残った内1番の怪我を負いながら。
四ノ門:アリア双子座
「あ、あの、これ以上来ないことをオススメします」
アリアは怯えたように、縮こまりながらそう言う。
それを見て、自分達に怯えていると勘違いした頭お花畑達は、神器を呼び出しながら1歩踏み出した。
神器を呼び出しながら踏み出してしまった。
神器をしっかりと呼び出し、手にした状態で彼等は1歩踏み出すべきだった。そうすれば不測の事態にも多少は対応出来たかもしれないのだから。
「エルフは狩猟の一族です。隠密や暗殺に罠。なんでもやります。相手が格上だろうと格下だろうと」
踏み込んだ14人の首が綺麗に胴体と別れる。
「今回のは糸です。魔力で編んだ剛糸。束ねれば、人想器位は弾けます」
彼等はそんな呟きを聞きながら、自分の身体を眺めながら、意識を永遠に閉ざす。
「一応、警告は、しました。踏み込んだのは、そちら、なので、しりま、せん。」
先程までの流暢な喋りから、途切れ途切れの喋り方に戻る。
そうして、扉を破壊し、同じように脱出する。
しっかりと、玲音への血を回収しながら
五ノ門:尚也獅子座
「先日ぶりかな。師匠」
「黙れ。日本に仇なすお前は弟子でもなんでもない」
「まぁそうだろうね。そう言うよね。でも僕は、貴方の弟子で良かったと思ってる」
静かに拳を握り、脱力したまま構える。
「フッ!」
先に動いたのは師匠。
僕と同じで徒手空拳。しかも、僕の使う技術は全てが教わったもの。
師匠で戦歴の長い方が練度も制度も上。
「シッ!」
その拳を紙一重で避け、左肩に狙いを定めカウンター。
「!?」
意外な箇所を狙われ、一瞬対処に遅れ動き出す。そこを見逃さず、反対の拳で鳩尾を突く。
咄嗟に後ろへと跳んだことで、ダメージの軽減を行ったようだが。
「自分の技術が敵になると、こうまで厄介とはな」
ダメージがなかったかのように構え直す。
「やっぱり人間じゃないでしょ」
「お前と違って俺はれっきとした人間だ」
その返しに、何故か笑みが零れる。
「何を笑っている」
当然不審がられるよね。でも仕方ない。
「師匠が人間の中で最高峰の実力者だってしれて誇らしく、そしてワクワクするから!」
笑みを深め、その瞳に燃えるような闘志を宿し、尚也は飛び込む。
「この戦闘狂が」
そう言いながら迎え撃つ師匠の顔も笑みで溢れている。
「神器招来建御雷!」
「神器顕現レ・イグル!」
神器同士の衝突。
師匠の神器は何度か見てきたけど、やっぱり本物だ。人器や人想器なんかとは違う。神を卸した武器。
本来、徒手空拳同士の戦いだと、蹴り技なんかも使うけど、下手な攻撃は隙を産むだけ。それに、神器に生身を弾かれたらどうなるか。
少しだけ意識を戦闘の外に向けた瞬間、
「せあっ!」
利き足を軸にこちらを回り込むように躱し、後ろからガラ空きの背中目掛けて3連打。
それを無理やり回転し、『レ・イグル』で受ける。
体勢が崩れたそこへ、師匠の上段回し蹴り。
回避も防御も出来ない完璧なタイミングに、鳩尾を捉えられ、吹っ飛ばされる。
「グッ」
あまりの衝撃に一瞬呼吸が詰まる。
近接格闘時、呼吸が乱れ、動きが一瞬遅れることは最悪命取りになる。
「どうした!その程度か!?」
地面を這うような姿勢から、足払い、バランスを崩したところに掌底。宙に浮いた胴体にムーンサルト。着地したところに先回りし、背中に手を当て、踏み込みインパクト。
「ガフッ」
血を吐きながら倒れ込む。
「ちっ、所詮はこの程度か」
師匠は吐き捨てるように口にし、右手に力を集約させる。
僕はフラフラと立ち上がる。
「まぁ師匠より技術では劣っているかもしれない。免許皆伝は貰えないかもしれない。でも、この一撃は師匠に贈る」
死にはしないまでも、この一撃で決着になる。師匠にまともな攻撃を当てていないけど、
「行きます!」
覚悟を決めろ。闘志を燃やせ。己の全てをこの人に!
「神器解放!獣神レ・イグル!」
手首辺りから焔が肩までを覆い、紅色の鎧が生まれる。
「神獣解放!レ・イグル」
再び焔が立ち上がりその身を覆う。
「形は無いけど、これが獣神籠レ・イグルの真の力だ」
背後に虎と鳥と亀と竜の虚像を背負いながら仁王立ち。
「神器解放!剣神、軍神、雷神」
師匠の背後に雷雲を背負う人の像が浮かぶ。
決着だ
「擬似神格四神・朱雀!白虎!」
背後の虎が両の拳に、鳥が背中へと憑依する。
「白虎抜拳焔雀!」
「神拳武甕槌命!」
正しく全身全霊の一撃。
構えは無く、ただ拳を眼前の敵へと向け振るうだけ。
白い焔と黒き雷。有り得ざる現象2つ。
世界を白と黒に染め上げ、相手を殺そうとその猛威を振るう。
徐々に焔が雷を飲み込み、世界を白く染めあげる。
白い焔が沈まり、世界に色が戻ると焼け焦がれた師匠が仁王立ちのまま死んでいた。
死んでなお、その体からは雷が迸り、先と同じ闘志を漲らせる。
「ありがとうございました」
一礼。門を壊そうと、拳を構え、
「ッ!」
背後の気配に咄嗟に振り返る。
そこに居たのは
「我は建御雷。この男の神器なり。」
「神器が人格を?」
「否、人格ではなく元から持つ意識也」
「じゃあ神様がなんの用?」
「この男の遺言だ。貴様に力を貸そう」
「は?」
何を言っているんだ?遺言?力を貸す?
「意味が分からないんだが」
「神器は他の神器を吸収し、強くなる。それを話したところ、この男は貴様に負けたら、協力するように言ってきた。だから力を貸す」
「師匠」
昔から口下手で、物を正直に言えない人だったのは知ってた。だから、多くの事は拳で身体で教わった。
「汝の神器を」
僕は建御雷の言う通り神器を差し出す。
「レ・イグルよ我を使え」
途端、雷と焔が吹き上がり、世界を再び染めあげる。
焔と雷が収まるといつもと変わらぬ神器がそこに。
「試しに扉を破壊しようか」
拳を握り、引き絞り、扉に向けて放つ。
結果、扉は簡単に崩れ、想像以上の威力に、放った本人ですら揺れで尻餅を着くほど。
そして、その衝撃は扉の外にいる面々にも伝わり、聖艘ノアを揺らした。
呆然としていた尚也は、世界が収縮していくのを感じて、大慌てで脱出する。
直也が脱出すると、甲板の上には玲音を除く全員が集まっていた。
「あ、尚也君帰ってきたよ」
いち早く尚也に気付いた澪の言葉で全員の視線が集中する。
そのうち、ルビアと舞の視線が鋭い。
一瞬たじろぐも、平然と皆に合流する。
そこからは、全員で敵の情報共有と状況確認。
甲板上に残っていたはずの奴の行方、そして周囲を取り囲む敵機。
「とりあえず、玲音と」
合流しようと提案する前に、爆発音が響いてそれを遮る。
「どこから!?」
「上見て!艦橋!」
上を見れば、艦橋部分から黒い煙が上がっていた。
そして、その煙を突き破るように、5人が甲板に降り立つ。
「任務完了だ!退くぞ!」
隊長格らしき人物が指示をだすが、そうはさせない。
「お前ら!艦橋で何をした!」
神器でもって攻撃を仕掛けながら、尚也は敵の目的を聞き出そうとする。
「目的?そんなのあいつを殺すことに決まってんだろ!」
あっさり白状した敵は、尚也の拳を弾きノアから飛び降りようとした。
したところで急に動きを止めたのだ。不思議に思って深追いはしなかった尚也。そして、敵の視線を辿る。
そこには空中に磔にされた4人。先程飛び出してきた5人のうち先に飛び降りたはずの4人。
その現象を見て、尚也達は再び艦橋を見上げる。
「あーびっくりした。ホントびっくりした。んじゃ死ね」
そう言いながら、玲音が飛び降りてきて、空中を蹴り、残った敵に強襲、神器一閃。
驚愕と恐怖に支配され動けなかった敵は呆気なく首を斬られ、海へ落ちていく。それに合わせたように、磔になっていた4人も落ちていく。
玲音は、彼等と共に落ちていく血を、能力を用いた氷の器で回収し、血を啜る。
そして、ふぅ〜、と満足そうに息を吐いた。