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異世界戦争、界渡り〜渡る世界は馬鹿ばかり?〜  作者: 鯉狐
2章 異世界・代理戦争編(仮)
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第67話 過去の話 玲音と颯

このお話は、投稿主の気まぐれに出来た過去のお話です。


題名にある通り、今の章で出番の無いキャラと玲音の話です。


颯は、玲音達の故郷の星の留守番組の子です。



「玲音、出掛けるわよ」

「…かしこまりました。護衛の者を手配致します」

「必要無いわ。あなた一人で充分よ」

「私を信頼し過ぎです、お嬢様」

「そんなことないわ」

「…一応、報告だけはさせてください」


このお嬢様が我儘で頑固だと言うのは、よく知っている。


仕え始めて2年ともなれば、仕える相手のことも自然とわかるようになる。このお嬢様が何故出掛けたいのかも


「ということなので、お嬢様と出掛けることになりました」

「……もう少し強く止めないか?」

「それで止まるようなお方ですかね?」

「すまん」

「いえ、立場を考えれば言わざるを得ないのは理解していますので」


俺が話す相手は、この屋敷の執事長であり、お嬢様の護衛隊長のレックス。


「玲音、装備はなるべく持っていくようにしなさい。何があるか分かりませんからね」

「わかりました。セバスさん」


もう一人が、自分と同じお嬢様専属執事のセバスさん。屋敷統括の役割を息子に譲り、今は俺を育成しながら、若干問題児化しているお嬢様の面倒を見ている


「玲音!遅いわよ!急ぎなさい!」


少しゆっくりしすぎたか。お嬢様がお怒りだ


「行ってやれ」

「これを忘れずに」


レックス隊長に背中を押され、セバスさんからは小型の無線機を受け取る


「さぁ、行くわよ!」

「お供します」


お嬢様に手を引かれ、屋敷を飛び出す。


雪が降っていて、下手をすれば転びそうになるのだが……そんな心配は必要なさそうだ



向かうのは予想通り街の中心地。クリスマスということもあって、豪華に飾り付けられた通りと木々。

何かのイベントだろう。ステージが設けられ、その上でトーク番組の生配信がされているようだ。


いくつか出店も出ており、夏祭りと勘違いしそうな賑わいだ。服装は夏と完全に逆だが


「玲音、あれは焼きそば?の屋台よね!食べてみたいわ!」

「かしこまりました。それでは、あの列に並びましょう」


離れないように手を引く。


嬉しそうに笑うお嬢様に、俺も楽しくなってくる


昨年の夏の事件以降、お嬢様は俺に対して素で接するようになった。

その影響か、屋敷の誰にでも本当の自分で話せるようになった。


旦那様や奥様からは感謝されたが、少しだけこれまでの教育を後悔していた。厳しい教育の反動で今の性格になったと考えれば、まぁ分からないでもない


「玲音、いい匂いね!」

「はい」

「それより、そろそろいいんじゃない?」

「…そうだな。服装はあれだけど、気にしないようにするか」


先程の丁寧な口調から、友達と話すようなフランクな口調に変える。


「ねぇ、玲音。おすすめの屋台ってある?」

「んー、俺もこういった場所に来るの初めてだからな」

「そういえば、産まれてからは住居を転々として、物心ついた頃には家で過ごしてたものね」

「親の顔をちゃんと覚えられてないんですよね」


退魔師として活躍しているらしい両親は、色々な所から恨まれているらしく、自分の子供を巻き込む事を嫌った。自分たちのゴタゴタが落ち着くまでは、俺を知り合いに預ける事にした。一緒にいてやれないことを悔やんでいたと、ご当主さまが教えてくれた。


「お待たせしました。ご注文はって…九條様のとこの玲音じゃねぇか」

「ん?八百屋のおじさん?なんで焼きそばの屋台を?」

「そらおめぇ、うちの野菜がうめぇからよ」

「それなら野菜炒めとかあったじゃないですか」

「それじゃ祭りには寂しいだろう」

「そうかもしれませんけど」

「玲音、知り合いなの?」


屋台の親父さんと話していると、お嬢様に袖を引っ張られる


「あー、九條の屋敷で出している野菜を卸してくれる八百屋の店主だよ。店まで取りに行ってるから、颯は会ったことないな」

「そうなのね。いつも美味しい野菜をありがとうございます」

「いえいえ。……玲音、もしかして?」

「ま、想像通りだろうな」

「いいのか?連れ出して」

「一応許可もらってるし、携帯してるし。あ、焼きそば一つ、それと多めで頼む」

「あいよ。少々お待ちを」


話を終わらせ、注文を済ませる。そこへ少しの暗号を交ぜる。


「注文通り多めにしといたぜ。常連ってことでおまけだ」

「助かるよ。こう見えて颯は沢山食べるからな」

「余計な事は言わなくていいのに」

「ハッハッハ!嬢ちゃんも今度店に顔出してくれよな」

「えぇ機会があれば」


注文の品を受け取り、気付かれないように足早に離れていく。


気付いただけでも、既に近くに何人かいる。


「お嬢様すいません。少し油断したかもしれません。あちらの飲食スペースに移動してから、焼きそばを食べましょう」

「わかったわ」


話し方や呼び方を元に戻せば、すぐに察してくれる。流石のお嬢様。


「誘拐が目的でしょうから、狙撃手はいないと…言いきれませんが可能性は低いと思います」


人も多くいる中、一般人を巻き込んだ襲撃はないと思いたいが…こういった行動に出る輩は、やる時はやるだろう


「食べ終わりましたら、少し大変になると思いますが、お屋敷へ向かいます」

「わかったわ。それじゃ、いただきます」


席に着いて食べ始めたお嬢様の向かい側に座り、ネクタイを緩めるフリをして仕掛けておいた通信機にて、屋敷へ信号を送る。


「おやっさんからも行ってるだろうから、対応は早いだろうな」


そういった慢心があったと言えば、あった。



「お嬢様、申し訳ありません。残りは屋敷に戻ってからでお願いします」


一瞬の緩み、逃走経路を頭で確認している間に、周囲には襲撃者と思わしき人物が沢山。


「玲音、許可するわ」

「失礼します」


すぐに状況を理解したお嬢様は、抱き抱える許可を出す。

お嬢様は。焼きそばのパックを大事そうに抱えている。


「少し揺れますので、限界の場合は後方に向けてお願いします」

「そうね。貴方の服が汚れてしまうからね」


戯れを挟みつつ、お嬢様を抱え、すぐにその場を離れる。


何人か進路を塞ごうと動くが、そんなものは想定済み。その者を足場に跳び、建物を駆け上がる。


人の目もあるが、そこは気にしない。何せ、九條の家に仕える者は常識に囚われない、と認識されているから。


建物と建物を交互に足場に、屋上まで駆け上がる。


「普段の訓練が役に立ちましたね。県外の人は驚いてそうですが、地域の人は流石。慣れてますね」

「普段からこういうことしてるの?」

「えぇ、まぁ。セバスさんの訓練メニューですから」


そのまま屋上を跳ねて隣の建物に移る


そして、もう一度前に飛び出そうとした身体を強引に後ろへ


すると、少し先を横切る弾丸。


「逃走することを読んで、狙撃手をちゃんと配置していましたか。それも、1人だけじゃなさそうですね。というかこれ、割と人数いますね」

「大丈夫なの?」

「えぇ平気ですよ。ただすいません。ちょっと無茶します」

「死なない程度にね」

「かしこまりました」


進路を屋敷方面から、屋敷裏手の山にずらす。


「…お嬢様、連絡がありました。上手く立ち回る必要があるので、私の胸元に入っている玉を取り出して頂けますか?」


胸元に入っている通信機から伝わる振動で状況を大雑把に把握する


「…この白いヤツ?」

「ありがとうございます。合図を出しますので、地面に思い切り投げてください」

「屋上だけどいいの?」

「構いません」


こちらの動きを封じようと続く狙撃を回避しながら、タイミングを図る。


いい感じに追っ手も増えてきた。後方に2人、下方に4人、狙撃手は恐らく3人、こちらの逃走経路を潰すのに25人、お嬢様を確保した後の逃走用車に3人


「玲音、通信機鳴ってるわ」

「なんて言ってるか聞こえますか?」

「邪魔が入った?1人で殲滅を?かしら」

「…かしこまりました。お嬢様、2回跳んだ後に着地と同時にお願いします」


そう言った直後、お嬢様は玉を足元に投げつける。

2回跳んだ後なのだから、喋っている間に跳んだ回数もカウントされる。

それをわかってくれるのは、このお嬢様だけだろう。


一瞬で広がる煙。それに紛れながら、動きを止めて、お嬢様を降ろす。


「えっと、これとこれとこれ。お嬢様はこちらを」

「あら?本気ね」

「まぁ、ざっと30人近くいるんで」


どこに隠していたのか不思議になる程の装備を取り出し、身につけていく。

お嬢様にも護身用のナイフと拳銃、目眩しのフラッシュグレネード、音と衝撃で動きを止めるスタングレネード、ピンを外して衝撃を与えると爆発するインパクトグレネードを渡す


「予備弾倉は?」

「4つです。相手も防弾装備でしょうから、あくまで足止め用です」

「そうだ、アレ持ってきてる?私の」

「アレですか?ありますよ。ベルトもこちらに」

「さすがね」


4つ折りにされた金属の棒とそれを固定するベルトを、お嬢様の太腿に取り付ける。


「それにしても、この時期によくスカートなんて履きますね。寒くなかったですか?」

「多少は寒いけど、お洒落の方が大事だもの」

「女性は大変ですね」


会話をしながら、煙玉を追加し準備を進める。

相手も下手に煙の中に来ないようだ。助かるが、取り囲まれるのは嫌なので、そろそろ移動する。


「では、もう一度失礼します」

「えぇ」


先程のようにお姫様抱っこの容量で抱き抱え、下に落ちるように飛び出す。


「せーの!」


タイミングを見計らい、建物の壁を蹴り、再度屋上へ。

追うために下へ降りようとしていた追っ手は、急な動きに咄嗟に対応できず、また距離が開く。



5分としないうちに、目的の場所まで移動することが出来た。


「んー来るの予想されてましたね。何人か隠れてます。でも、3人程度ですので、先に行ってください。残りは止めますので」

「…死ぬことは許さないわよ」

「かしこまりました」


お嬢様を降ろして、周囲の状況を伝え、先に行かせる。例えプロが相手でも、お嬢様なら5人までは平気だ。


「アレも持たせたし、あの服だと多分隠し持ってそうだな」


お嬢様の得意な得物は槍と鞭。接近されると弱いが接近される前に倒せばいいのだから、問題は無いだろう。


「さぁ、いつでもどうぞ」


無言で飛びかかってきた刺客の顎を蹴り上げ、意識を刈り取る。


死角からの2人をチラリと確認し、2発で仕留める。


左手にナイフを持ち、すぐさま頭上に掲げ、奇襲してきた敵のナイフを防ぎ、体重が乗り切らないうちに位置をずらす。


ズレたとこを狙う相手の手を蹴り、武器を落とす。無防備になった懐に潜り込んで、背負い投げ。


一瞬、視界が悪くなるので、すぐさまその場から動く。1歩横に動くだけで、ナイフを躱し、反撃でナイフを振るう。


それを避けられるが、そんなことはわかっているので、2発で脚を狙い機動力を奪う。


後ろに跳躍するのにあわせて、投げた刺客にも2発で動きを封じる。


天井の釣り照明の金具を狙い、2発。落ちてきた証明を盾にリロードする。


投げた刺客が銃を取り出すのが見えたので、心臓と頭に1発。命を奪う。


左右から挟み込むように来たので、ナイフを手放しもう一丁を抜き、左右を仕留める。


飛び出してきていたので、慣性でこちらに倒れてくるが、1歩後ろに下がる。


もう一度左右からと、証明を足場に上からの三方向。


バク転の容量で上からの刺客を蹴り上げ、回転中に左右の2人を仕留める。着地の前に、蹴りあげた刺客にとどめを刺す。


着地したら、すぐさま空の弾倉を捨て、新しいのを装填。


後ろから掴みかかろうとしてきたのを、大きく跳ねて回避。そのまま勢いで掴みかかろうとした男の後ろを取って、持ち替えたナイフで首を掻っ切る。


チラリとアサルトライフルを構える男が見えたので、跳躍して物陰に隠れる。


隠れたはいいが、常に誰かが発砲しながらリロードの隙を潰して進んでくる。時期に隠れる意味が無くなるだろう。盾にしてる物も限界だろうし。


意識を研ぎ澄まし、ほんの僅かな隙間を狙い、動き出す。


銃口が進行方向に向けられるのを確認し、跳躍。

張っていたロープを掴み、ロープの戻る反動を利用し、スリングショットのように自身を打ち出す。


一直線で動く為、撃たれれば当たるだろう。


そこで、懐に仕込んでいたワイヤーガンを、敵の横にある柱に向けて撃ち、巻かれるワイヤーに引っ張られるように軌道を変更。


敵の頭上でワイヤーガンから手を離し、足蹴にしながら落下。


蹴ったあとソイツの顔面を踏み込みながら、前に転がる。


近接用の棒か?で、仲間の顔を殴ることに


「12か…」


お嬢様の方に3人、そっちは狙撃組と考えると、こっちの残りは凡そ18人


「弾が心許ないか?」


考えながらも、素早く物陰に隠れ、敵の銃口から逃れる。


「…1人厄介そうなのが居る…近くまで来てるな」


来られる前に他を仕留める!


残弾と予備弾倉のことも考えたのか、発砲が止む。その隙はあまりにも大きい。フラッシュバンを即座に投げ、目を閉ざしながら接近。


目は良いとして、自分の耳がバカになるのを感じる。

暫く聴力に期待できないが、そこは訓練されているので平気だ。


今、感じることの出来る全ての気配を仕留める頃、新しい気配が近くに来た。


「なんだよ。ガキ1人にいいようにされてんじゃねぇか」


多少マシにはなったが上手く聞き取れない


「聞いてねぇ、いや、聞こえてねぇな。さっきのグレネードか。ま、別に話すことは無いわな!」


膨れ上がる殺気。1歩下がるのと同時に、弾切れのデザートイーグル二丁を放り、盾の代わりにする。


「いい反応だ」


盾にしたデザートイーグル諸共、服が切り裂かれ、皮膚も少し切れたのか、シャツに赤い染みが出来る。


「接近戦は出来ねぇ、なんてこたぁねぇよな?」


再び振るわれる刃を、舌打ちしながらナイフで受け流す。


「はっ!」


しかし、途中でうまく搦められた。ナイフは弾かれ、右腕は勢いで大きく広げられた。


「そういうのやめろよ!セバスさんに再教育される!」


思わず声が出るが、内心は震えている。


こういった手合いの事も考え、武器を手放さない訓練も積んできた。こういった技への対応も訓練した。

なのに、この男はそれをいとも容易く打ち破ってきた。

どう考えても格上。それも経験豊富で、剣の扱いが達人級


「おっさん、ナニモンだよ」

「聞く意味あるかい?」

「ないかもね。まぁ、興味本位」

「そうかい?じゃあ、教えちゃおうか。おじさんに傷つけられたら」

「なんだ、そんなことでいいの?なら」


距離を空け、言葉を交わし終えるタイミングで、玲音が何かを引っ張った。


小規模な爆発と同時に飛来する鉄片や木片。更には釘や針。

廃工場にあるもので作った即席のトラップ。

それに紛れ、もう1つ仕込んで置く。


「いやいや、意味無い!?」


避けられるのはわかってる。

だから、被弾を無視して、その中を突っ切る。


僅かな硬直で構わない。ナイフを構え、接近する。


「足りないな」


そう。足りない。向こうは迎撃の姿勢を取っている。辿り着く頃には、向こうの攻撃が先に来る。


このナイフが普通なら


「!?」


男が驚いて顔を逸らす。命中しなかったが、傷をつけることには成功した


「バリスティックナイフか」

「1本しか無い切り札でした」

「そら、そんなもん手に入れるんは苦労したやろ」

「それはもう」


この武器はとある国の武器なのだが、現在その国が目立ち過ぎて困っている。

下手にその国の武器を使おうものなら、裏切り者と判断されかねない。


「それに、傷つけられたからな、約束や。俺の名前はオアニサマよ」

「は?」

「いや、オアニサマ」

「ふざけてる?」

「いや?こっちの世界じゃそう名乗ってる」

「マジかよ」


ふざけた名前してんのに、ふざけた強さなのが腹立つ


「まともな名前じゃなくて悪いと思うがね?仕事の邪魔なんだわ。早く追いかけたいんで、死ねや」


ゾッとする程の殺気。僅かに初動が遅れ、出遅れた右腕が斬られる。


上段からの振り下ろしで助かった。横薙ぎだったら、下手すりゃ片腕逝ってた


「安心すんなや」


今度は地面を這うような低さで、剣を振り上げる。


「はっや」


防刃加工の靴で受け止めようとするが、嫌な予感に直ぐに引っ込める。


その判断に救われ、爪先部分が斬られるだけで済んだ。


「クソが」


すぐさま姿勢を変え、背中に隠していた武器を腰に構える。


向かってくる相手に向かって、こちらから前進。


振るわれた剣を滑り込むようにして躱す。


飛び起きながら抜刀。柄で剣の腹を打ち、起動を逸らす。


体勢を整え、前に出る。


上段から振り下ろしてくるが、タイミングを合わせ、これまた柄で剣の腹を打つ。軌道が逸れて、また右腕を浅く斬られるが、カウンターで胸元をそれなりに斬った。


「その怪我でよく振れるな」


痩せ我慢。正直、あの男の速度に合わせて刀を振るのは、めちゃ辛い。手に柄を固定したいくらいだ。


「あんま使いたかねぇが」


ドン!という音と共に、腹の辺りが熱く痛く感じる。


「避けるのかよ」


避けはしたが、端の方が当たったか。ショットガン。ソードオフだったか?銃身や銃床を切り詰めたやつ。


普通に油断した。遠距離はないもんだと勝手に思い込んだ。…やべぇ、出血が酷いなこれは。

もう一発あることを考えると……いや、死ぬかもなこれ


「出血死でもいいが、死ぬならかっこよく死ねよ」


男はソードオフを捨て剣を構えた。


「おっさん、暗殺者とか向いてねぇわ」

「うるせぇ」


右手の震えが止まらない。利き手で振るえない以上、抜刀術は使い物にならない。


左手で刀を逆手に持つ


最後の抵抗ってやつだ


走り出す。身体が悲鳴をあげているが関係ない。死んでもいいから時間を稼ぐ。お嬢様が逃げる時間を


力が足りない。刀は受け流され、遠くへ弾かれる。

左腕は深く斬られた。腹の怪我と合わせて酷い出血。意識が朦朧としてくる。


「ガキにしてはよくやったな。小僧覚えといてやる。名前は」

「れ…お…ん」

「そうか。じゃあなレオン」


剣を突き立てようと振り上げた瞬間


「玲音!死んでいいとは言ってないわ!」


小さいが響く声


無意識の内に身体は動き、男は気付かなかった、近くにあった小太刀を咥え、刃を突き立てる。


「マジかよ」


男は驚きながらも、反応している。玲音の刃は男の身体を貫いている。

しかし、男の刃も玲音の身体を貫いている。


だが、男の剣は玲音の腕を、玲音の刃は男の胸を貫いている


「ガフッ…大の大人が嬢ちゃん1人に負けんのかよ」

「お さ ま」


玲音の意識が無くなるのを男は感じ取る。


力が抜けて倒れ込む玲音を見下ろし、近くの柱に身体を預ける。


先程の声が聞こえた方から、人の気配が向かってきている。


「ここまで逃げられた時点で負けだってのに、こんなん大敗じゃねぇか」


送り込まれた刺客はほとんどが返り討ち。3人は逃げれているだらう。しかし。せいぜい出来たことが、護衛一人の始末。

失敗以外の何物でもない


「雇い主がコイツのとこだったらな」


きっと楽しい生活が送れたんだろう


ズルズルと柱を背に座り込む。そして、


「なんで迎えに来んのかねぇ」


薄れゆく意識の中、見えたその姿に、小さな呟きを残して、その男は息を引き取った



「れおん!れおん!」

「お嬢、待てって!」

「放して!玲音が!れおんが!」


玲音が意識を失って5分程で、颯とセバスやレックス。他の護衛達が駆け付ける。


倒れている玲音を見つけ、その場で応急処置を施しているが、颯は取り乱して落ち着きがない。


「……至急、屋敷でオペの準備を!レックス、玲音を連れて、お嬢様と一緒に行きなさい。私は部下と共にここの片付けを」

「了解。オペは婆さん主体だな」

「えぇ。一刻も早く連れていきなさい」


颯お嬢様をレックスが抱え、玲音を担架に乗せ、複数人で運んでいく。



「セバス隊長、この男」


その背を見送っていると、部下の1人が呼びかけてくる


「なんですか?」

「いえ、それが、記憶が正しければこの男は」

「まさか、玲音がやったと?」

「恐らくですが。この小太刀は玲音の物ですから」


男の胸に突き刺さる小太刀


「相打ちか、はたまた生き残るか…」

「成長しましたね」

「えぇ」


教育を始めたばかりの頃の玲音を思い出し、口元が緩むセバスと部下


「さ、切り替えて片付けますよ。玲音が心配なのでね」

「そうですね」




「……」


カチッ、カチッ、カチッ


時計の針が進む音だけが響く部屋で、颯は玲音の無事を祈っていた。


それと同時に後悔も感じている


その内容に、誰もが気付いているが、声を掛ける勇気が足りない。



私が玲音を連れ出したから……私が、玲音1人で良いって、祭りに行きたいって言ったから……



「お嬢、泣くのを止めろとは言いません。だけど、目が覚めた玲音にあれこれ言われないように、顔を洗いましょう。大丈夫。玲音を信じましょう」


レックスが颯の肩を抱きながら部屋を出ていく。

後を追うように母親とメイドが数人着いていく。

恐らく途中で役割を交代して戻ってくるだろう。



1時間、2時間と時間が過ぎていく。


屋敷の誰も、食事が喉を通らない。

料理長も、仕事が手につかないと時間が掛かった。

当主である颯の父も、玲音のことが気になって仕事にならないと帰ってきた。



助からなかったのかもしれない


そんなことを思ったのは一人ではなかったはずだ。何せ、屋敷に連れてこられた玲音は、意識もなく、全身血だらけ。体温はどんどん下がっていた。


玲音が屋敷に連れてこられてから5時間。ようやく、手術室となっていた部屋から、メイド長のマリアが出てきた。


「マリア!玲音は!?れおんはどうなったの!」


縋り付くように叫ぶ颯を優しく抱き留めながら、マリアは告げた。


「危機は脱しました。毒物が使われていなかったのが幸いでした。毒物が使われていれば間に合いませんでしたし、もう少し対処が遅れていたら無理だったでしょう」


その報告に、その場にいた全員が胸を撫で下ろした。


玲音の同期であるメイド達はホッとしたのか、腰が抜けて立てなくなっている。

颯の父と母も、ソファーに深く座り込み、天井を仰いでいる。


「目覚めるのに時間は掛かると思いますが、もう大丈夫ですよ」


颯は、安心したのか、気を失うように倒れ込む。


緊張で疲れてしまったのだろう。母と父が連れ添って寝室へ向かう。


「早く目覚めてくれ玲音」



その願いが叶ったのは、4日後の昼だった。


「う…あ」


身体が重い。というか動かない。

瞼を開けることすら、思うようにいかない。


誰か居ないか、呼びかけたいが上手く声が出せない


「玲音!起きたの!?ちょっと待ってて」


誰かの声がした。なんだか懐かしい気がする声だった。



「玲音!」

「目が覚めたのか!?」

「玲音くん聞こえる?」


3人の声…颯お嬢様と旦那様に奥様の声だ


「あ…い」


はい、と言いたいのに、やはり上手く声が出ない


「無理しなくていいわ。少しずつリハビリしていきましょ」

「そうだな。無事に目が覚めてよかった」

「玲音ありがとう。本当にありがとう」


泣いている声だ。何時もみたいに頭を撫でてあげたいのに、身体が言うことを聞かない。旦那様と奥様にも返事がしたいのに、意識が重くなる。


スゥースゥー


「また、眠ったようだな」

「まだ身体が疲れているのね」

「ゆっくり休んでね玲音」


3人は、玲音の事をメイド達に任せて、今日の仕事に取り掛かる。


目が覚めたのだ。後はしっかり回復してからだ。


ここ数日の溜まっていた分を片付けないと、起きた玲音になんて言われるだろう。

セバスの教育で、日に日に逞しくなっていくのだ。セバスが二人いるようだと、屋敷では噂になっている。



玲音がしっかりと目を開けて、話せるようになったのはそれから1日。


まだ部屋から出ることは出来ないが、メイド達に支えられて、身体を動かし始めている。


お嬢様や旦那様、奥様から感謝されたり謝られたり。

セバスさんやレックスさんからは後処理の話を聞いたり。

少しずつ、玲音の生活が戻り始めていく



「玲音、私強くなるわ」

「はい」

「守られるだけは嫌なの。守られるなら、守ってくれた人の役に立ちたい」


お嬢様の言葉を静かに聞く


「貴方が私を守って傷付くのなら、私はそれを治すの。どう?悪くないでしょ?」

「悪くないですね」

「皆が私の為に頑張るなら、私は皆の為に頑張るわ」

「きっと、皆喜びますよ」

「それは玲音も?」

「それはもう」

「ふふ、なら私、凄く頑張るわ。応援してね?」

「はい」





「玲音、玲音。起きて。ここで寝たら風邪ひくよ?」

「んぁ?」


寝惚けた頭で周りを見渡す。


「あーそうか。寝落ちしたのか」


頭が冴えてくると同時に、昨晩のことを思い出す。


ゲームのスキルやアーツ、ステータスの整理をしていたら、いつの間にか寝ていたのか。


「それにしても懐かしい夢だな」


颯が小学4年生の時の記憶だ。俺は3年の夏の事件で学校をやめていたな。


「颯は上手くやってるかね?」




「颯、泣いていたのか?」

「まぁ。昔のことを夢に見まして」

「悲しい出来事があったのか」

「ん〜まぁ、玲音の事です。悲しかったけど、それのお陰で今に繋がっているので」

「そうか」

「心配をお掛けしました」

「いや、なに。リジェルが気にしていたのでな」

「あら、後でちゃんとお話しないとですね」

「あぁ、そうしてあげてくれ」


別の星にいる颯も同じ夢を見ていた。


「玲音に3度命を救われ、まだそれを返すことが出来ていない。いつか返せるといいのですけど」


彼女は気合いを入れ直し、今日の仕事に励む。

いつか玲音に頼られた時、役に立てるように

オアニサマは、国際指名手配されている男でした。

その剣術で生活していたこともありましたが、ある事件をきっかけに犯罪者に。それ以降、雇われ始末屋みたいな感じで仕事を受けていました。

今回の依頼は、九條颯の誘拐。多少の怪我は問題無いとされていました。


そして余談ですが、この事件以降、玲音の両親への刺客も減り、玲音との時間が取れるようになっていきました。

なお、この頃に神楽と舞を引き取っており、そちらの都合で一緒に住むことは出来なかったのです。

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