第63話 再びダイスロールそしてクリティカル
再び聞こえたサイコロの音。
そして表示されるダイス目。その数字は4
「ファンブルかクリティカルしかないのか?」
まだ2回しか振ってないとはいえ、こうも出目が極端になるだろうか。
そして、浮かび上がった4という数字から、這い出てくるのは、ショゴス
「あ?」
さっきの個体みたいに、こちらに声?をかける様子は無い
「なら、先手必勝だ」
雷が槍の形を維持したまま、レオンの周囲に浮かぶ
「追槍雷撃」
刀を構えると、それに連動して穂先を敵に向ける
「疾風迅雷、瞬攻、魔刃」
一瞬で接近、技の出だしを早め、刀身に魔力を行き渡らせ、雷の通りを強化する
敵を斬るのと同時、周囲の槍が四方から敵を貫く
追槍雷撃…その名の通り、自動追撃を行う雷の槍。攻撃力は使用者の魔法レベルで変化する。今のレオンであれば固定1000ダメだろう。雷公状態でなければ500ダメになる
出鱈目な追撃ダメだが、自動追撃の雷槍も防ぐことは可能だ。
その一振と雷槍の追撃によって、二体目のショゴスはあっという間に倒れてしまった。
「は?弱く…なんで?」
流石に戸惑うレオン。さっきと今の違いを考えるが、ファンブルとクリティカルの違い以外思いつかない
「……そもそも、TRPG内でのクリティカルってのは、技能にボーナスが掛かるもんだ。逆にファンブルは失敗、マイナスの何かを起こすことがある。それに照らし合わせるなら、攻撃のダメージボーナス?」
レオンの攻撃。達成値が知らないところで定められていたとして、96、ファンブルが出たとする。
攻撃は失敗扱いになり、場合によっては自傷ダメージや回避不可能になったりする。そうじゃない場合、どんな効果が付与される?
考えられるのは、普通に攻撃の失敗、ダメージ減少、敵の攻撃威力倍とかだろうか?
レオンは敵の攻撃を受けないように立ち回っていたので、敵にバフが掛かった場合は分からない。
次に攻撃の失敗、これはレオンの感じる手応え的に有り得ない。ちゃんと斬った時の感覚はあったし、失敗や無効になった場合のエフェクトもなかった。
最後にダメージ減少だが、これが一番可能性が高い。HPが確認できなかった為、これも確証は持てないが、攻略不可になるような効果より、攻略困難になるような効果にするだろう。普通は
この世界の倍率が不明だが、クリティカルで攻撃が増加して、ファンブルで攻撃が減少したならば、今とさっきの攻略時間の差も多少は説明できる。はずだ
「なんか考えてもわかんね。俺馬鹿なんかな」
答え合わせをするのであれば、このダンジョンにおいて攻撃の達成値は95。96~100はファンブル扱い。1~5はクリティカル扱い。
クリティカルの場合は、元の攻撃力×(出目×10)
ファンブルの場合は、元の攻撃力÷出目
それ以外の数字は等倍となる
ちなみに、クリティカルとファンブルの効果だが、これは固定ダメージにも影響する程強力なもの。つまり、追槍雷撃の固定ダメージも40000ダメになっていたのだ
「で、また扉かな?」
しかし扉は現れず、闇の世界に光が差し込むように一本の道ができる。
そして、ログには条件達成と案内に従い進んでください、という文字。
つまり、この道に沿って歩けということだ
「……レベルアップはしないけど、経験値ストックすっごい増えてる」
歩きながらステータスをチェックする。確認するのは、自分で見ないと分からない経験値ストックの数値。
元が16万程だったのだが、今の二体で20万に増えている。
「これ、上限解放したらどこまで上がるんだろ」
このゲーム、割とレベルアップが簡単なのだ。
聞いた話では、自分のクラン以外にも上限解放を目指すプレイヤーがちらほら出ているらしい。しかも、その解放条件にかなり違いがあるらしい。
ボスモンスターの討伐だったり、何レベ以上の敵を指定数討伐、一定値以上の武具や薬品を完成、プレイヤーを指定数倒す、etc.....
EXダンジョンを攻略なんて指定されてるのは、今日挑んでいる面子以外いなさそうだ
「景色が変わったな」
どれくらい歩いたか分からないが、そんな距離はないだろう。
見える景色が一変した。
先程までが闇一色なら、今は聖一色。白と言えばいいのだろうか?しかし、白にも複数あるらしいからなんとも言えない。
「しかし、この空間なんか既視感あるな」
草木や生き物、水の音すらしない空間。最近どこかで体験した記憶がある
「…ドワーフの国で受け取ったアレか」
2つの頂きに至ったあの空間。それと全く同じ
「ほう?珍しい挑戦者と思えば、先日我の領域に迷い込んだ稀人では無いか。それに、海龍のジジイに認められた戦闘狂か」
声がするのは頭上。しかし、影がない。いや、存在が光そのものなら影もクソもない?
「何を言っておる。この空間そのものが我じゃ」
景色がまたも一変する。色が凝縮されるように一箇所に集中している。それは海龍とは違った龍の姿に変化していく。
周りも、草木豊かで水もあり、生命に溢れた空間に様変わり。
視界には一際目立つ神殿。その前に鎮座する恐らく天龍
「その通り。我が天龍、太古の天龍。この世界の空そのもの。名をシズ、エンシェントレヴィアンのようなダサい名はない」
…シズ、恐らく元はジズか?確か旧約聖書でレヴィアタン、ベヒモスと並ぶ一体だったか?
でも、あれは間違いだったとか何とか…
「汝に問おう。ここに来た目的は?」
「……さらなる高みを目指すため」
「来るがいい。貴様の全てを出し尽くし、我に認めさせてみよ」
身体が浮く、地に足がつかない。シズに引っ張られるようにして上空へ
「おい、まじかよ」
辿り着いたのは成層圏と呼ばれる領域
「我が領域にて貴様を迎え撃つ」
膨大な魔力がシズに集まっているのが見て取れる。
魔力が可視化される程の密度。大規模な魔法が来る
「小手調べなんてしてる暇ないな!雷公鳴動、侵食、雷公脈動」
レオンの身体がまるで雷そのものになったように変化する。
「レヴァンティンと似たような感じだな」
呟くレオンの表情は苦悶に満ちている。肉体そのものの雷化。負荷は相当なものだろう
「雷電砲華!」
「魔天砲」
集められた魔力をただ解き放つだけの魔天砲
雷属性の魔力を爆発させる雷電砲華
一瞬の拮抗の後、大爆発を起こす
レオンはそれに紛れ気配を偽る
シズに向かう雷公の魔力。それに隠れるように、雷公を解除、吸血鬼の力を解放する
「始祖化、夜天朧月」
どのタイミングで強化されたか定かでは無いが、朧月夜が進化したスキルであることに違いは無い。
成層圏、そこから見える月が紅く染まり、靄がかかったように姿形が定まらない
「行くぞ、早霧、村雨」
合わせて霧雨の解放
「天叢雲剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉、力を貸せ」
さらに三種の神器を解放する
「アトラルカ、レベルチェンジャー30。STR.DEX.AGI」
「10倍だ」
レオンの指定したステータスが一気に膨れ上がる。そして、この成層圏というアトラルカ達の住まう領域に近付いたことで、使用可能となった精霊魔法を使用する
「アストラル」
アストラル…HPとMPを共有。アストラル値という特殊ステータスに変化。この状態では常にHP.MPが倍増し、周囲のマナを吸収変換し続ける。更に、魔法や精霊魔法によるロスは無くなる
MP.HP共有というのは、MPが無くなってもHPがあれば魔法が使え、逆にHPが無くなってもMPがあれば死ななくなる
「モード憤怒、命を吸え村雨」
ドクン、ドクン
レオンの心音が聞こえてくる
あまりにも負荷の大きな強化は、レオンの身体に牙を剥く。全身至る所から血が滲み出す
「……死にますよ」
「安心してください。死なないんで」
シズは、ここが別世界だとしても現実でも死ぬ可能性を示唆する。
しかし、レオンは死に戻りできるゲームだから死なないと、シズの言葉の意味をわかっていながら恍ける。
若干すれ違っているが、今回の場合はレオンの言っていることが正しい。何せ、この強化に着いて来れないのは、ゲーム内の身体であって現実はこれくらいなんともない
「血円武器庫」
始祖化状態になることでしか使用を許されていない強力な神器たち。
その性能は、この世界のバランスを崩壊させるのに十分な力を持つ
「魔装赤椿」
先日手に入れたスキルも使用。正真正銘、今のレオンにできる全力である
「疾風迅雷」
一瞬で接近した。と思ったが、レオンの身体はシズを通り過ぎてゆく
「なに?」
「天流」
こちらのつぶやきに対してシズは自ら説明した。
天流…この世界に存在する法則の力を強化するもの。流れるエネルギーや法則がその効力を増す
「慣性の法則が強化され、急制動が効かなくなってんのか?」
狙った位置にピッタリと止まるには、少し前に狙いをつける必要がある。しかし、これをすると無防備な瞬間ができてしまう
「面倒この上ないが」
ならばと戦闘スタイルを変更する。
壁を蹴るようにしてシズに接近。迫る攻撃は全て逸らし、避ける。
攻撃を避けられても、身を翻し、また壁を蹴るようにして攻撃に移る。
「ここではよく分からない法則も成り立ってる。なら、それを活かしてやればいい」
どうゆう理屈か、ここでは空中であっても地上と同じように踏み込むことが出来る。なら、自分がどんな体勢であっても、踏み込みができるということだ。
三次元機動も思いのままだ
「見事ですね。ここまでこの領域に適応するのは」
感心したように呟くシズ
「ですが、これはどうしようもないでしょう?」
言い終わると同時、レオンに降りかかる未だかつてないほどの重力
「ここにも重力は存在します。それを強化してあげれば、貴方は満足に動けなくなるでしょう?」
踏み出す一歩がとてつもなく重たい。刀を腕を持ち上げようにも、どれだけ力を入れても動かない
「海龍のジジイも落ちぶれましたね。この程度の者に負けるなんて」
あえて煽っているのだろう。そうだとわかっていても、なんかイラッとする
「命を喰らえ村雨」
本来口にしてはいけない禁句。
うちに眠る傲慢の力。それが、舐められたままを許さない。その力に突き動かされるまま、レオンは力を行使する。
村雨の力を全て解放するそのワードは、レオンの潜在能力を一時的に全て呼び覚ます
「喰らえ暴食」
領域に存在するシズの魔力、法則がプツリと途切れる
「は?その力、ちょまちなさ」
そして、その法則がシズに降りかかる
「その力は俺のものだ」
ひっそりステータスに表記されていた七罪スキル強欲。欲したものを自分の力にする。
「おまえ、そんなに体力多くなさそうだな。ま、死なないように気を付けろ」
流れ出ていたレオンの血がピタッと止まっている。それ以上に、レオンの身体から血の気が失われている
「苦しみ、嘆き、溺れろ」
「村雨抜刀・怨嗟骸」
ドロっとしたドス黒い闇がシズを飲み込む。
くぐもってよく聞こえないが、シズと思わしき叫びが聞こえる気がする
「雷公鳴動、雷帝抜刀轟くは願い」
ボロボロになった身体をさらに酷使する。
アトラルカが集中してHPにマナを循環したおかげで死ぬことは無かったが、一瞬だけHPが1になった
放たれた雷の斬撃は、隔離された成層圏という空間を天城の結界諸共斬り裂き、海中、レヴィアンの結海アトラントをも破壊する
シズのHPがゼロになった瞬間、シズを光が包み込み、HPが全回復するのが見えた。
「もう一度殺すか?」
抑揚のない声。目も黒く濁っている。そんなレオンがもう一度魔力を集めていると、ログに戦闘終了と表示され、シズの降参の声が聞こえた
「我の負けだ。それ以上肉体を酷使するな。それに世界が壊れてしまう」
その言葉で理性を取り戻したレオンは全ての能力を解除。倒れ込むようにして、行動を中止した
「だっるい」
「それはそうであろう。今の力は、その身体で出せていい出力じゃないであろう」
呻く様に呟くレオンに、苦虫を噛み潰したような表情で反応するシズ
「薄々感じてはいたが、お主人間やめてるな?あ、種族がどうのじゃないぞ。内に宿す力の事じゃ」
人じゃないが?って言おうとしたところを即座に潰される
「憤怒、暴食、強欲、傲慢。これだけの厄災スキルに破天の準厄災スキル。更には種族固有の禁呪…しかもお主、神の末端か?男で属性盛られても嬉しくないのぅ」
「……厄災スキルってなんだ」
「知らんで使っておったのか?いや、知らなかったからこそ引っ張られた?…よく内に閉じ込めておけるのう」
ボソボソ呟いているので聞き取りにくいが、なんかすごいらしい?
「厄災スキルというのは、その名の通り、七つの厄災と呼ばれる魔物が持つスキルじゃ。間違えてはいけないのが、お主等の世界の大罪とは繋がりはないということ」
「ん?」
その言葉にレオンは違和感を覚える
「話が逸れるんだが、厄災スキル憤怒が俺にあるんだよな?俺、憤怒と戦った覚えがないぞ」
「なんじゃと?」
七つの大罪と七つの厄災、この二つに繋がりがないとするなら、レオンに厄災スキル憤怒があるのはおかしいのだ
「お主、別世界からの異端者なのか?その世界で大罪を?いや待ておかしい。そうだとしても、厄災スキルが自動的に?本当は繋がりがあったのか?」




