第4話 同盟と敵対
「抜刀カザミノタチ」
「リジェル!」
「えっ」
一閃。「カザミノタチ」がリジェルの胴を捉え、両断する。
「大蛇」
両断された体を、上空で魔獣を喰らい続けていた「大蛇」が喰らい燃やす。この間僅か6秒。
そして、リジェルが死んだことにより、正気を取り戻した生徒達が倒れる。
「あいつら記憶残ってんのかな?」
「分からないから、ある程度記憶の操作をしときましょう」
倒れる生徒達を眺めながらボヤいた玲音にいつの間にか隣に立っていた人物が答える。
「何故!なぜ生きている!?」
アイヴィアは玲音の横に立つ人物を堪らず声を荒らげる。
「おかしなことを言うのですね?生きていてはダメなのですか?」
それに対し、九條颯はおどけてみせる。
「まぁ種明かしをするなら、俺の従者にして傷を癒した」
「従者?」
「俺のステータスを見てみろ」
「なっ」
玲音に言われそのステータスを見たであろうアイヴィアが驚愕の表情で固まる。
「名乗らせてもらおうか。玲音・B・ヴァンデル。吸血鬼として蛇使い座を司っている」
煌幻刀霧雨を肩に担ぎながら玲音は名乗りをあげる。
「親から受け継いだと言うわけ。いや、それよりもどうやって隠していた!?」
アイヴィアはそれに対し、疑問をぶつける。
十二星座や十三星座を司る者の称号は、持つもの同士が共鳴する。だから隠すことは出来ない。
「本来なら隠すことは出来ないが、隠し方を変えればいい。鑑定無効というスキルはステータスを見えなくするものだ。だが意外と判定がガバくてな。少し注意深く探るだけで、簡単に見破れるんだよ。機械なんかは誤魔化せても、人の目は誤魔化せない。だが、このスキルを一点に集中して使用すると、どれだけ注意深く探っても気付けないんだよ。称号を隠せば付随するスキルも隠せる。だから、見ただけでは分からないし、称号自体もそこに別の称号があることに気づけない」
称号の偽装については、澪や神楽、舞に出現した際にいくつか試行していた。なので、その性質も把握している。
「そう。そうゆうこと。それでも、使い手として未熟な貴方1人を殺すことくらい、私1人でも充分です!」
アイヴィアは両手を広げ、意識を集中させる。
「顕現。神鞭冷姫」
そして、自身の神器の名を呼ぶ。呼び出されたのは、長さ2メートルから3メートルはあると思われる薄い青色の鞭。
「ただの鞭と侮らない方がいいわ。神鞭冷姫はその軌跡を全て凍らす。そして、触れた相手も凍らせる。これに水瓶座の力が加われば!」
アイヴィアは何故かそこで言葉を切る。
その様子を見る澪や神楽に舞は何が起きたのかを理解する。もちろん玲音と颯も理解している。寧ろこの2人が原因だ。
「やっと気付いたのか?」
「遅いですね。では、私も自己紹介を。九條颯と申します。先程、水瓶座を司る者に選ばれました。よろしくお願いしますね、元水瓶座の担当者さん」
アイヴィアの反応を見ながら、颯は優雅に名乗りを上げる。
「さぁ、来なさい」
颯が両手を前に突き出し、その名を呼ぶ。
「顕現。神叙マクロノギア」
颯の手に収まるのは、神器・神叙マクロノギア。
数多の医学、薬学、力学、工学、その他幾つ物知識が詰め込まれた書物。神が記した物のため、人が未だ知らぬ病気や薬、更には人類が到達し得ない永久機関に関する記載まである。
「ふざけるな。ふざけるなよ!貴様みたいな小娘に、称号を奪われてなるものか!」
アイヴィアは口調が崩れていることも気にせず、ただ突っ込んでいく。
話を聞いていてそれが限界に達した結果、彼女は怒りの暴走状態にあった。
「抜刀」
暴走状態にありはしたが、理性は残っていた。残っていたからこそ、玲音の攻撃を察知し防ぐことが出来た。
「雷」
神鞭冷姫を急所に巻き付け、致命傷を負うことを避けた。しかし、それ以外の箇所は決定的な負傷をする。武器を扱わない左手は肩から先に力が入らず、両足は立つことが精一杯といった様子。
「ぐぅっ、今の速度さっきより明らかに速い!」
「答えは簡単だ。空を見上げろ」
その言葉に、アイヴィアだけでなく澪や神楽、離れたところにいる無事な者や玲音の傍にいる颯もつられて目をやる。
その視線の先には、霞む紅い月が浮かんでいた。
「固有結界朧月夜」
固有結界朧月夜・・・効果は単純で吸血鬼である玲音の身体能力やスキル等の強化。この結界の中であれば、玲音は影、霧化、血の武具、分身のスキルを血の消費量に応じ強化することが出来る。使用する技は一段階上の威力と速度を持つ。
「固有結界、特異種族にのみ伝わる禁呪。それをお前のような小僧が使えるのか」
「へぇー。固有結界って禁呪なのか」
アイヴィアの呟きに、驚いた声を出す。
「まぁそんなことはいい。アイヴィア、覚悟はいいか?」
「ッ」
玲音は禁呪のことが気にならないわけではないが、今は目の前の敵を討つことを優先する。
「山羊座のリジェルだったか?の力で1度は死を免れたようだが2度目はあるかな?」
玲音は右足を後ろに引き、肩より下に刀を構える。俗に言う車の構えを取る。
「あぁそれと」
構えのまま、視線だけを動かして虚空を見つめる。
「そこにいるやつら出てこいよ。その隠蔽はもう効かないぞ」
目を細め、声に少しの怒気を含みながら呼びかける。
「リジェル、解除してくれ」
「わかった」
玲音の視線の先、景色が歪み、隠れていた姿が露わになる。
「リジェルの隠蔽を2度目で看破するとは、蛇使い座を司る者ということを抜きにしてもかなりの実力者のようだ」
「ごめんシェグナ」
「謝ることはないだろう。実力は拮抗していたかもしれないが、今回は向こうが上手だった。今回の失敗を活かして次に繋げればいい」
シェグナと呼ばれた男はそこで言葉を切り、1歩前に踏み出す。
「自己紹介をしよう。魔獣の王が1人。蟹座のシェグナだ、よろしく頼むよ。玲音」
名乗りを上げ、シェグナは構えを取る。
右足を少し後ろにずらし、左肩が少し前になるよう体を捻り、両の拳を眼前へと持ち上げ、膝を少し曲げ体を沈ませる。
「徒手空拳か」
「そうだ。蟹座の特性か知らんが、掴む挟むことを得意としていてね。その刀も折ってあげよう」
互いに睨み合い先に動いたのは玲音だ。
「抜刀紫電」
構えの静止状態からノーモーションで最速に達し、三連突きを放つ。迅雷が接近用の技とするなら、紫電は接近兼攻撃用の技となる。
その三連突きをシェグナは、一突き目を手の甲で刀の腹打ち、軌道を逸らし、左の拳を玲音の脇腹目掛け打つ。
そのカウンターに対し、玲音は「紫電」を中断し、磁場による強引な引き戻しを行い、拳を刀の柄で防ぐことで直撃を免れる。しかし勢いは殺しきれず、間合いが開くこととなる。
後ろへ飛ばされた瞬間、すぐさま勢いを利用して、体を回転。姿勢を制御し、着地する。
そして息を吐き、次の攻防に意識を集中させる。
「我抜き放つは煉獄の焔」
「穿つ一撃はこの手に」
両者は一撃に全てを込める。
「焚べる想いは怒りと闘志」
「この一撃は全てを貫く」
「我此処に番人となりて、守護者としての力を見せる」
「我らの野望を成す為に、全て屠るは我が拳」
4節からなる詠唱が紡がれる。高まる気は景色を歪ませるほどに濃縮され、轟々とうねりをあげる。その余波だけで、舞の結界の1枚に亀裂が走る。それをいつの間にか目を覚ました生徒達と舞が補強する。
「行くぞシェグナ」
「かかってこい玲音」
限界までたかまった気が、その一撃の名とともに解放される。
「炎帝抜刀ソウエンノタチ」
「刻手抜拳心穿つ黒き魔手」
恐らく、対人最強の技であろう一撃を放つ2人。その余波が結界を破壊し、未だ倒れる生徒達が飛ばされそうになる。
そんな生徒達を守りながら、舞は目撃した。その場にいた意識のある者は全員が目撃した。
2人の技がぶつかる寸前、そこに割り込む人影を。
勿論、シェグナと玲音も認識していたが、認識したのは刀と拳が触れる瞬間の数秒前。止めることの出来ないタイミング。
だがお互いに感じたのは肉を断つ感触ではなく、何か硬質な物に阻まれた感触。
蒼炎と黒い靄が衝突したことにより、拡散していたそれが霧散していく。
目にするのは、2人の一撃を両の拳で止めている獣人の姿。
「神器顕現獣神籠レ・イグル」
獣人が名を呼べば、刀と拳を受け止める、光を纏った拳が籠手に覆われる。
獣人は少し力を込めて押し返す。
2人はそれを受けて跳躍。獣人を挟むようにして、再度睨み合う。しかし、今度は中央の獣人を注視している。
「すまないが、其方さんは引いてくれないかな?ここで、称号持ち総力戦とかやりたくないだろ?」
そうこぼす獣人の背後に、いつの間にか4人の人影が現れる。
「獣人、人魚、ミノタウロス、エルフ、天狗。獅子座、魚座、牡牛座、蠍座、双子座の称号持ちの同盟」
「知っているようで何より。それに、そっちには蛇使い座、射手座、乙女座、天秤座、水瓶座だ。多分だがこの状況じゃあんたらが不利だと思うが?」
シェグナと謎の獣人の2人で話が交わされる。
そこに玲音が割ってはいる。
「なんで澪達の隠蔽がバレたか知らねぇが、いきなり現れて、味方面するのやめろよ」
玲音はもう一度、魔力を集め、気を高める。
その後ろでは、澪と神楽、舞、颯も意識を研ぎ澄まし、臨戦態勢を取っていた。
どれほど睨み合っていたか。見守る者達は瞬きもできないほどに、三竦みを見つめ、状況を見つめる。
3陣営のうち、最初に動いたのは魔族だった。
「称号も1つ奪われ、加えてこの多勢に無勢。今回は引かせていただく。それで構わないね?獣人」
「こっちは引いてくれるならそれで問題は無いね」
「玲音、君はどうなんだ?」
「チッ、わかった。こっちもギリギリだからな。戦わなくて済むならそれでいい」
尋ねられた玲音は、舌打ちをしながら答えを返す。
ステータスが向上し、固有結界の効果を受けているその身が未だその力について行ききれず、悲鳴をあげているため、渋々と言った表情ではあるが刀を納める。後ろの4人も、それを見て神器を納める。
「それではさらばだ。蛇使い座の玲音よ。次会うときは決着をつけよう」
「九條颯!水瓶座の称号、取り返してみせる」
シェグナとアイヴィアはそう残し、リジェルが開いた門を潜って、自身達の領域へと帰っていった。
それを見送った、獣人が玲音の方へ顔を向ける。
瞬間
「副神器権限。風刃カミタチ。抜刀結界刃乱雲」
自身の力の向上に合わせ、得た力を振るう。
その神器から放たれたのは攻撃ではなく、自身と相手を包み込む隔離結界。風と雲による音の遮断と外部、内部からによる相互不干渉を実現する。
その結界にて、自身達の5人と相手方5人を囲み、結界ごと宙に浮かせる。
「これで誰にも聞かれることは無いだろう。いい加減名乗れよ」
風刃カミタチを鞘に納め、腰に提げる。霧雨もまた、腰に携えており、いつでも抜刀できる状態となっている。
「なんでバレたのか教えて貰えるか?玲音」
獣人の男は、玲音の言葉にピクリと反応した後、そう言いながら本当の姿を現す。
「嘘っ」
「お兄、あの人」
「おいおい」
澪、舞、神楽の順での反応だ。正直俺も戸惑ってはいるが。
この4人は面識がある為驚いているが、颯はそうでないため、少し蚊帳の外にいた。
「なぁ玲音、教えてくれよ。なんでわかったのか」
「簡単な話、声と喋り方。それとお前の神器だな」
「へぇー、声と喋り方はともかく、なんで神器なんだ?」
獣人の男は、自身の正体を突き止めた要因のうちの1つに興味を示し、問いかける。
「お前は神器を見せたことがない。試験の時も欠席していたし、お前がパーティーやソロで魔獣を倒した記録もない。なら、隠したい何かがあると考えるのが妥当だ。で、そんなの時、謎の獣人が現れ、その声と喋り方がある人物に似てると来た。こりゃもう疑うしかないよな?」
少しドヤ顔で玲音は告げる。玲音自身で全て調べた訳では無いが、多くの情報は玲音自ら集めたものだ。親の知人の協力も借りていることは、ここでは言わぬが花だ。
「あー、後電話な。あれも要因だな」
「やっぱりか」
そう言いながら苦笑するのは、玲音と澪のクラスメイトで親友の江井尚也
尚也は一呼吸入れ、表情を真面目なものに切り替え、玲音を見据える。
「蛇使い座を司る者玲音、お前に提案がある」
「何が起きているんだ」
「校長、着いてけないんですけど」
「いやそれ私も」
取り残された、生徒や教師達、副ギルマス達はいつの間にか全員目が覚め、現状確認をしようとする。が、全てを目撃していた人物ですら、現状を把握しきれていないのだ。説明なんてできるはずがない。
「それにしても、なんだか体が重く感じるな」
「確かに。なんかダルいんだよな」
「私達も少しだけ、体が変ね」
「校長さん、何かわかる?」
「…いや、私には分からないな」
嘘だ。校長は全てを見ている。自身が斬られた傷を治し、狂乱する者達が倒れたあと、その記憶と傷、更には死した者を蘇らせた人物を。
誰があんなものを言えるものか。言っても信じて貰えぬだろうが、口は災いの元とも言う。変なことを言って、彼らを敵にはしたくない。
校長は心の中で呟きながら、目の前の出来事を眺めていることしか出来なかった。
「なお、お前の言い分はわかった。俺たちのメリットも理解した。そこで質問なんだが、お前達のメリットはなんだ」
尚也の話を聞き理解したが、理解しきれないところが1つ。それが尚也陣営のメリットだ。
「そう難しいことではないと思うんだけど?」
「俺達5人の称号持ちとの同盟、というより、俺を王とした国の独立。そしてこの国との協定。俺達が加わることで、より一層強い敵への対処が可能になる。このどこに、お前達のメリットが存在する」
尚也は少し考え、答えを返す。
「これは推測だし、根拠はないよ。ただね、魔族の後ろに、何かいるような気がしてならないんだよ。それに対抗するには、多分12星座の力が必要だ。そして、それを束ねる13星座の力も。この星を守るため、守りたいあの人を守るため、自分たちの故郷を壊されないため。それがメリットじゃダメかな?」
ただそれだけだと。守るために、仲間は多い方が良い。だから協力してくれと。
「お前、そういう所なんて言うか、真面目っていうか、欲がないって言うか」
玲音はその答えに苦笑いしながら前に歩み出る。
その行為の意味を察した尚也が、同じように前に出る。
そして、2人は手が届く距離まで近づき、握手を交わす。
「断る理由もないし、俺も守りたいものは沢山あるから」
「お互い助け合っていこう」
ここに、12星座のうち9の星座と13星座が協力関係になるという、歴史上初のことが起こった。
「それじゃお互い自己紹介くらいはしようか」
尚也は後ろの4人の方を向き、自己紹介するよう促す。
「では、俺から。ミノタウロスの部族、元族長ウルスだ。牡牛座を司っている。神器は神斧ラーナ」
「私は海の守護者たる人魚族、元第2皇女ルビア。魚座を司っています。神器を聖艘ノア」
「えっと、私はエルフ。元第三部族長アリアです。双子座を一応司っています。神器は双弓剣デュリオ」
「最後は私ですか。天狗のクレハ。蠍座を担当している。神器は奏槍クイーン」
いつの間にか全員を囲むようにして、生徒や教師達が集まっていた。
玲音があえて結界を解除したことにより、種族名を聞いた瞬間、どよめきがおこる。
「そして、僕が獣人族元獣王、江井尚也。獅子座の担当で神器は獣神籠レ・イグル」
そして、尚也の名乗りでその場にいる者たちの戸惑いがピークに達する。
「尚也が獣人?」「しかも元獣王って」「いや、そんなの適当なこと言ってるだけだろ?」「そうだよ。いくら魔獣が現れたからと言って、人間以外がいるわけが」「でも、人魚とかエルフとか実際に」等、周囲の人間とあれやこれやと話している。
「次はこっちだな」
「最初は私が行こう。天使と人間のハーフで神楽・B・ヴァンデル。乙女座を司り、神器を鎌迅エルドリーパー」
「小人と人間のハーフ、舞・B・ヴァンデル。天秤座を司って、神器を双鉄扇シェルド、シェリア」
「えっと、普通の人族?御鏡澪。射手座を司ってます。神器は双弓レヴナ、サリス」
「同じく普通の人族の九條颯です。先程水瓶座に選ばれました。神器は神叙クロノマギア」
「で、俺が蛇使い座を司る吸血鬼。玲音・B・ヴァンデル。神器を幻刀霧雨」
そして、玲音の種族を聴いた瞬間、誰もが武器を手にした。
困惑しすぎて一周まわって冷静になったのだ。
「退魔師はいなくとも、ここにいるものは戦闘のプロだ!吸血鬼1匹仕留めるぞ!」
教師の1人が生徒を鼓舞する。
吸血鬼とは、魔獣が現れる以前から存在し、人間に害を成す存在として知られていた。
もちろん『学園』でも、吸血鬼の存在は教えられ、過去の吸血鬼による被害も知られている。
故に彼等は武器を持つ。たとえ彼がクラスメイトで同級生で先輩や後輩だとしても。家族を自分を守るために。
しかし、校長や『治療院』の副ギルマス達は、戦おうとしなかった。
今の自分に彼と戦えるだけの力がないことも、隔絶した力の差も理解していたから。更にいえば、自分達の命の恩人だから。
「うわぁめんどくさ」
標的にされた玲音は
「半分くらいなら殺していいよな」
物騒な事を口にしながら、神器に手を添える。
「お、蛇使い座の実力を拝見できるのか?」
「それはいいですね。我らの王となるのです実力は知っておきたいです」
「えっと、あんまりやりすぎなければ、私も見てみたいです」
「魔獣や魔族以外にどれだけ非情になれるのか」
ウルスやルビア、アリアとクレハは神器をしまい、観戦者にまわる。
「えーと玲音?」
颯と神楽、舞も観戦モードに入ってしまった為、澪が一応と言ったふうに声をかける。
「全体の3分の1くらいだよ?」
「了解」
返事を聞き、満足したのか澪は仲間たちの元へと下がる。
「玲音、助けは?」
「要らねぇ。あ、助けはいらねぇけど」
尚也の耳元でこっそりお願いをする
「了解任された」
そう返事をして、尚也は下がる。
そして玲音は、1人神器を構える。
「気を付けろ!目で捉えようとするなよ!」
「どんな魔獣よりも警戒しろ!速さは洒落にならないからな!」
教師達が指揮を取りながら玲音に迫る。
「抜刀炎舞」
玲音は刀を抜刀。碧い炎を纏わせながら、鋒を地面スレスレまで下げる。
「抜刀炎獅子」
弧を描くように刀を振るう。
そこから放たれるは碧い炎の獅子。
先頭集団数十人をあっとゆう間に取り込み、灰に変える。
「玲音、貰ってきたよ」
その光景を背景に、玲音は尚也と向き合う。
「助かる。5つってことは尚也のも?」
「当然。その方がいいんでしょ?」
玲音は苦笑しながらそれを受け取り、5つ同時に飲み込む。
ピロン
玲音の脳内でそんな音が聞こえる。
「いいねぇ、少し体が軽くなった」
ウルス、ルビア、アリア、クレハそして、尚也。
5人の血を吸血したことにより、玲音のレベルは上昇。従者が増えたことにより、新たなスキルも獲得し、体が力に馴染み始めた。
新規取得スキル一覧
・龍具召喚
・血の従魔
・血族
・創造
・神殿顕現
新規取得称号一覧
・王
・種族の垣根を超える者
「体力も回復したことだし、少しだけ色々試すか!」
そう言うと、刀で自身の腕に傷をつける。
「武具生成!血鎌!」
流れ出る血が、神楽の持つ神器と同じ形へと変化する。
「行くぜ!」
姿勢は低く駆け出し、敵陣に正面から向かっていく。
「足元を狙え!体制を崩せ!」
最初にやられた教師以外が指揮を引き継ぎ対処しようとする。
飛んでくる魔法、矢、砲弾、対人ともあって銃弾。その悉くを鎌で受け、逸らし、撃ち落とす。
「武具生成!血槍!」
敵陣の中央まで敵を倒すことなく入り込んだ玲音は、新たな武器を作り出す。
「分かれろ!」
その槍を空へ向かって突き出しながら、一言命じる。それだけで、槍の穂先から幾つもの線が出現。周囲の敵を貫く。
指揮系統もあったもんじゃない!と叫びながら、生徒の1人が肉薄しようとする。それを槍で迎え撃とうとすれば、反対側からも強襲。『霧雨』で迎え打てば、味方の死体を盾に回避する。
「ちっ!龍具召喚!スピードモード」
回避されたのを見て、玲音は戦法を切り替える。
召喚されたのは龍の防具。肩から指先までを覆う漆黒の鎧。両肩は龍の顎を模した形。腰から下は特徴はないが、動きを阻害しないよう、最低限のパーツのみ。
「炎舞抜刀火舞」
火舞…抜刀、飛び上がりながら切りあげ、降りる際3回転しながら斬りつける。
1人に対しオーバーキルにも見えるが、纏う炎が周囲に飛び散り、被害を出す。
「抜刀煉獄!」
煉獄…炎を凝縮させ、1点に向けて放つ放出系。
後衛の手前まで炎が届き、被害を拡大させる。
ちなみに、今この場にいる、玲音の敵の総数は1432人。澪の許可した3分の1は約480人。この乱戦のなか数えられるのか、という問題があるが気にしない。気にしたら負けなのだ。
玲音に一方的に殺されていく、『学園』の生徒達。彼らも未熟といえど神器持ち。なのに、誰一人として彼の肌に傷をつけられない。
「後ろのもの達を狙え!人質にしろ!」
教師の1人がそんな命令を下す。そして、生徒は忠実にそれに従う。
「ごめん澪ちゃん!」「尚也すまん!」「まいちゃーーーーん!」「神楽おねぇさまー!」
なんか変な声を上げながら接近する。
尚也達はそれらを一瞥しただけで、何もしようとしなかった。しなかったが、その瞳にほんの少しだけ涙を滲ませていた。
「抜刀迅雷」
そんな彼等を守るように、玲音が立ち塞がる。
「峰打ちだ死ぬなよ」
刃を逆さにし放つ
「抜刀電」
絶妙な雷撃を与え、強制的に意識を断つ。
「残りは一気にやる」
納刀。玲音は左足を軸に回転。右足で円を描く。
「創造・龍種召喚」
スキル複合による術式発動。
「我が血を与える。欲望のままに喰らえ!血を欲する黒き龍!」
玲音から大量の血を与えられ、新たな龍が顕現する。
黒い体に翠の瞳。体には幾つもの紅い線が迸る。
西洋の龍をイメージしたのか、四肢と翼を持つ。
翳した手を振り下ろす。それを合図に龍は獲物を喰らい始める。
この龍の特徴は耐久性。血で作られた龍なため、敵を喰らい、血を得る度にその傷を癒すことが出来る。攻撃をくらっても、敵を喰らうだけで無かったことにできる。つまり、ほぼ無敵。一撃で狩らねば、自分が狩られるのだ。
そして、その龍は300程を喰らい、消滅した。
更にいつの間にか玲音達の姿も消えていた。
アイネス・ドラポリアは造語です。何となくでつけました。