第46話 PKそして負の感情
運動祭が無事に終わり帰宅すると、ムーの熱烈なお出迎えがやってくる。
「おかえりなさい!皆とってもかっこよかったです!」
姿を消して見に来ていたのは知っている。常に俺達の近くに居て、不測の事態に対応する為という理由もあったようだが。
「ありがとな。木刀と棒、助かった」
「ムーちゃん応援ありがとね」
「応援聞こえてたぞ」
「ありがとう。ムーちゃんも汚れただろうから、お風呂行こう」
挨拶を交わすと、玲音と澪が洗い物を預かり台所へ。神楽と舞はムーと一緒にお風呂へ向かう。
「楽しかったね」
「そうだな。中々に楽しかった」
二人並んで、慣れた手つきで洗い物を済ませていく。
言葉は交わさずとも、二人の想いは通じているようだ。
揃って満面の笑み。
それ以降会話を交わす事は無かったが、キッチンにはあまーい空気が充満していた。
「さてと」
ログインしてクランホームに転移する。
「そう言えば集合場所決めてなかったな。まぁ、ここにいればみんな来るか」
クランホームを出て、正面広場で刀を正眼に構え集中。
「……」
魔力に意識を載せる。魔力を薄く伸ばしていく。
建物を透過し内部構造も認識できるようにする。
『ホーム管理のNPC…住人は10人』
自身の広げた魔力に当たった別の魔力反応から、内部にいる人数を把握。
『…3つ反応が増えた…これはミオ達か』
新たな反応。タイミング的に誰かを判断する。
『魔力で人数まで分かるが、魔力の持ち主までは判断出来ない。もう少し精度を高めたいな』
『魔力に意識だけじゃなくて…そうだ、鑑定のスキル試すか』
魔力の減りが少し増える。しかし、自動回復の効果によって消費は無いようなものだが。
『…まだ粗い。これは要練習かな』
『人数増えてきたな……そろそろ終わりか』
自分の周りに人が増え、残りの数人もホームに転移してきたのを確認。魔力の放出を止める。
「おう。揃ったか」
「ねぇ、レオン?何してたの?」
「不思議な魔力反応だった」
「新しい索敵魔法でも開発してたのか?」
目を開けて、周囲に視線を巡らせる。
ミオ、マイ、カクラに何をしていたか聞かれるがスルーする。カクラは若干正解だ。
「さてと、まずは準備運動からな」
一定の間隔を開けて、稽古前の準備を始める。
「筋をいきなり伸ばすなよ?ゆっくり伸ばしてけ」
ゲーム内とはいえ、ちゃんと準備をするのとしないのとでは、若干違いがあった。
「意味は意外とあるぞ。VRだろ?現実に近い世界だから、これによって少しだけバフがかかる」
効果は微々たるモノ。
MPの自動回復と全ステータス1.15倍。
「まずはバフが乗ってる状態で教える。その後、バフがない状態で、バフ有りの時の動きを再現する。最初は初歩的な技から教えてく」
クラスメイトに指導を始めるレオンに、カクラが強襲。援護するようにミオが矢で退路を塞ぎ、マイの結界がレオンの動きを阻害するように展開される。
「最初に教えるのは瞬攻」
身体の捻りだけで抜刀。刃に魔力を乗せ、結界を斬り裂く。
「魔刃。瞬攻はどんな体勢からでも素早く攻撃を繰り出すための術だ」
疾風迅雷でカクラのすぐ横をすり抜け距離を置く。
「瞬攻は一応どの武器でも使える。ただ、重量のある武器や長さのある武器は効果が落ちる。1番効果が出るのは素手、次に直剣や刀だな。短剣なんかは、逆に扱いづらい」
いつもの鉄扇を双剣のように持ち、肉薄してくるマイの対処をしながらレオンは解説を続ける。
「瞬攻は全身を一斉に動かすことで、普通なら不可能な速度で武器を振るう。まずは、今の状態で武器を目で追うのが困難な速度で振るってみろ」
バフ有りの状態で、どれくらいの速度があれば視認困難なのかを確かめさせる。
何度も繰り返すクラスメイトを視界に捉えながら、マイとカクラのコンビを捌く。
「カクラ!もう少し視線でのフェイント混ぜてけ!マイ、結界の使い方がまた一段と上手くなったな!ミオとの連携が完璧だ。ミオもっと同時に射ってもいいんだぞ?この二人なら避けれるしな」
カクラはフェイントを混ぜるのが苦手なようだ。それでも、少しずつフェイントを織り交ぜる。
マイは結界でわざと自分の攻撃を防いだり、レオンの刀の軌道上に結界を展開。一瞬だけ動きを止めることに成功する。
ミオは二人を信じている。だから、二人の背後からレオン目掛け矢を射ることができる。二人もそれに応えるように、ミオの矢には当たらない。マイも結界で矢を遮ったと見せかけ、当たる直前に解除したりと多彩な連携を見せる。
「!?」
完全にレオンの意識外。そこから迫る剣を咄嗟に受け止める。
「…お前、マジ?」
「お、出来た?」
レオンと鍔迫り合いしているのはクヌギ。
「いま、バフ有り?」
「一応あるな。ほぼ最低限」
つまり、ゲーム内ではあるが自分の力だけで成功させたわけだ。
「お前怖ァ」
普通に考えて、ゲーム内だからと言っても素人にできるわけが無い。なにか起きた時の対処法が少しでも増えれば、と思っての事だったのだが…
「よし。クヌギ、お前も混ざれ」
「え?」
「カクラ、クヌギ前衛、ミオが後衛、マイは中衛で全体のサポート」
「「了解」」
「りょ、了解」
レオン達の稽古にクヌギが加わる。
意識の割り振りを調整しながら、レオンは瞬攻を会得しようとするクラスメイトに助言したり、四人にアドバイスしたりと大忙し。
その結果、クラスメイトの大半が瞬攻を会得。成功率は未だ高くないが、成果は予想以上となった。
「よくやるよな」
皆がログアウトするのを見送り、人が少なくなったクランホームでレオンは一息つく。
今此処には、レオンと夜遅くプレイしている人達しかいない。その人達も、レオンに気を使ってなのか、あまり近くに寄らない。
「最後の方はシェンやカイドウも加わってたな…。しかも、『担い手』の訓練に加えるとか物騒な事言ってたな」
クラン『担い手』…『戦人』『守人』『白良企業』合同で設立された同盟クラン『解放者』の下部組織。
下部組織としての役割のみならず、リアル一ヶ月毎に行われる試験に合格出来れば、『戦人』『守人』『白良企業』に所属可能という、攻略組育成クランである。
『担い手』で行われる訓練は今のところ、対人戦、対魔物戦、対大型戦。
『解放者』宛の依頼から幾つかを『担い手』に流し、その依頼を達成するというもの。
各国からの要請もあり、魔物・モンスター以外に盗賊討伐や難民の保護なんかもある。
盗賊やPK、『戦人』『守人』上位クランプレイヤーとの対人戦。
護衛依頼やダンジョン攻略、前線攻略等で対魔物戦。
ダンジョン深部やエリアボス等の大型戦。
今後そこに、瞬攻の身体的技術訓練も追加されると言う。ノルマは決まっていないが、そこそこ人を選ぶだろう。
「まぁ、うちのメンバーが異常だっただけで、他の奴には簡単に会得できないだろうけど」
『外で聞き耳立ててるのがいるな…。今居るプレイヤーにチャットで…』
「おーい、レオンはいるかぁ?」
「ん?おやっさん?」
「おー、いるじゃねぇか。そろそろ武器のメンテどうだ?」
「赤椿な…そろそろ必要か」
『おやっさん、外の気配は掴んでる?』
『何人か居るな。恐らく暗殺クランか。目的はお前のPKと武器かな』
『防具は専用だからな。神器だとわかってる霧雨を狙ってるんだろ。あわよくば他の武器もな』
レオンから奪えるとしても、霧雨だけだろう。他の神器はスキルに紐付けられた武器だから。
「んじゃ頼むわ。アカバネ、待ってるぞ」
「楽しみにしてな」
地下から上がってきたおやっさんに赤椿を渡し、レオンは目を閉じる。
『おやっさんは…白だな。通じてるとしたら他のメンバー…いや、それもないな』
『魔力を薄く伸ばせ…横だけじゃなく上下も…鑑定と看破を対象の魔力反応に対して発動…外のヤツらに感知されないように…』
『確定だな。PKクラン所属、それもかなりやってるプレイヤーか。他の誰かに手を出されると面倒だし、少しやるか』
立ち上がり、インベントリを操作。武器を装備して、背後の窓を突き破りながら裏庭へと躍り出る。
『マスター、こっちは準備出来た』
飛び出すと同時に、クランホームにいた他のプレイヤーからチャットが届く。
『りょーかい。逃げようとしたやつは任せるぞ』
「お目当ては俺の神器だろぉ?来いよ!」
空中を蹴るようにして気配の一つに強襲。月影で鳩尾を抉る。
「ゲファ!」
いきなりの強襲、落下の勢い、体重の乗った一撃。HPが0にならなかったが、いっきに6割を削られ、あまりの衝撃にその場で踞る暗殺者1。
「こんばんは暗殺者さん。そしてさよなら」
髪を掴み、無理やり顔を上げさせ、ニッコリ笑ってから顔を地面に叩き付ける。それだけでは倒すのに足りなかったので、もう片方の手を拳に変え、後頭部を殴り付ける。
「さぁて、あと何人かな」
飛んできた短剣を月影で弾き、飛んできた方に視線を向けると、背後から二人の暗殺者が姿勢を低くして駆けてくる。
その二人を援護するかのように、多方向から様々な遠距離攻撃が飛んでくる。もちろん、真上からも降ってくる。
「逃げ道無いって思うじゃん?でもさ、あるんだよね」
矢や魔法、短剣がレオンに突き刺さり、二人の攻撃が届くと思った瞬間、レオンの姿が霞のように消えてなくなる。
「動揺しちゃった?こんなスキル知らないって」
声がし、慌てて振り返る。そこには、無傷のレオンが立っていた。
「第二回イベントでさ、これ使ったじゃん?おかけでスキルレベルかなり上がったんだわ」
第二回イベントのプレイヤー戦、ちゃんとスキルレベルが上がっていた。プレイヤーレベルは変わらなかったが。
「そんでさ、格闘術て俺が1番高いわけよ。そこに付随するアーツなんかはほぼ独占状態。あとは分かる?」
つまり、格闘術アーツには自身の分身を生み出し囮とし、本人は姿を消して移動できるということ。それはつまり、そのアーツの種が割れないと攻略できないということ。
「疾走粉砕」
無属性魔力を風属性魔力に変換、自身に纏わせ推進力に。その勢いのまま相手を粉砕する。
「避けんな!」
「避けなければ死ぬだろう!」
直線上にしか攻撃出来ないから回避は簡単だ。
「闘法・烈震、震覇」
左脚を高く上げ、かかと落としの容量で降ろす。それによって地面は揺れ、そこそこの範囲でひび割れる。
体勢の崩れた相手に、その揺れに乗る用にして飛び出し、地面に張り倒す。顔面に叩き付けられる月影の硬さと、後頭部が叩き付けられる地面の硬さで気を失う。
「片付いたか?」
残りの敵にもトドメを刺しながら、周囲のメンバーに声を掛ける。
「問題ないぜマスター」
「暗殺者クランって言っても、弱小のところだしな」
「そうそう。俺らに比べたら赤子同然よ」
「そりゃぁ、現最強暗殺クランのマスターと副マスターに比べたらそうだろうよ」
闇から出てきたのは、スーツに身を包んだ男が三人。それと隠れているが、女と男が一人ずつ。
彼等はレオンとおやっさん、風音が個人的に契約している暗殺クラン『ジャック』のマスター、副マスター含む精鋭五人。
普段からレオン達『解放者』のクランホームに常駐し、陰ながらクランホームの防衛、NPCや要人の護衛を行っている。
「相変わらず手際がいいな。…んでさ」
振り向きながら、後方から強襲してきた一人の攻撃を躱して首を掴む。
「どういうつもり?」
月影はその構造上、手を覆う部分は装甲が薄く、肘までにかけてが分厚くなっている。つまり、人を掴むのが普段と変わらない感覚でできる。
問い掛けるレオンの目は笑っていない。というか、瞬時に囲うように展開された血刀が、今のレオンの全てを表している。
「おい待ってくれ。そいつは俺らと関係ない」
「いや、関係はあるけど…」
「なんて言えばいいの?」
「訳ありか?」
「とりあえず離してやって?窒息しそう」
言われてみると、状態異常に窒息Lv1とか出てる。このまま行くとリスポーンしそう。
手を離し、血刀で周囲を囲う。
「これで逃げられないな」
まぁ、逃げようとしても、このプレイヤーの魔力反応を覚えたレオンから逃げることは不可能だ。
「それで?誰なのこいつ」
「いや、それがわからんのよ」
「は?」
「なんかな?いつの間に俺達のそばにいて、いつの間にかいなくなってんだよ」
「なにそれ?トンチ?」
振り返ってそのプレイヤーを見ようとして
「まじで居ねぇ。プレイヤーだよな?」
「それは確認済み」
「となると、特殊スキルか…報告の無いスキル…現状あいつの固有か」
「で、追う?」
「あー放置でいいや。もう追ってるし」
ニヤリと笑うレオンの口から覗く牙、紅く光る瞳。
彼等は失念している。彼の種族を、そしてその種族スキルを。
「クソっ!特殊スキルでもダメなのか。チート使って国に取り入りやがって…あーウザイ。あんなやつがトッププレイヤーとか有り得ねぇ」
森を駆ける一人のプレイヤー。PKプレイヤーとしてそこそこ有名な彼は、有名な上位プレイヤーに嫉妬していた。自分より目立つ彼等に。
PKプレイヤーが有名になるのは珍しいだろう。何せ、悪人か善人かと聞かれれば、悪人となるのだから。
『ジャック』のメンバーですら、対して有名ではない。裏の顔では、という但し書きが着くが。
表の顔は商業クラン『ハロウィン』。両者の共通点、それはジャック・オー・ランタンとジャック・ザ・リッパー。ジャックという共通の名前。
「まぁでもいい。あいつの情報は取れたからな。雑魚共には感謝しといてやる」
駆ける彼はクランに所属しない、フリーの暗殺者。先程まで居た数人は、クラン所属の暗殺者達。
彼にとって、自分以外の全ては捨て駒、使い捨ての道具だ。それが例え、一国の主や友人でさえも。
「あいつを殺す方法を考えないと…どうする?近接戦闘は向こうが有利だ。かと言って遠距離戦に持ち込んでも勝ち目が見えない…なら人質を取るか?巫女姫は…警備が厳重そうだ。なら、あいつのパーティーメンバー…いいなぁ。女が三人だったか。辱めて、奴隷商人にでも売るか。いや、プレイヤーって売れるのか?まぁいいや試してみれば」
その脳裏に浮かぶのは、悔しがるレオンの顔と慰み者にされ、絶望に染まった三人の女プレイヤーの顔。
大きな笑い声を上げ、愉悦に浸っている彼は気付かない。
既に包囲され、トラウマを植え付けられる準備が整っていることに。
「喰らえ」
その声は、プレイヤーである彼には聞こえなくとも、周りを囲む狼には聞こえていた。
合図と共に、100匹の狼が獲物を狩る為に迫る。
ようやく接近に気付いた時には、既に狼の包囲網が完成した後。
「クソっ!ウザったい!狼如きが!」
懐から自身の武器を取り出して、その武器が弾き落とされる。
「は?」
硬直。何が起きたのか理解出来ずに棒立ちになる。
それがいけなかった。武器を拾う為に動くか、多少なりとも逃げる努力をするべきだった。
立ち止まった彼の身体を無数の刀が滅多刺しにする。
「ガハッ」
込み上げて来た何かを吐き出し、自分の身体を見下ろす。
「なん、だこれ」
狼達は彼を囲んだまま動かない。身体に刺さっている刀も抜ける気配が無い。
「どうなって」
人の気配を感じ、彼はその人に救助を求めようと切り替える。
「あんた、助けてく…れ」
雲で隠れていた月の光が辺りを照らし、やってきた人を照らす。その人物を見て、彼は驚愕に目を開く。
「なん、で」
「なんでか?決まってんだろ。敵を排除しに来た」
狼達が作った道をゆったりと歩きながら現れたのは
「レオン!」
彼が暗殺の目標にしていたレオンだった。
「どうやって」
「教えると思う?敵に手の内を教える訳がない」
やったことは単純。自身の使役獣と五感を共有するスキルを習得し、血の番犬に彼を追わせ、ある程度のところまで来たら、感覚を共有し八咫鏡の力で転移するだけ。
「俺を狙うだけならまぁ許してもいいかなと思った」
腰に帯刀、その手には月影を装備している。
「でも、なんて言ったっけ?あの三人を辱めてどうするって?」
レオンから色が抜け落ちた。
全身を駆け抜ける恐怖に、彼は震え後悔することしか出来ない。
「ゆ、許してくれ。まだ、何もしてないじゃないか」
「それで許したら、お前は反省しないだろう?」
声にも感情が乗っていない。淡々と聞こえてくる声とレオンの顔を見つめ、気を失っ
「おきろ」
「オェッ」
いきなり訪れた衝撃に、腹の中の物を吐き出す。
「気絶できると思うな。死んで楽になれるとも思うな。お前は、超えては行けない一線に手を掛けたんだからな」
そこからは、耐性のない者が見ることは出来ない場と化した。
月影による強力な打撃が至る所に打ち込まれ、死にそうになれば回復薬で全回復。
刀で四肢を斬り、更に眼に突き刺す。回復薬では、欠損した部位の回復ができない。しかし、止血の効果があるため、出血によるダメージが無くなり、スリップダメージでの死亡が出来なくなる。
拷問とも言える行い、それは日が昇るまで続き、レオンがその場を離れた後に残ったのは、四肢と両眼を失い、色んな液体を漏らしたプレイヤーが残るだけ。
「た すけ」
彼の言葉に応えたのか、いや偶然だろう。1匹の魔物によって、彼は死ぬ事が出来た。
そしてこの日、PKプレイヤーの一人が人知れずゲームを引退していった。




