第1話 目覚め、そして把握
前作2つありますが、この作品に集中して取り組もうと思います。
フリーターの作品は不定期でやる予定はありますが、最果ての方は近いうちに一旦の終わりとします。
なので、これからはこの作品をお願いします
「ここは?」
目を覚ますとそこは、見慣れぬ白い天井。
周りを見渡せば、そこがどこか理解した。
「病院か?」
白い壁、自分が寝ていたベット。その周りに幾つもの機械。近くの棚の上にはテレビとリモコン。その横に備え付けられた花瓶と見舞いの品なのか、果物が置いてある。
「目覚められたんですね」
唐突に声がかけられ、部屋の入口を見ると、白衣を着た女性が立っていた。
「おはようございます。ここはどこの病院ですか?」
「はい、おはよう。ここは病院というより、治療院よ。戦闘での傷や欠損はここで治してるの」
治療院・・・再生魔法や回復魔法といった、非戦闘系魔法の扱いに長けた者が集う日本唯一のギルド。
「確か治療院があるのって」
「そうよ。ここは静岡。貴方、1ヶ月近く眠ってたの。気を失う前のこと覚えてる?」
そう言われ、思い出す。あの時のことを。
「まぁ、直ぐに思い出さなくていいわよ。ゆっくり焦らず思い出せばいいわ」
「はい」
何かを察したのか、白衣の女性は話題を変えた
「それより貴方、家族に愛されてるのね?」
「?どういうことですか?」
「そのままの意味よ。入ってどうぞ」
扉の前から動かなかった女性が、その身を横に移動すると
「玲音!」
「お兄!」
2人の人影が飛び込んできた。
「神楽姉さん!舞!」
「心配したんだぞ、この馬鹿」
「ほんとに心配した」
「ごめん2人共」
「起きてくれたから許す」
「許す」
そう言いながら、2人は玲音にしがみついて離れない。
「愛されているのね?」
白衣の女性が茶化すように繰り返す。
「そうですね」
自分にしがみつく2人の頭を撫でながら、生きていることを実感した。
「ところで、貴女の名前は?」
肝心なことを忘れていた。そこに立つ女性の名前を俺は知らない。
「名乗ってなかったかしら?それはごめんなさい。私の名前は九條颯。ギルド治療院のギルドマスターで、世界最高峰の再生魔法と回復魔法の使い手よ」
その名前を聞いた瞬間、部屋の時間が止まった。正確には全員がその女性、九條颯を見つめたまま動かなくなった。
「そんなに見つめられると困るのだけど?」
「す、すいません」
謝りながら、九條颯のことを思い出していた。
九條家の次期当主として期待されていた彼女は、周囲の反対を押し退け、ギルドを設立した。
最初は九條家もギルドをやめて、戻るように説得を試みるが、魔法の練度や周囲の評判を聞くうちに諦めていった。現在では九條颯のサポートに全力を注いでいると聞いたことがある。
そして俺はこの人と過去に会ったことがある。
「まぁいいわ。昔の馴染みでね?」
「覚えていましたか」
衝撃の発言に、神楽姉さんと舞はまた動けなくなった。
「美しくなられましたね」
「その口調はやめてください。約束したじゃありませんか」
「そうでしたね。美人になっていたから、名前を聞くまで思い出せなかったよ」
そこで、姉さんと舞が会話に割り込んできた。
「ねぇ、玲音?九條様とどんな関係なの?」
「お兄、なにかやらかしたの?」
「あぁ、そうか。2人と出会う前だから知らないのか」
どう説明するか悩んでいると、颯から助け舟が出た。
「これから、玲音の検診がありますから暇つぶしに話してみては?」
「なるほど。それは丁度いい」
颯が検診の準備を進めるのを横目に、姉さんと舞に昔話を始める。
10年くらい前のことかな?孤児院にいた俺はとある家の使用人として引き取られた。
知ってると思うけど、俺は親がいないんじゃなくて、親の事情で孤児院に預けられてただけ。九條家は俺の身を隠すために使用人として匿ってくれた。
当時の両親は色んな方面に敵がいた。そいつらに、俺の命が曝されるのが嫌だったらしくてな。
まぁ最近じゃそんなことも無くなったのか、一緒に生活してるし、知らない姉と妹も現れるし。びっくりしたな。
っと少し逸れたな。そんで九條家に匿われてる間、何もしなかったわけじゃない。掃除や買い出し、料理の他にも多くのことをやった。その中に俺と同い年だった颯の護衛の仕事があった。颯の親からしたら、同年代の友達とかそういうのを期待してたんだろうな。最初は険悪だった俺と颯だったんだが、ある事件を切っ掛けに仲良くなった。
「そこからは私が話しますから、玲音は少し横になっててくださいね」
話に区切りが着いたところで、颯が話し手を変わってくれた。
あの日は確か、学校の運動会の後でしたね。
私と玲音が通っていた学校はそれなりの有名校で、お金持ちの子供が集まる場所でもありました。その中でも、
九條家の令嬢とあれば、誘拐して身代金を要求するには充分すぎる人材でしょう?運動会の後ということもあり、私も疲れていたので、抵抗することなく捕まりましたわ。犯人グループは他にも数人誘拐しましたが、九條家の者の対応が早く、逃走することが出来ず、校舎に立て篭もることになりました。
怖くてたまりませんでしたわ。私たち人質は、教室の隅に固められて、常に2人の男が見張っていました。あまりの緊張感に、人質の1人が大泣きしてしまいまして、男が怒鳴るので、泣き止むことはなく。その時ですね、玲音の声が聞こえたのは。
「泣くな。もうすぐ助けてやるから」って、人質になっていないはずの玲音の声が聞こえた瞬間、男たちも即座に反応しましたが、時既に遅く2人の命は一瞬で刈られたのです。8歳の子供の手によって、武装した男が2人も殺されたことに、その場の誰もが固まりました。
颯はそこで区切り、玲音の方を見る
誘拐犯は相当焦っていたんだろう。とあるミスをしていた。人質を閉じ込めていた部屋には緊急時の脱出用の梯子がある教室だった。だから、俺は直ぐに九條の救出部隊に連絡をして、下を固めてもらった。そのことを子供たちにも伝えると、ようやく理解したのか、泣き出す子が続出してな。
全員を泣き止ませて、脱出させる頃には他の男達が異変を感じて戻ってきた。俺は殺した男の武器を手に時間稼ぎをした。結果、人質は全員が無傷で脱出、即座に部隊が突入して制圧。俺は時間稼ぎの際に左眼をナイフで斬られて失明。
俺の名前が表に出ることは無かったけど、子供たちの前で人を殺したから、その学校には入れず転校。と言っても、どこの学校に行くことなく颯の使用人兼護衛部隊として、屋敷で暮らしてたな。
俺が失明したのは、自分たちが逃げるのが遅かったからごめんなさいって、責任感じてるお嬢様がいたもんで、これからは俺と仲良くしてくださいって。だけど、中学卒業の日か?俺は親元に帰ることになって、今日まで颯と会うことも話すこともなかったな。
「はい。検診おしまい。念の為、今日はこのままで、明日の午前中に退院しましょうか」
「はい了解」
昔話が終わるのと同時に検診も終わったようだ。
相変わらず時間調整が上手いというか、手の抜き方を知っているというか。
「そうゆう訳だから、2人とも今日は帰るんだぞ」
「わかったよ。明日、迎えに来るから時間教えてよね」
「澪姉も連れてくる」
そう言って、聞きたいことがありそうな顔をしながら、神楽姉さんと舞は帰っていった。
「それにしても、1ヶ月近く眠ってたのか」
「そうよ。何度も心臓が止まりかけたのよ?」
「そりゃ一大事だな」
「そんな軽く言ってるけど、大変だったのよ?中途半端な魔法じゃ治らないから、私と副ギルマス数人の付きっきり。おかげで全員ランクが上がりましたわ」
「ランクは?」
「私はSS、副ギルマス全員がSランクです」
「本当に最高峰の治療ギルドじゃねぇか」
「他の患者もいますので今日のところはこれで。明日は10時に退院です」
「了解。伝えとく」
颯も退出し、1人になった空間で玲音は虚空を見つめる。その先にあるのは
スキル習得
一覧を表示しますか?
というもの。
「昔話をし始めた頃から、頭ん中に通知音がなってたけど、これのことか」
呟きながら、はい、と答え一覧を表示する。
所持スキル一覧
・戦闘術(剣術、刀術、その他複数)
・気配遮断(常中on/off)
・遮音(常中on/off)
・影
・急所探知
・索敵(on/off)
・魔力感知(常中)
・魔獣探知(常中)
・割れ目探知(常中)
・結界術
・血の従者
・血の契約
・血の武具
・自然治癒
・魔力自動回復
・血液高速生産
・分身
・霧化
・変化
・飛翔
・日光耐性(常中)
・各種状態異常耐性
・各属性耐性
・物理ダメージ半減
・魔法ダメージ軽減
「なるほど。これはまた」
冒険者時代から所持しているスキルはもちろんだが、それ以外のスキルも増えている。
スキルの詳細を見ると、戦闘スキル(パッシブ)はオンオフの切り替えができることが記されている。幾つかは常中スキルのようで、今も血液が高速で流れているのが分かる。だが、それが負担かと言うとそうでも無い。多分それは俺の種族が関係する。
ステータス
名前・玲音・B・ヴァンデル
種族・吸血鬼
称号・太陽克服する吸血鬼
年齢・0
Lv65
体力 ???????
攻撃力25000
防御力19000
瞬発力10000
判断力8000
幸運2000
「吸血鬼か…」
俺の父親は有名な退魔師だった。退魔の定義はかなり緩く、悪霊から吸血鬼、最近では魔獣なんかも追加されたくらいだ。
父の全盛期に吸血鬼である母とであった。
報告にあったのは、凶暴な吸血鬼が村人を殺し回っているという報告だけ。その報告と目撃情報を頼りに村へと向かうと、そこには傷だらけの女性の吸血鬼と殺されたであろう吸血鬼。女性の後ろには複数の村人が結界によって守られていた。
父自身も状況が理解できなかったが、村人の証言を信じ、女性の吸血鬼を助けた。
話を聞くと、女性の吸血鬼は以前からこの村で生活していたらしく、周りも吸血鬼だということを知った上で暮らしていた。共同生活をする上での条件に、村の安全を保証する代わりに、血を補償して欲しいと、お互いの利益になるものを要求していた。
そこに、別の吸血鬼がやってきて、1度は追い返したが、力をつけて来たところを返り討ちにしたらしい。
そこで、何を思ったか、父は村人全員と吸血鬼を自分の家で暮らさないか、と誘った。
当然、全員が最初は断ったが、また吸血鬼に襲われて、無事な保証がないこと、家に来れば衣食住に安全も保証することを約束した。
それから父は退魔師を続けながら、会社を立ち上げた。社員全員が退魔師という退魔専門の駆逐会社を。それからなんやかんやあって、俺が産まれたってわけ。
「母さんと同じ、太陽を克服した吸血鬼か」
嬉しいような、ちょっと寂しいような、よく分からない感情に襲われる。
「今までのステータスには種族人間になってたし、吸血衝動に駆られたこともないから、父さんと同じだと思ったんだけどなぁ」
「今は気持ちを切り替えて、スキルを検証してみるか」
そう言って気持ちを切り替え、できる範囲でスキルの検証を行う。
「魔力感知と魔獣感知は分かりやすくていいな。効果もその名の通りだし」
範囲はかなり広いらしく、今感知した限り4か所で戦闘が起きている。
「魔力感知は魔獣の魔力以外にも人が使う魔力も検知するわけか」
治療院の中でも幾つもの魔力反応がある。
「次はこの、割れ目感知?どういうことだ?言葉通りなら、次に魔獣の現れる場所がわかるってことだが」
スキルを発動してみるが、感知されることは無かった。
「よくわかんねぇな。これは常中スキルみたいだし、いつかわかるか。よし次!」
「影は自分が影に紛れて移動するのか。他にも応用が効くっぽいけど、これパッシブ扱いなのか」
「変化は...できねぇ。なんか条件とかあんのか?」
「飛翔はそのまんまだな。だけどいまいちバランスがとれねぇ。要練習か」
「霧化は...なるほどそんまんまだな。ただし、それなりに血液は消費するのか。そうなると、血の従者とか契約とか武具とかも血を消費するタイプか」
「気配遮断や遮音もそのまんま。しかも常中で、オンオフが切り替えれるのか、便利だな。基本はオフだけど」
「他のはパッシブだから、また今度だな。それにしてもこの習得可能スキル一覧と習得方法一覧って」
スキル検証をしている時に見つけた2つの項目。これはあまり触れたくないかも。
理由としては、獲得スキルに血の軍勢というものがあった。それの習得方法が"血龍解放"の習得と"裏切り奪う者と護り与える者"の習得。
"裏切り奪う者と護り与える者"の習得方法が多くの人間を裏切り血を奪い、その力を持って多くの人間を護り、従者に力を与えよ。というもの。
ざっと見た限りで、裏切りや殺しといった獲得方法のスキルも幾つかあった。
これが理由であまり触れたくはない。
「とりあえず寝よう。明日家に帰ってから父さんと母さんに相談でもしよう」
意識を閉ざし、眠りにつく。
その眠りによって、幾つかのスキルを習得することになる。
「寝ただけでスキルが増えるのかよ」
朝、目が覚めると、待ってましたと言わんばかりにスキル習得の通知音が鳴った。
「で、習得したスキルはなんだ?」
新規獲得スキルを探し出す。
「分かりやすく表示とかできないのか?」
スキルは多くないが、探すのが面倒になって考えていると、
新規獲得スキルのみ表示しますか?
「そんなことも出来るのか」
はい。呟きながら表示を切り替える。
新規獲得スキル一覧
・夜目
・不眠不休
・鑑定無効
・鑑定
・星詠
新規獲得称号
・夜に反する吸血鬼
「称号まで入手してんのかよ」
夜に反する吸血鬼・・・本来の力を発揮できる夜に眠り、朝まで起きなかった吸血鬼。(太陽克服する吸血鬼は皆入手する)
「これ、母さんも持ってるな」
そうして、スキルの確認をしていると、颯が部屋に入ってきた。
「おはようございます。玲音」
「おはよう。颯」
挨拶だけ見ると、付き合ってるみたいだな。名前呼びだし。
「家族の皆さんが迎えに来てますよ?」
「早いな。もうそんな時間か」
いつの間にか時間になっていたようで、俺も身支度を済ませる。
「あ、忘れるところでした。玲音にこれを渡そうと思っていました」
そう言いながら、懐を探る颯。
そして、目的の物を探り当て、玲音に手渡す寸前
「もう少し、自分のステータスとか隠した方がいいですよ?」
そう言い放つ颯の目は鋭く、玲音を観察するようだった。
その意味を理解し、即座に鑑定無効とパッシブスキルを全てオンに。狭い室内で距離を取り、戦闘態勢を取る。
「大丈夫ですわ。誰かに言うことはしません。むしろ、私を従者にして欲しいくらいですから」
玲音が警戒するのを当然のように受け入れ、自身は全く警戒することなく、玲音を困惑させる言葉を発する。
「何を企んでる?」
「何も企んではいませんよ。ただ、秘密を知っている人間がいるだけで楽になると思いますよ?」
聞き耳を立てられないように、遮音結界を部屋に張る。
「知られてるなら仕方がない。とりあえず、誰にも言わないでくれ。面倒な事にしかならないから」
「それは承知していますわ。それだけの力、今後のことも考えると敵に回したくは無いですし、何より、数少ない友達を失いたくはありませんから」
その言葉を聞き安心したのか、玲音は戦闘態勢を解く。息を吐き、緊張を解す玲音を見ながら、颯は思い出したように告げる。
「家族の皆さんが待っていますよ?」
「そういえばそうだった。それで、さっき渡そうとしたのはなんだったんだ?」
「あぁ、これは私の血ですわ」
先程手渡そうとした小さな瓶の中には、赤い液体が入っていた。
「まじでか?」
「まじですわ」
その瓶を受け取り、マジマジと見つめる。
「貴方のことですから、親に相談はしても、他の誰かに言うことはしない。とすると、吸血はしなくなる。なら、先に血を渡してしまえと」
読まれている。完全に読まれている。
「有難く受け取っておくよ」
「はい、そうしてください。おかわりは連絡してくださいね」
「連絡しなくて済むことを願ってるよ」
手をヒラヒラ振りながら、颯の横を通り過ぎ、治療院のロビーへと向かう。
「玲音の従者になるために、このギルドのレベルアップを計らなくては」
颯はそう意気込みながら、次の患者の部屋に向かった。
ロビーには多くの人が集まっていた。子供からお年寄りまで。幅広い世代が集まっている。
その中でも目立つ家族が1組。
1人は有名な退魔師アーノルド・B・ヴァンデル
もう1人はその退魔師のパートナーである女性。エレナ・B・ヴァンデル
もう1人、エレナと同じ位の身長と整った顔付きに、男の視線を惹きつける容姿。神楽・B・ヴァンデル。
顔付は神楽に似ているが、容姿はエレナそっくりな少女。舞・B・ヴァンデル。
その4人を微笑ましく眺める女性。神楽の同級生で舞の姉(舞がそう呼んでるだけ)。御鏡澪。
「お兄はまだなの?」
「九條のお嬢が呼びに行ったんだ。そのうち来るだろうよ」
「そうよ舞。大人しく待ちなさい」
「そう言うお母さんが1番大人しくしてよ。さっきから落ち着きがないよ」
「そんなことないわよ!」
そんな風には賑やかに、そして落ち着きなく待っている。そんな家族に声をかける
「いや、俺からすれば全員落ち着きないよ」
ひと声掛けただけで全員がこちらを向き、目を輝かせながら飛び込んでくる。
「お兄!」
「玲音!」
「愛しの玲音!」
「おぉ!バカ息子!」
姉と妹は受け止めながら、父親と母親をひらりひらりと躱していく。
「「なんで避ける!」の!」
「両親揃ってみっともねぇ」
呆れながら、姉と妹の頭を撫でる。
「おかえり。玲音」
「おう。ただいま澪」
ただ1人、普通に声をかけてくれる澪に普通な対応をする。すると、胸の2人から不満がこぼれる
「浮気?」
「お兄、舞と神楽姉がいながら。それは許されない」
「うるさい。2人はただの姉妹で、そもそも澪とは」
「今更遅い」
「全ては澪姉から聞き出した」
「は?」
澪の方を見れば、苦笑いを浮かべていた。
これは無理やり聞き出したやつだ。そう直感する。
「とりあえず、家に帰ろう。話したいこともあるし」
呆れながらも、少し声のトーンを下げて話しかける。それで何かを察してくれた両親は
「そうだな。玲音の退院祝いもしないとだし」
「お母さんの手料理沢山食べてもらわないと!」
そう言って先頭を歩いていく。
「玲音何かあった?」
何かに気付いた澪も話しかけてくる。
「今はまだ。家に帰ってからな」
それだけ答え、ロビーを出る。
それから車に乗り、家に戻るまでの間、他愛も無い話で盛り上がり、澪との関係を茶化された。
「それで?話ってのはなんだ?」
母さんの手料理を食べている最中、父さんが聞いてきた。
「なぁ、せめて食い終わってからにしない?」
「それもそうか」
食い終わってからじゃないと、後で母さんの機嫌が悪くなりそうだし。
母さん、自分の手料理を振舞ってる時に真面目な話すると機嫌を損ねるんだよな。
「それで話ってのは?」
「急かすなよ。ちゃんと話すから」
そう言ってお茶を啜る。
「色々ありすぎて説明が面倒だから、これを見てくれ」
そう言って、ステータス画面を開き、見えるように提示する。
沈黙する事1分、最初に口を開いたのは父さんだった。
「これは本当なんだな?」
「本当だ」
その問いに答えると、続く形で母さんと澪も質問をしてくる。
「澪ちゃんから産まれてくる子供は人間になるの?それとも吸血鬼?」
「吸血衝動とか大丈夫なの?」
げんこつ一閃。母さんの頭に鋭い一撃をお見舞する。
「吸血衝動の方は今のところは大丈夫」
母さんの質問は無視をする。澪は若干顔を赤くしている。かわいい!
「玲音、ステータス自動読み取り系統の機械はどうやって欺く?」
「お兄、学校とか行けるの?」
神楽姉さんと舞もまともな質問をしてくる。
「それに関しては大丈夫だろう。鑑定無効で暫くはごまかせる。それに多分」
そう区切ったタイミングで、ステータス画面に通知が表示される。
「新しいスキル?」
「多分今の話に繋がるスキルだ」
そう言いながら、新規獲得スキル一覧を開く。
・ステータス偽装
「都合よすぎじゃないか?」
そのスキルを見た瞬間、父さんはそうこぼした。
「そういうもんなんだよ。神楽姉さんと舞に昔話をした時にも色々獲得したし、寝ただけでスキルを得たからな」
「そうか。まぁその辺はいいとして、問題は」
「吸血衝動と誰から血を吸うか」
「そうね。私はアーノルドがいるから問題ないけど、玲音の場合は勝手が違ってくるでしょ?」
「あぁ。母さんの場合は普通の吸血だが、俺のは従者にするためと自身の強化のための吸血だ。気軽に行えるものじゃない」
俺の場合、普通に魔物を倒してレベルを上げる他に吸血によるレベルアップもある。と言っても1人から上がれるのは1回限りだけど。
「父さんと母さんは選択外として」
「まぁそうだろうな。俺を従者にしてどうするって話だ」
「同じ吸血鬼の私も従者には出来ないし、強化も出来ないみたいだしね」
そうやって考えていると、
「お兄、それ私じゃダメ?」
舞が立候補してきた。
「いや、ダメじゃないが」
「なら、私から吸って?」
躊躇いなく首筋を晒す。
「なぜ首筋」
「お父さんがよく、お母さんに噛ませてるのが首筋だから」
「娘の前でやるなよ」
またもや家族に呆れるしかない。
「舞が立候補するなら私もだ」
そう言って神楽姉さんも名乗り出る。
「それに、私と舞なら安心だろう?」
身内だから色々と助かるのは事実だ。
「2人がいいなら助かるよ。颯から血を渡されてて、おかわり必要なら連絡頂戴とか言われてたから。連絡しなくて済む」
懐の瓶を取り出しながら呟く。それを聞いた澪が突然立ち上がりながら捲し立てる。
「玲音!吸うなら私からにして!私を最初の従者にして!彼女より先に他の女の血を飲むなんて許さないから!」
「いや、彼女を従者にしたらダメだろう」
「いいの!アーノルドさんとエレナさんも夫婦だけど吸血してるでしょ!」
「いや、それは夫婦だからであって。しかも、従者云々関係ないし」
「いいから吸って!」
首筋を晒しながら迫ってくる。
「澪、落ち着けよ」
「お兄、ジェラシー」
「は?」
「だから、澪姉ジェラシーなの」
舞の助言で理解し、澪を見れば顔を真っ赤にしている。耳まで真っ赤だ。
「はぁ」
溜息ひとつ吐いて、澪を見つめる。
「澪、こっちおいで」
そう言って部屋まで手を引いていく。
「着いてくるなよ」
家族に釘を刺すのを忘れない。
自室で改めて2人で向かい合う。
「本当にいいんだな?」
「確認しなくていいから」
澪が恥ずかしそうに首筋を晒す。仄かに赤くなっているのが、俺の吸血衝動を呼び起こす。
「痛かったらすぐに言えよ」
澪を思い、一声かけて、首筋に牙を立てる。
「んっ」
短い嬌声を発しながら体を震わせる澪。
心配になり、やめようとするが、
「大丈夫だから続けて」
俺の体に抱き着きながら、熱の篭った声で促す。
それを聞いて俺は、澪を労りながらも血を吸い続けた。
「お兄酷い。澪姉はあんなに夢中になって吸ってたのに、なんで神楽姉と私はそんなにあっさりしてるの」
澪の吸血を終え、リビングに戻り、神楽姉さんと舞の吸血も済ませた後の第一声がこれだ。部屋に籠ってから時間がかかったからそれを考えて、言っているのだろう。
「うるさい」
ステータス画面に表示された、新たな項目を弄りながら適当に流す。
「何が表示されたの?」
まだ顔を赤くしながら、澪がステータス画面を覗き込む。
「新規獲得称号とスキルと従者一覧」
新規獲得称号
・十三星座を司る者(蛇使い座)
新規獲得スキル
・アスクレピオス
・ウロボロス
・龍種召喚
従者一覧
・御鏡澪
・神楽・B・ヴァンデル
・舞・B・ヴァンデル
「ねぇ、その称号」
澪が新規獲得称号を見て、自分のステータス画面を見せた。
そこには
新規獲得称号
・十二星座を司る者(射手座)
新規獲得スキル
・サジタリウス
・ケツァルコアトル
・ペンドラゴン
「なんで澪に?」
「あ、それなら私にも出たよお兄」
「私も出たぞ玲音」
「はぁ!?」
澪と玲音のステータス画面を見た神楽と舞もステータス画面を表示する。
そこにはちゃんと
神楽
新規獲得称号
・十二星座を司る者(乙女座)
新規獲得スキル
・ジャンヌ・ダルク
・イシュタル
・アテナ
舞
新規獲得称号
・十二星座を司る者(天秤座)
新規獲得スキル
・法廷(アヌビス、アストライア、アフロディーテ、閻魔大王)
「父さん、神楽姉さんと舞に関して、隠してることあるだろ」
称号の話になった途端、何を思ったのか分からないが、父さんの雰囲気が少し変わった。だから少し強めに質問する。
「世界が変わり、その称号が現れたということは、先代が亡くなり、均衡が崩れたということだ」
いきなりよく分からないことを言い出す。
意味がよくわからず、首を傾げる4人。
「まず、その称号について説明をしよう。神楽と舞はわかっているだろうが、2人は普通の人間じゃない。神楽は天使と人間のハーフ、舞がは小人と人間のハーフだ」
驚愕、困惑。ただ、呆然と2人を見ることしか出来ない玲音と澪。神楽と舞の表情は、悲しそうな色を隠している
「乙女座と天秤座の先代は神楽と舞の母親達だ。俺とエレナは2人に頼まれて、この2人を引き取った。もちろん神楽と舞の了承も得ている」
頷きをもって、話が事実だと答える。
「玲音、言いたいことはあるだろうが、今は話を勧めさせてくれ」
「わかった。ただ一言」
神楽と舞に向き直り、
「家族はここにいるからな」
それだけ告げて、父親の方を向く。
言われた2人は最初はキョトンとしていたが、意味を理解し嬉しそうに玲音に抱きつき、玲音はそれを引き剥がそうとする。
その光景を澪は微笑みながら見つめ、自分に現れた射手座の称号のことを考えていた。
「で、話の続きだが、その称号を持つ種族は決まっているらしい」
「らしい?」
「全種族に会ったわけじゃないんだ。だから、聞いた話によると、そうらしい」
「ということは、父さんは」
「エレナと一緒に何人かの称号持ちには出会った」
その種族と称号を思い出すように、エレナが話を引き継ぐ。
「乙女座の天使族、天秤座の小人族、魚座の人魚、牡牛座のミノタウロス、獅子座の獣人」
そこで区切り、次には衝撃の一言を言い放つ。
「蟹座、牡羊座、山羊座、水瓶座の魔者」
「魔者?」
その言葉の意味を理解できない澪が、聞き返す。
「今、この世界に侵攻してきているあの魔物を統率する、4人の王だ。奴らの話では、人の形を摸し、人語を解す者は魔族と言うらしい」
衝撃発言が続き、何も言えなくなる。だが、いち早く今の言葉の肝心な部分に玲音が気づく。
「父さん今、奴らの話ではって言ったよな?それってもしかして、以前に出会ったことがあるのか?この世界で」
その問いに、父さんはすぐに答えれない。
どれだけの時間がたったか、実際には数分程度だったかもしれないが、その場に居る者からしたら、相当に感じただろう。
息を吸い、吐き出しながら、ゆっくりと話し始めた。
「神楽と舞を引き取る前だから、10年くらい前か。俺とエレナ、それとうちの従業員数名、退魔の依頼で北欧に行った時だ。称号に共鳴するようにして、俺達は出会った。最初は、同じ称号持ち同士が出会ったもんだから、色んな世間話をしたさ。ただ、話を進めていくうちに、向こうの様子がおかしくなった。その理由は何となく察したよ。簡単な話、俺達の仕事だ。退魔師ってのは魔を退ける者のことを指す。それはつまり、自分たちの障害に成り得る存在だということ。今のうちに対処しておきたいが、こっちも同じ称号持ち。司る星座はどちらも上位2種。だから、向こうは去っていったよ。最後に、次は殺す、とだけ言って」
話を終え、エレナの用意したお茶を飲み瞳を閉ざす。
「父さん、聞きたいがある」
玲音がそう声をかければ、閉じた瞳を開け玲音に向き直る。
「魔族と出会ったのはわかった。でも、その時になんで割れ目が観測されなかった?」
「魔族は知性がある。だから、こちらに渡る際の正規の手順を踏んでやってくる。だが、魔物は知性が存在しない。その手順を踏まないで、無理矢理世界を渡ろうとすると、世界の境界が割れて危険を知らせる」
「つまり、魔族はいつの間にか現れるんだな?」
「もしかすると今、この時もどこかに侵攻しているのかもしれない」
その一言に、神楽と舞はお互いを抱くように身を寄せる。
「2つ目だけど」
玲音は2人の頭を撫でながら、2つ目の質問を口にする。
「父さんと母さんも称号持ちなのか?」
「そうだ」
アーノルドがエレナに視線を向ける。
「お母さんは玲音と同じ蛇使い座よ」
「父さんは澪ちゃんと同じ射手座だな」
司る星座を聞いた瞬間、玲音が立ち上がる。
「称号が重複してるのか?!」
「そうじゃない。移動したんだ」
「でも、父さんも母さんも死んじゃいないだろ」
称号の移動条件を聞いた訳では無いが、先の話を聞くに、前任者が死ぬことによって移動することになる。
「この称号の移動条件は2つある。1つは前任者が死亡すること。この場合、継ぐのはその子どもだ。2つ目は前任者より、能力を上手く扱えるものが誕生した時だ。この誕生というのは、産まれるという訳ではなく、後天的に力を得た場合に起こる」
「つまり、俺と澪に蛇使い座と射手座が移動したのは」
「そうでしょうね。玲音と澪ちゃんが私達より、上手く扱えると判断されたからでしょうね」
玲音と澪がそこにはないが、確かめるように手を閉じたり開いたりして見つめる。
最後に強く拳を握り、力を抜く。
これだけ、たったこれだけの動作が玲音と澪の称号に変化を齎した。しかし、これに気付くのはまだ先の話。
「最後の質問だ。各星座の司る能力、わかる範囲で教えてくれ」
「話すことは出来ない」
「どういうことだ?」
「元称号者はその能力の全容を語ることは出来ない。もちろん文面に起こすことも」
「理由は」
「恐らく、能力の悪用を防ぐためだろう」
「なるほど。父さん、母さんありがとう。色々話してくれて」
微笑みながらそう零すと、玲音はリビングのソファーで考え込むように座り込む。
その様子を見守るように、澪が隣に寄り添い、対面に神楽と舞が座り、アーノルドとエレナは嬉しそうにでも、どこか悲しそうな表情をした後、2人揃って食事の後片付けを行い、新しく全員分のお茶を用意し、同じようにソファーに座るのだった。