第13話 覚醒と討伐
カチッ、カチッ、カチッ、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。
さっきよりも長く、力強い鐘の音が響く。
玲音は、一つに戻った『霧雨』を支えに立ち上がる。その眼に力を宿して言葉を紡ぐ。
「怒りを纏いて全てを滅ぼせ、アージ・ダル・ハーカ」
玲音を赤黒いオーラが包む。
「時空を拡張しろ、ウェル・アムネウス」
玲音の周辺の景色が歪む。
「解門せよ、八咫鏡」
左眼が輝き始める。
「感情を制御しろ、フェル・カウナス」
玲音から荒ぶる殺気と怒りの感情が落ち着く。
「記憶を辿れ。シャルハウル」
「癒しと救いを、セージ・アル・ハルカ」
玲音の背後に時計が現れ、針が反時計回りになる。それが停止すると、玲音の身体は元通りに。
「統括し制御しろ、セルア・メリア」
自立稼動していた血刀が、先程より統率の取れた動きをする。
「封じ守護しろ、シュバリア・アル・セルア」
玲音の周囲の歪んだ空間を光が包む。
統括、封護、憎悪、慈愛、記憶、感情、時空の加護。その力が解放された。
更に、三種の神器が揃ったことによる神器拡張。
「運べ、八咫鏡」
ブォン
玲音の周囲の景色が歪み、周りに倒れていた澪達が居なくなる。
「もう2人だ」
磔にされていたアーノルドとエレナの姿も消える。
「貴様!何をした!?」
「見て分からないか?転移させたんだ。崩れることのない最強の防御を誇る、舞のもとへ」
舞の結界は破壊困難。時間を掛けて展開された結界は、攻撃特化のウルス、尚也、神楽、俺の同時攻撃でも3回は防げる。
3回しかと思うかもだがそれは間違いだ。
攻撃特化の4人の一撃は1つでも都市部を崩壊させる。4人揃えば、国1つ簡単に滅ぼせる力になる。それを3回も防げるのだ。最強と言って過言ではない。
「これ以上、仲間に手を出せると思うなよ」
玲音から吹き出る感情は怒り。それは覚醒を促す。
「アーサー、お前に一つ教えてやろう」
新規獲得称号 憤怒
世界を滅ぼしかねない力を宿す。七つの大罪の一つ。力の制御を誤れば、自身が滅びる諸刃の剣。だが、今の玲音に万が一など存在しない。
そして、もうひとつ。七つの大罪にはそれを司る器が存在する。
それが、アーサーの持つあの神器。
「精剣の使い方のなってない奴が、騎士王を名乗るとか巫山戯るのもいい加減にしろ」
「聖剣の使い方がなってない?そんなわけないでしょう?これ程までに力を制御し、副神器や秘めた力を振るう私の、どこがなってないと言うのですか!」
「俺が見せてやるよ。聖剣エクスカリバーの本当の力」
自身の神器を納刀し、空いた右手をアーサーに向ける。
「今開かれる扉は約束の門。古の理に縛られ、その伝承を失った聖剣。汝、その理を呪いて憤怒を纏い、輝きを失えど力はそこに。我、汝を理の円環より解き放とう。聖剣エクス・ラス・エクソード」
エクスカリバーの伝承。それは全てが真実であり、その全てが虚偽である。
エクスカリバーは妖精がアーサー王に授けたとされている。しかし、その時から神器としての力を有していた訳では無い。元はアーサー王の想いに応え精錬された人想器なのだ。それが、アーサー王と共にあり続け、多くの感情に触れ昇華したのが『神器エクスカリバー』。
神に関わりなく、人の力のみで神の領域に至った神器。しかし、そのきっかけは残酷だった。裏切られ死を目前にして、エクスカリバーは目覚めたのだから。
アーサー王は自身の騎士に裏切られただけでなく、今まで庇護していた国民にまで裏切られた。
その結果、それをトリガーにしてエクスカリバーは『神器エクスカリバー』に至った。
「ただし、そのエクスカリバーは鞘にすぎない。本当の神器はその中にある。それがこの剣、エクス・ラス・エクソード」
エクスカリバーは憤怒と言う感情を得て、もう1つの姿を手に入れた。それが『エクス・ラス・エクソード』。人を護る為の聖剣が、人を滅する為の魔剣とかす。
「アーサー王を名乗るのなら、こいつを呼び出せなくてどうする。裏切りもなく憎悪も憤怒も感じたことの無いお前が、アーサー王を名乗るなんて烏滸がましい!」
『神器精剣エクスカリバー』の刀身は純白に鍔は輝きを抑えた金色に柄は蒼。それに対し
『神器精霊聖剣エクス・ラス・エクソード』の刀身は鮮やかな紅、鍔は赤黒く、柄は黒。
『エクスカリバー』が人を護る高貴な王を表すなら、『エクス・ラス・エクソード』は人を憎む堕ちた王を表す。
「そんなの出鱈目だ!」
「認めれないなら、認めなくていい。その程度ということだからな」
挑発するように、嘲笑うように、手元の『エクソード』を空に投げる。
「この剣は不要だ」
『天叢雲』を顕現、そのまま脇構えに。
「断ち切り、宿せ、天叢雲剣」
「抜刀解刃、天埜燦纏」
リィィィン
音とともに『エクソード』が中程で切断される。切断された『エクソード』から、ドス黒い何かが溢れ出し、『天叢雲』に吸い込まれる。
吸い込まれた何かは、柄を伝い玲音の左腕に巻き付き、幾何学模様的な何かを刻み、浸透していく。
「天叢雲剣、モード・ラース」
強く握り締めると、模様が左半身に及ぶ。
「極端な攻撃力の強化。だが、怒りを制御出来なければ、暴走するだけ。それを止めるには、怒りの原因を廃すること。人間への怒りが原因なら人間を滅ぼすまで止まらない」
「神すら恐れる14の力の一つ。やはり彼に」
「宰相の言う通りになりましたね」
「宰相が言うには、彼は10の力を手にすると」
「バケモノだな」
「彼の名前が、こちらのリストに現れましたよ」
「まだ役割はないか」
「まぁおそらくは、宰相の言う通りになるんだろう」
「願わくば、その力に呑まれない事を」
玲音の左半身に模様が広がると同時に、アーサーの持つ『エクスカリバー』の輝きが弱くなる。
「格が落ちたか」
「どういうことだ!?」
「そのままの意味だ。神器ではなく、人想器に格が落ちた」
「ふざけるな!そんな出鱈目あってたまるか!?」
剣を地面に突き刺す。
「集え円卓、その力は王のもの。分けし力を再び一つに。円卓の騎士王」
「開け宝物庫。願うは七つの神器。円卓の神器」
前者のスキルの発動により、円卓の騎士が一つの霊魂となり、アーサーに宿る。
後者のスキルにより、アーサーを囲むように七つの武器が空中に留まりながら現れる。
「何故だ!?」
そうなったのは一瞬。『エクスカリバー』を抜き、構えた瞬間に全ては消えた。
「開放されたか」
『エクスカリバー』は神器であるために、『エクソード』を内に宿し、『エクソード』は怒りの象徴にアーサー王を宿した。
つまり、抜かれた『エクソード』が破壊された為、囚われていたアーサー王の魂も開放されたのだ。
「ありえない…俺は認められたはずだ…」
「認められたのは事実だろう。今もその手にあるのだから。だが、それとこれは別だ。力の根源が失われれば、その力は使えなくなるのは必然。今そこに残るのは、妖精によって精錬された聖剣エクスカリバー。ただのエクスカリバーだよ」
ただのエクスカリバー。されどエクスカリバー。妖精の核によって精錬されたソレは、魔法の触媒となる。
アーサー王の戦い方の一つ。聖剣エクスカリバーの属性付与。妖精の核に魔力を流し、命令を与える。そして、属性を重ねることで、相手に対処不能の斬撃を繰り出す。
『エクスカリバー』が消えていないということは、アーサーにアーサー王に通ずる何かがあるということ。ならば、使いこなせるはず。
「なんでそれを教える」
「気まぐれだ」
「親の仇だとしても?」
「殺したいほど憎い。だけど、お前は殺さない。アーサー王の願いもある。それに、やってもらわないといけないこともあるからな」
『エクス・ラス・エクソード』を破壊した時、アーサー王の記憶と感情、思念が流れ込んできた。そのおかげで、思念の加護が開放された。
彼はこう言った。
「彼には力と願いがある。そして、悪い方向に流れない理由も存在する。だから、殺さないで欲しい」
英雄の最後の願い。アーサー王の記憶を辿っても、数える程しかなかった願い。一つくらいは叶えてもいいだろう。
「エクスカリバー、四属性付与」
アーサーは、『エクスカリバー』に四属性を付与する。
初めての付与で四属性。才能だな。
「殺さなかったことを後悔させてやる」
「やってみろ」
後ろからの殺気!
「避ける必要も無い」
「は?」
「これで一人だな」
アーサーと話している間に、後ろへ展開していたベルラードの奇襲を避けることなく受ける。
それは、玲音の周囲の歪んだ空間が攻撃が玲音に届くのを阻害する。
首を断ち切る。
「無駄!私達には吸血鬼の力がある!」
起き上がって、挟撃できる。とジャックが飛び出るが
「下がれ!」
『軍師』が慌てて声をかけるが遅い。
「二人」
「え?」
ジャックの体を両断する。
「なんで…再生しないの」
不思議で仕方が無いようだから答えよう。
「封護の力だ。天叢雲が当たったタイミングで、お前たちの吸血鬼の力を封じた」
封護…封じ護る力は、転用すれば相手を封じる事だけにも使える。難易度は高いのだが、玲音には問題ない。
統括の加護、同一神の力により力の制御は簡単。
「今退くなら見逃す。続けるなら覚悟しろ」
玲音の気配が濃密さを増す。その場に居る全員が無意識のうちに後退る程に。
緊張感が支配する戦場に、またあの音が響く。
同時に、玲音の前に誰かが現れる。
「玲音、ここにいる人を逃がしてください!奴の眷獣が来ます!」
「っ!」
現れたのは、ムーア・ベル・アーメイア様。
そして、彼女の言う奴の眷獣とは。
「散れ!」
言葉に魔力を乗せ、対象を一時的に操る。所謂言霊。
空間の亀裂から1キロ離れたところで言霊の力が消える。
後ろを振り返ると、亀裂から眷獣が降りてくる。
「アーメイア様、あれは」
「眷獣の中で最も殲滅力に秀でる怪物。破壊の眷獣、バルザーク。四つ首の龍です」
見た目は八岐大蛇の四つ首版と言ったところ。
「倒す方法は、体内の動く核を破壊すること。弱点はありません」
「なるほど。アーメイア様、本気でやるので戻っていてください」
「…」
「この状況、ギリギリなのでしょう?」
「ご武運を」
現れた時同様、突然消える。
「玲音」
後ろから声がかけられる。
「何の用だ」
「手伝えることは」
「…戦っても死ぬだけだ。周辺の奴を避難。それと、隣接する県にも避難勧告」
「伝えよう」
アーサーは短くやり取りをして、久遠や九條のいる方へ向かう。
「お前らも退けよ」
「死ぬとは決まっていないだろう?」
「むしろお前が退け」
シルバとセルジア。こいつら馬鹿なのか?
「あいつの力、どんなもんだと思ってる?」
「大したことないだろう」
「お前より強いくらいだろう。ならば問題ない」
「マジで言ってる?」
退かないようだから、マジらしい。やらせてみるか。無理だけど。
「好きにすれば」
言い終わる前に飛び出す。
セルジアが記録保持者として、誇っているものは魔獣連続討伐数。その数124。休みも最低限に、魔獣を狩り続けた。
シルバが英雄と呼ばれる理由は、一国を滅ぼした魔獣の群れを一人で壊滅させたから。倒した数は73。この時、残りの魔獣はセルジアが倒した。
だが、この2人にはアーサーのような決定的な神器がある訳では無い。ありふれた人想器なのだ。
個人的な見解で言うなら、さっきのメンバー最強はアーサーだ。
そんなことを考えていたら、二人が吹っ飛ばされて帰ってきた。
2人とも一部欠損してるな。どちらも足か。
「お前ら、あいつのこと下に見すぎ。もう少し正確に実力を把握しろ。今までの魔獣じゃないんだぞ。あれは神の眷獣だ」
聞こえてないか。気絶してるし。
「アーサーの元に届けろ、八咫鏡」
倒れる2人の下に鏡が現れ、移動先の景色を映す。
「おまたせ玲音」
2人を送った直後、玲音の背後に気配が。
「回復したのか?」
「九條さんのおかげで」
「そうか。全員行けるんだな?」
「もちろん!配置についてるよ」
確かに、バルザークを囲むようにして、覚えのある気配が。
「シェグナ達も手伝ってくれんのか」
「驚きだよね」
「一番驚いたのは、颯と舞だろうなぁ」
「お兄、後で説明してね」
頭上から声がする。
見上げれば、『聖艘ノア』に乗る舞と颯、ルビアの姿が。
「国はどうした?」
「天照様と素戔嗚尊様、月詠様が防衛に参加されまして」
「後、試験的にもう1隻を動かすと言っていました」
「そんな簡単に動いていいのか?」
「今回は特例だそうです。アレが出てきたので」
そらそうか
「颯は回復と援護を独自の判断で!尚也、ウルス、シェグナ、神楽は俺とメインアタッカー。澪、ルビア、リジェルは援護に集中!アリアは遠隔設置できる罠を展開、可能なら援護!アイヴィア、クレハは遊撃!被害を抑える為に、短期決戦!時間は10分!行くぞ!」
「「了解!」」
澪が周囲の地形を利用し、『一矢・鏖殺』のランダム射撃で、細かく攻撃をつなげる。
アリアは『ノア』に合流し、空から罠の遠隔設置と要所要所で敵の注意を逸らす用に攻撃。
アイヴィア、クレハは動き続け、敵の注意を逸らしながら、メインアタッカーにヘイトが向いた瞬間をついて攻撃。
ルビアは、『ノア』を操り、敵の攻撃を妨害する。使用弾種は『ディバイドバレット』、『ディレイバレット』
リジェルは、僅かな隙をついて、精神に攻撃を仕掛ける。
尚也、ウルス、神楽、シェグナ、玲音の5人は、攻撃を合わせたり、一人が囮になり、別の4人が強力な攻撃を当てる。
「玲音様!来ました!」
「合わせろ!」
『ディレイバレット』の効果で、バルザークの動きが遅延された瞬間に、全員の一撃が集中する。
「五矢・貫黎隕天!」
「氷刃連迅!」
「一幕・紅!一幕開焔・獅子王!」
「リロード!バーストバレット!ファイア!」
「死を告げる魂の歌!」
「疑似神格四神!白虎!朱雀!抜拳・白爪蓮炎!」
「制限開放、神器再顕現!死神斧ラヴェリナ!洛焔!」
「刻み付け!テンペストスネーク!」
「刻手抜拳心穿つ黒き魔手」
「七罪顕現、炎帝抜刀・ソウエンノタチ!」
核の位置が動くなら、核が動く先を限定させる。
四つのうち三つの首、尻尾を切り落とし、残った頭と胴の部分を行き来するように。
「玲音!再生が早いぞ!」
「っ!?」
核が狙われ、死を悟ったのか、それに抗うようにして、再生能力が強化される。
「なら、もう一度!」
構えようとする玲音の動きが止まる。
視線は自身の手、八尺瓊勾玉に向けられて。
「封門開闢・仙珠の縛鎖」
玲音の右手から、数えられない程の勾玉が現れ、バルザークの身体を縛り付ける。
更に、それらは身体の中に侵攻。核の動きを止めた。
「断ち切れ!天叢雲剣!抜刀解刃・天埜朔鉾」
リィィィン
振り抜かれた『天叢雲』から音がする。
音が止むと、縛られ支えられていたバルザークは真っ二つになり、至る所から鉾が突き出す。
パキン
核は砕かれ、バルザークの死体は霧となって消えていく。
「おわった…か」
流石に疲れたのか、玲音は大の字で倒れる。
「解除」
一言呟くと、空を覆っていた夜と紅い月は消える。
意味を無くす程にボロボロとなっていた龍具も消え、玲音の左半身を覆う模様は左腕に縮小。『天叢雲』や『八尺瓊勾玉』もネックレスや手に戻る。
立ち上がれば、仲間達が駆け寄ってくる。
「やることは終わった。帰るか」
日本
東京奪還作戦 成功。死者多数 重傷者多数
玲音
三種の神器 『天叢雲剣』『八咫鏡』『八尺瓊勾玉』獲得
憎悪、慈愛、時空、封護、統括、記憶、感情、思念、加護解放
七つの大罪 憤怒 取得
多くの犠牲を払い、日本政府は東京奪還作戦を成功させた。
その報道は即行われ、技術者達を集め、復興作業に取り掛かる。
その裏で行われていた、玲音達との戦闘のことは知らず人々は、喜びと失った人への悲しみで満ちていた。




