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異世界戦争、界渡り〜渡る世界は馬鹿ばかり?〜  作者: 鯉狐
第1章 地球・生まれ故郷編
13/111

第12話 参戦

転移で戻った先は皇居上空。作戦が開始されているなら、上空から状況を把握できると判断したから。


「作戦は始まってる。あの魔力は、今は固まって行動中。澪達との距離は十分。こっちの作戦は順調に進んでる」


玲音は近くに反応のある仲間の元へと降下する。


「玲音!」


降下した先に居たのは、尚也ウルスペア。


「すまん遅くなった。状況はどうだ?」

「作戦は問題ないよ。1度、向こうから接触があったけど、大まかな動きを説明されただけ。誤射とか巻き込みとかを嫌ったみたい」


状況はある程度判断できるが、やはりその場にいるものに聞くのが早い。


「状況はわかった。それなら俺は、地上におりて魔獣を殲滅する。尚也達は、ある程度1箇所に固まって動いてくれ。魔力から察すると嫌な4人が来てる。それに対処するためだと思ってくれ」

「嫌な4人って言うと、騎士王、記録保持者、英雄と後は?」

「軍師か狩人」

「それは嫌だね。他の皆と合流しつつ、作戦を継続。あの魔力の方には近付かない方針で?」

「それでいい。何かあったら上空目掛けてなんか飛ばせ」

「了解。適当になんか飛ばすよ」


玲音は近くの魔獣反応へと向かって行く。


「ウルス、移動するよ」

「了解」

『東京奪還作戦に協力中の全員に通達。東京タワーにて合流。繰り返すよ、東京タワーにて合流。速やかにね』


そうして彼等は動き出す。なるべく、被害を出さないために。



「さぁ、その力を見せてくれ!八尺瓊勾玉解珠!」


『八咫鏡』が陽を表すとされ、『八尺瓊勾玉』は陰を表す。なればこの神器は玲音に最適なのだ。


太陽が陰り、月が輝く夜の帳が降りてくる。


「合わせよう。禁呪解放、朧月夜(おぼろげつや)


輝く月の横に、寄り添うかのように霞んだ紅い月。吸血鬼本来の力がさらに強化され、魔獣に対して猛威を振るう。


「我が神器は二刀一対。我が神が授け、我が神が与えた名は霧雨。此処に封印を解き、その真名を」

「守護の神格を授かり、守護神を宿す、護神刀早霧(ごしんとうさぎり)

「妖を封じ、その妖気に当てられ変質した、破魔の神格、妖刀村雨」


2度目の顕現。


「武具生成血刀」


つい最近、須佐ノ男と戦った時と同じように展開していく。

玲音の周囲に浮かぶ血刀は、増えて十刀。


「血を吸え村雨」


前回はその傷をすぐに治したが、今回は治さない。手首から滴る血は、握る柄を伝い、村雨の刀身を赤く彩る。


玲音の気配に気付いた魔獣が、数体やってくる。


それ等を一瞥し、『村雨』を無造作に振るう。

それだけの動作にも関わらず、よってきた魔獣は両断され死んでいく。


「さぁ蹂躙しようか」


玲音の瞳が鋭くなり、全身から殺気を振り撒く。


「迅雷」


あまりの殺気に付近の魔獣達が逃げようとするが、『迅雷』で急接近。背を向けた魔獣に強襲する。

更に、血刀が他の魔獣目掛け飛来。こちらも、魔獣を逃がすまいと二手に別れ挟撃。確実に一体づつ仕留めていく。

血刀も玲音も魔獣一体を仕留めるのに30秒以上の時間をかけない。それ以内に仕留め、次の標的に迫る。

2体、4体…16、20、勢いは止まらず討伐数を伸ばしていく。



「やはりお前は危険だな」


次の標的に向けて飛び出そうとした玲音に声がかかる。

同時に自身に降りかかる殺気を感じ、咄嗟に前に飛び出す。着地と同時に体の向きを変え、血刀で周囲を固める。そして目線の先、そこに居たのは想像通りの相手で


「久しいな」

「それほど間は空いていないがね」

「期間は関係ない。この日が来るのを待っていた」

「九條颯がいないのが残念ですが、貴方を殺してから行けば問題はないでしょう」


シェグナ、リジェル、アイヴィアの3人。


「血刀」


未だ滴る血を使い、血刀を増やし計20。


「シッ!」


先に動いたのは玲音。狙うはシェグナ。血刀は全てリジェルとアイヴィアの牽制に。


「迅雷!紫電!」


踏み込みと同時に『迅雷』で加速、そこに『紫電』を重ねることで、更なる加速を得る。

以前の時と違い、桁違いな速度を誇る『紫電』をシェグナは受け流せずダメージを受ける。

しかし、シェグナは冷静に反撃する。身体をすぐさま回転させ、裏拳を放つ。

玲音はそれを余裕を持って回避し、『迅雷』をもって再び接近。両者の間合いで止まる。


「電光石火」


特殊な磁場をシェグナの周りに集中させ、刀を急激に加速させ、磁場を持って跳ね返し、返す刃の速度もあげる。人間の人体、その限界を超えた速度の連撃。この技に終わりはなく、強制的に終わらせる以外手は無い。

その事を察したかは分からないが、シェグナが攻撃を受けながら拳を引き絞る。

その拳が放たれる速度は玲音の『迅雷』にも迫るほど。しかし玲音は『電光石火』の途中で、以前のような引き戻しを行い防御する。


「切り裂け!村雨!」


この一連の攻防、玲音は『村雨』しか使っていない。その理由が


「グッ」


シェグナの身体に現れる。


「厄介な力だな。その刀」

「まぁな。使い手が使い手なら諸刃の剣だ。けど、俺には関係ない。相性は最高だ」


『村雨』は使い手の血を吸い、自身の斬れ味を増し、更に任意発動の能力を使える。

その1つが、シェグナに与えた今の攻撃。血を吸った斬撃を喰らった敵に、1時間以内に与えた斬撃を復元し、もう一度ダメージを与える。


シェグナの横に、リジェルとアイヴィアが戻ってくる。それも、かなりボロボロになりながら。


「シェグナ、アレ結構厄介」

「こちらの攻撃が通りにくい上に、壊してもすぐ元に戻る。攻撃力も侮れません」

「確か血刀だったか?おそらくは玲音から血の供給を受けているのだろう」


ほんの少しの情報から正解を導き出すシェグナ。やはり、頭も相当回るようだ。


「血刀のことがわかったところで対策はできないだろうよ」


更に血刀の数は増えていく。

再び、玲音が踏み込んだ瞬間、横槍が入る。


「穿てロンゴミニアド」


玲音の背後から、シェグナ達目掛けての一撃。

シェグナ達は咄嗟に飛び退き、玲音は渡り鏡で回避する。


「おや、かすりもしないのは意外でしたね」


横槍を入れてきた本人がゆっくりと歩いてくる。


「どうもはじめまして。円卓を率いる騎士の王であり、世界ランク3位アーサー・ペンドラゴンです。短い付き合いでしょうが、以後よしなに」


玲音は周囲にも目を向ける。


「軍師の策か?」

「その通りです」


アーサーの後ろに突如現れた男。


「軍師と呼ばれています、劉です。よろしく」


更に、『軍師』を筆頭に東京奪還作戦に参加していたはずのパーティーに、円卓の騎士、更には


「英雄と記録保持者か」

「世界ランク2位、英雄シルバ」

「世界ランク1位、世界記録(ワールドレコード)保持者(ほるだー)、セルジア」


錚々たる顔ぶれ。この4人が1度に揃うことなんてまず無いだろう。


「まぁきっと、俺の援護ではなく、俺を倒すためだろうけど」

「大変なものだな玲音」


肩を竦めた玲音に対し、シェグナが少し同情する。


「なぁ、帰ってくれねぇかな?俺はさ、今こいつらとやりあってんだよ。だからさ」


言葉を区切り、スキルを1つ発動する。

スキル屍山血河、簡単に言えば、対象に強力なプレッシャーをかけるスキル


「邪魔すんなよ、殺すぞ」


全身から負のオーラを滾らせ、敵対する者全てを威圧する。

遠くから見ていた澪達でさえ、背筋がゾッとするのを感じるほどに、冷たい表情をする玲音。

しかし、彼等は引かない。


「面倒だな。1人で何人相手にすればいいんだよ」


そう言いながらも、血刀を続々と生成。凡そ120。その全てが、『早霧』により守護の神格を授かり、『村雨』によって強化されている。


「始めよう。鏖殺だ」


シェグナ達魔族陣営vs玲音vs世界ランク1.2.3位要するパーティー。三つ巴でありながら、2陣営の標的は玲音のみ。しかし、不思議なことが起きる。


「邪魔をされてイラついているのは私も同じでね」


玲音に迫る敵の数人を、殴り貫き、首をへし折る。


「どうゆう風の吹き回し?」

「お前との戦いを楽しんでいるのはお前だけではない。それに、返さねばならぬ借りがあるからな。死んでもらっては困る」

「はっ!なるほどね。そりゃいい!こういうのも面白いなぁ!」


玲音とシェグナが蹂躙していく。それを援護するリジェルとアイヴィア。敵ではあるが、実力を認めている者同士、自然と連携は取れていた。


血刀に合わせ、アイヴィアの生成した水の剣が無数に襲いかかり、負傷したものはリジェルの精神支配を受け、同士討ちを始める。そして、その効果が薄いところを玲音とシェグナが襲う。

玲音が遠距離攻撃を逸らしシェグナを守り、稼いだ時間で溜めた一撃を持って、周囲を吹き飛ばす。


化け物(かれら)に対して、人間(かれら)の被害は明らか。攻撃が直撃することはなく、掠ったところで意味はなく、玲音は自己治癒、シェグナは蟹座譲りの硬さで防ぐ。アイヴィアとリジェルは幻影を用いて攻撃を逸らす。被害が広がり、人間の戦力が減りはじめたその時、『軍師』が動く。


「神器展開兵法7」


人は人器、人想器、神器のどれかを所持する。

騎士王が『エクスカリバー』、玲音が『霧雨』、なら『軍師』の神器とは一体何か。

軍師とは戦う者では無く、戦う者を指揮する者だ。ならば、神器は何か。書物か?戦装束か?否。軍師の神器とは即ち、その頭脳にある。


劉。世界で初めての自分で戦わないハンター。その戦い方は、パーティーを指揮すること。それだけでも十分であった。しかし、本来の神器の力は兵法を率いて、敵を蹂躙すること。

神器『軍略』、過去現在未来におけるありとあらゆる戦術。それを傀儡を召喚することで実行する。人という可能性が未来を諦めなかった結晶。それがこの神器。しかし、未来は全てではなく、近くて10年程の戦術まで。


「アーサー、シルバ、セルジア!作戦開始だ!」


劉の掛け声を切っ掛けに、人間が下がり傀儡兵が前線に出てくる。


兵法7、それは一般的なもので物量作戦。

更に、傀儡兵は死体や石、砂、木からも補充することができるため、実質的に無限の物量を誇る。


「聞いていたより厄介!」


傀儡兵が戦場を埋めつくし、その後方から人間が攻撃を行う。

玲音が言ったように、かなり厄介な事になっていた。

傀儡兵は減っては増え、減っては増えの繰り返し。玲音達が消耗するのに比べ、人間側が消耗するのは矢、弾、魔力といったもの。このままでは、いずれ限界を迎え為す術もなく殺される。

だから玲音は、指示を出す。


「射撃開始!」


戦場を超えて響く声を合図に、玲音達の後方から幾つもの魔力弾が飛来する。それ等は後方で攻撃を行う敵の急所に違わず命中し数を減らす。


「玲音の仲間ですか」

「軍師、どうする」

「問題ありません。壁役、前へ」


指示に従い、盾を持った壁役、所謂タンクが遠距離攻撃持ちの前に陣取る。

それにより、明らかに数の減りが遅くなった。

1人にフォーカスされたり、偏差撃ちにより何人かは殺されていくが、それでも先程よりは良くなっていた。


「神器展開兵法4」


兵法4、傀儡兵のサイズを小さくし、小回りの効く軍勢をもって撹乱する。


敵の攻撃の速度が上がり、アイヴィアとリジェルが被弾し始める。シェグナは2人を守るように立ち回り、玲音もまた変化した速度に戸惑いながらも防御に徹する。


「速度は見切った!龍具召喚スピードモード!」


以前使った時と同じように、動きを阻害せず、玲音の動きを加速させてくれる鎧を身に纏う。


血刀の幾つかをシェグナの援護に回し、残りと自身で周囲の敵を再度殲滅し始める。それに合わせるようにして、後方からの援護が激しくなる。


「二矢・雨矢鳥(あまやどり)!」


後方、BD-42セリスを装備し援護を行う中、澪だけが神器を構え、その力を行使する。


放たれた矢は、鳥を形取り空を翔る。そして狙う先、玲音と敵対する者達の上空、その鳥は弾け矢を振り撒く。

フレシェット弾と言う兵器をモチーフに澪が編み出した対軍攻撃。属性も爆破属性を付与しているため、被害は甚大だ。


「これは!」

「澪の援護だろうな!弓術だけで言えば、世界最強クラス、その上視力は強化無しでも化け物。多分この会話も聞こえてる!」

「それは確かに化け物だな!」


笑う2人の後頭部に、先の言葉を肯定するように魔力の弾丸が当たる。弾丸と言っても、デコピン程度の威力だが。


「まじか」


シェグナは冗談だと思っていたようで、今のには相当驚かされている。リジェルとアイヴィアも同じように驚いている。


「澪を侮るなよ?うちの序列じゃ下の方だが、それは大半が近距離戦闘を主にしているからだ。遠距離だけの戦いなら、俺でも勝てねぇよ」


事実、過去に行ってきた特訓で、玲音は弓を使って勝てた試しはなく、魔法という遠距離攻撃を得ても勝てていない。それ程までに、澪の実力は極まっている。


「ならば!兵法16!」


先程まで小さかった傀儡兵が集まり1つになる。

玲音達を覆うほどに大きくなると、その影から小さな傀儡を生み出す。しかし、


「いやそれは愚策だろ」


巨大な傀儡は一瞬にして砕け散る。


「四矢・破砕(はさい)


ただ貫き破壊することに特化したその一撃は、澪の想定では舞の結界を4枚は同時に貫けると言う。それに対し舞は2枚で防ぐと意気込んでいた。


「軍師!」

「わかっています!想像以上に向こうが厄介なんです!騎士王!そろそろ円卓を動かしてください!」

「了解した」

「同時に、久遠に連絡をします」

「やるのか?」

「当然です。ラードとジャックにも伝えます」


戦況は目まぐるしく変化する。そして、破滅へのカウントダウンが始まる。



「界人、龍千」

「作戦開始か?」

「そうだ。ベルラードとジャックの方も動き出したようだ」

「ではこちらも動くとしようか」


不敵に笑う3人の後ろには、十字架に吊るされる人影と、周囲を囲む傀儡兵と武装した部隊の影。


誰も知らぬうちに、カウントダウンは進み続ける。




傀儡兵が埋めつくしていた戦場は、その大半を失っていた。

澪の「雨矢鳥」、尚也達の狙撃、玲音の血刀、シェグナの広範囲攻撃、アイヴィアの範囲攻撃、それに合わせたリジェルの精神支配。

傀儡兵だけでなく、後ろからの攻撃に徹していた人間達にまで、被害は拡大していた。


『軍師』劉は、次の一手を講じているが、焦りを感じていた。無限に生み出る傀儡を前に、焦りもせず、疲労もしない。被害もなく、むしろ此方の被害の方が酷い。

現在は、円卓の騎士を前衛に、傀儡兵を遊撃に、それ以外を後衛にして戦況を保っている。しかし、劣勢なのに変わりはない。


玲音のヘイトコントロール、射線管理、位置の把握、刀術、格闘術、古武術等の戦闘技術。そこにシェグナの攻撃力、防御力、攻撃範囲を以て2人で12人を相手にしていた。


アイヴィアとリジェルも、後方から澪達の援護があるとはいえ、無限に生み出る傀儡と人間達を相手に、無傷で立ち回る。


「久遠はまだですか!?」


流石の『軍師』も焦りを隠せない。未だ、アーサー王と英雄、記録保持者が動いていないとはいえ状況が一方的すぎる。


ピシッ


そんな音が唐突に戦場に響く。

玲音はスキルによりその異常を察知し、シェグナ達3人は覚えのあるそれに、空を見上げる。


それと同時に、空が割れた。そこから落ちてくるのは当然魔獣。そのどれもが見たことの無い新種。


「おいおい、どんだけ来るんだよ!」


魔獣は空から落ちてくる。その勢いは衰えるどころか増す一方。戦場は混沌と化す。



「シェグナ!これおかしい!」

「そうだな!普通は私達は狙ってこないはずだ」

「シェグナ!こいつら本当にお前らの部下?なのか?!今までの魔獣と気配とか全然違うけど!」

「何?言われてみれば確かに。だとしたらこいつらは?」

「あーくそ!そういう事か!シェグナ、お前のとこもう1人称号持ちいたよな?」

「あぁ。半封印状態だがな」

「何故封印した?」

「力の制御が効かなくなっていたからだ」

「アイヴィア、そのもう1人との関係は?」

「姉妹だけど」

「何?どういうこと?」

「ステータス確認しろ」

「えっ」

「なっ」

「嘘でしょ」


今3人の目に見えているのは、アイヴィアの称号欄にある、''十二星座を司る者 牡牛座"。


「先代牡牛座が死んだから、次代に受け継がれた。というより、託されたに近そうだな」


迫り来る魔獣を対処しながら玲音は空を見上げる。

そこから舞い降りる何かを見つめ。


降りてくる何かは泣いていた。自分の終わりを感じ取り、少しでも被害を少なくするために称号を移し、弱体化を図った。


「簒奪されたか」


??ヴィ・???

ステータス不明・称号、()()()()()()、嘆きの魔族、()()()()()()()()


「人類最終試練ね…」


自然と刀を持つ手に力が入る。


「姉さん…」


崩れ落ち、泣いているアイヴィアを抱き寄せ、リジェルも泣いていた。シェグナも泣きたいのだろう。堪えているのがわかる。その拳から血が流れ出るほど。


カチッ


血刀抜刀(ちがたなばっとう)千蓮万華(せんれんばんか)


瞬時に玲音の周りに千の血刀が現れ、戦場を舞い踊る。

どういう理屈か、血刀に殺された魔獣達の身体が花となって散っていく。


「アイヴィアの姉、待ってろ今解放する」


カチッ、カチッ、ゴーン、ゴーン、ゴーン


小さな呟きは、鐘の音によって掻き消される。


「力を貸せ、セージ・アル・ハルカ」


玲音を優しい光が包み込む。その光は戦場を伝播し、その場の全員が玲音に視線を向ける。


「村雨、俺の血を持っていけ」


目の前の敵に集中している為、視線に気付かない玲音は『村雨』の力を解放する。


「魔を祓いし神刀、破魔の神格を此処に」


『村雨』の刀身が紅く鮮やかに染まっていく。


「疾風迅雷」


全員が玲音を見失う。玲音が『疾風』と『迅雷』を掛け合わせた為、速度が音を置き去りにする。


「抜刀村雨・破魔の太刀」


一瞬で背後に移動した玲音は、構えも取らずに『村雨』を振るう。

シンプルが故に魔に対して破格の効果を持つ一撃。



シルヴィ・クリス


彼女の簒奪された名前が戻ってくる。


「ありがとう。私を助けてくれて」

「助けた覚えはない。殺すつもりだったのに、お前が残ったんだよ。俺の腕が鈍ったかな」


感謝の言葉を素直に受け取らない玲音。


「ふふっ。そうですか。なら鍛錬を怠らないことですね」

「余計なお世話だ。それより、彼奴らに挨拶しとけよ。邪魔はさせないから」

「ありがとうございます」


彼女から離れ、玲音は周囲の魔獣と傀儡兵を駆逐する。


「アイヴィア」

「姉さん!」


シルヴィが声をかけると、アイヴィアが胸へと飛び込んでいく。それを受止め、シルヴィは笑みを浮かべる。


「身体は変化しても、その癖は昔のままですね」

「だって!」

「泣いたらダメですよ。お姉ちゃんも悲しくなっちゃう」

「ッ…うん」

「いい子です」


俯き、口を固く閉ざし涙を堪える。シルヴィはその頭をゆっくり優しく撫でる。


「シルヴィ」

「お久しぶりですシェグナ。リジェルも」

「久しい」

「逝くのだな?」

「はい。あの方のおかげでこうしてられますが、もうすぐ限界でしょう」

「そうか。玲音にまた借りが出来てしまったな」

「ふふっ。貴方のそれも変わらないのですね」

「お前に教わったことだぞ」

「えぇそうでした。最後に私から1つ」

「聞こう」

「彼に、玲音達に協力しなさい。彼は全ての答えを知っている。私達の変化の原因と討つべき敵の存在を」

「…」

「1度しっかりと話すことをオススメしますよ」

「シルヴィ、また会える?」

「そう、ですね。いつかきっと」

「わかった。なら、さよならは言わない。またね」

「はい。またいつか。リジェル。シェグナも」

「あぁ、またどこかで」

「アイヴィア、そろそろ離してください。お姉ちゃん苦しいです」

「本当にまた会える?」

「アイヴィアが良い子なら必ず」

「……わかった。また会えるの待ってるから!」


アイヴィアは涙を振り払うように顔を上げる。


「またね、お姉ちゃん!」

「またね、アイヴィア」


シルヴィ・クリスの存在が消えていく。その身体を光の粒へと変えて、天へと昇っていく。


「ありがとう、玲音」


その小さな呟きは、戦闘音に掻き消される。それでも、玲音の耳には届いた。


「セージ・アル・ハルカ解除」


玲音を包み込む光が消え、辺りはまた暗くなる。


「玲音」

「どうした」

「貴様に話がある」

「姉さんが言っていた。貴方なら答えを知っていると」

「私達には記憶が欠けている。その原因を貴方が知っているなら」

「俺1人で全てを説明するのは難しい。だが、この戦いが終わった後でいいなら、全てを知る人を紹介する」

「助かる」

「気にするな。俺もお前たちの事がいくつか気になってるからな」


肩を並べる。背中を預ける。敵であるはずのシェグナ達に、躊躇いなくそれを行う。

普通はできないだろう。後ろから殺られるかもしれないのだから。それでも玲音は躊躇わない。



「しぶといですね!次の作戦です!例の部隊を」


また1つカウントダウンが進んでいく。



「変だな」

「感じるか?」

「あぁ。攻撃が緩くなった。それに包囲網も」


いきなり攻撃の手が緩くなり、包囲する戦力が減っている。ついさっきまで、無限に湧き出る水の如く居た傀儡兵も、その数を減らしていく。


「嫌な予感がする」


そして、その予感は的中する。


包囲が形を変え、傀儡兵は退路を塞ぐように固まる。代わりに、玲音達の前に現れたのは


「少年兵、しかも孤児か」


少年兵を盾にするようにして、レイドパーティーが展開する。


「下衆が」

「人間とはこうも醜くなれるのか」

「失礼ですね。勝つ為に手段を選ばないだけです。それに、孤児なんて育てるだけ無駄でしょう?お金の節約ですよ」


玲音の手に力が篭もる。


「あぁそれと、丁度着いたようです」


『軍師』が指し示す方向には



「お前ら!!」


玲音の父と母、アーノルドとエレナが磔にされていた。


「何故あの二人が捕まっている」

「どれだけ人数がいようと、捕まるなんてことは無いはず」

「それに吸血鬼である彼女なら」


その疑問は最もだ。だが、理由は簡単。


「吸血鬼封じの結界。それも、父さんと母さんが編み出した、対魔封じの結界の最高峰。それに退魔師ベルラード!」

「覚えてくれてるとは嬉しいねぇ。玲音の坊主」

「うるさい黙れ」

「つれないねぇ〜。昔はよく稽古したのに」


うるさい、本当にうるさい。コイツは父さんの知り合い、というかライバル。父さんの次に強いと言われている退魔師だ。普通に戦っても、母さんじゃ勝ち目が無い、と言わせるほど。


「あ、それとな、俺だけじゃないんだわ」


背後からの殺気。


咄嗟にしゃがんで一撃を回避。迫る二撃目を足で打ち上げ、強制的に距離を取らせる。


「なんでお前みたいなのがここにいる」

「知れたことを」


暗殺者ジャック、暗殺依頼は必ず成功される。どれだけ警備をおこうが関係無い。密室だろうと、入口を塞ごうと意味は無く、狙われたら死を意味する。


ベルラードもジャックも対魔のプロ。その2人に加えて対魔結界、やられたよ。素直に言おう、負けたと。


「どうかな?玲音君、私達の一手は」

「九條龍千…。素直に負けたと言っておきます」

「そうか。それは良かった」


あぁクソ!本当に油断した。今から逃げる?実の親を見殺しにして?そんなこと…


「玲音!構うな!」

「貴方の成すべきことを成しなさい!」

「黙ってろ!」


力を振り絞り、声を出す父と母に、近くにいた男が剣を突き刺す。

くぐもった声を押し殺し、2人は眼で訴える。


「行け」


その一言を。


「逃がしませんけどね?」


玲音をベルラード、ジャック、アーサー、シルバ、セルジアが襲い掛かる。

シェグナとアイヴィア、リジェルには円卓の騎士と傀儡兵が。


玲音も一騎当千の実力者ではあるが、同程度かそれ以上の相手を5人同時に相手取るのは無理だ。

それでも、血刀との連携で負傷は最低限に抑える。


アーサー、シルバ、セルジアをメインアタッカーに、隙をついてジャックとベルラード。

共闘が初めてとは思えない連携である。


やばいな。こっちのスタミナがもたねぇ。


玲音も疲れにくいだけで、疲れない訳では無い。疲労は蓄積するのだ。その限界が近づいている。


「疾風迅雷!」


先程使った、『疾風』と『迅雷』の合わせ技。

それをもって、ベルラードを強襲。


「鳴神!」


4連撃。ベルラードを戦闘不能に


「残念だな」

「は?」


一瞬の硬直が命取り。その隙を見逃さず、シルバ、セルジア、アーサーの一撃が直撃する。


「ガハッ」


血を吐き、大地を転がる。今の攻撃だけで、左腕欠損、肋骨、胸骨にヒビ割れ。左耳の聴覚低下。


「ま、じかよ。守護神の加護の上からこれとか、グッ」


木にぶつかった為勢いが止まり、そのまま木に寄りかかる。


「主よ大丈夫か?」

「ヴェルウェナか?大丈夫に見えるか?この状況」

「見えん」

「だろうよ。血刀を弾いて、一瞬で三つの斬撃を合わせる。強すぎ」


ヴェルウェナの加護のおかげで、血刀が自動防御をするのだが、今回はそれを弾かれた。

それぞれの攻撃に一刀ずつ。それが全て弾かれ、攻撃のタイミングを合わせられた。

そうすると対応が難しい。弾かれてから、次の攻撃までが短いと、加護の反応が鈍くなる。


「ヴェルウェナ戻ってろ」


霊体化していたヴェルウェナに戻るように言う。

消えたのに合わせて、アーサー達が現れる。

シェグナとアイヴィア、リジェルを引き摺って。


「お仲間だぞ」


そう言って俺の方に投げてくる。


「生きてるか?」


問うが、返事はない。死んではいないが、重症だな。


「それと、お前にいいもの見せてやる」


指差す先、玲音の視線の先には、磔にされた両親。そして、2人を囲うように広がる炎。


「おい、まさか!?」

「よく見ておけよ?火炙りだ」


油を投下され、勢いを増す炎が、アーノルドとエレナの身体を包み込む。


酸素が急激に無くなり、悲鳴は聞こえない。

ベルラードとジャックに奪われた吸血鬼の力が無い為、太陽の光で更に身体を焼かれる。


アーノルドもエレナも同じように焼かれていく。


エレナとアーノルドは命の契約を結んでいる。

お互いの命はお互いに繋がる。片方が負った怪我は、もう片方にも現れる。つまり今の場合は、痛みが二重になる。


「やめろ!」


足に力を込め、助け出そうとするが


「そこに這いつくばっていろ」


セルジアに邪魔をされる。


「なめるなァ!」


セルジアを押し退け、更に進もうとして、失敗する。

左脚を斬られたからだ。後ろに引く際に、セルジアに斬られた。


「クッ」


倒れたところを足蹴り。元の位置に戻される。



「死んだようですね」


何も出来ず、這いつくばる。10分程経ったところで、アーサーが告げる。


玲音には聞こえていた心音が、今は聞こえなくなっている。


涙を零すことさえ出来ない。できることは、唇をかみ締め、右手を強く握ることだけ。


「そろそろ劉も来る頃ですね」


その言葉のすぐ後、森を掻き分けて『軍師』が現れる。


「彼の仲間を捕獲しましたよ」


縄に縛り、拘束された尚也、澪、ウルス、クレハ、神楽、アリアが玲音の周りに投げられる。


全員意識はあるようだが、シェグナ達同様重症だ。


「手こずらせてくれましたが、意外と呆気ないものですね」

「まぁいいさ。早く終わらせよう」

「殺して、こいつの持つ天叢雲剣を頂こう」

「私は八咫鏡で」

「俺は吸血鬼の力を貰おうかな」

「私は女の血を」

「八尺瓊勾玉は僕が貰いますね」


アーサーが天叢雲を、軍師が八咫鏡を、ベルラードが俺の力を、ジャックが澪とアリアとクレハの血を、セルジアが八尺瓊勾玉を求めて武器を振りかざす。



こんな奴らに負けるのが悔しい。

家族を、仲間を守れなかった。悔しい!

父と母を巻き込むことが許せない!

裏切り、人質を用意することが許せない!

こいつらが憎い!何よりも未熟な自分が許せない!


カチッ、カチッ、カチッ、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。




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