102話 焦燥と進展と尚早
「…倒したのにアナウンスがない?」
「そもそも、戦闘前からアナウンスはなかった」
「警戒態勢を維持」
始祖の王が終焉を齎す の効果は消えている。セレスも同じく解除しているので、問題は無いはず。
レオンの敵味方表示も、味方表記に戻っている。
「倒しても身体が残ってる。つまり、まだ何かあるよ」
無窮・水鏡を維持しつつ、更に複数の矢を周囲に展開。自らも矢を番え、レオンに狙いを定める。
「血界門」
突如として現れた、レオンとミドガルズオルムを取り囲む血の壁。
その壁が徐々に消えていく。壁が消えると、そこにレオンとミドガルズオルムの姿は無く、セレス達レオン一派の姿も無くなっていた。
ワールドアナウンス
森人国との戦争が終結。
戦後処理に移ります。
ここから先、プレイヤーの介入は不可能です。
全プレイヤーにSP.BP10を付与
勝利国側プレイヤーにSP.BP20を付与、5Lv分の経験値を付与
敗戦国側プレイヤーにSP.BP5を付与、2Lv分の経験値を付与
全プレイヤーに任意素材交換券を5枚付与。交換券の使用期限はリアル1ヶ月です。
「...セレス、説明頼む」
「禁忌と厄災やら大罪やらの力に飲み込まれて暴走」
「もうそこまで...」
「暫く戦線を離れることを勧めるわ」
「駄目だ。これからやらないといけないこともある。それに...世界の崩壊が始まってる」
シークレットアナウンス
ワールドクエストの進行度が56%に上昇。
始祖の血たるプレイヤーに情報開示
世界崩壊進行度12%
・魔物の出現頻度上昇
・魔物のレベル一律100上昇
・魔力災害の発生(噴火、津波、地震、台風)
・四天魔、三魔龍の活発な行動
・大罪、厄災の目覚め
・シナリオダンジョン天樹、地樹の発生
・シナリオクエスト「魔帝国」発生
・複数の未確認ダンジョンにてダンジョンブレイクが発生
・ダンジョンブレイクに伴いシナリオクエスト「救援」が発生
・エクストラクエスト「魔法の極致」発生
「ワールドクエストが進行するということは、世界の崩壊の進行度が進むことになる。そして、これからの攻略次第では進行度が逆転する可能性もある。崩壊するより先に攻略を済まさなければならない」
「あなた、そのうち死ぬわよ」
「もう少しなんだ...もう少しで休めるから」
「...一人で抱え込み過ぎよ。手伝うから、少し休みなさい」
「...悪いな。リストに纏めてある、全配下使ってすすめてくれ」
レオンの意識が沈んでいく。
それを見送って、セレスは振り返る。
その視線の先には、吸血鬼達ナンバーズ、リズを筆頭に影と血の龍の軍団、ヴェルウェナに制御された血の鬼達、リック、ジルとそのクランメンバーそして風音と凛。
「主の命令よ。まずは...建国の準備をするわ。リック、ジル、風音、凛は各国に連絡を取って、確認と認証の印を貰ってきて。ナンバーズと百鬼はこの島の調整。これまでの倍以上の速度で進めなさい。リズは軍団を使って各地の調査。異常や異変がある土地を素早く見つけて共有して。私はこれから太古の龍達と三天狼に会ってくるわ」
「ワールドクエストの進行か...」
「色々あったけど、なんだか微妙な内容?」
「そうとも言い切れないんですよね。各地に影響があるので、急いで調査しないとこの世界の住人に被害が及ぶ可能性があります」
「こういう時に風音は居ないのか?」
「レオンと一緒に消えてるわね。リックの所も」
「仕方ない。とりあえず風を識るに代理で指示を出そう。掲示板や他ギルドやクランに協力を要請しつつワールドクエスト進行による影響の調査を」
クラン解放者が動くと、その同盟クランやギルドが連携して追従する。
「先導者所属プレイヤーに一斉送信。未開拓の地を優先的に探索。ダンジョンや村の発見を急務」
「ミオ、私達はどうする?」
サブマスター権限で所属プレイヤーにメッセージを送り指示を出す。
「とりあえずは天空城と地下神殿の捜索。それに並行して龍王の調査。あと、全プレイヤーに協力して欲しいんだけど、レオンとその配下達、リックと風音を見つけ次第捕獲して」
リアルでも問い詰めるが、こちらでも問い詰めて、仲間達の前で洗いざらい喋ってもらわないと
「レオンがまた居ない!?」
「レオンの奴なら、いつの間にか居なくなってたわ」
「ムー様の姿もありませんから、恐らくはお二人で何処かへ」
「...」
「一応、お部屋には書き置きがありました」
ルビアはそう言って、テーブルの上に1枚の手紙を置く。
差出人は玲音、宛先には澪と神楽、舞の名前。
手紙の内容はシンプルだった。
『何があっても良いように備えろ』
その一文のみ。
「レオンはそろそろ本気で怒られるべきだろ」
「お兄、学校どうするつもりなんだろ」
「学校からも逃げてそうだな」
「だとして、どちらに滞在を?先日まではノアを利用していましたが」
「今はノア展開してないものね」
「はい。ノアを格納する際、中に人の反応はありませんでした。それに、我々の神器の格納庫に人は入りませんから」
「で、なんで隠れたんですか?」
「聞かなくても見りゃわかるだろ」
「えぇまぁ。だからこそ見つかって、監禁されればいいのにと思いました」
「そうなったらお前と宰相の依頼がこなせないだろ」
「それもまぁそうですね。とりあえず、権能で隠蔽はできてるので、早く寝てください。あっち側も心配無用ですから」
「わかってる…」
玲音とムーがいるのは、澪達もいる家、その自室。
ムーの権能による隠蔽で玲音の姿や気配、声や音、その他そこにいると認識出来る要素全てを遮断。そこに居るのに、そこに居ない。そんな状況を作り出している。
「吸収の速度が早すぎますね。身体に馴染む前に次から次へと……」
グレーゴルの簒奪と破壊の権能、その副次効果による侵食。玲音を蝕む破壊衝動と精神汚染。
グレーゴルの直属と言って差支えの無い七罪や七厄災を立て続けに討伐し、暴食の力や神代による吸収、浄化を行う。
「…元からその身に奴の力を備えているからとはいえ、そちらに均衡が傾かないとは言い切れない。こんな博打、普通はしませんよ」
宰相に提示されたこの世界の救済方法。七罪や七厄災をただ討伐しただけでは、その因子は世界を巡り、また他の誰かや何かに継承され、新たな脅威となる。倒しても終わらぬ戦いにするくらいなら、力をコントロール出来る奴がその身に宿し制御してしまえばいい。
「その結果が玲音の神格化の促進。既に寿命という概念は消え去り、老化も恐らく停滞。神と同様、不老不死。神としての権能もその概要が定まり、今形を成そうとしている」
以前から聞かされていた玲音の神としての権能。生と死。全ての存在の絶対法則を司る。
「命無きモノにも生を与え、命無きモノにも死を与える。我々、神々すらも殺す最凶の力」
その権能にグレーゴルの権能が影響しているのは間違いない。アーメイアとグレーゴルの二柱の神の権能が拮抗していたからこそ…
夢を見た
遠い世界の話のよう
でも、それは身近な世界の話
世界の均衡が崩れ
この世に存在し得ないモノたち
奪い喰らい壊し滅ぼす
世界の終焉
一つの世界だけでなく
連鎖的に三つ
「俺はこの世界を知っている」
そう、お前の知る世界の未来
時は待たぬ
死は待たぬ
滅びもまた、待ちはしない
足掻き苦しみ、その先に何を見い出す
さぁ、止まっている暇は無いぞ
起きろ我らが同胞、ムーア・ディア・アストラル
「んッ」
意識が浮上すると同時、自身に纏わりつく不快感に身を捩り、それを取り払うように背を伸ばす。
「どれくらい経った?」
玲音の呟きに答えたのは、ずっとそばに居たムー。
「3日です」
「そんなに寝てたのか」
「それほど消耗していたということでしょう。力の均衡も落ち着いたようですし、これでよかったのでは?」
「なんとも言えないな…」
一度認識してしまえば後は簡単。その力の根源が未だ燻り、またの機会を伺っているのを感じ取る。今はただ息を潜めているだけ。
「厄介な力だな」
もう一度横になりながら呟く。
「破壊の権能の恐ろしさは、自身が破壊することにあるのではなく、他人の持つ破壊衝動を増幅させること。絶対に表に出ることの無いそれを強制的に覚醒させ、暴走状態にする。そこに簒奪の権能で意思を奪われでもしたら…」
「その結果が魔獣ですか?」
「だろうな」
「しかし、それならシェグナ達のことがおかしくなりませんか?」
「シェグナ達は魔族、意思持つ魔獣。てかそもそも魔獣も元は人間だしな。魔族ってのは、恐らく簒奪や破壊の権能を受け、適合し何かを奪われた結果だと思うんだよな。そこから更に意思や人間性?なんかを奪われ、形を奪われた。その果てが魔獣……かなぁ」
「わかってないのですか」
「権能自体を持ってないからな。影響を受けたことから来る推測だよ」
「むしろ、権能の効果を多少受けただけでそこまで推測できるのがおかしいと思うのですが?」
ムーの言うこともわかる。
何故推測できるのか…
玲音は戦闘に関しては天才だ。
4歳の頃から武術を習い、武器に触れ、人を殺す事を覚えた。
玲音の最初の師であるセバスは、玲音を「学習の鬼才」と称す
護衛隊長レックスは、「スケッチブック」と称し
実の親であるアーノルドとエレナは揃ってこう称した
「剣聖」と
それほどまでに武に関する事には天才的に回転が早いが、それ以外は別に凡人、普通なのだ。
だから、グレーゴルの権能の能力についても推測にしかならない。しかし、戦ってきたこれまでの相手や、自身が受けた影響から大まかな予想を立てることが出来た。
「しかし、その推測が正しいなら、なぜ一度に全てを奪わないのでしょうか?」
「一度に全ては奪えない、奪わない、まだ成長途中が考えられる…かな」
「神の権能が成長するなんてことありますか?」
「いや、それは神の権能持ちのムーがわからんのか?」
「もし、権能が成長するとして、考えられるとしたら、権能を使用していくから成長するですよね?」
「まぁそうだろうな」
「私はその権能の特殊性から使用機会がないんですよ」
ムーア・ベル・アーメイア、その神の権能は概念。とても大雑把な括りであるが、その効果は凄まじいモノだ。
〇〇の概念を消失させたり、〇〇の概念を与えたりすることが出来る。
人という概念を消失させれば、人という括りにあるものは全て消え失せる。
酸素という概念が消えれば、人は生きていけない。
簒奪の権能が奪おうと思えば対象の全てを奪うことが可能なように、概念の権能もまた、全ての概念を司る。
外なる神の持つ権能とはそういうものなのだ。
そして、概念という扱いにくい権能を簡単には使えない。
しかし、簒奪の権能は概念の権能に比べて扱いやすく、使用回数もかなりのものだ。つまり、簒奪の権能は成長する可能性が僅かながらある。
「まぁ、その辺は考えても仕方ない。今は、拠点を変えないと」
「変える必要はあるんですか?」
「今暫くは姿を隠さないとだからな」
「……怒られたくないから?」
「ちげぇよ。周囲に人を置きたくないんだよ。暴走した時に巻き込みたくない」
「暴走のことを考えるなら、誰かいた方が」
「向こうの世界でならそうかもだが、こっちで暴走しようもんなら、関係ない人を巻き込むだろ。エルニなら、最悪亜空間に隔離できるだろ」
「それで何とかなりますか?」
「向こうで暴走してわかった。今なら、暴走しても使えるのは俺個人の力だけだ。外から得た、神器や権能は使えない。俺の持つ奥義で、亜空間を破れるのは今はない。そして、鏡が使えないなら」
「閉じ込めることが出来るのですね。その後はどうするのですか?」
「俺が正気を取り戻せる事を祈って放置」
現状こうすることしか出来ない。恐らく、権能全開のムーと能力をフル活用した澪、神楽、舞の4人では良くて引き分け。下手をすれば全滅…ルビアとアイヴィアが加われば、引き分け以上一時的抑制くらいだろう。
「自惚れ…じゃなさそうなのがタチ悪いですね」
「伊達に最強を名乗ってる訳じゃないからな」
「…全力のお前は奴より強いのか?」
「……」
それは気になるか
「対峙してないからはっきり言えない。だが、現状での話なら簡単だ。負ける。勝率はこれっぽっちもない」
「それは権能の有無ですか?」
「いや、単純な力量不足。格が足りないとも言う」
神としての格。ムーと同列であるが、それはムーが戦闘系の権能を持つ神ではないから。
単純な格で言えば、ムーより下の奴も俺も、技術や戦闘経験、その他にもムーより上の項目があるだろう。それを総合してみれば、グレーゴル、俺、ムーの順番になるのは必然だ。
「……例え、俺の配下や仲間たち全員で挑んだとしても、その勝率に変動はない」




