101話 追いかける背中と初めての感情
セレスに襲い掛かるレオン。そこへ割り込む人影。
「フォートレス!シールドカノン!」
フォートレスでレオンをその盾で受け止め、踏み込んだ衝撃とレオンの攻撃をそのまま返す、シールドカノン。
暴走状態であっても、流石のレオンだ。吹き飛ばされながらも体勢を整え、着地と同時にまた飛び出す。
「ヘイストハウル!」
タゲがセレスから変わらないのを確認して、ベルリンはタゲを自分に固定するスキルを使用する。
「効いてない!」
しかし、その効果が発揮されていないことをすぐに悟った。
「この敵厄介すぎますよ!」
セレスを執拗に狙うレオンの攻撃を、盾や剣を上手く利用して防ぐ。
「チェーンバード!」
レオンの頭上から一羽の鳥が急降下。その脚に命中すると、鎖に姿を変え、地面に縫いつける。
「デュアル・インパクトスタンプ!」
「メテオスラッシュ!」
「アサシンレイド!」
「バーストシールド」
レオンが抜けるまでの僅かな隙間に、カクラ、マイ、カイドウ、シェンの4人が攻撃を命中させる。
「チェーンバードはもう通じない!人数掛けて隙を作るよ!」
僅かな隙を作ったミオが声を張上げる。
レオンに対しては、同じ技が通じると思うな。
既に共通認識ではあったが、ミオの呼び掛けでそれが真実味を帯びていく。
「たしかに、同じ防ぎ方じゃそろそろッ」
ベルリンが防ぎ切れず、被弾するようになっている。まだ致命傷には程遠いが、このままだと危うい。
「てか、血とか影とかスキルなしでこれですか!シールドブレイク!」
耐久値が減っていた盾を意図的に破壊し、散弾として打ち出す。不意をついたその一撃はレオンを後退させるだけの効果を発揮。ベルリンはすぐさま新しい盾をインベントリから取り出す。
「シールドカウント、チャージシールド、ブレードシールド」
ベルリンは自身の盾を強化していく。
シールドカウントはタンク職専用スキル。今までに使用し、失ってきた盾の数だけ強化効果を得る。ベルリンはこれまでに5枚の盾を失ってきた。それは、彼が下手なのではない。上手く使い続けてきた結果だ。
強化数は5、得た強化内容は「VIT2倍」「ダメージ半減」「HP1.5倍」「カウンター確定500ダメ」「MP消費軽減」
チャージシールドは、盾へSTRの3分の1の数値を1分毎に蓄積していく。
ブレードシールドは、盾に蓄積された数値を使用して攻撃を強化するもの。微々たる数値でも、盾で確実に敵にダメージを与えられる。そして、盾の側面に刃を構築し、攻防一体の武器とする。
「最硬のタンクの力見せてやる」
セレスの前に陣取り、レオンを睨みつける。
そのベルリンの背後をカバーするように、仲間のタンク達が控えている。
「アイツ、なーんか目立ってんな」
「まぁ仕方ないでしょ。今の狙いはセレスさんで、それを護れるのは彼なんだから」
「私達はレオンを削ることに集中しましょう」
レオンがセレスに集中している間なら、攻撃を当てるのも容易い。
もし、見境無く暴れていたら、簡単にはいかないだろう。
「シャドウ・ブラットフルウェポン」
レオンの口から発せられた単語は、セレス達には残酷に聞こえた。
「そうでしょうね。私のと違って彼は完全版。私の領域すら侵食し始めてる。良くて10分!死ぬ気で連れ戻しなさい!」
レオンを連れ戻すためのタイムリミット。そして、完全な敗北を示すタイムリミットでもあった。
「瞬攻、四矢・破砕、一矢・鏖殺!」
矢を番え、次の矢を手に持ったまま放ち、二の矢を矢継ぎ早に放つ。
「ネア!第五吸理、第九アマリリス、第十カランコエ!リーネ第五法理、第九アケビ!」
マイは味方へのバフ結界を付与。個人にのみ影響するのはミオへ集中させる。
「天槍・サンダルフォン!グリム、第八デモンズリッパー、第十一アシュト!ワウテウ!第一イリュージョンボディ、第四タイムシャッフル、カウント20!第六ナイトイリュージョン」
カクラは自身へ強化を施し、味方のためにレオンを拘束しようと試みる。
イリュージョンボディで自身への攻撃の当たり判定をずらし、タイムシャッフルで自身の位置を20秒毎に入れ替える。
ナイトイリュージョンで入れ替え先を増やす。
ベルリンがレオンの攻撃を防ぎ、カクラがその動きを封じ、一瞬の隙を縫ってミオを筆頭にカイドウ、シェン、ガンツ等がレオンへ攻撃を加える。
レオンへの攻撃は影や血の武器を破壊しないと届かない。レオンの攻撃は影や血の攻撃も付随するので防ぐのも大変。
「なんつークソゲー!」
一体誰の叫び声か。反応しないながらも、全員が同じことを思っていただろう。
「一矢・鏖殺、二矢・雨矢鳥、三矢・囲い矢、四矢・破砕、五矢・削ぎ、六矢・翔貫/重、七矢・逢魔、八矢・天魔、九矢・アルカンシェル」
影や血の武器の攻撃を躱し、レオンへ接近する間に一から九の技を放ち、準備を整える。
「終矢・天照」
レオンの神名抜刀術と同じ、最後の一撃。
一瞬、レオンの動きを止め、影や血の武器を消し去りながら、レオンの心臓の位置に命中する。
「ここ!無窮・水鏡」
レオンの周囲を小さな水の塊が囲い、その水の塊を反射するようにミオが放った魔力の矢が縦横無尽に翔る。
「鎌技・一爪竜牙」
竜が爪を牙を振りかざし、敵を排する為に振るうように、それを何度も何度も繋げて繰り返す。
「鎌技・竜爪牙奪命!」
新たに産み出される影と血の武器を破壊しながら、レオンへダメージを着実に重ねていく。
「結界術・重砲乱れ撃ち!」
重力結界を砲弾のように小さく丸く形成し、撃ち出す。
更に、小柄なことを活かして攻撃の下を潜り抜け接近。
「双術・斬鬼乱舞」
鉄扇を剣のように振るい乱れ舞う。
しかし
「なんでこの状況で合わせてこれるの!」
たった一度見られただけで対応された。ちゃんと鉄扇の軌道も舞の手順も、全部咄嗟に組み立ててるのに。
「ヨルムンガンド!」
遥か上空からの大質量による突進攻撃。
大ダメージを期待した。ヨルムンガンドのリキャストが再び膨大な時間必要になったとしても。
ミオとカクラの技にも対応し始め、他のプレイヤーも血と影の武器に邪魔をされ近付けない。
レオンの集中は今、正面の敵にのみ向いている。そう判断していた。
レオンが血の刀を作り出し、抜刀の構えを取るまでは。
「っ!?」
真っ先にその脅威に気付いたのはミオとカクラ。次にセレスとマイ。
「結界術・守護百層!」
「鎌技・双牙狼顎!」
「絶弓術・影縫い」
溜めの為、僅か一瞬の時。妨害が成功して、次に繋げようとした構えの瞬間だ。
閃いた紅の軌跡。
「抜刀・極至」
ある意味、この狙いがプレイヤーに向いていなくて良かったと思えるだろう。なにせ、そうなっていれば誰も生き残れなかった。
「クソが」
自身の判断の悪さとレオンに対する慢心。自分に吐き捨てるように言葉を吐き出し、構えを取り直し飛び出そうとしたレオンの前に躍り出る。
「鉄扇重術・黒薙砲口」
鉄扇に重力結界を集中させ、レオンにぶつけて弾く。
「お兄、悪いけど」
息を吐き出す。自身の意識が研ぎ澄まされるのを感じる。この感情を頼るのは初めてだ。きっと怒られるだろう。だけど、貴方を取り戻す為だから。甘えも手心も余分なもの全部捨てるよ。
だから
「殺すね」
ゾワッ
ミオとカクラ、レオンを除く全員がその殺意に身体を硬直させる。
ミオとカクラも内心では驚いている。マイの本気に
「…ふぅ」
「ハッ!」
その殺意に呼応するように、4人からも殺意が溢れる。
「ミオ、指揮を任せる」
「了解。アイヴィア、カクラ二人は中距離からマイの援護。隙があれば仕留めなさい。ルビア、貴方は最後方で火力支援。巻き込む心配は要らない。寧ろ巻き込むつもりでやりなさい。それと、セレス」
急に呼ばれたセレスは、無自覚に背筋が伸びる。
「10分耐えなさい」
「このッ!」
既に、最初に言った10分ギリギリ。そこから更に10分伸ばせと?しかも言い方的に命令形。やれるかやれないか、じゃなくてやれと言う。
「このクソガキ!レオンと揃って生意気にも程がある!…えぇ良いわ!やってやるわよ!」
元最凶のプライドが、その生意気な女を許さない。
「10分と言わず1時間、いいえ、1日でもやってやる!」
セレスが牙を剥き出しにして獰猛に吼え、笑う。
「そう。貴女はそういう人。さて、最後にマイ!」
声を張り、最後の一人に重要な命令を出す。
「この場において、レオンに次ぐ戦闘巧者は貴女。だから、死ぬ気で喰らいつきなさい」
「言われなくとも!」
インベントリを操作し、装備を展開していく。
「クラフトスキル・ワンマンアーミー」
両の太腿、ホルスターに入った拳銃が一丁ずつ。
腰に地面と平行になるよう納められている 小太刀。
背中に背負う様に直剣が二本。
更に、腰に鉄扇を収納するホルスターもある。
「お兄が育て上げた才能、その身で恐怖しろ」
ホルスターから抜き、一瞬の間に六連射。ホルスターに仕舞いながら、剣を両手に持ち変え接近。
「花双剣火」
身体ごと回転を加え、刺突を繰り出す。
回避されるが、そんなのは織り込み済み。この技は回避された時にこそ真価を発揮する。
「開花!」
重ね突き出していた剣を、開くようにして両手を広げる。すると、全身から弾け出すように結界術・重砲が現れる。
「黒薙砲口」
鉄扇に持ち替えることなく、結界を剣に付与して、ダメージを無視したレオンの刀を受け流す。
「セイッ!」
剣も納刀し、その小柄な身体でレオンの懐に潜り込み、半身になりつつレオンに身体を添える。そして、マイの気合いの声と共にレオンの身体を衝撃が襲う。
レオンの身体が僅かに浮き上がるが、レオンはお構い無しに刀を振るう。
しかし、それをアイヴィアの鞭が絡め取り、無防備となったレオンの胴体をマイも巻き込む様に、鎌で引き裂かれた。
「浅風!」
小太刀を引き抜き、無数に斬りつける。浅い傷ながらも数が多い為、常人なら出血死。だが、吸血鬼であるレオンには関係ない。僅かに血が流れるも、即座に自動回復により傷が塞がる。
「スラッグ、ファイア」
咄嗟に結界で身を守り、衝撃に備える。
次の瞬間降り注ぐ無数の氷の破片。
ルビの聖艘ノアの主砲に装填された、氷のスラッグ弾。
流石のレオンも無防備な所への直撃は防げず、左肩から先が吹き飛んでいる。
「黒扇乱舞」
黒薙同様、重力結界を何重にも重ねて、斬鬼乱舞を繰り出す。
「スカーレットフルマニア」
自身の右脇下に、破壊する事で威力を増加させる結界を展開。即座に突き抜けた矢が、紅い輝きを纏い、レオンの左脚に突き刺さる。
「四矢・裏・爆砕」
刺さった僅か数秒後、矢を中心にして極わずかな範囲だが、爆破。レオンの左脚を砕いた。
「鎌技・臥竜斬狩」
上段から振り下ろし、その勢いをそのままに身体を回転させ、右肩から先を斬り落とす。
「零龍氷牙・砕氷」
鞭が龍のように変化し、レオンの右脚を喰らい凍らせ、砕いて壊す。
四肢を失い、即座に再生出来ないレオンの首目掛けて、マイが最後の一撃を振るう。
「黒薙扇双・弔いの華」
斬った首から流れる血が、彼岸に咲く華のように、レオンの周囲を飾っていく。
「次に目が覚めた時は、説教からだよ」




