100話 二つの禁忌とチート
抜けようと色々試すが、ここに来て対応されたのか、中々抜け出せない。
プレイヤーやエルフが餌にされているのを眺めているだけになってしまう。
こちら側のプレイヤーは自身の身を守るのに手一杯。
エルフたち連合軍も抵抗しているが、ミドガルズオルムの分身体だからなのか、倒すことが出来ていない。
喰われたエルフやプレイヤーからマナが奪われ、死んでいく。奪われたマナは何かを通じてユグドラシルに流れているのが確認できる。
禁呪ユグドラシルの効果は分からないが、発動させたくない。
禁呪というのは、戦況をひっくり返すことの出来る最凶の技だ。
「どけぇ!」
剛咆を重ねた破断でリリアナを弾き飛ばし、砲魔を重ねた煉獄でリオールを足止め。
迅雷と疾風を連続発動させて、ミドガルズオルムの群体を倒していく。レオンだから倒せるのか、はたまたバグなのか条件付きなのか。今は深く考えない。
しかし、それよりも敵の数が増えて、犠牲が増えるほうが早い。
「百花繚乱、鳳仙禍、千蓮万華、万弁純華、千刃、血泉・防御陣血線、血泉・火縄、縛鎖血刃」
今この状況において、敵はリリアナとリオール。そして、二人が操っているであろうミドガルズオルム。それ以外は守護対象。
加護もスキルもフル活用。限界ギリギリを反復横跳びしながら戦い続ける。
「ツリーダンジョン」
突如レオンを巨大な木が飲み込む。
それは簡易ダンジョン。エルフの秘匿魔法だった。
「時間は稼げるかしら」
そう呟いて、加勢しようとした時だ。
「邪魔をするなと言った!」
ダンジョンそのものを燃やし尽くして、レオンが飛び出す。
「炎翁降霊」
レオンは肉体を捨て、炎の身体で敵に襲いかかる。
「炎翁分霊・狼牙」
レオンの身から炎が分離し、一匹の狼を形取り、レオンと別の敵を倒し始める。
「翠霊蜂起・邪魂」
一体のミドガルズオルムに複数の水の霊が取り憑き、その支配権を奪おうとする。それに抗うようにミドガルズオルムは動きを止める。
「風塵暴君・大蛇」
風が細かな石や砂を取り込んで一匹の蛇となり、敵を飲み込み切り刻む。
「雷公脈動・覇龍」
大きな翼を広げた一匹の龍。雷でその身を形成している。レオンの魔力から生み出された獣の中で最高火力を誇る。故に覇龍。
「抜刀ッ!?」
踏み込んだ瞬間に力無く崩れる。
全身至る所から出血しており、その血を操作することもおぼつかない。
立ち上がろうとしても、脚に力が入らない。
刀を握る手も震えている。全身が痛みを訴えている。
レオンは理解した。限界だと。
「こんなときにッ」
また、肝心な時に動けない。
「そこで大人しく見てるといい」
リオールが魔法を行使。レオンを拘束していく。
「に、げろ!」
声が届いても逃げれるプレイヤーは少なかった。エルフとプレイヤーの連合軍はその数を大きく減らした。禁樹の養分にならなかったのは、死に戻りしていてミドガルズオルムの感知外にいたプレイヤーと最後方の補給部隊エルフ。
天照王国側の被害はレオンの仲間や配下のおかげでゼロだった。
「さぁ、蹂躙しましょう」
その気配を感じ取れたのは、同じ禁呪使いのレオン、カクラ、マイ。そして、それに1番近いミオ、個人でワールドスキルを獲得していたベルリンの5人。
更に、セレス達吸血鬼も禁呪の気配を感じとっていた。
「禁樹ユグドラシル発動」
エルフの国の方から黄金の光が広がっているのが見えてくる。それは徐々に近づいてきて
「巫女姫!各国に連絡を入れろ!絶対に外に出させるな!」
インベントリから取り出した緊急連絡用アイテムで一方的に告げる。返事等待っている暇は無い。
禁呪を扱うから、どんな効果なのか凡そ想像がついた。ユグドラシルの効果が、吸血鬼最大の禁呪に近い効果だと言うことが。
「総員に告げる!死ぬ気で生き残れ!」
エルフ連合軍の数人が光に飲み込まれる。
そして、禁樹ユグドラシルの効果が明らかになる。
「能力が使えない?」
今まさにミドガルズオルムに抵抗していたプレイヤーは、そのスキルやアーツを封じられ、ミドガルズオルムに捕食される。そうして、ユグドラシルの効果範囲を広げる生贄になる。
身動きの取れないレオンも飲み込まれるが、今現在ユグドラシルの効果は反映されていない。
理由は神による干渉の影響。外の世界の状態だからか
「やめろ…」
遂にミオ達も光に飲み込まれ、ミドガルズオルムが押し寄せる。徐々に防御が崩され、プレイヤーに被害が出る。
ミオ、カクラ、マイ、ルビア、アイヴィア
リック、ジル、リズ、セレス達吸血鬼
クラマス達やクラスメンバーは粘っている。
他のプレイヤーも束になることで時間を稼ぐが、一人、また一人とミドガルズオルムに喰われていく。
「やめろ…やめろ」
レオンの脳裏を埋め尽くすのは、過去の自分の失敗。実の親を失った時のあの無力感。何も出来なかった自分への怒りと絶望。そして、全てを憎み、滅ぼそうとする衝動。
カチッ、カチッ
時計の針が進む音。この音をレオンが聞いたのは2度目。
ワールドアナウンス
WARNINGWARNING
大罪憤怒・強欲・傲慢・暴食が復活します
ERRORERROR
対象に吸血鬼、始祖の血を確認
対象の禁呪を確認。発動回数、条件解除
吸血鬼の制限を完全解除
禁呪・始祖の王が終焉を齎す
を解放
発動者が知覚できる範囲内全ての能力・アーツ・スキルを無効。
無効した数だけステータスを強化する
強化式は各ステータスの一割×無効化した数+ステータス十割
STRが1000、無効化した数を8とする。
100に8を掛けて、1000を足す。合計1800になる。
この禁呪はセレスが使った時同様、後出しで発動が可能。レオンがどんな状況に居たとしても、上書きが可能になる。チートのような技。
光の領域を飲み込むように、夜の帳が世界を埋め尽くす。
戦場にいる全てのプレイヤーとエルフ、ミドガルズオルムがその身を大地に横たえている。
「こ、れは」
「何故、ユグドラシルが」
リリアナとリオールも例外ではなかった。味方であるミオやカクラ達、同じ種族のセレス達吸血鬼も例外なく。
ただ1人。戦場に佇むのはレオン。両腕と頭は力無くだらんと垂れている。
それなのに何故、これ程までに死を意識させられるのか。
「散華血・五剣」
リリアナの首に瞬いた一瞬の斬撃が三つ、リオールに二つ。
しかし、二人は生きていた。
「能力を無効化しても発動する?そうか、加護を付与した側がこの結界内にいないから、無効化できないのか」
瞳からは光が消え、力なく佇むその姿。
聞こえてくる声にも抑揚や感情が感じられない。
呼吸が上手くできなくて苦しい。心臓がありえないほど早く鼓動している。
本能が逃げろと警告を鳴らすのに、身体が言う事を聞かない。レオンから目が離せない。
戦場は恐怖に支配され、誰もが死の刃を喉元に突きつけられているように錯覚する。
「巡るその血を刃に変えて」
レオンが何かを呟く。それを間近で聞いているリリアナとリオールは身体が震えているのを自覚する。
「刃は汝を戒める楔とかして」
恐怖が身体を動かしたのか、一目散に逃げようと駆け出す2人。
「その身を内から破壊する」
2人の身体を貫くように血の刃が無数に現れる。
加護によって死んではいないが、刃が消えずに残っている。
「刃よ、我が力をもって敵を滅せよ」
貫いた刃が身体から完全に抜けきり、周囲を取り囲む。リリアナとリオールの血を使用して無数の刃が飛び出し囲む。
「醜き命に裁きを下す」
「無尽血刃・終焉を齎し汝を裁く」
取り囲んだ刃が2人に突き刺さり命を奪う。
加護によって攻撃が無効化されるが、すぐさま次が突き刺さる。そしてまた無効化して...
これを延々と繰り返す。
死ぬまで尽きることの無い血の刃。
この裁きをもって、汝の命終焉とする。
神の力に最も近い種族だからこそ、あの者は神の裁きに等しい力を扱える。
「や、め」
そんな声が聞こえてくる。しかし、今のレオンにその音は届かない。
「ッ!レオン!」
背後から呼び掛ける声。それにレオンは振り返った。
振り返った先にいたミオは、そのレオンの瞳を見て息を呑んだ。
今までに何度か表情や感情が抜け落ちる瞬間はあった。でも、今の状態はその時より酷い。直感的にそう感じた。あのレオンはダメだそう感じさせる。
「邪魔をするのか?」
ミオは咄嗟に1歩飛び退く。瞬間、先程までの立ち位置を無数の刃が通り過ぎる。
明らかな死角からの殺す為の攻撃。
普段なら絶対にありえないソレに、全てのプレイヤーが危機感を募らせる。
「全員覚悟しなさい。今、あそこにいるのは世界で最も強く恐ろしく凶暴な吸血鬼よ」
「どうすれば…」
「止めたい?」
「当たり前です」
「なら力を貸したげる。あのバカを連れ戻しさい」
セレスは全員に語り掛けたあと、ミオと言葉を交わし、もう一度レオンを見つめ、意識を切り替えた。今の少しおバカなセレスではなく、神話の時代、最強と呼ばれたあの頃に
「貴方ほど完璧じゃないけれど、範囲を絞れば私でも!」
レオンが発動した帳の中に、少し赤みの掛かった帳が範囲を広げ、レオンと天照王国側のプレイヤー全員を包み込み、万全の体制を整えたのだ。
「全員気を引き締めなさいよ!」
セレスの声を合図にしたように、暴走レオンが襲い掛かる。




