99話 王の力そして禁忌
その巨大な体躯をもって、敵を喰らい尽くそうとミドガルズオルムが向かってくる。
「ジャイアントシールド!」
最初に接敵したのはベルリン。戦場が下がったことで、最前線に出てきたようだ。
盾を前に構えると、巨大な透明の盾が出現し、ミドガルズオルムの動きを止めた。
しかし、すぐにその盾に亀裂が入る。
「なんて馬鹿力ですか!攻撃任せますよ!」
ベルリンが呼び掛ければ、既に接近していた3人が武器を振りかぶる。
シェン、カイドウ、ガンツの3人
「チャージ、インパクトスラッシュ!」
「チャージ、ジャイアントスラッシュ!」
「マテリアルスイング、インパクトハンマー!」
3人の攻撃で、ミドガルズオルムが怯む。
「退避!」
後方からの指示で4人が一目散に後退。追いかけようとするミドガルズオルムに魔法や矢等の遠距離攻撃が命中する。
「レオン、アイツHP存在しないわよ」
「見ればわかる」
「何とかならねぇのか!?大将!」
盾持ちが必死に動きを止め、近接組がタイミングを見て攻撃。遠距離組が退避する味方を援護するように攻撃。休む暇の無いこの状態、もって数分。
「ミオ、マイ、カクラ時間を稼ぐ。準備しておけ」
レオンは意識を更に深く集中させる。
命令された3人は、レオンが本気になっていると判断。自分たちも意識を研ぎ澄まし、その瞬間を待つ。
「優勢劣勢、村雨・モード暴食」
グリードカスタム・インフェルノエンチャント
レーヴァテインの焔を喰らい、その刀身を強化する。
「アトラルカ、第十一位階魔法・アトラルカ」
レオンと溶け合うように、人間サイズのアトラルカが現れ消えていく。
そして、レオンの背中には血の翼とアトラルカの翼膜のない翼が現れる。
「リズ、戦力が欲しい。五の権能を」
「わかった。ドラゴンオーケストラ」
影の龍と竜、血の龍と竜。視認されないように最小サイズで呼び出し、それぞれを潜らせる。
「総員退避」
言霊。ミドガルズオルムと対峙していた全員を強制的に退避させ、レオン一人が対峙する。
「参る」
地面が陥没する勢いで飛び出す。リリアナを狙ってみるが、やはり加護のおかげか手応えが無い。
即座にその下ミドガルズオルムに標的を変える。
「抜刀・神前舞踏」
瞬きの間に、神名抜刀術が五つ繰り出され、ミドガルズオルムに傷をつける。しかし、それはすぐに元通りに。
反撃に鱗の弾丸がレオン目掛けて発射される。
「雷障」
雷が落ち、レオンを鱗から守る。
「車輪」
飲み込もうと、口を開いて接近した敵に、回転しながら斬撃を繰り出し、口内を攻撃。
毒の息を浴びたが、血液循環によって状態異常にはならない。
「双剣炎雷・神威」
属性攻撃が通るのかの確認。僅かに傷をつけることに成功するが、大きなダメージにはなっていないだろう。
「暴れろ、血龍」
ミドガルズオルムの至る所で血が吹き出したり、流れ出たりする。
「影龍、エルフ女をコイツから引き離せ!」
エルフ女の影に潜ませた龍を使い、エルフとミドガルズオルムの分断を行う。
攻撃を加護で受けれても、影までは影響しない。
「番犬共、百鬼、龍の眷属!その女を抑えておけ!」
物量作戦。攻撃が通らなくとも、その場から動けなくしてしまえれば、それでいい。こちらの邪魔さえされなければ。
「破壊するためにもっとデケェのぶちかます!」
手に持った炎と雷の双剣を手放し、月影に換装する。
「行くぞ!」
パァン!両の手を打ち鳴らし、舞を奉納する。
ミドガルズオルムの巨体ではこの攻撃を避けることが出来ない。
2巡し、最大火力を叩き込むが止まらない。
「チッ!HP無いって厄介だなクソが!」
さてどうするか、そう考えたレオンに声がかかる。それは、3人の最大火力の準備が出来た合図だった。
「ヨルムンガンド!」
「天槍・ウリエル!」
「奉納剣舞・玲音の舞。偽典・始祖の血」
ウリエルの槍がミドガルズオルムの鱗を貫き、ヨルムンガンドがその元となったミドガルズオルムの動きを止める。
そして、ミオの現状最大火力が直撃した。
「月影・第五機構解放。月影改天狼慟哭怨嗟刃」
月影最後の機構、大太刀。一度、太古の海龍のダンジョンへと続く道を作ったその武器は、三天狼の素材によって強化された。
「システムリロード、天狼慟哭・罪過の牙狼」
ミオ達の為に時間を稼ぎ、その三人の攻撃がミドガルズオルムを抑えている間に、レオンも溜めの必要な技を準備する。
カートリッジを四つ消費して、刃には四つの魔力が混ざり合い溶け合った。
「山海破断天狼爪牙」
ミドガルズオルムとヨルムンガンドが拮抗し、天槍ウリエルを持ったカクラとレオンのように血を使った攻撃をするミオが、ミドガルズオルムに傷をつける。
傷がついたそばから回復しているが、レオンの攻撃にミオとカクラが合わせ、鱗を複数剥がし肉へと攻撃を到達させた。
しかし
「……これでも駄目か」
反動によって動けないレオン。セレスやリズが護衛する横でそう呟く。ミオ、カクラ、マイもリキャストに入ったか、回復の為下がった。
時間稼ぎの間に回復した他のプレイヤーがまた代わる代わる攻撃を引き付け、また別のプレイヤーが攻撃を繰り返す。
HPが存在しないとなると、停止又は破壊する方法はたった一つ。一撃で仕留める。ヨルムンガンドを止めるのと同じだ。
ヨルムンガンドであれば、マイのMP切れを待てば解決するのだが、アレはそんな弱点はないだろう。
最初、ミドガルズオルムに喰われたプレイヤーがヤツを動かす燃料となっているのが、レオンや一部のプレイヤーにはスキルによって見えている。
術者の方をと思ったが、それも無駄だろう。加護によって攻撃は無効。巫女と長老、どちらが術者か分からない。
というか、ミドガルズオルムを抑えるのに手一杯でその二人には最低限の牽制しかできていない。
そして、何より問題なのがミドガルズオルムの特性だろうか。ユグドラシルにマナを供給する役目だからだろう。周囲のマナを吸い取っている。
自然界に存在するマナが無くなればどうなるか。そんなの分かりきっている。水や空気が無くなるのと一緒。土地そのものが死ぬだろう。
「……赤椿を使うか」
チャージブレードに朱羽根を重ねれば……いや、ここまでの戦闘での消耗を考えると無茶か。
恐らく、心月を放てば限界が来る。それ以外の技でも片手で足りるくらいしか攻撃ができない。
全員の手札を動員しても……足りない。
何より、ミオ、カクラ、マイの切り札は連発のできない大技。暫くは使えないだろう。
何度も同じようなことを繰り返し考えてしまう。それほどレオンが焦っている。
「隠している手札を使うしかないか」
まだ見せたくない手札が沢山ある。しかし、この状況で躊躇っている余裕は無い。
「霊装・村雨」
村雨の破魔の力がどこまで及ぶか分からないが、まずは試す。
発動の詠唱は囁くように行い、バレないようにする。ミオ達とパーティーを組んでいないことも幸いした。ログに残らないので詰め寄られる心配もない。
霊装による変化は確認できない。しかし、ほんの僅かに攻撃が通るようになった。
「悪魔や魔物に区別されていないか。遠隔操作、エルニエルト装填、弾種振動弾。一斉射!」
島に待機させているエルニエルトに遠隔で指示を出し、その主砲を使用する。距離があるので弾着に時間が掛かる。命中させる為にミドガルズオルムの動きを止める。
「グラビティプレス」
グラビティプレス…特殊属性に区別されている土系統魔法の更に特殊進化属性重力。重力魔法はその名の通り重力に関係する術しかない。
この特殊属性はLvを持たず、取得すれば最初から全ての魔法が使える。
ミドガルズオルムにかかる重力を強化してみるが、動きが少し鈍くなるだけ。
「大海、海流、大渦、荒波」
レオンの使う水系統の魔法。その多くは範囲系。その全てを使って更に動きに制限を…と狙うがこれも上手くいかない。
予想以上にミドガルズオルムが強いのと、マナを喰らう性質が厄介だ。しかし、まもなく来る。
高速で飛来する反応を捉え、レオンはもう一度だけ行動を阻害する。
「剛咆、極至!」
殆ど使わなくなった特殊抜刀術/攻勢の剛咆。物理攻撃の強化で極至を強化し、ミドガルズオルムに当てるが、これも僅かに動きを止めるだけ。
しかし、目的は果たせた。
大気を貫く音と命中した時の着弾音、振動弾による揺れが戦場に響き渡り、全ての者の鼓膜を揺らす。
殆どの者が咄嗟に耳を覆い蹲る。
レオンやセレスにリズ、それにリリアナやリオールと名乗った二人のエルフは耳を覆うことなく立っていた。
どちらにも牽制として血龍や影龍、番犬や百鬼を向けたのだが、あまり効果は無さそうだ。
「禁呪ってのは無法だな」
流石のレオンも苦笑いしかできない。振動弾によってミドガルズオルムのマナの流れは妨害できた。しかし、それも一瞬の出来事。一呼吸の間に流れが正常になっていくのがわかった。
禁呪を持つ自分が恐れられる理由がよくわかるというものだ。
「リロード、スラッグ。ファイア!」
次の手を考えていると、僅かにそんな声が聞こえた。とても聞き覚えのある単語と声。
振動弾の時より発射音が近く、到達も速いソレはミドガルズオルムに命中する直前に破裂し、大量の氷を撒き散らす。
「来てたのか?」
「我らが王のピンチとお見受けしました」
背後を振り向けば、ルビアとアイヴィアの姿がそこにあった。
「ソレを持ち込んでるのはムーの仕業だな?」
「はい。お力が必要になると思いましたので」
「いつもの力が使えるって割に、手古摺ってるの?貴方らしくないわね」
恭しいルビアと違い、アイヴィアは辛辣だ。まぁ過去に自分をコテンパンにした男だから、レオンは。
「色々事情があるんだよ。まぁでも…あんまり余裕はないよ」
途切れること無く降り注ぐ氷の砲弾によって、ミドガルズオルムの動きは阻害できている。時折混じって命中する振動弾の効果もあって、ではあるが。
「あまりこういうのはしたくなかったんだがな」
玲音は意識を切り替える。1プレイヤーではなく、仲間を率いる王としてのモノへ。
「澪、神楽、舞、ルビア、アイヴィア手伝え。セレス、リズお前達も惜しみなく力を使え。消耗の心配はするな、アトラルカで全て回す」
玲音に従う五人。セレスとリズもいつもと違う雰囲気に少し飲まれたが、すぐに切りかえて従う。雰囲気は変わっても主であることに違いは無いのだから。
「それとアイヴィア。お前の血をまだ貰ってなかったな」
「そうね。じゃあ、ここで?」
こくりと頷き、アイヴィアを引き寄せる。
「痛くしないでね」
「保証はできん」
短く交わし、アイヴィアの項に牙を突き立て流れ出る血を啜る。と言ってもほんの数秒。
「感謝する。行くぞ」
アイヴィアから離れ、すぐさまミドガルズオルムに狙いを定め、攻撃に向かう。
アイヴィアもすぐさま切り替え、レオンの後に続く。
ルビアのノアの砲撃、角度を変えた澪による弓の一点に重ねる超精密射撃、神楽の高速起動からの絶え間無い連撃、舞の結界による行動の阻害に攻撃の支援、アイヴィアの鞭による冷気の攻撃、セレスとナンバーズによる血と影を用いた全方位からの連携、リズ本人と配下による高火力のブレスが僅かにだがミドガルズオルムに確かな傷を付けていく。
先程までよりダメージが蓄積しているのは、レオン達の無意識の加減によるもの。
あまり自分達だけでやりすぎるのも、という気遣いから来るものだが、今日この時に限っては邪魔になっていた。特にレオンはステータスに制限を掛け、これ以上上昇しないようにしている。ミオ達も同様に、あまり高くなりすぎないようにしている。
手加減のないルビアとアイヴィアに引っ張られるように、彼等はその無意識の制限から解き放たれていく。
セレス達吸血鬼とリズ達龍の眷属もそんな主に、必死で食らいつき援護する。
「まだ上があったのか」
「いやはや、驚かされ続けてますね」
「正直、嘘みたいよね」
「でも本当のことですよ」
「なんちゅー上司なんや」
レオン達の動きについていけず、後方でそれを眺めるだけになってしまった。
彼等は実感した。自分達との隔絶した力の差を。そして、そんな彼等の下で戦えることを。
解放者に所属している同盟クランに、力の差を見せつけられて黙っている者は一人もいない。彼等だけにいい所をもっていかせてたまるものかと奮い立つ。
「俺が同盟を結び、共に戦う戦士達よ!恐れるな!お前達は皆が強き心を持つ戦士なれば!こんな蛇一匹敵ではない!戦え!そして勝利を掴め!」
レオンからの激励に彼等は咆哮で応える。
先程よりも苛烈で迅速に。入れ代わり立ち代わりでミドガルズオルムへ攻撃を加えていく。
遠距離からの攻撃も絶え間無く降り注ぐ。
MP切れを起こす勢いだ。しかし、レオンがそんなことはさせない。
アトラルカの第十一位階魔法アトラルカによって、レオンの知覚する全ての範囲の循環を司る。ミドガルズオルムが食らうより先にこちら側のプレイヤーに還元してしまえばいい。
レオンの身に流れる外の世界の魔力をこの世界に馴染むように循環させ、プレイヤーに分けていく。
無限の魔力を持つレオンとの擬似的なマナコネクト。
リリアナとリオールは、少し焦ったのか何とかこちらを妨害しようとするも、それをレオン、ミオ、カクラ、マイの使役獣や血の番犬に百鬼に妨害される。何より厄介なのが影龍達だろう。二人の影に影響を及ぼし、動きを止めるのだから。
「ディバイドバレット、ディレイバレット!ファイア!」
ルビアのディバイドバレットがミドガルズオルムの耐性を低下させ、ディレイバレットがその動きを遅くする。
「合わせろ!」
レオンからの咄嗟の指示。それに、奇跡的に全てのプレイヤーが重なる。
それでようやくだ。回復されない傷をつけたのは。
「集中!」
たったそれだけの指示。即座に反応したのは歴戦の仲間。ミオを筆頭にレオンの配下達、シェン、カイドウのクラマス組、そしてクラスメイト達。
回復のしない傷跡を繰り返し狙う。
「ぶった斬る!」
神前舞踏による一点集中攻撃。天照で締め括る6連撃。
そしてもう一つ、先の一撃を編み出した。
「今此処に、舞は成る。その剣は全てに通ず」『六帝抜刀・我全てを』
天照が炎帝、水帝、風帝、雷帝、地帝を使った後にしか使えないとするなら、六帝はその名がさすとおり天帝・天照の後にしか使えない技だ。
極至に及ばずとも、斬ることに特化させたこの技。最大の特徴は防御や耐性を無視してダメージを与えられる事だ。
心月は斬ったという結果を刻み付ける技ではあるが、ちゃんと防御力や物理耐性の有無を計算しダメージが算出される。
そして極至。こちらは全てを一太刀の下に斬伏せる。防御力や耐性の全てを上回る威力での攻撃。現状、この一撃を防げるのは同じ領域にあるベルリンのワールドスキルだけ。
そう、レオンは防御力や耐性を無視して攻撃したことは一度もない。全てそれを上回る攻撃しかしていない。だが、今回の相手は違う。防御力も耐性も生半可な攻撃は通らない。だから、その全てを無視して攻撃を与える。
威力で見れば心月より強く、極至より弱い。そんな位置の六帝抜刀。敵が硬ければ硬いほどこの技は他の二つより強くなる。
「ギィシヤァァァァァァァァ!!!」
甲高い叫び声を上げ、ミドガルズオルムがのたうち回る。
地上に出ている体の半ば程で両断されれば、さすがのミドガルズオルムでも痛がるようだ。
「さて、外からの攻撃には強いが、内側が露出した今、どこまで耐えられる?」
切断面を執拗に狙う。技を繋いで最小限の溜めで大技を。
暴れる相手を前に悠長に溜めれることは稀だ。動きを、スキルを、アーツを繋げて最大の一撃を!
「極至!」
肉体内部に直接の攻撃には流石に耐えられなかったようだ。
三枚おろしみたいになってその動きを止める。
離れたところで驚いたような声を出したリリアナとリオールが慌てて距離を取った。
追撃を命じようとしたが、眷属達が消耗しているのを見て、一旦休ませる。
「ありえない」
「…これが最強の種族と言われる所以か」
今頃レオンの脅威度を改めたようだ。
「さて、どうする?秘密兵器のミドガルズオルムは止まった。これ以上の抵抗は無駄だと思うが?」
レオンの配下によって取り囲まれた二人は、未だ抵抗の意志を残している。
「こうなっては仕方あるまいか」
「そうですね。では、始めましょう。ミドガルズオルム、モードビースト」
今日だけで何度目かの最大級の警笛。レオンの直感がけたたましく鳴り響く。
「総員、ミドガルズオルムから離れろ!」
直後、爆発するように飛び散ったミドガルズオルムの鱗が、味方であるはずのエルフとプレイヤーの連合軍に襲いかかる。
更に、止まったと思っていたミドガルズオルム本体も動き始め、半分にした地中部分の方も動く。しかも新たな口を生み出して。
「やめろォ!」
鱗は味方であるはずの者を貫き、その鱗は変化し、貫いた者を喰らう。2体のミドガルズオルムも目に付くものを喰らっていく。
阻止しようと飛び出したレオンは、横からの攻撃に反応が遅れ吹き飛ばされる。
すぐさま体勢を整えるが、完全にリリアナとリオールに塞がれる。
「退け」
「退くわけないわね」
「「邪魔するな!」」




