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短編

これは死んだあなたに贈るラブレターです

作者: 松本せりか
掲載日:2020/02/14

 あなたが好き。

 好きでした。ひどく心がえぐられる思い。

 こんな思い、教えてくれなくても良かったのに……。


 楽しかった。

 貴方と過ごした日々は、本当に楽しかったの。

 自分の気持ちに、気付いて無かったけど。

 このまま、ずっと一緒にいられると思っていたから。




 あの日、私は泣いたの、もう一生分の涙が出たかと思ってた。

 でも、翔太が優しく背中を撫でててくれたから。

「ほら。もうお別れしなさい。そんなんじゃポチも天国に行けないわよ」

 小学校から、家に帰ったらもうポチは冷たくなっていた。

 老犬で、少しずつ弱っていってたから覚悟は出来てたはずなのに。

 お隣の翔太が、私に付いて家に来ていた。

「……そんな」

 翔太も、呆然としてボソッという。

 私は、ポチの亡骸に縋って泣いていた。

 背中に小さな手で翔太が撫でてくれているのがわかる。

 ポチの亡骸は、しばらくしたら業者に引き取られていった。

 火葬して貰うのだという。

 みんなは、『仕方無い』と、『大往生だった』と言う言葉を使ったけど。

 翔太だけは、私と一緒に泣いていた。




 そんな私たちも、もう中学生。

 来年は受験だ。

 同じところにいたと思っていた加藤翔太は、生意気にも地域のトップ校を目指せる実力になっていた。

 そうして、今は図書室で勉強を教わっている。

「ずるいなぁ。加藤くんばっかり」

「あのなぁ、美里。その他人行儀な呼び方、もうやめない?」

「中学にもなって、誰も名前で呼んだりしてないし……」

「僕も、一ノ瀬さんって呼ばないといけないの? ……って、そこ間違ってる。これ、公式使って数値代入していくだけだから……」

「え~? ああ、そっか……」

 私は、翔太から指摘されたところを書き直しているけど

「だって、同じだけ遊んでて、なんで私だけ落ちこぼれちゃうかな」

 そう言ったら、翔太にジト目で見られた。

「ちゃんと勉強したからな。美里みたいに、夜も何もせずに寝転けてたなんて事してないから」

 何、人をチート持ちみたいに言ってんだよって感じで言ってきた。

「……なんで、知ってるのよ」

「美里の部屋の電気、毎晩早々と消えてたろ?」

「あ~~っ。スケベ! 変態っ!! 人の部屋覗いてたんだ」

 思わず、私は大声を出してしまっていた。

「そこ! 静かに出来ないなら、出て行きなさい」

 司書の先生から、図書室を追い出されてしまった。


「たくっ。調べ物出来無かったじゃ無いか」

 校門を出ながら、翔太は、ブチブチ文句言っている。

「しょう……加藤くんが変態行為するから悪いんでしょ?」

 私は少し前方を歩き翔太の方を向いていた。

「誰が、変態だよ。……ったく、嫌でも目に入るんだから仕方無いだろう」

「嫌でもって言ったわね。カーテン閉めたらいいじゃない」

「外見ながら……って、お前、こんな車の通りの多い所で後ろ向きに歩くなよ」

「また、お説教? はいはい、私は加藤くんみたいになんでも出来る優等生じゃ無いですよ~だ」

 私は翔太に向かって、べ~って舌を出した。

「バッ……お前、赤信号」

 翔太が、私を突き飛ばした。

 ギッギギ~~~! ドンッ!!

 耳をつんざくような高音と鈍い音がすぐ側でした。

 カバンの中味がばらまかれて、目の前には血を流して倒れている翔太が……。

「大丈夫か?」

「早く、救急車を……」

「人が車に轢かれて……」

 周りがざわついている。わたしは、雑音の中呆然として……。


 だって今しゃべってた。今、私と……。なん……で…………、だって今。


「翔太?」

 私は倒れて転がっている翔太をさわった。まだ暖かい。

「ねぇ……翔……太? ねぇ、起きて」

 私は、必死で翔太の身体を揺すっていた。

「嬢ちゃん。そんなに揺すったら……」

 誰かが、私の肩に手をかけた。

「うるさいっ!」

 私はその手を払いのけて翔太に縋る。

「ねぇ……うそでしょ? ねぇ、翔太起きて……ねぇ」

 翔太の手がピクッと反応して持ち上がり、私の背中を撫でて、そのまま下に落ちた。

 そのまま、もうピクリとも動かない。

「翔太? 翔太!! やだっ、死なないで。やだよぅ~」


 私は救急車が来て、救急隊員の人が翔太を連れて行こうとしても、翔太に縋って泣きわめいていた。



 どうやって、家に戻ったのか分からない。

 頭がボーッとして、ずっと、なんだか……フワフワしたところにいるみたい。

 翔太? 死んだ? なんで……。なんで、私を庇ったの?

 なんで……わたし、生きてる……の?

 小学校の頃、ポチが死んだとき……もう、一生分の涙が流れたんだと思っていた。

 あの時は、私の背中を撫でながら、翔太も一緒に泣いてくれた……よね。


 私だけじゃ無い。皆泣いてるよ。

 私の家族も、翔太の家族も……クラスの皆だって……。

 だけど、私の背中を撫でながら一緒に泣いてくれる人はもういない。

 お葬式で、おばさんは私を責めなかった。

「美里ちゃん。翔太の分まで、生きてあげてね。あの子がせっかく守ったんだから」

 おばさんは泣きながら私に言った。



 私は、翔太が行くはずだった高校に通った。

 その内に、翔太が出来てたことは、なんでも出来るようになった。

 頑張った。頑張って、翔太の分まで……。


 大人になって、結婚して幸せだと言える家庭を作った。

 子どもは、3人。優しい旦那様と良妻賢母になった、私。

 そうして、子どもは独立して孫もできた。


 ねぇ、もう良い? 私、翔太の分まで生きた?

 満点の人生を送れた? わたしは……。


「おばあちゃん。ママがご飯出来たって……。

 おばあちゃん?」


 ねぇ、翔太……。

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