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短編

これは死んだあなたに贈るラブレターです

作者: 松本せりか

 あなたが好き。

 好きでした。ひどく心がえぐられる思い。

 こんな思い、教えてくれなくても良かったのに……。


 楽しかった。

 貴方と過ごした日々は、本当に楽しかったの。

 自分の気持ちに、気付いて無かったけど。

 このまま、ずっと一緒にいられると思っていたから。




 あの日、私は泣いたの、もう一生分の涙が出たかと思ってた。

 でも、翔太が優しく背中を撫でててくれたから。

「ほら。もうお別れしなさい。そんなんじゃポチも天国に行けないわよ」

 小学校から、家に帰ったらもうポチは冷たくなっていた。

 老犬で、少しずつ弱っていってたから覚悟は出来てたはずなのに。

 お隣の翔太が、私に付いて家に来ていた。

「……そんな」

 翔太も、呆然としてボソッという。

 私は、ポチの亡骸に縋って泣いていた。

 背中に小さな手で翔太が撫でてくれているのがわかる。

 ポチの亡骸は、しばらくしたら業者に引き取られていった。

 火葬して貰うのだという。

 みんなは、『仕方無い』と、『大往生だった』と言う言葉を使ったけど。

 翔太だけは、私と一緒に泣いていた。




 そんな私たちも、もう中学生。

 来年は受験だ。

 同じところにいたと思っていた加藤翔太は、生意気にも地域のトップ校を目指せる実力になっていた。

 そうして、今は図書室で勉強を教わっている。

「ずるいなぁ。加藤くんばっかり」

「あのなぁ、美里。その他人行儀な呼び方、もうやめない?」

「中学にもなって、誰も名前で呼んだりしてないし……」

「僕も、一ノ瀬さんって呼ばないといけないの? ……って、そこ間違ってる。これ、公式使って数値代入していくだけだから……」

「え~? ああ、そっか……」

 私は、翔太から指摘されたところを書き直しているけど

「だって、同じだけ遊んでて、なんで私だけ落ちこぼれちゃうかな」

 そう言ったら、翔太にジト目で見られた。

「ちゃんと勉強したからな。美里みたいに、夜も何もせずに寝転けてたなんて事してないから」

 何、人をチート持ちみたいに言ってんだよって感じで言ってきた。

「……なんで、知ってるのよ」

「美里の部屋の電気、毎晩早々と消えてたろ?」

「あ~~っ。スケベ! 変態っ!! 人の部屋覗いてたんだ」

 思わず、私は大声を出してしまっていた。

「そこ! 静かに出来ないなら、出て行きなさい」

 司書の先生から、図書室を追い出されてしまった。


「たくっ。調べ物出来無かったじゃ無いか」

 校門を出ながら、翔太は、ブチブチ文句言っている。

「しょう……加藤くんが変態行為するから悪いんでしょ?」

 私は少し前方を歩き翔太の方を向いていた。

「誰が、変態だよ。……ったく、嫌でも目に入るんだから仕方無いだろう」

「嫌でもって言ったわね。カーテン閉めたらいいじゃない」

「外見ながら……って、お前、こんな車の通りの多い所で後ろ向きに歩くなよ」

「また、お説教? はいはい、私は加藤くんみたいになんでも出来る優等生じゃ無いですよ~だ」

 私は翔太に向かって、べ~って舌を出した。

「バッ……お前、赤信号」

 翔太が、私を突き飛ばした。

 ギッギギ~~~! ドンッ!!

 耳をつんざくような高音と鈍い音がすぐ側でした。

 カバンの中味がばらまかれて、目の前には血を流して倒れている翔太が……。

「大丈夫か?」

「早く、救急車を……」

「人が車に轢かれて……」

 周りがざわついている。わたしは、雑音の中呆然として……。


 だって今しゃべってた。今、私と……。なん……で…………、だって今。


「翔太?」

 私は倒れて転がっている翔太をさわった。まだ暖かい。

「ねぇ……翔……太? ねぇ、起きて」

 私は、必死で翔太の身体を揺すっていた。

「嬢ちゃん。そんなに揺すったら……」

 誰かが、私の肩に手をかけた。

「うるさいっ!」

 私はその手を払いのけて翔太に縋る。

「ねぇ……うそでしょ? ねぇ、翔太起きて……ねぇ」

 翔太の手がピクッと反応して持ち上がり、私の背中を撫でて、そのまま下に落ちた。

 そのまま、もうピクリとも動かない。

「翔太? 翔太!! やだっ、死なないで。やだよぅ~」


 私は救急車が来て、救急隊員の人が翔太を連れて行こうとしても、翔太に縋って泣きわめいていた。



 どうやって、家に戻ったのか分からない。

 頭がボーッとして、ずっと、なんだか……フワフワしたところにいるみたい。

 翔太? 死んだ? なんで……。なんで、私を庇ったの?

 なんで……わたし、生きてる……の?

 小学校の頃、ポチが死んだとき……もう、一生分の涙が流れたんだと思っていた。

 あの時は、私の背中を撫でながら、翔太も一緒に泣いてくれた……よね。


 私だけじゃ無い。皆泣いてるよ。

 私の家族も、翔太の家族も……クラスの皆だって……。

 だけど、私の背中を撫でながら一緒に泣いてくれる人はもういない。

 お葬式で、おばさんは私を責めなかった。

「美里ちゃん。翔太の分まで、生きてあげてね。あの子がせっかく守ったんだから」

 おばさんは泣きながら私に言った。



 私は、翔太が行くはずだった高校に通った。

 その内に、翔太が出来てたことは、なんでも出来るようになった。

 頑張った。頑張って、翔太の分まで……。


 大人になって、結婚して幸せだと言える家庭を作った。

 子どもは、3人。優しい旦那様と良妻賢母になった、私。

 そうして、子どもは独立して孫もできた。


 ねぇ、もう良い? 私、翔太の分まで生きた?

 満点の人生を送れた? わたしは……。


「おばあちゃん。ママがご飯出来たって……。

 おばあちゃん?」


 ねぇ、翔太……。

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