ドラゴン、聖槍を引っこ抜く。
書籍版1巻発売中です。
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オリビアは小さな手を伸ばす。
「亀さん、これが刺さってて痛いんだよね……?」
亀さんのおでこに突き刺さっている槍。
熱気を放っていて、いまもゆらゆらと周囲の空気をゆらめかせている。
オリビアが手に持っている【失われし原初】から伸びる光は、この槍を差している。
これが、【七天秘宝】のひとつ。
「これは……おそらく記録に残っておる【灼炎の聖槍】でございまする、オリビアお姉さま」
「せーそー……パパ、これ取ってあげられないかな?」
「ぐぉおぉ……」
ひっくり返って水面にぷかぷか浮いたまま手足をジタバタさせている亀さん。そのそばで、ホバリング。オリビアが手を伸ばそうとするけれど「あちち!」となってしまっている。
「う……わらわは無理でございまする……これ以上近づいたら、熱気でどうにかなりそう……」
「パパがやってみようか?」
「うん、ありがとう。パパ」
ボクは大きく口をあけて、槍の先端をぱくりと咥えた。
うん、意外と熱くない。ドラゴンの口は、物凄く熱に強いのだ。逆猫舌ってやつ。ドラゴン、火を吹くし
【灼炎の聖槍】をひっこぬこうと、ぐいぐい力を込める。けっこう深く突き刺さっていそうだ。
「うんしょ、うんしょ」
「グオオオォオオォッ!」
「わわ、パパ殿! 亀が、亀が暴れておりまするっ!! あちっあちっ!!」
「……パパ。そのまま引っ張ってて」
「おふぃふぃあ!?」
ボクの背中からオリビアが飛び降りた。
さっきリュカちゃんを助けようとしたときの風みたいな速さではない。けれど、ボクが止めるまもなく、ふわりとボクの背中を離れて――亀さんのほっぺたのあたりに飛んでいってしまった。
「オリビアお姉さま……浮遊魔法をあんなに簡単そうに……」
「おふぃふぃあ~~!!」
「パパ。大丈夫だよ、そのまま!」
オリビアはボクにそう呼びかけると、大きく深呼吸をして亀さんに向き直る。亀さんは、聖槍を引っこ抜かれるのが痛いのか、それともひっくりかえされてしまったのが苦しいのか。いつのまにか目からぽろぽろと涙を零していたのだ。
「亀さん、大丈夫だよ。オリビアがついてる。きっと、パパが助けてくれるからね――それまで、オリビアが助けてあげる」
オリビアが両手を亀さんにかざす。
両手からぱぁっと光が漏れてくる。あれは授業で習っていた癒やしの魔法だ。ぐぅぐぅ低く唸っていた亀さんが、少しだけ大人しくなる。
オリビア――なんて、優しいんだ!
亀さんが苦しんでいるのに気付いて、亀さんに寄り添ってあげるなんて……パパ、頑張っちゃうぞ。
ボクは、えいやっと聖槍を引っ張る。
亀さんがじたばたする。
オリビアがなだめる。
それを何度か繰り返して、わかったこと。
亀さんの甲羅がぐらぐらして、すごく抜きにくい。引っ張るたびに、亀さんがぐらぐらするので、引っ張っても引っ張っても槍が抜けないのだ。
「か、亀さん。頑張って……!」
「ふぅ、ふぅ……」
「ぐぉ……」
亀さんはすっかり大人しくなっている。
しょんぼりしていて、もう抵抗もしないみたいだ。
「……パパ殿。わらわに手伝わせてくださいませ」
「ふぇ?」
リュカちゃんがボクの背中のたてがみにしがみついたまま、湖に手をかざす。すると、まるで生きているみたいな水の縄がひゅるひゅると巻き上がって、亀さんの体を固定したのだ。
「グオォ」
亀さんが驚いたように手足をばたつかせたけれど、リュカちゃんの術に敵意がないと感じたのか、すぐに大人しくしてくれる。
「リュカちゃん!」
「パパ殿、オリビアお姉さま。どうぞ、今のうちに」
ボクは、ぐいっと力を込めた。
ぐらぐらしない。これなら、いける。
「ふんっ!」
「グオォオ!」
「むっ! これは……」
「パパ、やったぁ!」
亀さんの額から、【七天秘宝】のひとつ【灼炎の聖槍】が抜けた。
槍は小さく縮んでしまって、ぼぅぼぅと立ち上っていた炎も消えた。引っこ抜いた勢いで空中に放り出してしまった槍が、くるくると回転しながらリュカちゃんの手におさまった。
「や、やった! リュカはやりました! これが【七天秘宝】――!」
「ぐおぉ~~~♪」
リュカちゃんが任務達成に目を輝かせる。
同時に、額に刺さっていた槍を抜いてもらった亀さんが嬉しそうな声をあげて――めちゃくちゃ怖かった顔をほころばせた。しゅるる……っとあっという間に亀さんが縮んでいく。
「わわ、亀さん?」
ずっと亀さんをはげましていたオリビアが、小さくなってしまった亀さんをキャッチする。オリビアが両手で抱えられるほどの大きさになってしまったみたいだ。
なんだか、ちょっと可愛い。
「――うぅ、感謝申し上げる。わしの名はパオパオ。この湖に古くから住む亀ですじゃ」
「しゃ、しゃべった!?」
亀さん、喋れるの?