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ドラゴン、大きな亀さんに遭遇する。①

 大きな大きな亀さんの登場に、ボクはびっくりしてしまった。もう、思わず火とか吹きそうなくらいに(あぶない!)。

 だって、その頭には……。



「なんか、刺さってるーー!?」


「わわ、痛そう……」



 亀さんの頭には、槍が突き刺さっていたのだ。

 ただの槍じゃない。

 ニンゲンが扱うには困るくらいに、長くて大きな槍。

 しかもその槍から、なんかすごい熱が伝わってくる。それはもう、パンを焼いてるときの窯くらいに熱い。ちょっと目を離してブクブク沸いちゃったお風呂くらいに熱い。



「あの槍が……【七天秘宝(ドミナント・セブン)!】



 オリビアの持っている宝玉から真っ直ぐに伸びる光は、亀さんの額に刺さった槍を指し示していた。



「グオォオォ!」


 槍を頭に突き刺した亀さんは、ボクを――いや、オリビアを睨みつけて唸った。低い低い唸り声が、湖の湖面を震わせる。亀さんを中心として波紋が広がって、ざぁんざぁんと波を立てた。



「わわっ!」


「あれは!」



 リュカちゃんが、亀さんの吠える声にも怯まずにじっと槍を見つめている。

 亀さんの頭から、ゆらゆらと熱気による蜃気楼が立ち上っている。

 熱そう……。


 ボクたちのことをギロリと睨み付ける亀さん。

 ゆっくりと前足を持ち上げて……水面に立っているリュカちゃんに振り下ろした。

 危ない、とボクはリュカちゃんを庇おうとする。


 けれど。

 亀さんが前足を振り下ろす少し前。



「遅い」



 しゅぱぱっと眩しい飛沫をあげて、リュカちゃんの姿が――消えた!



「わわっ」


「リュカちゃんっ!?」



 次の瞬間、亀さんの前あしが水面を叩く。

 ざぶーん。


 大きな前足。

 それだけに、舞い上がった飛沫はもはや波。やばい。

 万が一、あの波にさらわれて湖に落っこちたら……。

 水泳実習でブクブクと体が水に沈んでいった感覚を思い出して、ボクはブルルっと身震いした。オリビアも、泳ぐことはできない。絶対に湖に落ちないようにしなくちゃ。



(でも、リュカちゃんが……)



 さっきの様子だと、リュカちゃんは亀さんに喧嘩を吹っかける気に違いなかった。

 そんなの、絶対に危ない。

 いくらリュカちゃんが優秀でも、水の中を自由自在に泳げる一族でも。

 ボクの友達を、そんな危ない目には合わせられない。



「どうにか、亀さんを宥めなくちゃ!」


「うん、パパ!」



 ボクとオリビアの心は、ひとつだ。

 まずはリュカちゃんの安全を確保しなくちゃ!



 ボクたちがリュカちゃんの消えた水面に目を凝らしていると、亀さんも同じようにリュカちゃんをパンチし損ねたことに気づいたんだろう。血走った目をぎょろぎょろと動かしている。か、顔が怖い!



「リュカちゃんは……」


「ここでございまするっ!」


 

 ドパン、と力強い音を立てて湖の水面が割れた。

 そう思ったのは、水中から勢いよくリュカちゃんが飛び出してきたからだ。



「カシコミ、カシコミ――」



 と呟きながら指を複雑な形に組んでは解き、組んでは解きを繰り返すリュカちゃん。魔法を使うつもりなんだ。そうボクが思い至ったと同時に、亀さんの体がぐわんと揺れる。



「グオオォオォ」



 鈍く唸りながら、亀さんはゆっくりと体勢を崩していく。

 どうやら亀さんのお腹の下の水が、まるで学院の中庭にある噴水のように勢いよく吹き上がっているみたいだ。もちろん、リュカちゃんの魔法で。



「水辺の戦いでは、わらわは誰にも負けるつもりはありませぬ! もう、二度と!」



 リュカちゃんは鋭い表情で叫ぶ。

 もう、二度と。

 リュカちゃんがオリビアの同級生になったのには、彼女の国が亜竜さんたちの襲撃によって滅んでしまったといういきさつがある――水の国、と呼ばれていたらしいリュカちゃんの故郷。きっと、その時のことを思い出しているんだろう。


 どどどぉ、と亀さんはついにひっくり返ってしまった。亀さんはもんどりうって湖の中に戻っていく。その瞬間、亀さんの頭に突き刺さっている槍から、じゅわあっと蒸気があがった。

 やっぱりあの槍、熱いんだ。



「ふっははは! わらわの力を思い知ったか! エスメラルダ様……パパ殿もオリビア・エルドラコも手を出せなかった亀の化物を、わらわが倒しました!!」



 嬉しそうに湖の水面に立って高笑いをしているリュカちゃん。



「さあ、あの亀! あの化け物の額にある【七天秘宝(ドミナント・セブン)】、わらわが勝ちとってくれまするっ!」



 湖にリュカちゃんが戻ろうとした、そのとき。

 ボクの背中で、ぼうぜんとリュカちゃんの活躍を見ていたオリビアが叫んだ。



「リュカちゃん、あぶないよっ!」



 その声で、ボクも気づいた。

 リュカちゃんの立っている真下から、黒い大きな影が――あの大きな亀さんが迫っていることを。



「あぶないっ!」



 ボクが叫ぶよりも、少しだけ早く。

 ――ボクの、何よりも大事な宝物が。オリビアが、ボクの背中から飛び降りた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぇ?また溺れん?(笑)
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