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ドラゴン、水中探検をする。②

 青い青い湖。

 どこまでも続く青のむこうは、仄暗い灰色が広がっている。

 リュカちゃんが作ってくれた空気の泡を通しても、しんとした水の冷たさが伝わってくるようだ。


 オリビアは手に持っている【失われし原初(ロスト・ワン)】に語りかける。



「パパの宝石さん、近くにある【七天秘宝(ドミナント・セブン)】の場所を教えて」



 リュカちゃんのやつ以外の、と付け加えることも忘れない。

 温かい橙色の光がきらめいて、一筋の光の道になる。


 暗い、湖の底を指し示している。



「湖の底……」


「怖じ気づいたのであれば、わらわに任せて引き返しても、このリュカは笑いませぬぞ。オリビア・エルドラコ!」


「リュカちゃんだけに任せられないよ! オリビア、先輩だもん!」


「むむ……」


「ふたりとも、仲良くね」


「ぱ、パパ殿に言われなくてもわかっておりまする!」


「あはは、ごめんごめん」


「むぅ。はやく潜るゆえ、気をつけて。はぁ……この任務が終わったら、わらわは【王の学徒】になりまする……立派にひとり立ちするのを見ていてくださいませ、エスメラルダ様……」



 うっとりとするリュカちゃん。

 それにしても、そのセリフ。よく魔王さんが「死亡フラグ~!」って言ってるヤツな気がするけど……。


 ぶくぶく、ぶくぶく……。


 ボクたちは、空気の泡とともに沈んでいく。

 ……というか。


 ボクとオリビアは空気の泡に護られているけれど、リュカちゃんは学院水着を身につけているだけだ。胸に大きく「リュカ」って書いてあるやつ。



「む、わらわか。わらわは水の中であろうとちゃーんと動けるのでありまする。イオエナミ一族は水竜の血を引く高貴なる一族であると何度も話したはず」


「あー、水竜さんの……」


「リュカちゃん、すごい!」


「エスメラルダ様と同じく竜人族と呼ばれるものじゃな。エスメラルダ様はわらわよりも、より濃く竜の血を受け継いだ源流に近い御方で……」



 リュカちゃんのエスメラルダさんトークは、いつだって軽快だ。



「しかし、わらわと同じ【竜の御子】と呼ばれる魔力をもった生徒がいると聞いてフローレンス女学院にやってきたのに、まさかこんなノホホン親子とは……」



 お喋りをしながらも、ボクたちを乗せた泡といっしょにリュカちゃんはどんどん湖の底をめがけて沈んでいく。


 少しずつ、少しずつ、湖面から差し込む光が淡くなっていって暗闇が濃くなっていく。まるで冬の夕暮れみたい。だけど、ぴかぴかの星もお月様も出てこない。本当の真っ暗闇だ。



「うーん、暗いなぁ」


「パパ、大丈夫? オリビアに任せてね」


「ん?」



 オリビアは人差し指をちょこっと立てて、「光って」と呟く。すると、オリビアの指先にまばゆい光が宿った。周囲がよく見えるようになる。



「すごい!」


「えへへ。学校で習った魔法だよ」



 魔王さんの魔導書図書館で習うのはやっぱり闇とか炎の魔法的なものが多かったみたい。けれど、オリビアは学校で習う光の魔法も、すぐに自分のものにしてしまうのだ。



「た、ただの灯魔法ではないか……」


「オリビア。もしかして、ボクのために?」


「うん!」



 ふふ。パパ、ドラゴンだから暗闇でもそれなりによく見えるんだよ。

 でも、オリビアの気持ちが嬉しい。


 ボクがほっこりした気持ちになっていると。

 オリビアが「あれ?」と首を傾げた。



「光が、上を指してる……」


「え?」



 【失われし原初(ロスト・ワン)】から伸びる光が、ボクたちの遙か上を指している。

 ついさっきまでは、湖の真下を指し示していたのに。



「……追い越しちゃったのかな?」


「うーん。それにしても、こんなに急に?」



 顔を見合わせるボクとオリビア。

 頭の上にはハテナマークがたくさんだ。



「――ことによると」



 何かを考えていたリュカちゃんが、ふと口を開く。



「【七天秘宝(ドミナント・セブン)】は……動いておるのか?」



 とにかく、追いかけよう。

 リュカちゃんの魔法で、ボクたちを包んだ泡は急旋回した。

 光の筋を、追いかける。




「……あれは!」



 そして見えてきたのは、大きな大きな、「お腹」だった。

 はじめは、湖に浮かぶ木の葉かと思った。

 けれども、近づけば近づくほど、それがどんなに大きいのかわかる。


 ボクが、ドラゴンの姿をしているときと同じくらいの――とっても大きな。



「か、亀ぇっ!?」



 亀さん、だった。


 リュカちゃんは、亀さんから少し距離をとって水面に浮上。リュカちゃんの得意の魔法で水の上に立っている。

 ボクも、水の上にさえ出られればこっちのものだとばかりにドラゴンの姿になる。ぼふん、という音とともに羽を伸ばして、空気をつかむ。



「オリビア、ボクのタテガミに掴まって」


「ありがとう、パパ!」



 自力で浮遊魔法を使っていたオリビアを背中にのせて、一安心。



「パパ、リュカちゃん! 【失われし原初(ロスト・ワン)】の光、やっぱり亀さんを指してるよ!」


「なるほどのぅ、こやつが――湖の怪物というわけか」



 正体不明の大きな亀さんの様子をうかがう。


 すると。

 ゆっくりと閉じていた瞼を開いて、亀さんはボクたちをじろっと睨んだ。


 いや、正確には。

 ボクが運んできた、デイジーちゃんの別荘に保管されていてた「ボクの鱗」を睨み付けた。

書籍版1巻発売後、初の週末です。

どうぞパパとオリビアを迎えに行ってあげてください(・∀・)

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