ドラゴン、湖畔を歩く②
「はわわわわわわわわわわ」
「大丈夫、アンナ?」
時間短縮のため、ドラゴンの姿になったボクがみんなを背中に乗せて運んだ
わけだけれど、案の定アンナさんにはちょっと刺激が強かったみたいだ。
生まれたての子鹿みたいにブルブル震えてしまった。ご、ごめん……。
「でででででデイジー様、おおおおおおお怪我は」
「わたくしは大丈夫ですわ。おじさまのお背中に乗せていただいたのは初めて
なので、少し驚きましたが……」
「なんなのですか、あなたたちは! 魔族に、東国の姫君に、しかも、言葉を
話す竜……それが全員、フローレンス女学院の関係者だなんて
ご主人様達はご存じなのですか! 通われているのは王侯貴族、名門魔術師の
家のお嬢様たちですよ!」
「あら、学友の皆さまも先生方もご存じですわ。たぶん、お父様達には通知も
いっているのではないかしら」
「そんな!」
はぁ……と肩を落とすアンナさん。
「あう。あれは情報過多ってやつであるな」
「ジョーホーカタ」
「うむ、いっぺんに色々起きると何もかもどうでもよくなってくるってヤツで
ある。我もめっちゃ覚えがあるしね」
「そうなの?」
「うむ。新作ゲーを徹夜でやっていたら家の前に急に巨大な古代竜が現れて我
が家を奪っていったあげくに家ごと遠くの山に運ばれたときには、ぶっちゃけ
この世の何もかもがどうでもよくなったな!」
「ご、ごめんって……」
あのときはオリビアを育てるので頭がいっぱいだったんだよ!
まぁ、今もそうなんだけどね。
……ざぁん。ざざぁん。
【神龍泉トリトニス】には、穏やかな波が寄せては返す。
ボクの抱えた鱗を狙ってくるという湖の怪物は、本当に姿を現してくれる
のだろうか。
【七天秘宝】の手がかりだったらいいのだけれ
ど。
フローレンス女学院の子どもたちは、湖のはるか対岸で自由時間を満喫して
いる。こちら側はとっても静か。波が寄せては返すだけ。
しばらく黙っていたリュカちゃんが、ぽつりと呟いた。
「……やはり、おかしいのでありまする」
「え?」
「湖なのに、波がある」
「あぅ!」
魔王さんが、目を見開いた。
え、どういうこと?
「……我もわかんないけど、雰囲気的に」
「魔王さんっ!」
「……なるほど!」
「クラウリアお姉ちゃん? どういうこと?」
「ええ。湖には、こんな寄せては返す波はないはずなのです。
海ではありませんので」
「さよう。けれど、この湖は……」
ざぁん、ざざぁん。
寄せては返す、浜辺の波。
「やはり、この湖は何かの力の影響を受けておるのかと」
「少し様子を見てみましょうか。私が見張りを」
「うむ」
クラウリアさんが、普段にもましてキリリと格好良く見える。
いつのまにか、水着姿のクラウリアさんの手には大きな槍が握られていた。
「いつの間に?」
「あ、これ仕込みパラソルでして……」
ぽふん、と音を立ててパラソルを開いて見せてくれた。
なにそれ、すごく面白い!
「おおお~~!」
「すごいね、パパ! 傘なのに武器なんだねっ」
「ふっはっは、魔族の武器は夢いっぱいであるっ」
「かっこいいですよね」
パラソルが槍になるなんて……よくわからないけど、かっこいい!
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