ドラゴン、湖畔を歩く。①
ボクたちは、湖の怪物が狙ってくるというボクの鱗を持って浜辺にむかった。
「あち、あちち!」
「パパ、大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよオリビア……わわ、それにしてもあついっ」
頭の上に載せた透明な鱗が太陽の光を集めて、ボクの髪の毛をジュッと焼く。
そのたびに位置をずらしているんだけど、しばらく経つとまた熱い思いをする羽目になる。
うーん、ボクの鱗ながらやっかいだ。
やってきた浜辺は。午後の自由時間の真っ最中。
オリビアやリュカちゃんの同級生たちが水着姿で思い思いに過ごしている。
なかには、顔見知りの友達がボクらに手を振ってくれた。
普段であればなんていうことはないのだけれど、やっぱりこの水着……魔王さん曰く『海パン』っていうのは落ち着かない。
「うーん、やっぱり恥ずかしいなぁ」
「いやいや、古代竜ってばドラゴンとして何千何万の時を全裸で過ごしてきたであろう?」
「そ、そうなんだけど!」
っていうか、魔王さん。
全裸っていうのやめてよ、いや、ドラゴンは基本全裸だけれども。
「こう、中途半端に着てると恥ずかしいっていうか、上半身に服を着てないのが際立っちゃうというか……」
「リゾート感あっていいと思うんじゃがの~」
「ああ、では古代竜殿。こちらをコーデしてみては?」
「コーデ?」
クラウリアさんが肩掛けバッグから取り出したのは、白い羽織もの。
薄くて肌触りがいい。
フードがついていて、お日様の光から頭を守れるすぐれものだ。
さっそく羽織ると――うん。いい感じ。
「あ、パパそれも似合ってるねえ」
「そうかい、オリビア。ありがとうねぇ」
「えへへ~」
「あう。あとはグラサンもかけるとワイルド系パパになれるのであるっ!」
「野生……?」
いや、ボクは、まぁ野生のドラゴンといえなくもないけど……それ以前にオリビアのパパとしてちゃんとお家で暮らしてるし……。
ボクが頭の上にはてなマークをたくさん飛ばしていると、リュカちゃんがボクのパーカーの裾を引っ張った。
「パパ殿、急ぎ参るぞ!」
「うんうん、待ってね」
「その鱗を狙う何らかの気配を感じる……子どもたちから遠いところまで急いだほうがよい!」
「ほんとに? うん、そしたら急ごうね……って、リュカちゃんも十分子どもだけど」
「わ、わらわは子どもではありませぬっ!」
「あう、全然お子ちゃまであろう」
「マレちゃん!」
わいわいと、いつも通りに歩くボクたち。
後ろから普段と違う顔――デイジーちゃんと、アンナさんがついてくる。
アンナさんは、ふるふると震えていた。
「き……緊張感がなさすぎます……これが伝統あるフローレンス女学院の、しかも【王の学徒】……?」
「オリビアちゃんたちは、いつも通りにしてるだけですわ。アンナ」
「魔族とあんなに親し気に……ああ、頭が……」
いまだにぶつぶつ言っているアンナさんだった。
でも、なんだかんだで全員に気を配って、彼女がお屋敷から持ってきたお水や軽食、タオルを差し出したりしてくれている……すごくまじめな人なのかも。
お日様はお空のてっぺん。
子どもたちから離れたところに行くといっても、【神龍泉トリトニス】は広い。
「ちょっと急ごうね」
「うん!」
もう少し行けば、浜辺が広くなる。
そうしたら、ボクがドラゴンの姿になってみんなを乗せて歩いても早いかもな。
……アンナさんがびっくりしなければいいけれど。
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