ドラゴン、鱗を見つける。①
ごくり、とボクは息をのんだ。
デイジーちゃんの家の、この別荘に伝わっていた――謎の鱗。
ボクがうっかり寝ぼけて作ってしまった【神龍泉トリトニス】。
まさか、ボクの鱗なわけがないと思っていた。大昔の話だし。
そう、思っていたのだけれど。
(……ぼ、ボクの……鱗だ……)
宝物庫、と呼ばれる場所でとっても大切に保管されている。
半透明の鱗は、オリビアが両手を広げてやっと抱えられる大きさだ。
たぶん、大きさ的に、しっぽの先っぽの鱗とかかなぁ……。
「パパ?」
「あはは、なんだいオリビア」
「あう。その表情……ビンゴであろう、古代竜」
「び、びんごって?」
「……よもや、パパ殿の鱗とは」
あはは、バレてる。
こんなに丁寧に、ふっかふかの布の上で保管されているなんて――ちょっと恥ずかしいなあ。
でも、鱗なんてどうして残ってたんだろう。
みんなの視線を浴びながら、ボクが照れていると。
「まぁ、やっぱりおじさまのものだったのですね……!」
と、デイジーちゃん。
やっぱり、とはどういうことかと聞いてみる。
デイジーちゃんのご先祖が【神龍泉トリトニス】に棲んでいたという怪物から奪ったという、この鱗。
なんでも、この鱗を狙って怪物が湖から上がってきたという伝説があるらしい。
「この鱗、今はこの宝物庫で封印を施しているのですが……鱗を取り返そうとしていたという、その輝く角を持つという怪物と【七天秘宝】、何か関係があるんじゃないかと思いましたの」
「おおお……!」
リュカちゃんが、デイジーちゃんの言葉に目を輝かせる。
たしかにこれは、大きな手掛かりかもしれない。
「でかしましたぞ、デイジー・パレストリア!」
「ふふ、そうじゃないでしょう。リュカちゃん?」
「……デイジーおねえさま」
「うんうん」
同じ寮の先輩は「おねえさま」と呼ぶのがきまりだ。
オリビアのことは、なるべく「おねえさま」と呼びたくないらしいリュカちゃんだけれど、意外と素直だな。
鱗とボクと見比べて、魔王さんがちょっと不安そうな顔をする。
「あう……でもこれ、持って出てダイジョブなの?」
「うーん」
『怪物』とやらが、この鱗を狙ってきているとしたら。
そしたらたしかに、持ち出したら危ないかも。せっかくデイジーちゃんの家が封印してくれているのに。
ボクがそんなことを考えていると。
オリビアがにっこりと笑って、ボクを見上げた。
「でも、パパ」
「うん?」
「パパが一緒なら、大丈夫でしょう?」
わぁ、全幅の信頼!
ボクはちょっと嬉しくなってしまう。
「そうだねぇ、ちょっとお借りするくらいなら――っていうか、お借りするも何も、もともとボクのだしね。この鱗」
ずいぶん昔に剥がれたものだろうに、きれいな透明に保たれている鱗。
ちゃんとお手入れしてくれていたのだろうか。
そんなところで悪いけど、ちょっとお借りしてみようか。
その怪物さんとやらが鱗をねらってやってきてくれたら、探す手間も省けるしね。
クラウリアさんが、ボクの鱗をまじまじと見ている。
「ふむ。封印がほどこされているので、持ち出すのも手間なようにみえますが……いや、我が麗しき魔王様の魔導書図書館の封印もあっけなく解いた古代竜殿なら問題ではないですね」
「普通に触ってもいいのかな。……じゃあ、ちょっとだけ、お借りします」
「あう、頼むぞ古代竜」
ボクが、鱗を飾っている台座に手を伸ばした、そのとき。
「何をしているのですか、あなたがた!」
「あうぅ~!?」
「ひゃんっ」
ぴしゃんとした声が響いた。
振り返ると、背筋をぴんと伸ばした女の人。
険しい顔をした、この館のハウスマスター、アンナさんだった。
「……その角。魔族など、やはりこの屋敷に入れるべきではありませんでした」
「あう。わ、我?」
アンナさんの視線は、台座に手を伸ばしていたボク――ではなく。
魔王さんに注がれていた。
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