ドラゴン、湖水浴をする。④
ボクは、魔王さんとクラウリアさんが用意したパラソルの日陰からその様子を見守る。
魔王さんは、寝椅子に寝そべってフルーツたっぷりのジュースを飲んでいる。
「って、うわ! 魔王さん、なにその仮面!」
「いや、仮面じゃないし。サングラスだしっ!」
「しかし、オリビアさん大丈夫でしょうか……私も魔族式の武術はお教えしましたが、水練は……」
「それこそ、我らの軍は水軍は水魔がおったしのぅ。別に我ら泳がなくてもよかったし」
「ですねぇ」
「オリビアなら大丈夫だよ、多分! ……多分!」
「あう。とか言いつつ、古代竜ってばめっちゃガチガチであるぞ?」
ボクたちに見守られながら、オリビアが湖に入っていく。
オリビアもすごく緊張しているみたい。頑張れ、頑張れ!
さっきのリュカちゃんと同じように、勢いをつけてオリビアが湖に飛び込んだ。
――どぶん。
「……どぶん?」
リュカちゃんのときの「さぱん!」というさわやかな音とは全然違う水音。
オリビアの姿が消えた湖の水面に、みんなの目が注がれている。
きっとオリビアだったらリュカちゃんみたいに素敵に泳いでくれるだろう……という期待と、いつまでたっても姿を現さないことへの不安。
ボクはハラハラしながら、オリビアが飛び込んだ大きな波紋を見つめる。
すると――。
「ぶくぶくぶくぶく……」
「お、オリビアーーー!?」
ボクは、無我夢中で走って行って、湖に飛び込む!
泳いだことはないけれど、まぁ、どうにかなるだろうと思ったのだ。
……けれど。
「「ぶくぶくぶくぶく……」」
……泳げなかった。
「あうぅ~!? オリビア、古代竜~~っ!?」
「たたた、大変です!」
遠くから、魔王さんたちの声が聞こえる。
どうしよう。オリビア、オリビア――いま、パパが助けるからね、でも、身体が動かない……!
混乱してしまっているのか、上手く体が動かない。
ドラゴンの姿に戻るのもうまくいかない。
必死に伸ばした手を柔らかい、小さな手がつかみ返してきた。
オリビアだ。
ボクは、その手を必死で握りしめる。
「い、いけない! わらわが行きまするっ!」
そのとき。
力強い声が聞こえるや否や、ざばんと水面が揺れた。
しずんでいくボクたちの身体を、びっくりするくらいに強い力が引っ張り上げる。
「……ぷはっ! はぁ、はぁ、ぱ、パパ!?」
「げほげほ。オリビアっ」
水面に押し上げられて、息をする。太陽がまぶしい。
みんなが「よかった!」とほっとした声をあげる。
ボクが泣きそうになりながらオリビアを抱きしめる。よかった、本当にオリビアが無事で!
ボクたちを助けてくれた命の恩人――リュカちゃんも、心底ほっとしたようにつぶやく。
「……よかった。まったく、世話の焼ける……っ!」
「リュカちゃん……!」
水の中で、まるで地上とかわらずに素早く動くリュカちゃん――オリビアは、リュカちゃんにひしっと抱き着く。
「リュカちゃん! パパを助けてくれて、ありがとう!」
「む、あ、えっと……?」
「ボクからもありがとう、リュカちゃん。オリビアを助けてくれて……」
勇気があって、優しいんだね。
友達として、とっても嬉しいよ。
ボクとオリビアの言葉に、リュカちゃんはたちまちほっぺたを真っ赤に染めた。
「べ、別に……わらわは、目の前で人が死ぬのは嫌なだけであります…………。これ以上は」
最後の方の言葉は、もにょもにょとして聞こえなかった。
リュカちゃんに引っ張られて、ボクたちは岸辺にたどり着く。
「わぁーーん、よかったぁあーーー、オリビア、古代竜~~!」
「本当によかったです……びっくりしましたわ。オリビアちゃんがまさか、その、泳げないなんて……」
「ともあれ、御無事でなによりです。ココナツジュースでもいかがですか?」
「えへへ、ごめんね。マレーディアお姉ちゃん、デイジーちゃん、それにクラウリアお姉ちゃんも……心配かけちゃた」
とってもびっくりしたけれど。
オリビアはニコニコ笑っていたから、ひとまず安心するボクなのだった。
水辺で子どもが遊ぶときには注意って、育児書にも書いてあったもんな……まさか、自分がおぼれるとは思わなかってけれど。
ボクは、「オリビアを守るためにも泳ぎの練習、ぜったいしよう」と心に決めたのだった。
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