ドラゴン、湖水浴をする②
【神龍泉トリトニス】の砂浜に、フローレンス女学院の1年生と2年生がずらりと並んでいる。
ほとんどの子が湖で泳ぐのは初めてらしく、みんなソワソワしている。
そういえば、ボクも泳いだことなんてないなぁ。お山には大きな泉なんてなかったし。
……。
そういえば、オリビアも泳ぐのって初めてじゃないかな。
見れば、オリビアもなんとなく不安そうな顔をしている。
まるっきり初めての経験だもんね。
がんばれ、オリビア!
ボクがハラハラして見守っていると。
「リュカ・イオエナミさん。お手本を見せてくださいますか」
「うむ、いいでしょう」
先生に名前を呼ばれたリュカちゃんが、颯爽と前に歩み出た。
表情からも、自信満々なのが伝わってくる。
ボクも友達として、リュカちゃんを応援してしまう。
「がんばれ、リュカちゃん!」
「なっ、言われなくともわかっておりまするっ!」
ざぶざぶと湖に入っていくリュカちゃん。
少しも怯む様子がない。
風で波打つ水面に、リュカちゃんが身体を投げ出した。
お日様の光をキラキラと反射する水面が、リュカちゃんを受け止めた。
とぷん。
軽い音を立てて、リュカちゃんが湖に飛び込む。
大きく上空に跳んで、勢いよく水に飛び込む姿勢は――まるで、お魚みたい!
「す、すごーーい!」
オリビアが大きく目を見開いて、手を叩く。
リュカちゃんの泳ぎは見事だった。
それこそお魚のように、すいすいと湖面を滑っていく――すごい、リュカちゃん。まるで、人魚さんみたいだ!!
「すごい!」
「さすがは一年の首席ね」
「東国――水の国のお姫様だったって噂よ」
「惚れ惚れしちゃう」
大きな拍手が広がっていく。
ボクもリュカちゃんに大きな大きな拍手をおくる。友だちとして、とっても誇らしい気持ちだ!
魔王さんたちも、リュカちゃんの姿を見られればよかったのに。
いつもリュカちゃんに黒猫の姿で抱っこされている魔王さん。
今回の遠足では人型で参加して楽しそうだったのに……さっきから姿が見えない。
「魔王さん、どうしたんだろ?」
湖からあがってきて、みんなから褒められているリュカちゃんを眺めながら、ボクは首を傾げた。
あたりを見回す。
「学院水着」姿の生徒たち……やっぱり、その中に魔王さんはいない。
「うーん、もしかして寝坊かな?」
まだお日様も昇りきらない午前中だ。普段だったら、フォンテーヌ寮で朝ご飯を食べているころ。
魔王さん、あんまり朝得意じゃないものなぁ……夏休みとかはいっつもオリビアがお部屋の前で「朝だよー!」って起こしたり、クラウリアさんが寝ぼけた魔王さんをダイニングにずるずる引きずって来りしていたなぁ……。
そういえば、もうすぐ夏休みだ。
すぐこの間、二年生になったばっかりだと思ったのに。
子どもが大きくなるのって、あっという間だ。
今年は、オリビアが楽しそうに学校で過ごしているのを間近で見られて、幸せだな。うん、めちゃくちゃ幸せだな!
「ふふふ……」
ボクが思わずニコニコしていると。
「わーーーっはっはは! なにをニヤけておるのだ、古代竜!!」
「そ、その声は!?」
魔王さんの声が響いた。めっちゃ大きい声!
思わず、ボクや周囲の子どもたちが声のする方を振り返る。
すると、ゆっくりと魔王さんがこちらに歩いてくるではないか。
しかも、クラウリアさんが大きなパラソルを差して魔王さんに付き従っている。
ボクはびっくりしてしまった。だって、魔王さんの水着が――
「わわっ!」
「うっははは! スク水などはお子ちゃまの水着であるっ! この超美麗なる我に似合う水着と言えば、これであるっ!」
「わわ、マレちゃん!? は、破廉恥でございまする~!」
みんなに泳ぎ方の説明をしていたリュカちゃんが、顔を真っ赤にしている。
気持ち、すごくわかるよ!
だって……。
「そ、その水着何~~!?」
魔王さんの水着、すっっっごく、「露出」が多いんだ。
お尻とおっぱいしか隠れていないじゃないか……!
ボクは、呆然とした。
魔王さんは、えっへんとしていた。
書籍版1巻は8月31日発売です。
そして、コミックライド様にて【コミカライズの連載】が決定しました!!!
お楽しみに!!