ドラゴン、湖水浴をする①
みんなで大食堂で食べる夕ご飯、お屋敷の外で焚火をしてのキャンプファイアー、普段の寮分けとは違うお友達とお部屋でお喋り。遠足はとっても楽しい。
オリビアも、他の子たちも楽しそう。
魔王さんも、黒猫姿ではなくてニンゲンの姿だ。
真っ黒い髪に、羊さんの角。
にゃははと笑う顔は、子どもたちと同じく無邪気で可愛い。
「あ、マレちゃん人参のこしております!」
「あうっ!? う、うるさいんだけど。別に食べられないわけじゃないし!」
「マレーディアお姉ちゃん、人参は絶対食べちゃダメっていうしゅーきょー的な理由があるんだよね?」
「オリビア・エルドラコ……素直すぎでは……!?」
なんて、リュカちゃんたちも交えて、ワイワイやっている。
リュカちゃんとおなじ1年生のなかでも、魔王さんと仲良しの子もいるみたい。
魔族は差別されている……なんて、信じられない。
けれど。
「古代竜殿、何か聞かれたのですか?」
「クラウリアさん」
「我が麗しき魔王マレーディア様のことは、私が必ずお守りします。私は、魔王の騎士なので。だから、気にしないでください」
微笑むクラウリアさん。もしかしたら、ニンゲン界での差別のことを知っているのかも。
キリリとした表情で「マレーディア様は私がお守りします」と言いつつ――パジャマ姿で生徒たちと楽しそうに談笑している魔王さんを、パシャパシャパシャッとガン=レフで激写している。
ものすごく、真剣な表情だ!
楽しい夜は更けていった。
***
翌日。
やっぱり、ぴかぴかの晴れだ!
お日様をたっぷり浴びて、ボクはうーんと伸びをする。
昨日はもう夕方に差し掛かりそうな昼下がりだったから気づかなかったけれど、湖畔に吹く風って気持ちがいい!
「パパ~!」
「オリビア!」
着替えを済ませて、ボクのところに走ってくるオリビア。
紺色で体にぴったりとフィットしている水泳用の服は、フローレンス女学院特製の「学院水着」というらしい。
お魚みたいに水をはじく素材でできていて、泳ぐのにぴったりなんだって。すごい。
胸には大きな四角いゼッケンがあって、「オリビア」と書いてある。
普段は三つ編みおさげにしている髪を、今日はさらにくるくるとおだんごに纏めてお花の髪飾りでとめている。
耳の横にぽこんと丸いまとめ髪があって、さわやかだ。
魔王さんが「夏といったらイメチェンであるっ!」ってはりきって髪の毛を可愛くしてくれたみたい。
よかった、ボクは三つ編みしかできないし。
「パパ、どうかな? 似合ってる?」
「うん、すごく似あっているよ。よかったねえ」
「やったー!」
オリビアはいつもに増して楽しそう。
そして、オリビアの後ろからまたひとり学院水着姿の子が。
「水練、つまりはわらわの本領発揮ということでありまするなっ! このリュカ・イオエナミの本領発揮というもの!」
オリビアの後ろから、むふふと笑いながらやってきたリュカちゃん。
いつも以上に、なんだか自信に満ち溢れている。
ふたつに結った髪の毛を風になびかせて、なんだかとってもかっこいい。
「一応、パレストリア家のたしなみとして水泳はしたことありますが……うまくできるかどうか」
普段はおろしている藤色の髪を結いあげたデイジーちゃんだ。
わらわらとクラスメイトたちが集まってくる。
みんなが、どきどきワクワクの顔をしている。
そう。
今日は朝からフローレンス女学院の生徒たちは「湖水浴」。
【神龍泉トリトニス】は、とっても広くて波が穏やか。遠くまで浅瀬が続いているので水泳の練習にぴったりなんだそうだ。
そして――
「ふふふ……みながチャプチャプと遊んでいる間に、わらわが颯爽と【七天秘宝】を見つけ出してくれまする!」
「えへへ、オリビアだって頑張るよ!」
「むむ、ライバル……!!」
リュカちゃんがバチバチと火花が散るような視線をオリビアに送る。
この【神龍泉トリトニス】の湖の中に、【七天秘宝】が眠っているのだ。
「よぅし、さっそく探索を――」
「あっ、待ってリュカちゃん!」
「リュカさん、オリビアさん」
「ひゃいっ!」
湖に向かって走りだそうとしている二人に、先生がぴしゃんと声をかけた。
「え、えへへ?」
「オリビアさん。あなたは【王の学徒】とはいえ、フローレンス女学院のひとり。リュカさんも、【七天秘宝】探索の公務があるとはいえ、あなたも生徒ですっ! 午前中の水泳実習は受けていただきますからね!?」
「「ご、ごめんなさい……」」
先生の毅然とした迫力に、オリビアとリュカちゃんはしょぼんとしていた。
二人とも同じような表情をしていて、ボクは思わず吹き出してしまった。
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