ドラゴン、遠足に行く ~1日目③~
お宿はすばらしかった。
魔王さんのお城にも負けないくらいに広い邸宅で、なんでも貴族って人たちの別荘なんだそうだ。
フローレンス女学院の卒業生の一族の持ち物で、特別に貸してくださっているのだ……と先生が言っていた。
200人の子どもたちが泊まっても大丈夫なくらいに、とっても広い。
本館の他に、別館もあるんだって。
「「「お帰りなさいませ、花のお嬢様がた」」」
クラウリアさんが、お家で魔王さんのお世話をしているときに着ているメイド服。
あれにそっくりな服を着た女の人たちが、ずらりと出迎えてくれた。
年をとった女の人も、若い女の人も、みんな同じメイド服。
この大きなお屋敷は『トリトニスの屋敷』と呼ばれているそうで、水の精霊さんをかたどっている石像や彫刻であふれている。
お屋敷の屋根も湖の水面と同じ透き通るような真っ青だったのだけれど、お屋敷の中も涼やかな青、青、青!
うーん、すてきだ。
「ごきげんよう! オリビア・エルドラコです」
年をとったメイドさんのひとりと、ぱちんと目が合ったオリビアが礼儀正しくお辞儀をする。
たどたどしいところは、ほとんど見当たらない。
オリビアの成長を感じた。
「ごきげんよう。第2学年の首席の、エルドラコ様ですね」
「は、はいっ」
オリビアは元気にお返事をする。
首席っていうのは、学年でイチバンということだ。すごいよ、オリビア!
「ごきげんよう。わらわはリュカ。リュカ・イオエナミでございまする」
「イオエナミ様。第1学年の首席でいらっしゃるとうかがいました。ようこそ、トリトニスの屋敷へ」
「世話になるゆえ、よろしく頼む」
リュカちゃんの言葉に、メイドさんは恭しく頭を下げた。
「お嬢様方をお迎えできて光栄でございます。私はこちらの屋敷のハウスマスターでございます。私のことは、どうぞアンナと」
「あう? メイドではないの?」
首を傾げる魔王さんに、アンナさんは丁寧に言葉を返した。
「はい。メイドたちを初めとした使用人達を取り仕切り、この屋敷の切り盛りを旦那様より仰せつかっております――この屋敷の使用人頭であり責任者、と思っていただければ」
「あうぅ、ハウスマスター……! か、貫禄がちがうな!? な!?」
魔王さんはアンナさんの威厳のある切り返しにとっても感激したみたいで、リュカちゃんとクラウリアさんに「なっ、なっ!」と同意を求めている。
でも、たぶん魔王さんより千歳以上は年下なんだとおもうよ、その人。
「……マレーディア」
アンナさんの眉毛がぴくんと動いた。
「あう?」
「その角も……あなた様はよもや、魔族の末裔でございますか」
「う、うむ!? あう、あー……まぁ、そうだな」
魔族というか、魔王だけどね。
魔王さんの返事に、アンナさんは難しい顔をした。
「……この屋敷に魔族の者が出入りするとは……しかし、フローレンス女学院の関係者なのであればいたしかたなし、ですか」
ふかい溜息。
なんだか、ちょっとひっかかる溜息だ。
「……あう。やなかんじ」
「ですねぇ」
「……あう。噂には聞いていたけど。小さき者どもは狭量で困るな。ほんとに、まったく」
ぎゅうっとクラウリアさんに抱きついた魔王さん。
なんだろう、さっきの言い方……。
「えっとマレーディアお姉ちゃん、今夜はみんなで一緒に寝るんだって」
「あう」
「楽しみだねぇ」
「……うむ!」
オリビアが、魔王さんにぎゅうっと抱きつく。
久々に魔王さんと一緒に居られるのが嬉しいみたいだ。このところ魔王さんはずっとリュカちゃんと一緒に寝ていたしね。
オリビアが魔王さんとリュカちゃんの手を引っ張って、今夜泊まる部屋に走って行った。
アンナさんが、ボクの方をみてぽぉっとしているメイドさんたちに、ぴしっとした声を飛ばしている。
「あなたたち、麗しい殿方に見とれていないで。仕事のお時間ですよ!」
ハウスマスターの声に、メイドさんたちはそそくさと動き出す。
その様子を一緒に微笑ましく見ていると、ちょいちょいと服の裾を引っ張られた。
8月31日、書籍版1巻発売です!!
書店でのご予約、どうぞよろしくお願いいたします。
可愛いよ!!