ドラゴン、遠足に行く。~1日目②~
さんさんと降り注ぐ夏の日差し。
きらきら煌めく水面の光。
【神龍泉トリトニス】のほとりでは、フローレンス女学院の1年生と2年生が思い思いにお喋りをして、遊び回っている。
魔王さんも麦わら帽子とお気に入りの白いワンピース姿で、子どもたちに混じって楽しそうだ。
クラウリアさんも、普段の甲冑やメイド服ではなく、さわやかなお洋服に身を包んでいる。
お花を観察したり、ちょうちょを追いかけたり。
うんうん。たのしいよねぇ、そういうの。
微笑んで魔王さんを見守っているクラウリアさん……の手には、謎の道具が握られている。
まぁるい筒のついている箱で、筒のさきっぽを魔王さんにむけては、パシャパシャ!! パシャパシャパシャ!!! と音を鳴らしている。
何してるんだろう?
「クラウリアお姉ちゃん、何しているの?」
「はっ、オリビアさん。すみません、今手が離せず……太陽の下でよその娘さん達と遊び回るマレーディア様なんて、次に撮影できるのは何百年後かわかりませんからね……!」
「さつえい?」
「ああ、これは魔族に伝わるガン=レフという道具でして……」
「がん、れふ……?」
なんだろう、それ。
ボクとオリビアは顔を見合わせた。
「オリビアさん、はいちーず!」
「ほえ?」
パシャ!
大きな筒をオリビアに向けたクラウリアさん。
ガン=レフから、べろんっと紙が吐き出された。
真っ白な紙。
けれど、しばらくすると……。
「お、お、オリビアだっ!!!!!」
のぞき込んでいたボクは、思わず叫んだ。
オリビアの、きょとんとした可愛い顔が、ガン=レフから出てきた紙に写されていたのだ。
か、かかか、かわいい!!
「この紙を、魔族の間ではチェ=キといいます」
「す、すごい~~!!」
このチェ=キは、ボクの宝物になることが今この瞬間に決定した。
オリビア、かわいい!!
クラウリアさんは、「こうしちゃいられません!」と魔王さんをパシャパシャする作業にもどってしまった。
***
「パパ、がんばるねっ!」
オリビアが両手で大事そうに抱えているのは、丸い宝玉。
中心部分で七つの星がきらめいている、大きな宝玉。ボクのお気に入りだ。
【失われし原初】。
ニンゲンたちが大事にしている、大きな力を秘めた宝玉を使ったアイテムたち――【七天秘宝】を探し出すための秘密兵器だ。
「むぅ……実際にこの手で見つけ出すのは、わらわじゃがな!」
「えへへ、リュカちゃんも一緒にがんばろうね」
「一緒ではありませぬっ! オリビアおね……オリビア・エルドラコはいつもそうやって……!」
「まぁまぁ、リュカちゃん」
リュカちゃんは、ボクの大切な友達だ。
オリビアにライバル心を抱いているみたいだけど……仲良くしてほしいな。
「はやく、【失われし原初】を起動しないのか」
「うん、待ってね」
オリビアは、リュカちゃんの言葉に急かされるようにして【失われし原初】を抱え直す。
お祈りするように宝玉に額を寄せて――目を閉じた。
こうしてまじまじと見ると……真剣なオリビアもとっても素敵だ……!
「宝石さん、この近くにある【七天秘宝】の場所を教えてください――あ、リュカちゃんの以外の!」
七つの星のうちのひとつが、きらりと光る。
宝玉全体にきらきらの光が広がって……あふれ出した輝きが、一筋にまとまって放たれた。
周囲で楽しそうに遊び回っていた子どもたちが、「わぁ!」と歓声をあげてボクたちの方に注目した。
キィン――と清らかな音。
オリビアの抱えた宝玉から伸びた光は、大きな湖の底を差していた。
え?
これって、つまり……。
「【七天秘宝】は……」
「……湖のなかにある?」
えー。
それ、見つけるのスゴく大変なんじゃない?
ボクはずっと、お空やお山で暮らしてきた。
水の中で暮らすドラゴンも、昔はいたけれど……最近はほとんどが姿を消してしまった。
「ふふふ……んっふふっふ!」
「リュカちゃん?」
「ふふふ……この勝負――このリュカがもらいましてございます! 【七天秘宝】がひとつ、清廉なる水を操る【蒼水の剣】を守り続けてきた一族の末裔であるわらわの!! 大勝利!!」
リュカちゃん、自信満々だ。
「ふふふ、さっそく……」
リュカちゃんが湖に飛び込もうとする。
いやいや! ずぶ濡れになっちゃうよ!
ボクがあわわと慌てていると――猫のような素早さで、魔王さんが割り込んできてくれた。
「あうぅ~~! ストップ、ストップ~~!」
「はっ! マレちゃん!」
リュカちゃんにがっちり抱きついた魔王さん。
その後ろからパシャパシャ音がするのは、たぶんクラウリアさんだ。
ふー、と息を吐いて魔王さんはキリッとした顔をした。
さすが、魔王さん。しゃきっとするときは、しゃきっとするんだな。
魔族たちをまとめる立場にあっただけあるなぁ!
「まったく……浅はかなり、リュカ・イオエナミ!!」
「ふぇ?」
「あうぅ……いいか、せっかく夏が来たのだぞぅ? 綺麗な砂浜!! きらめく水しぶき!! 飛び込むときの姿は決まっているだろう!!」
「は、はあ?」
「み・ず・ぎ!!」
ててーん、と魔王さんは腰に手を当ててお空を指さす。
「さんさんと輝く太陽!!! めっちゃデカい水辺!!! 美少女こと我ら!! そうきたら――水着であろう、そうであろうっ!?」
うっはっは~とゴキゲンに笑う魔王さんに、オリビアとリュカちゃんはきょとんと顔を見合わせた。
「えっと、マレちゃん」
「それって……明日の水泳実習のときに探した方が良いってこと?」
「……あう?」
「明日はね、みんなで水泳実習だよ!!」
魔王さんは、「あう。そ、そういう話……? いや、そういう話なのか……?」とムムム顔をしている。
とりあえず、リュカちゃんは、
「まぁ、マレちゃんがそう言うなら……」
と引き下がってくれた。
よかった、ずぶ濡れになったらさすがに寒いものね。
日が暮れてくる。
ボクたちは、【神龍泉トリトニス】のほとりにあるという、今日のお宿に向かうことになった。
次回から、水着回です!!
そしてリュカちゃんの「真の力」が……!!
―――
書籍版発売まで、あと3週間です!
大幅加筆で素敵な一冊になっています。
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