ドラゴン、遠足に行く。〜1日目〜
8月31日、加筆修正たっぷりの書籍版が発売です。
是非チェックしてみてください!
「すごい!」
オリビアの弾んだ声。
目の前に広がる、海! いや、湖なのかな?
……いやあ、大きいなぁ『神龍泉トリトニス』!
「こんなに大きなことになっていたなんて……っ!
キラキラ光る水面。
湖畔に生い茂る、あおあおとした柔らかそうな植物。
水のにおい。
オリビアたちの乗った馬車をくわえたまま、ボクは大きく旋回する。
すごい、遠足すごい!
「うわぁ~! こんなにたっくさんのお水、はじめて見る!」
「あううぅ~! ま、まぶしいっ」
「魔王様、サングラスかけますか?」
「おおっ、さすがクラウリアだなっ。どう、どう、似合う?」
「ええ、とてもお似合いですよ、マレーディア様!」
「むっふっふ~!」
「み、皆の者ははしゃぎすぎなのではあるまいか。【七天秘宝】を探し出すという使命が……わらわは、遠足ごときではしゃいだりなど……」
「あうっ!? リュカ、とか言いつつ窓からめっちゃ身を乗り出すのはやめろ~~!」
みんなできゃいきゃい大騒ぎ。
オリビアも楽しそうだ。
よかったね、オリビア。
遠足楽しみにしていたもんね。
はじける笑い声に、ボクも心がウキウキする。
大きな翼を羽ばたかせて、地面にゆっくりとおりていく。
水と草の混じった、ウキウキする匂いがした。
空は快晴――遠足日和だ。
***
「クッキーおいしいね、パパ!」
「ほんとだね、焼き立てじゃないのに……ほろほろで、サクサクだ」
敷布を広げて、おやつのバスケットを広げる。
今日は学外活動だし、ボクのことを学院内でも信頼してくれる先生や生徒が増えたのでニンゲンの姿だ。
ひさびさに、広々としたところを歩くと気持ちがいい。
オリビアと一緒にこんなに遠出したのは初めてだし。
旅の途中で食べたお弁当は、食堂のおじさまたちや上級生のみんなが早起きして作ってくれたという、サンドイッチだった。
宮廷料理人の娘さん、ケイトちゃんが中心になって作ったおやつのクッキーをみんなに配る。300サキュル以内でも、材料から作ると結構な量になったのだ。
おいしい、おいしい。
ボクとオリビアがにこにこ笑いあいながら食べていると、ケイトちゃんがえっへんと胸を張る。
「むっふふ! オリビアのおじちゃん、お目が高いっスね。それはウチの父から教わったクッキー生地なんスよ!」
「へぇ、プロの料理人のクッキーなんだ!」
「です! ウチの父は菓子職人としても有名で……というか、ほんとはそっちが得意なんスよ!」
どうりで、おいしいわけだ!
これ、ボクでも作れるだろうか。
オリビアのために料理やお菓子作りを頑張ってきたから、真似っこくらいはできるかもしれない。
「それ、レシピ教えてもらってもいいかな?」
「もちろんっス!」
「わぁ、パパ! おうちでも作ってくれる?」
「うん、もちろんだよ。オリビア」
「わーい! あ、でもね、オリビアはパパの生姜クッキーとか木の実クッキーも大好きだよ」
「ふふふ、ありがとう。オリビア」
1年生と2年生が入り乱れて、湖のほとりでおやつ。
このあと、すこし周辺を探索して、日が暮れるまでに宿泊するロッジに向かうそうだ。明日は湖水浴や探索などをするらしい。楽しいことが、いっぱいだ。
「……ふん、みな浮かれておりまする。オリビア・エルドラコもそうです。おうちでクッキーだなんて、【王の学徒】として、あまりにも呑気すぎる」
「とかいって、リュカもうらやましいんだろ〜?」
「……マレちゃん」
「あうあう、睨むな睨むな! 我ってば全部お見通しだし?」
うん、リュカちゃんもひとりぼっちじゃないみたい。
魔王さんとおしゃべりしていると、魔王さんのにぎやかな声につられて、お友達が集まってくる……のだけれど、あからさまにリュカちゃんたちを遠巻きにしている子たちもいるようだった。
「オリビアさん。【失われし原初】は持ってきたんですか?」
「クラウリアお姉ちゃん。うん、持ってきたよ」
オリビアはリュックの中から、丸い宝玉を取り出す。
中心部分に七つの星が輝く、ボクのお気に入りの宝石。
実は、ニンゲンたちが大切にしている七つの力を宿した宝玉たちーー【七天秘宝】を探し出す力を秘めた石なのだ。
遠足でやってきた、この【神龍泉トリトニス】の近くに、七つの秘宝のうちのひとつが隠されているかもしれないのだ。
おやつが終わったら、散策の時間にすこし探してみよう。
「がんばろうね、パパ!」
「うん。応援するよ、オリビア」
さくさく、ほろほろ。
クッキーと一緒に楽しい時間が流れていった。