ドラゴン、遠足へ”飛び立つ”。
「リュカちゃん、起きて起きて~!」
普段よりも早い起床時間――というか、夜明け前。
いつも早起きなリュカちゃんだけれど、昨日寝たのが遅かったからか――遠足の朝はちょっとだけお寝坊をした。
もちろん、出発の時間には問題なし。
もともと朝に強いうえに、わくわくしすぎて、ものすごーーく朝早くに起きたオリビアがしっかり起こしてあげたから。
「はっ! わらわは起きておりますれば……むにゃ……」
「あうっ、寝ぼけているでしょこれ……」
「リュカちゃーん、おーきーてー!」
「リュカー、おーい起きろー!」
今日はニンゲンの姿で参加してもいい、と言われているボクたちも、ちょっとしたアウトドアスタイル。
魔王さんは、わざわざお気に入りの白ワンピースと麦わら帽子をお家から取り寄せたみたい。
クラウリアさんが鷹の姿になってひとっ飛びしたらしい。
『モノをもって飛ぶというのは骨が折れますね』――というのが、クラウリアさんのコメントだった。
たしかに、何かを持ったり咥えたりして飛ぶのは、ちょっとコツがいるかも。魔王さんのお城を世界樹の根っこでグルグル巻きにして空を飛んだのが、つい昨日のように思い出される。
それにしても、近頃クラウリアさんの姿が見えない日があったのは、そういうことか。
オリビアは「もっとシュシュっておうちに帰れたらいいのにね」と、クラウリアさんをねぎらっていた。
***
朝ご飯をしっかり食べて、草原の中にそびえる校舎をぐるりと囲むお堀にかかった跳ね橋をわたる。
校門の外に、リュカちゃんたち1年生とオリビアたち2年生が整列する。
事前学習で調べた『神龍泉トリトニス』の資料や、おやつやお弁当を持って――いざ、出発だ。
「わぁ、すごい! 大きな馬車……! たっくさんある……!」
校門前には、200人の子どもたちが載れる分の馬車がずらりと並んでいた。
これで移動するらしい。
遠足、とはいえ日帰りではない。
ほぼ夜明けと同時に出発して、お昼過ぎまでは移動だ。
そのあと、コテージハウスというお館に泊まらせてもらって、明日は1日中、散策や湖水浴。
そして、明後日の午前中に『神龍泉トリトニス』を発って、その日の夜に学院に帰ってくる――という日程だ。
学院の外でお泊りをするということで、オリビアたち生徒はワクワクしているのだ。
ボクも、わくわくしている。
「本来、こういった行事に保護者は同伴できないそうなので、ラッキーですね。古代竜殿」
「クラウリアさん! そうだね、守衛さんになってよかったよ」
「ほんとうに。なんでも、保護者の同行を禁止する前は、貴族の方々が家来団を大勢連れて遠足の行先まで押し寄せてしまっていたらしいですよ……」
「ええ……!」
「それに、おやつも一流の菓子職人にその場で大量に作らせる方もいらしたとか」
「それで、300サキュルまでって決まっているんだね……」
ニンゲンのキゾクって、たまに考えられないことをするなぁ……。
あはは、とボクは笑うしかなかった。
次々に馬車に乗り込んでいく子どもたちを見守っていると、ガッシャーンという音がした。
「きゃっ! わわ、どうしたのですか」
今年から学院に編入した娘のセラフィちゃんを見送りに来ていた、学園創始者であるエルフの女王フィリスさんが「きゃんっ!」と飛び上がった。
「フィリス様! 申し訳ございません……それが、馬車がひとつ脱輪してしまいました!」
「なんと――」
見れば、10人乗りの大きな馬車の車輪が脱落してしまっている。
さいわい、生徒は誰もケガをしていないようだ。お馬さんがびっくりしてヒンヒン泣いているのが可哀そうだけれど、お馬さんにもケガはなし。よかった。
「どうしましょう、これでは遠足に行けない生徒が」
「どうにかほかの馬車につめて乗れないのですか!?」
「まぁ、できなくはないでしょうが……いかんせん狭くはなるかと」
「ではすぐに修理か代わりの馬車の手配を……」
「到着が夜になってしまうかもしれませんね」
フィリスさんのもとに、先生たちが集まって深刻な顔。
生徒たちも異変に気付いて、心配そうに顔を見合わせている。
馬車は、車輪がダメになっただけで箱の部分は問題なさそうだ。
――『モノをもって飛ぶというのは骨が折れますね』
ボクは、クラウリアさんの言葉を思い出す。
ああ、それなら――
「あの~」
「はい、なんでしょう。エルドラコさん?」
「だったら、ボクが飛びましょうか?」
「……へ?」
「だから、ボクが飛びますよ。この馬車をくわえて!」
***
「ほわぁ~、すごい、高いね、パパ!」
「ひっ、ひさびさに体験すると、けっ、けっこう怖いですね……自分で飛ぶのとはわけが違うというかっ…………。……きゅうっ」
「く、くらうりあ!? 大丈夫か、クラウリア~~!!」
「すごいですわ、オリビアのおじさま!」
「……ぅ」
「すごい……リュカ、空を飛んでる……。リュカもいつか、エスメラルダ様みたいに飛行魔法を……」
びゅーん、と空をひとっとび。
地上をはしる馬車たちに速度をあわせてあげつつ、向かうは『神龍泉トリトニス』――昔、ボクが寝ぼけてつくってしまった水たまりへ!
書籍版第1巻、8月31日に発売です。
大改稿で可愛さパワーアップ!!!




