ドラゴン、遠足の準備をする②
「フローレンス女学院の『遠足』といえば、長く続く伝統行事です」
中庭で、『遠足のしおり』を眺めながら、デイジーちゃんの説明に耳を傾ける。
オリビアの膝の上で、ボクはふむふむと頷く。
「それで、今回の行先は――【神龍泉トリトニス】です!」
「とっても綺麗な湖なんだって、海みたいにおっきいの。湖水浴もするんだよ。楽しみだね、パパ!」
「神龍泉……トリトニス……」
それって、ずいぶん前にクラウリアさんに教えてもらった気がする……。
ボクが何百年か昔に寝ぼけてて、地面にうんと大きい穴を掘っちゃった跡地だ。たしか、もぐらさんになって美味しいお野菜を掘る夢を見てた。
今でも湖として残っているその穴は、『神龍泉トリトニス』って呼ばれてニンゲンたちの聖地になっているって……。
「うわあああ~」
ボク、はずかしい!
「パパ?」
「な、なんでもないよ。オリビア……」
可愛い娘に昔のおっちょこちょいを知られるのはちょっと……いや、だいぶ恥ずかしい!
どうやら、伝説では『神聖なドラゴンが水不足に苦しむニンゲンのために泉をもたらした』ってことになっているらしいから、えっと、その方向性でお願いします……!
恥ずかしいとか照れくさいなんて気持ち、ずっと持っていなかったけど――パパは娘の前ではかっこうつけたいものなんだ。
育児書にも書いてあったし!
「と、ところでどうして2学年合同になったんだい?」
ボクは話の流れを変えるべく質問をする。
それは――とデイジーちゃんが口を開きかけたところで、後ろから声がする。
「護衛の関係だそうですよ」
「クラウリアさん!」
すらりとしたスタイルに、ピンク色の髪をきちんと結い上げた騎士の姿のクラウリアさんが立っていた。
「あれ、鷹の姿じゃなくていいんですか?」
「ええ……最近はマレーディア様が学園内でも元気でいらっしゃるので、十全なお世話のためにこの姿になっております。先生方からも許可はもらっていますので」
「あら、おじさまご存じないのですか。クラウリア様の立ち居振る舞いは生徒たちの模範だということで、先生方も噂していらっしゃったんですよ」
デイジーちゃんは、きらきらとした目でクラウリアさんを見つめている。
クラウリアさんはどうやら生徒たちの間で『姫騎士様』として人気なんだそうだ。
「せんだっての亜竜の襲撃は、リュカさん――というよりは【七天秘宝】を狙ってのものだという仮説です。古代竜殿や我々の戦力を分散させぬように、オリビアさんのいる第2学年とリュカさんのいる第1学年が合同で遠足にいくことになったそうで」
「なるほど……!」
「はやく残りの【七天秘宝】が見つかるといいのですが。不肖クラウリア、しっかりお手伝いいたしますね」
「ありがとう、クラウリアお姉ちゃん!」
なるほど、そういう都合なのか。
「せめて、【七天秘宝】がどこにあるかだけでもわかればいいのにね」
「そうだねぇ。パパ」
「なんでも、【失われた原初の石】というものがあれば、秘宝への道を示してくれるということですが……」
「へぇ? 【失われた原初の石】かぁ」
「あぁ、わたくし聞いたことがありますわ。【七天秘宝】の管理のために作られた宝石で、大きな宝玉のなかには七つの星が煌めいているそうです。魔王軍との戦乱の際に消失したらしいのですが……」
七つの星?
あれ、それってどこかで……。
ふと頭に疑問がよぎったところで、カラカラコロンと始業の鐘が鳴る。
「あ、次は魔導具制作の授業だね」
オリビアが立ち上がる。
魔導具制作の授業では、卒業までにオリジナルの杖を作るらしい。
今日から本格的に始まるという、特別課外授業だ。
そういえば、杖に使うからといってボクのお気に入りの宝玉をオリビアにあげたんだ。
オリビアが一生大事に使える杖ができるといいなぁ。
「パパからもらった宝石、大切に使うね!」
オリビアが袋から取り出したボクのお気に入りの石。
赤ちゃんの頭くらいある大きなまぁるい宝石の中には―――
「あれ……古代竜殿、これって」
「う、うん。これって……」
七つの星が、煌めいていた。
本日から定期連載再開です!
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【活動報告】で詳細なリンクご報告しています
発売日は8月31日です。
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