ドラゴン、友だちと話す②
次の日。
ボクたちが朝食を食べ終えて校舎に向かうと、中央掲示板の前にいくつも行列ができていた。
「わあ、あれは何の行列?」
「テストの返却だよ! 成績表をもらってからクラスに行くの」
「学年ごとの列ですから、見た目ほど時間はかかりませんわよ」
オリビアとデイジーちゃんが教えてくれる。
学院生活を1年間おくってきたオリビアは、当然だけれどボクよりもこの学校のことに詳しい。
オリビアに色んなことを教わるのは、なんだかとっても新鮮だ。
行列に並んで、事務員さんから封筒を受け取る。
「特待生コース……2年【ゼロ組】のオリビア・エルドラコさんですね。はい、こちらです」
「ありがとうございます」
封筒には、『オリビア・エルドラコ』と名前が書いてある。
オリビアがボクたちにつけた苗字……『家族の名前』も、なんだか馴染んできた。
周囲の子たちと同じように、オリビアが封筒のなかを覗き込みながら廊下をあるいていると――
「っ、オリビアっ!! お、お姉さまっ!!」
「あ、リュカちゃん!」
同じように封筒を抱えたリュカちゃんが駆け寄ってきた。
オリビアを探し回っていたのか、はぁはぁ息を切らしている。
「どうしたの?」
「テストの点数っ、どうであったか! 見ろっ、わらわは全科目100点、総合100点、SS評価であったぞ!! 【王の学徒】であるオリビアお姉さまが、まさかわらわよりも点数が低いなどということはあるまいな!!」
「あ。えっと……」
がさごそ、とオリビアは封筒を探る。
期待に満ちた目で、リュカちゃんはオリビアを見つめている。
そうか、自分の点数がよかったからオリビアに見せにきたんだなぁ。
オリビアのことを「ライバル」だと思っているみたいだという予想は、やっぱり正解みたいだ。
学年は違うとはいえ、テストの点数というのは、目に見えて比べやすい「数字」だもの。
点数じゃなくて、頑張りを褒めてあげましょう……って育児書で読んだけど、リュカちゃんはたしかにテスト前には毎日毎日とっても頑張っていた。
点数も取り組みも、100点満点だ。
もちろん、オリビアも頑張っていたけれど……。
「点数は、えっと……」
「まだるっこしい! 平均点を言え、平均点を! わらわは平均点が100点じゃぞ!!」
「んっと、平均点は……120点だね」
「……は?」
「ああ……オリビアちゃん、たしか魔法幾何学のテストで失われた古代の術式を解読して使っていましたわね」
「うん、魔法幾何学が150点で、あと魔法薬学が月光草……お山に生えてたエリ草のレポートを出したから120点」
「へ、平均……120点じゃと……100点満点のテストで……」
リュカちゃんは顔を真っ赤にして、ふるふる震えている。
目には涙が浮かんでいる。
だいぶ、ショックみたいだ。
オリビアたちの足元で事態を見守っているボクの横で、黒猫姿の魔王さんが「あうぅぅ……これは……」と唸った。
「えっと……ご、ごめんね、リュカちゃん」
「なっ!」
明らかにしょんぼりしているリュカちゃんに、オリビアが申し訳なさそうに謝った。
すると、今まで唇を噛んで震えていたリュカちゃんが、大きな目を見開いてオリビアをにらむ。
「あう、今のはアレじゃぞ、オリビア……」
魔王さんが、お耳をぺこんと垂れて呟いた。
「お、お、お、オリビア・エルドラコ!!! あああ、謝ったな!? ふざけるでないぞっ、おまえがしょぼくれた顔をしていたら、わらわの立つ瀬がないではないかぁあぁ~っ!」
「リュカちゃん……!?」
「お姉さま、などと呼んで慣れ合っていたのが間違いじゃった。お前は、ものすごく強いし、優しいし、わらわに親切じゃった……それに、わらわの友達、パパ殿の娘じゃ! じゃが、それはそれ! これはこれじゃっ! わらわはお前を倒すっ! わらわがオリビア・エルドラコよりも優秀じゃと見せつけてやるのじゃっ!」
「【七天秘宝】も我が先に見つけ出し、この手におさめてエスメラルダ様に献上してやるっ! 覚悟しておくがよかろうっ!」
うわーーん、と叫びながらリュカちゃんは走り去ってしまった。
あっ、とオリビアは追いかけようとするけれど……足を止めてしまう。
きっと、追いかけてももっとリュカちゃんを怒らせてしまうって考えているんだろう。
ボクは背中の翼でぱたぱた飛んで、オリビアの腕におさまる。
ぎゅうっとオリビアが抱きしめてくる。
小さい身体はちょっと不便だけれど、こうしていつでもオリビアの近くに寄り添っていられるのは、とっても便利だ。
「あうーぅ……のう、オリビアよ」
魔王さんが、おずおずという感じで話しかけてくる。
なんだかとっても言いづらそうだけど、たぶん魔王さんは――
「マレーディアお姉ちゃん?」
「あいつ、完全にボッチじゃろ? オリビアには悪いのだけれど、あぅー……そのー……」
「リュカちゃんと一緒にいてあげて!」
「あやつの面倒を……あう?」
リュカちゃんのあとを追ってあげたい、という魔王さんにオリビアは勢いよくお願いをする。
優しいオリビアは、きっとリュカちゃんのそばに誰かがいてあげられるのであれば、それがオリビア自身ではなくても構わないと考えているんだろう。
「リュカちゃん、さっきすごく寂しそうな顔してたの。オリビアはリュカちゃんよりも『お姉ちゃん』だから大丈夫!」
うん、とっても、お姉ちゃんだ。
いつの間にか立派になったんだね、オリビア。
「あう……ふふん、我に任せよ。もう、ちょちょいのちょいで話してくるんだからねっ!」
魔王さんは、てててと駆け出す。
オリビアは、ボクをぎゅうっと抱きしめる。
「ねぇ……パパもよかったら、リュカちゃんのところにいってあげてほしいの」
「オリビア? でも……」
「パパ、このあいだ、オリビアに話してくれたでしょ。パパはリュカちゃんのお友達だって」
うん、話した。
ボクはリュカちゃんのお友達だ。
エスメラルダさんに報いたいってすごくすごく頑張っているリュカちゃん。
ボクは、リュカちゃんのそんな心を知っている。
だから――。
「……うん。オリビア、パパちょっと行ってくる」
「ありがとう、パパ。あのね、リュカちゃんを……フォンテーヌ寮の、たいせつな『妹』をよろしくね!」
「うん、まかせて!」
ボクは、翼を動かした。
―――
第8回ネット小説大賞受賞作です!
マイクロマガジン社様からの書籍化予定。
ちゃくちゃくと作業頑張っていますー。
書籍限定書下ろしふくめ、とっても可愛い本になりそうですのでどうぞお楽しみに!!!




