ドラゴン、任命される。②
フィリスさんとエスメラルダさんが説明してくれたことは、こうだった。
【七天秘宝】。
膨大な魔力を秘めた魔石や宝石を用いた、人間界で最強の魔法具。
名前の通り7つある秘宝は、その半分以上が『行方不明』になっているのだそうだ。
持ち主が明らかになっているのは、3つ。
エルフの賢い女王さま、フィリス・フローレンスさんが所有する【久遠の玉杖】。
竜人族の生き残りで古の【リアリスの六賢者】のうちのひとり、長きを生きる美しき災害、エスメラルダ・サーペンティアさんの所有する闇の宝玉【夕闇の宝冠】。
そして、東国の竜人族の末裔の姫巫女であるリュカ・イオエナミちゃんが体内に有する流麗なる竜殺しの大剣【蒼水の剣】。
ほかの4つは、色々な理由で失われているらしい。
エスメラルダさんは深刻な顔をする。
「先日の亜竜の襲撃――私が調査したところ、ほぼ確実に隣国からのものであることがわかった」
「隣国?」
「氷に閉ざされたグラキエス帝国――我らの大陸をおさめるシュトラ王国とは長いこと敵対している」
「長いこと」
「500年以上だ」
「あ、割と最近だった」
「……。古代竜殿は長生きであるからな」
「あう……人間同士のいさかいか。くだらんのぅ」
「グラキエス帝国は近年、古代の霊獣たちを『複製蘇生』として生き返らせる技術を急速に発展させていてな。ふたたび、シュトラ王国に戦を仕掛けようとしているらしい」
「複製……あ、もしかして」
「うむ、あの大量の亜竜たちも、グラキエス帝国が『複製』した竜種に間違いないだろう」
なるほど、あの騒動はニンゲンたちの喧嘩だったのか……!
オリビアたちみたいに、みんな仲良くしてくれるといいんだけれど。
「グラキエス帝国にとって、魔法大国シュトラの脅威は【七天秘宝】の保有量が多いこと。おそらく、本格的に仕掛けてくる前に、 【七天秘宝】の保有者から奪う、あるいは散逸している残りの4つを探し出すなどの動きを取るつもりなのだろう」
「ええ……先日の襲撃は、奇しくも 【七天秘宝】の保有者が一堂に会したところを狙われたことになりますね。あの場にエルドラコさんがいらっしゃらなかったら、どうなっていたことか……!」
「えへへ、パパつよいもんね!」
「そういうわけで、古代竜殿。ドラゴンというのは宝玉の目利きに長けた生き物であると聞く……シュトラ王の名のもとに学ぶ将来の賢者【王の学徒】として、そなたの寵愛を受けしオリビアを【七天秘宝】の探索者に任命したいと思っている」
「こちらに【七天秘宝】がそろえば、グラキエス帝国もやすやすと攻めてはこないでしょう。平和的な解決のために話し合いを持つ道も見込めます」
「まぁ……探すくらいなら」
ニンゲンの喧嘩に加担するのは嫌だけれど。
話し合いのきっかけになるなら、ちょっと手伝ってあげてもいいかな。
そもそも、オリビアが「宝さがしみたい!」と目を輝かせているしね。
「……わ、わらわは……補佐なのですか、エスメラルダ様」
「うむ、そのように私が推挙した」
リュカちゃんが、魔王さんを抱えたままプルプルと震えている。
ずいぶんと強い力で抱きしめられているみたいで、「あうぅ!? 苦しいのじゃが!!」とジタバタしているけれど、大丈夫かなあ?
「……。わ、わかりました。リュカは頑張りまする。必ずや、エスメラルダ様のご期待以上の成果を持ち帰りますゆえ!」
「……あぁ。期待しているよ、リュカ」
大きな目に涙をためているリュカちゃん。
魔王さんもそれを見上げて心配そうにしている。
それなのに、保護者のエスメラルダさんは、
「話は以上だ。【七天秘宝】に関する情報は随時共有させる」
なんて、リュカちゃんから目を逸らして中庭の木々を眺めているばかり。
寮に帰る道すがら、リュカちゃんは「オリビアお姉さまには負けませぬぞ!」とか言いながら走り去ってしまった。
ボクはなんだか心配になってしまう。
リュカちゃんとエスメラルダさん、なんだか、「すれ違い」になっちゃっているんじゃないかなぁ……。
―――
第8回ネット小説大賞受賞作です!
マイクロマガジン社様からの書籍化作業頑張っていますー。
書下ろしふくめ、とっても可愛い本になりそうですのでどうぞお楽しみに。