ドラゴン、テスト勉強につきあう。②
一生懸命に勉強しているオリビアたち。
なにかボクにできることはないかなぁ……。
そんなことを考えていると、ボクの頭にぴこーんと素敵な考えが浮かんだ。
(そうだ、キッチンを借りてお茶を淹れてあげよう! ケイトちゃんのつくったクッキーもあるし、きっと喜んでくれるね)
ボクはオリビアの膝から降りて、食堂の横にある厨房に向かった。
* * *
「わぁ、お鍋もボウルもさすがに大きいねぇ」
ボクは厨房を見回して、その大きさにびっくりする。
日々の夕食はこの本校舎の食堂で食べることもできるし、寮に帰って食事をとってもいいことになっている。けれども特別な晩餐は、本校舎で全生徒が集って食事をすることになっているらしい。ひと学年100人、先生たちをいれれば700人近い人数の食事を用意するキッチンはとっても広くて、調理道具も大きい。
物珍しくて、ついついきょろきょろしてしまう。魔王さんのお城のキッチンも広いけれど、ボクたちが食べる分の調理しか行わないのでお鍋もフライパンも普通のサイズなのだ。
「よーし、はちみつたっぷりのお茶にしてあげよう」
甘いものは、読書やお勉強にもぴったりだからね。
ボクも育児書を読むときには、甘い紅茶やはちみつミルクをあっためて、ちみちみ飲むようにしている。ニンゲンの姿で生活するようになってから覚えた、とっても楽しい習慣だ。
「……。ちょっと、やりにくいかも」
ぬいぐるみサイズになっているボク。
このままでお茶を淹れることもできるかもしれないけれど……ちょっとやりにくいなぁ。
ニンゲンの男性の姿だと生徒さんたちがどきどきしちゃうから……ということで、ぬいぐるみサイズで過ごしているけれど。
「お茶を淹れる間くらいは、大丈夫だよね」
と、ボクはニンゲンの姿になった。
タテガミとおなじ白銀と紫のまじった髪はひとつに編んで。
ひさびさだけれど、すっかりおなじみの姿だ。
「よーし、せっかくだからオリビアたち以外にも淹れてあげよう。学習室には、まだたくさんの子が勉強してたしね。えーっと、このおっきなティーポットに……カップはこっちかな……」
「まぁっ♡」
たっぷりのお湯を沸かしながら準備をしていると、女の子の声がした。
振り返ると、上級生用の制服を着た女の子が、ほっぺを真っ赤にして立っていた。
「もしかして、オリビアさんのお父様ですか? 古代竜様の……」
「あっ! えっと……ごめんね、驚かせちゃったかな」
「いえ! その麗しいお姿でお会いできるとはおもっていませんでしたので……! わたくし、今日の談話室のお茶係なので厨房に来たのですが……」
「ああ、ちょうどボクもお茶を淹れようと思っていたんだよ。ボクに任せて!」
「そんな! 恐れ多いですわ……まぁ、いちばん大きなティーポットをそんなに軽々……! ほんとうは腕力強化の術式をかけたミトンで持ち上げますのに……」
「え、そうなのかい? えーと……ボク、こうみえても力持ちなんだよ」
ボク、ドラゴンだからね!
* * *
お茶をそそいだカップを運ぶのは、上級生の女の子にお願いをした。
お鍋とポットを片付けて、ボクは小さいドラゴンにもどって学習室に向かった。
みんな、嬉しそうにお茶を飲んでいる。
神嶺オリュンピアス……ボクの住んでいたお山でとれた、美味しいはちみつをたっぷり使っているお茶。
ボクとオリビアのお気に入りだから、みんなも気に入ってくれると嬉しいな。
「なんだか……体に魔力がみなぎってくるような……!」
「ほんとうね、お茶を飲んだとたんに……不思議だわ……! まるで魔力増強のポーションを飲んだみたい!」
「あしたの実技試験、行けるような気がするわ!」
……と、みんなが目を真ん丸にして笑っている。
よかった、喜んでくれているみたい!
学習室のあちこちで、2年生の通常クラスに編入してきた理事長の娘、エルフで庭師のセラフィちゃんや、黒猫姿の魔王さんを膝にのせたリュカちゃんがお茶を飲んでくれている。
「パパ、ありがとう! とっても美味しいね」
と、オリビアも両手でカップを包み込むようにして、ふぅふぅ冷ましては飲んで楽しそうだ。
よかった。お勉強には、休憩も大切だよね。
学習室が、ほっとした空気に包まれる。
……そんなとき。
思いがけない人が訪れたのだった。




