ドラゴン、寮で朝ごはんを食べる。
追記:登場人物の名前を間違えていました!!!
イリアちゃんと書いていたところは、正しくは「レナちゃん」です!!!
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4月23日は「ドラゴンの日」なんですって!
というわけで更新です。
オリビアに抱っこされて寮の1階に降りる。
そこは、たくさんの生徒で賑わっていた。
「パパ、朝ごはんいこー!」
昨晩、上級生のおねえさんたちが出迎えてくれたのは、他の子はみんなお部屋で寝ていたからだそうだ。
けれど、いま寮の廊下を楽しそうにお喋りしながら行きかっているのは、オリビアと同じくらいの小さな女の子から最高学年のおねえさんまで、色々な年齢の子がいる。
耳の尖った子や、肌の白い子、黒い子、頭から耳の生えてる子。
きっと、それぞれ遠くの地域から進学してきたんだろうな。
ボクはしっぽをゆーらゆらと揺らしながら、周囲をきょろきょろと見回した。
たまに、ボクを見て「かわいー!」と笑ってくれる子がいる。
ボク、かわいいかな……!?
ふと、聞いたことのある声がする。
「オリビアちゃん!」
「あ! デイジーちゃん、おはよう」
「おはようございます。あの……もしかして、その小さいトカゲさんって」
「やぁ! 久しぶり、デイジーちゃん」
「その素敵なお声は! やっぱりオリビアのおじ様ですのね。素敵なお姿になられていて、すこし驚いてしまいました」
ごめんなさい、とデイジーちゃん。
去年の長期休暇に、ボクたちの家に遊びに来てくれたこともあるオリビアの親友だ。
ニンゲンのなかでは古くから続く血筋みたいで、どの人もみんな魔術師だったんだって。
魔王さんを封印した勇者さんたちのパーティに、デイジーちゃんのご先祖様がいたとかで……魔王さんはちょっとムムムって顔をしていたっけ。
それからも何度か顔をあわせていたけれど、ちょっとお姉さんっぽくなったなぁ。
つやつやの黒い髪が、朝一番の太陽の光でかがやいている。
「デイジーちゃん、食堂まで一緒にいこっ!」
「えぇ。もちろんですわ。いい香り……今朝はきっとデニッシュを焼いてくださったのですね」
「えへへ、たのしみ! ……あ、ちょっと待ってね」
にこにこ顔のオリビアが、くるんと後ろをふりかえる。
そこには、ピシッとした表情で歩いているリュカちゃんがいた。
両手で抱えるように魔王さん(ねこのすがた)を抱っこしている。
肩には鷹の姿のクラウリアさん。
たぶん魔王さんから離れないようにそうしているんだろうけれど……小柄なリュカちゃんがまるで止まり木みたいになっている。
「リュカちゃん! あのね、この子はデイジーちゃんだよ。フォンテーヌ寮のお姉様」
「む……パレストリア家のご令嬢か。よろしく、東国の竜神族の末裔、リュカ・イオエナミじゃ」
「えぇ、存じておりますわ。今年の首席入学さんですもの。よろしくお願いいたします。リュカさん」
「うむ……デイジー殿は」
「あ、リュカちゃん!」
「む?」
「どの、じゃなくって! リュカちゃんも、フォンテーヌ寮の子でしょ」
「あ……えと……デイジー、お姉……様」
「よくできましたっ」
「オリビアお姉様! 頭を撫でないで、頭をっ!」
「うふふ、すっかり仲良しさんですね」
楽しそうに話しながら、廊下を歩く3人。
これから食堂で朝ごはんなんだ。
ふわぁ~とあくびをしている魔王さんのしっぽが揺れている。
楽しみだなぁ、朝ごはん!
* * *
食堂は寮の一番奥にある。
中庭の泉がよく見える広い部屋だ。
「おはようございます、みなさん。昨日からフォンテーヌ寮にリュカ・イオエナミさんが加わりました。オリビアさんに続いて、首席入学の子が私たちの寮にくわわってくれて嬉しいですね。昨日のことはありますが……理事長先生が学院の加護をいっそう強くしてくださいましたし、昨日私たちをお守りくださった古代竜様も私たちを守護してくれることになりました」
わあ、と生徒たちが沸き立つ。
「今日は、昨日予定していた新入寮生の歓迎会も行いますからね。フォンテーヌ寮の姉様としてしっかり頑張りましょう……それでは、いただきましょう」
「「「いただきましょう!」」」
最高学年の寮監生さんが、全員に朝ごはんがいきわたっていることをチェックして声を上げた。
それに続いて、生徒たちが声をそろえる。
目の前には、目玉焼きにパン。サラダと、それから透明なコンソメスープが並んでいる。
ほこほこ湯気の立っている。
「配膳してずいぶん経つのに、冷や飯にはならんのじゃな」
「ああ、これはお皿に魔法陣が書いてあるんですよ。ちかごろ開発された魔法陣なんですが、開発者が学院の卒業生なので寄付してくださったとか」
「むぅ……さすがは大陸でも最高峰の学園。いや、しかし、わらわは必ず【王の学徒】の座を……」
「あ、リュカちゃん。朝ごはんはムズかしい顔して食べちゃいけないんだよ」
オリビアのほがらかな声に、周囲の席についていた生徒たちがリュカちゃんに優しく話しかけ始める。
昨日は大丈夫だったか、とか、好きなお茶は何、とか。
いつもの調子で胸をはって、ちょっとモジモジしながらも、リュカちゃんは質問に応えている。
「朝ごはんは寮ごとにいただくのが、伝統なんですよ。1年間こうして過ごしたので、すっかり我が家のような気持ちになってしまいます」
と、デイジーちゃん。
たしか、お家の人と食卓を囲む機会が少ないって前に言っていた。
そのときのデイジーちゃんはさびしそうで、ボクたちの家で一緒に温かいご飯を食べたのを、とってもとっても喜んでいたっけ。
にこにこと朝ごはんを食べるデイジーちゃんに、ボクはなんだかホッとした気持ちになってしまった。
「ううーん……いい匂い!」
ボクは唸る。
温かい食事は、日々の活力。
ボクの読んだ育児書……『おいしいごはんと子育て45巻』にはそう書いてあった。
特に、身体の大きくなる時期は栄養のある温かい食事をとりましょう……って。
そう考えると、とってもいい朝ごはんだね!
オリビアの膝に座って、両手でパンをもって食べる。
うん、おいしい!
身体が小さいと、ちょっとした食べ物も大きく見えてごちそうっぽい。
横を見ると、魔王さんも取り分けてもらった目玉焼きを美味しそうにハグハグ食べていた。クラウリアさんは、鷹の姿のままでなんと紅茶をいただいている! ……熱くないのかな?
デイジーちゃんがきょろきょろしているボクに、色々と教えてくれた。
「ランチや特別な日の晩餐は、学院の本校舎にある大食堂でいただくんですよ」
「それは賑やかそうでいいねぇ」
「次は新入生歓迎のダンスパーティーですわね。おじ様も、ぜひ」
「ダンスパーティー! そういえば、入学前にオリビアとドレスを買ったような……」
「ええ、オリビアちゃんのドレス素敵でしたわよ」
「ほんとに! ボクも見たかったなぁ。そういえば、同じクラスの子でも寮が違うんだね?」
「えぇ。入学前と入学式のあとに測定する魔力の属性ごとに振り分けられるんですの。オリビアちゃんは、魔力測定のときに【竜の御子】という判定だったので自分で好きな寮を選んでいましたが……」
「ほかにオリビアのクラスの子はいないの?」
「レナちゃんが同じ寮なんですが、彼女あまり朝は起きてこなくて」
「えーと、レナちゃん」
たしか、お茶会で会ったときに一言もしゃべらなかった子だっけ。
銀髪を床に引きずるくらいに伸ばしていて、眠そうな目をしていたなぁ。朝が弱いのかもしれない。
「無口なんですが、すごく面白い子なんですよ」
「そうなんだ。今度ちゃんとお話ししてみたいな」
食事を終えた生徒から、食器を返却して部屋にもどっていく。
すこしの自由時間のあと、本校舎に登校するらしい。
「ごちそうさまでした! 美味しかったね、パパ」
「うん、美味しかったね。オリビア」
両手にお盆を持っているオリビアの頭に乗って、ボクも部屋まで運ばれる。
いよいよ、今日から学校で過ごすのか。
守衛さんとして、なんだけど――なんだか楽しみになってきてしまった。
それは魔王さんも同じみたいで、リュカちゃんの肩にしがみついてしっぽをゆらゆら揺らしている。
よーし、パパ兼守衛さんとしてボクも頑張るぞ!
3月末からずっと微熱を出していたり、仕事の原稿があったり、新作走らせたりでバタバタしていました。今週末にももう1本更新予定です!!