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ドラゴン、抱っこされる。

寮の設定ってなんかワクワクしますよね!

 ボクはオリビアに抱っこされて(新鮮なきもち!)、フォンテーヌ寮の部屋に向かった。

 オリビアの肩には、鷹の姿になったクラウリアさんがとまっている。

 猫の姿の魔王さんを抱えるのは、リュカちゃんの係だ。

 リュカちゃんはおっかなびっくり、といった感じで魔王さんを抱っこしている。


「ふ、ふ、フワフワで……くにゃくにゃじゃ……」


「む?」


「わらわ、猫って初めて抱いたぞ……この毛並み、びろぉどのようじゃな……」


 魔王さんは、リュカちゃんの言葉に誇らしげにヒゲをぴくぴくさせている。

「えっへん!」


「まったく! びっくりしたのじゃぞ! ま、オリビアが亜竜ごときに負けるとは思ってないがな! せっかく加勢しに、この我がやってきたというのに、まったくどーして負けたふりなどしなきゃいけないんじゃ……って、おい、我とキャラかぶりしてる……えーとリュカとか言ったか? しっかり抱くがよいぞ、なんといっても我は……」


「こほん、マレーディア様?」


「あ、あう……」


 リュカちゃんに抱っこされたまま、えっへんとしていた魔王さん。

 クラウリアさん(鷹の姿)にじろりと睨まれて、急に小さくなってしまった。

 鷹の目ってやっぱり鋭いんだなぁ。


「えへへ、マレーディアお姉ちゃん可愛い~!」


 うりうり、とオリビアが魔王さんの頭を撫でる。

 羊さんみたいな角をうりうりうり~と撫でられると、魔王さんは目がみにょんと細くなっちゃうみたいだ。

 ぱったんぱったんと尻尾を振りながら、魔王さんがゴロゴロと喉を鳴らしている。

 オリビアに撫でられるのが気持ちいいみたいだ。

 気持ちはわかるな。


「むぅ、そんなに撫でまわしたら抱きにくいぞ、オリビア・エルドラコ!」


「リュカちゃん? そーじゃなくって?」


 にこ、と笑ったオリビアに、リュカちゃんはうぐぅっと顔を赤くした。


「お、オリビアおねっ、おねえさま!」


「えへへ、よくできましたー!」


 ――リュカちゃんも撫でてあげるね!

 と、オリビアに頭を撫でられているリュカちゃん。


 うりうり、うりうり。


 ボクも、オリビアの頭の上からくにゃくにゃになっている魔王さんを見ているとちょっと楽しい気持ちになっちゃう。

 クラウリアさんは、鷹の姿でもわかるくらいに優しい目でリュカちゃんと魔王さんを見つめていた。


「マレーディア様。ついに、こんな風に外の世界で……」


「……クラウリアさん?」


「古代竜。いえ。少々感傷的になりすぎましたね。ここがオリビアさんの部屋ですか?」


「うん、この部屋だって。これが鍵だね……はい、リュカちゃんのぶん」


「い、いまこやつを抱いておるから、ちょっと、手が離せぬのじゃ……」


「そっか、じゃああとで渡すね!」


 あわわ、としているリュカちゃん。

 ボクは部屋の入り口をじっと見る。


 小さな扉。

 見渡すと、廊下に同じような扉がたくさん並んでいる。

 廊下は中庭を取り囲むようになっていて、魔力で編まれてる透明なバリアの向こうには、綺麗な泉が湧いている。


 学院の校舎には、ちいちゃい庭師の女の子セラフィちゃんが丁寧にお世話している立派なお庭があるけれど、寮の中庭はとてもシンプルだった。


 中央に湧いている泉が、綺麗な白い彫刻で彩られたプールみたいになっている。

 それ以外には、木や花はないみたい。やわらかそうな芝生が茂っているだけだ。


 オリビアが、「あ、そうだリュカちゃん」と背筋を正して手を後ろに回す。

 もしかしてオリビア、お姉さまっぽく振る舞おうとしているのかな。

 その姿が、小さいころに色々なことをオリビアに教えてくれていたクラウリアさんの姿勢にそっくりなのに気づいて、ボクはちょっと笑ってしまった。


 魔王さんも、それに気づいているのか、リュカちゃんの腕の中でおヒゲをひくひくさせている。



「あのね、リュカちゃん。フォンテーヌ寮ってというのは『泉の寮』って意味なんだよ」


「そ、それくらいはわらわも知っておるぞ」


 と、リュカちゃん。


「中庭にいかなる毒にも染まらぬ聖なる【泉】を有するフォンテーヌ寮、中庭に世界樹の若木を持った【樹】の寮、アルボル寮、それから中庭に豊かな土壌を生み続ける神の岩を有する【岩】の寮がペトラ寮……それらの恩恵を受けた、フローレンス女学院校舎本体の中庭。歴史あるフローレンス女学院の象徴ともいえる4つの庭じゃぞ! 国を失ったわらわが、この世界に二つとないこの環境で学べるのもエスメラルダ様のおかげじゃ……」


「へえ! お山の外にもそういうのあるんだね」


 ボクたちの住んでいたお山……ニンゲンたちが神嶺オリュンピアスと呼ぶ場所には、そういう泉とか樹とか岩とか、そういうのがいっぱいある。


「……は? せ、世界に二つとないと言ったじゃろ……なんじゃそのお山は……」


「オリビアたちはね、オリュンピアスに住んでるんだよ!」


「ふぁ、ふぁああ!?」


 リュカちゃんがおめめを丸くした。

 たしかに、あのお山は普通はニンゲンは住まないよね。


「お、オリビアお姉さまって……いったい……」


「さ、お部屋に入ろう。リュカちゃん!」


 こちーんとなっているリュカちゃんの背中を、オリビアが優しく押した。



   * * *



「おお、結構広いんじゃな」


「特別に広めの部屋を、と寮監さんがおっしゃっていましたね」


 オリビアとリュカちゃんの腕から床に下ろしてもらったボクたちは、部屋をぐるりと見渡す。自分たちが小さくなっているのもあるけれど、けっこう広い部屋だ。

 部屋の両脇にベッドがひとつずつと、大きな机が二つ窓際に並んでいる。

 本棚もひとりずつに用意されているみたいだ。

 そういえば、二年生になるときにも街で教科書を買ったもんなぁ。


「ふぅ……今日は疲れちゃったね」


「わ、わらわは、あんな襲撃くらいでは疲れないぞ!」


「えへへ、でもオリビアは疲れちゃったよ。もう寝なさいって寮監(ハウスマスター)のお姉様にも言われたしね?」


 と、オリビアは言い聞かせるようにリュカちゃんの頭を撫でた。

 オリビア、やっぱりすっかりお姉ちゃんってかんじだ!


 二人が学校指定のひらひらのパジャマワンピース……えっと、そう、ネグリジェに着替えている間、ボクたちはお部屋についている小部屋に入っていることにした。


「おお〜ウォークインクローゼットじゃな」


「うぉ?」


「こういう感じの部屋みたいなクローゼットのことじゃな。寮というからショッボイ部屋かとおもったが、なかなかやるのぅ!」


 と、魔王さんがきょろきょろしていた。

 薄暗いなかで、お月様色の魔王さんの目がピカピカ光ってる。

 クローゼットかぁ。ボクはニンゲンのときの服なんて、適当なローブとオリビアに選んでもらった素敵な服しかないけど、魔王さんはけっこう色々な服を着てるもんなぁ……全部部屋着みたいだけど。


 ボクらの家……元魔王城の西の塔のてっぺんにある魔王さんの部屋にも、ウォークインクローゼットがあるのかな。

 いまだに入ったことがない部屋のことを、ぼんやりと考えた。


「パパたち、お待たせ〜!」


 一緒に寝よう、とオリビアとリュカちゃんがボクたちを迎えに来た。

 おそろいの学校指定のネグリジェを着ていると、本当に姉妹みたい。


「わ、わらわはひとりで寝るからな!」


 ぷいっと、髪を解いたリュカちゃんがほっぺたを膨らませた。

 オリビアと一緒にボクたちが全員潜り込んでも大丈夫なくらいの大きなベッドは、ふかふかだった。


 色々あった1日だったけれど、みんなが一緒だと……やっぱりなんだか心が温かいね。

 ベッドサイドの明かりを消して、オリビアが小さくなったボクのツノにおやすみのちゅうをしてくれた。


「おやすみ、パパ。お姉ちゃんたち」


 ボクたちも、オリビアにおやすみのちゅうをする。

 ――おやすみ、オリビア。素敵な夢をね。

リュカちゃんと魔王様のセリフ書き分け死ぬほど難しいですね……。

次回はちょっと閑話休題で、リュカちゃんと魔王様が会話をするんですが今から不安しかありません!!!

でもすっごく可愛い絵面(黒髪ツインテわらわっ子と黒猫モフモフ)なんでよろしくお願い申し上げます!!!

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[一言] いつも恵みをありがとうございます
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