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ドラゴン、マスコットになる。

パパ、さらに小型化しました。

リュカちゃんとはもっと仲良くなれるといいな。

「ええ、同じ部屋!?」



 ボクがびっくりして大きめに思わず叫ぶと、理事長室に置いてあった花瓶がパリンと割れた。

 おっと、体を小さくしているといっても、あんまり大きい声を出しちゃいけないな。

 フィリスさん、花瓶を割っちゃってごめんなさい……。

 ボク、反省。



「わぁい、パパといっしょに寝られるんですか、理事長先生!」



 わくわくと尋ねるオリビアに、割れた花瓶にあわあわしていたフィリスさんはゆっくりと頷く。



「え、ええ! そうですよ、オリビア・エルドラコ。あなたは【王の学徒】でもありますからね、しかるべき護衛をつけて当然でしょう! ただし……」


「ただし?」


「リュカ・イオエナミも同室ということになります」


「ええ!? し、しかしフローレンス学院長、わらわは……」


「どうしました、リュカさん。なにか決定に異存でも?」


「そ、それは……」


「リュカよ、ここはフィリスに従いなさい。私の所持する【七天秘宝(ドミナント・セブン)】がひとつ、闇の魔力を支配する【夕闇の宝冠】の力でこの学院に悪意を持つものの目から、この学院の建物を隠すように魔術をかけてあるが……それでも、私がここを離れれば効力も多少弱まる。宮仕えの身だからな、ずっとここに留まるわけにもいかん」



 夕闇の宝冠……?

 どうやら、エスメラルダさんがかぶっている王冠のことみたいだ。

 真ん中に、血みたいに紅い大きな宝玉がくっついている。


 ボクも昔、あれによく似た綺麗な石を持ってたなぁ。

 あれは、真っ赤っかだったけど、時々黒いモヤみたいなものがふわふわ~って浮かんでは消えて綺麗だったんだ。

 ……あれ、最近見かけないけどどこに行っちゃったんだろうな。


 そんなことをぼんやり考えていると、フィリスさんがしゃっきり背筋を伸ばして言う。



「しばらく、わたくしは学院に常駐するようにいたします。光の魔力を支配する【久遠の玉杖】があれば、守護と癒しの魔術は世界最高峰の水準で行使できます。安心してください」



 もごもご、と口ごもるリュカちゃん。

 エスメラルダさんとフィリスさんに同時にまくしたてられて、何も言えなくなっちゃったみたい。

 リュカちゃんは、そのあとすぐに、「ぐぅ……」と口をつぐんで、こっくりと深く頷いた。



「……承知いたしました、エスメラルダ様」


「うむ。エルドラコ殿も同室で警護に当たってくださるとなれば、亜竜の襲撃であろうが魔族の夜討ちであろうが一網打尽だろう!」


「ええ……ボク、あんまり荒っぽいことしたくないんだけど……」


「エルドラコ殿、何か?」


「いや……ボク、見ての通りドラゴンだけど大丈夫ですか?」


「問題ないでしょう、エルドラコさん。いつも、大変見目麗しい人間の姿で学院にいらっしゃるじゃないですか」


「パパ、みめうるわしいって!」


「えええ……ちょっと恥ずかしいなぁ……」


「でもパパはとってもかっこいいよ! あ、いまのドラゴンのかっこうのパパも強くて優しくて大好きだけどっ!」



 にっこにこのオリビアがボクのしっぽに抱き着いてくる。

 さっき、けっこう怖い感じでがおーって吠えちゃったのに……ありがとう、オリビア。

 ――と、そのとき。

 フィリスさんが、「そうです!」と叫んだ。



「そう! それです! 問題はそれなのですよ!」


「え?」


「エルドラコさんの見た目が、非常に大変よろしいことです!」


「それの何が問題なのだ、フィリス?」



 エスメラルダさんが怪訝な顔で首を傾げる。



「エルドラコさんが学院内に寝泊まりをされるとなれば、あの見目麗しい人間の姿をとるわけですが……ここは女学院ですよ!」


「はぁ」


「男性のっ! しかも、年齢不詳の美中年な守衛さん……それが、寮内に寝泊まりをしているなんて!!」


「美中年て……」



 呟いたエスメラルダさんがじとぉっとフィリスさんを見つめているけれど、フィリスさんの演説は止まらない。

 褒められているのかなんなのかサッパリわからない状況に、ボクはぽかーんとしてしまった。

 オリビアも、ついでにリュカちゃんもぽかーん顔でフィリスさんを見つめている。



「そうです、見目麗しき中年守衛さんが!! 同じ寮に寝泊まりしていたらっ!! 騒いでしまいますでしょう、乙女たちの心が!?」


「は、はあ」



 よくわからないけれど、フィリスさんにとって大問題だということは、なんとなくわかった。

 オリビアはボクのしっぽの上でしきりに首をひねっている。

 見かねたように、エスメラルダさんがフィリスさんに「なぁ」と話しかける。



「……フィリス、もしかして君はあれか? エルドラコ殿に恋をする生徒が出てくる心配をしているのか?」


「そうですっ!」


「……まったく。なぁ、フィリス?」



 ふんすふんすと興奮気味のフィリスさんに、エスメラルダさんがつかつかと歩み寄る。

 真っ赤に塗られた長い爪で、フィリスさんの顎を捕まえた。



「君と私は旧知の仲、竹馬の友、いわゆる幼馴染といっても過言ではないわけだが……この数百年、この見目麗しい竜神族である私に恋をしたことがあるかい?」


「……へ? え、いや……エスメラルダ?」


「ないだろ。残念ながら。あんまり身近すぎる者に、本心から恋をすることはなかなか起こりえないんじゃないかい?」


「え。あ、でも……」



 はわはわしているフィリスさんを見かねたように、リュカちゃんがコホンと咳払いをする。

 師匠、とよそゆきの喋り方でエスメラルダさんに呼び掛ける。



「あのですね……幼馴染と守衛さんでは話が違うのではないかと、わらわは……リュカは思いますが。フィリス様のご心配もごもっともかと……」


「そ、そうです。ほら、リュカさんもこう言っていますよ、エスメラルダ!?」



 思わぬ助け船に、フィリスさんはほっとした顔。

 なんとなく腑に落ちない顔のエスメラルダさん。



「それよりも、その……オリビア・エルドラコと同室という方が……わらわ的には腑に落ちないのじゃが……」



 もごもごと視線をさまよわせながら呟いているリュカちゃん。

 うむむ、とボクは考える。


 そうかぁ、ボクの人間の姿には、よくわからないけど問題があると……。

 あれとは別の姿にも、なろうと思えばなれるけど。

 でも、あの姿こそボクとオリビアにとっての「パパ」の姿なわけで……。

 それに、ほかの生徒がボクの姿を見るのが嫌なんだよねぇ……うーん……。



「ねぇ、パパ?」


「うん、どうしたのオリビア?」



 ちょいちょい、とタテガミをひっぱられて悩みを中断。

 オリビアがそっと耳打ちをしてくる。



「パパと一緒に学校に住めるのは嬉しいんだけどね……マレーディアお姉ちゃんたち、お家で寂しくないかな? お姉ちゃんたちも一緒ならいいのにねぇ」


「たしかにそうだね、オリビア。入学式のときとか、何回かは魔王さんたちも学校に来てくれたけど……あっ!」



 そうだ、魔王さん!

 ボク、ひらめいた!



「パパ?」


「そうだよ、オリビア。魔王さんがやってたみたいに、小さい動物の姿になればいいんだ!」


「マレーディアお姉ちゃん? そういえば、もふもふの猫ちゃんのかっこうしているときもあるね……って、パパ?」



 ボクは、そっとオリビアをしっぽから降ろして立ち上がる。

 ずいぶん小さくなったとはいえ、立ち上がると天井近くに頭がある感じだ。みんなを見下ろす。



「あの、こういう姿ならどうでしょう!」



 といって、ボクは全身をふるるるっと震わせる。

 全身にめぐってる血を、ちいさくちいさく圧縮して……オリビアが抱っこできるくらいまで小さくなる!



「わあ、パパすごい!」



 ん、と目をあける。

 ボクは……みんなを見上げた(・・・・)



「これなら、ニンゲンの姿のときを知っている人も、ボクだってわからないんじゃないかな」



 どうだろう、とみんなを見渡す。

 背中にちょこんと生えている羽をぱたぱたと動かして、オリビアの頭のうえにもちっとのっかる。

 皮膚もすこしだけ、普段よりやわっこい……気がする。



「わあ、パパがぬいぐるみみたいになった!」



 オリビアがボクのちいさな手をぷにぷにと指先でつつく。

 フィリスさんもエスメラルダさんも、そしてリュカちゃんもボクをじ~っと見つめている。



「どうですか、みなさん! 守衛さんにしては小さいかもしれないけど」



 ボクの言葉に、みんなは顔を見合わせる。



「これは……ここまで変幻自在なのか、古代竜というやつは!」


「……か、わいい……のじゃ」


「なんというか……マスコット、みたいですね」



 結局、この姿なら女子寮で過ごしても問題ないだろうという結論になって丸くおさまった。



「パパ、可愛い!」



 と、オリビアもボクをだっこしてご満悦。


 そういえば、毎日オリビアの安全と健康を守るのに必死で、ぬいぐるみとかを与えてあげたことがなかったなぁ……。

 うーん、毎日頑張っていたつもりだけれど、後悔っていうのはでてくるなぁ。ごめんね、オリビア。



「――では、寮の部屋をさっそく用意しましょう。オリビアさんは昨年は1年生の大部屋での寝泊まりでしたから、初めての個室ですね」


「はい、先生! あ、でもリュカちゃんは1年生の大部屋じゃなくて……?」


「非常事態ですから仕方ありません。寮の一番端の二人部屋があいていますから、そこを使いなさい」


「かしこまりました、フィリス様。リュカ・イオエナミ、この恩は胸に刻みまする……オリビア・エルドラコと一緒なのも仕方ないことですね」



 と、オリビアをじとっと睨むリュカちゃん。なんだか、オリビアのことをすっごく意識しているみたい。

 とにかく、成り行きだけれどオリビアと一緒に住めることになった……嬉しいなぁ!


 オリビアのことは、ボクが絶対守るからね。

お読みいただき、ありがとうございます。

一瞬緊迫した感じになりましたが、可愛い学園編がスタートしました。


次回、久々の「あの人たち」があうぅ~っと登場します。

これから書籍化に向けて頑張ってたくさん更新しますのでよろしくお願いいたします!!


―――――


他作品で恐縮ですが、2月末に電子書籍専門百合レーベルGL文庫さんから異世界ガールズラブコメディ『異世界に咲くは百合の花』が発売になりました。あわせてよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 表現が柔らかくてほんわかする [気になる点] 『見かねたように、エルドラコさんがフィリスさんに「なぁ」と話しかける。』 のとこはもしかして『エスメラルダさんが・・・』かな?
[良い点] お父さん可愛くなるw ペット化ですなw [一言] 魔王さん達なにしてっかな?
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