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ドラゴン、守衛さんになる。

 ドラゴンの姿だと、椅子に座れない!

 ちょっと小さいサイズに変化した――とはいえ、ドラゴンの姿のままのボクはなんとか窓から入室した学院長室。

 ボクは「よっこいしょ!」と床に腰を下ろした。

 くるんと丸くなって座っていると僕のしっぽのうえにオリビアがちょこんと腰を下ろした。


 まるで、抱っこしているみたい。

 ニンゲンの姿にならなくちゃ、と思い込んでいたけれどこの(ドラゴンの)姿のままでも変わりなくひっついてくるオリビアにちょっと安心する。

 ソファには、フローレンス女学院の理事長であるフィリスさんと、さっき学院を襲ってきた亜竜さんたちをバッサバッサと切り倒して撃退していたエスメラルダさん、そしてエスメラルダさんのお弟子さんだというオリビアの後輩のリュカちゃんが座っている。


 リュカちゃんはエスメラルダさんのことをすごく慕っているみたい……親子、とはちょっと違う感じだけど。

 同じようにエスメラルダさんも、リュカちゃんのことをとても大事に思っているみたいだ。

 ……そういえば、さっきリュカちゃんの身体から大きな剣が出てきたのって何だろう? 水色に輝く光と一緒に胸から剣が生えてきて、格好よかったなぁ。


 エスメラルダさんがボクたちをぐるりと見渡して、ゆっくりと口を開く。


「――ふむ、すでに太古の昔に滅び去ったとされている古代竜がこうして生きていることにも驚きだが、まさか人の親をしていて、しかもこの学院の保護者とは……驚きだな」


「……えぇ。入学試験のときの魔力検査で【竜の御子】のような反応を確認していたのですが……まさか本当に、文字通り、古代竜の子だとは」



 フィリスさんも、大きく頷く。

 リュカちゃんはというと、ちょうど正面に座っているボク……のくるりと巻いたしっぽのうえに座っているオリビアをじっと見つめている。



「えっと……さっき言ってた、ボクが守衛さんになるって、どういうことなんですか?」


「うむ。その前に、今回の襲撃のことについて話をしておかなければいけないな――今回、亜竜がフローレンス女学院に侵攻してきた件……おそらく、リュカが原因だ」


「え、リュカちゃんが?」


「……師匠、わらわがご説明をします」



 こほん、と小さく咳払いをしたリュカちゃんがゆっくりと話し始める。

 


「わらわは……遠く東方のいまは亡き国で、姫と呼ばれておりました――」


「えっ、リュカちゃんお姫様なのっ!」


「……イオエナミ家は、とおくとおく、はるかに遠い祖先に古代竜の一匹を持つ竜神族の末裔なのじゃ。エスメラルダ様の連なるサーペンティア家とは遠縁にあたる、水龍の系譜」


「パパ、リュカちゃん難しい言葉いっぱい知ってるね……お家の図書館の本で読んだ言葉みたい」



 オリビアがこしょこしょ、とボクのがあるあたりに囁いてくる。

 魔王さん自慢の魔導書図書館の本をたくさん読んで育ったオリビアは、難しい魔術や古代言語も読める。

 普段はあどけない喋り方をするけれど、リュカちゃんの話していることは問題なく理解しているようだ。うちの子、天才っ……というのは、親ばかだから言わないでおこう。



「――数年前のこと、我が国は突如として現れた亜竜によって滅ぼされたのじゃ」


「ええっ!?」


「昨日と同じように、どこからともなく現れた亜竜たちの前に、わらわたちは成す術がなかった……その小国の領主だったイオエナミ家は水の龍の血を引く竜神族、ということになってはおれど、戦う術を忘れてしまっておったのじゃ。残っておったのは、イオエナミ家の当主の血に代々受け継がれる『水晶石の宝剣』のみ」


「宝剣……あっ、さっきの綺麗な剣のこと?」


「うむ……エスメラルダ様のように力ある方がお使いになれば、強大な兵器となる剣じゃが、わらわたちにとっては文字通り宝の持ち腐れであったのよ。……あのような悲劇を二度と繰り返さぬためにも、わらわは、もっともっと、強くならねば……っ!」



 リュカちゃんが固くこぶしを握りしめて、震えている。

 小さい身体で、大きい悲しみを抱えている姿を見ると、出会った頃のオリビアを思い出してしまう。

 リュカちゃん、元気出してほしい……。



「――まあ、そういうことなのですが」



 と、フィリスさんが口を開く。



「亜竜たちがフローレンス女学院を襲ってきた理由は、おそらくイオエナミさんを狙ってのことでしょう。隣国の兵器として開発された亜竜たちは、竜神族をことさらに狙う行動をとるという報告があります」


「ええ! どうしてそんな……」


「理由などわかりません。それとですね、エルドラコさん。よく聞いてほしいのですが……」



 オリビアとボクをじっと見つめるフィリスさん。

 こてん、とオリビアが首を傾げて「なんでしょう、理事長先生?」と問う。



「わかりませんか? 竜神族――つまり、竜の魔力を受け継いだり、まとったりしている者が狙われているんです。つまり……あなたも例外ではない、ということですよ。オリビア・エルドラコさん」


「えええ~~~~!?」



 ボクは思わず叫んでしまった。

 オリビアが、狙われている!?



「ほんとですか、フィリスさん!!」


「まっ、まだ仮定の段階ではありますが、可能性は高いかと。今までは見つかっていなかったとしても、今日の襲撃でオリビアさんの存在が亜竜に知られてもおかしくありません」


「…………わらわを守って、亜竜の攻撃をそらしたからの。……あんな強大な力を、パンチでそらすなんてズルじゃ、ズル」



 ぽつり、とリュカちゃんが呟く。

 ズルじゃないと思うけれど……リュカちゃん、ずいぶんと落ち込んでいるみたい。



「そこで、お父上。あなたが古代竜……亜竜たちをひと吠えで撃退させられる存在であるならば、子どもたちの安全を守るためフィリス女学院の理事長としてはこう結論を出さずにはいられません」



 フィリスさんは背筋を伸ばす。

 リュカちゃんや、エスメラルダさんもボクたちをじっと見ている。



「古代竜殿。あなたに、この学院の守護をしていただきたい――というのは、こういった事情なのです。リュカ・イオエナミさんも、オリビアさんと同じく優秀な生徒。彼女と、全生徒の安全をどうか守っていただけませんか」



 まっすぐなお願いに、ボクは考えるまもなく頷く。

 オリビアとお友達の安全のために、ボクにできることがあれば……なんだってするよ!



「……でも、具体的には何をすればいいんですか?」



 ボクの問いに、フィリスさんは「では、この話を受けてくださるのですね!」と微笑んで、



「簡単です。……この学院に住んでください」


「え……!? ボクが!?」


「わあい! パパといっしょに学校に通えるの!?」



 オリビアがボクのしっぽのうえでぴょーんと跳ねた。



「ええ。子供たちを大いなる脅威から守ってくださるのであれば、正規の職員としてお迎えしたいと思っています。古代竜殿がおっしゃる通り、『守衛』という役職になるのでしょうが……まあ、この学院の守護とオリビアさんとリュカさんのボディーガードを兼ねるようなイメージですわ」


「えええ! ボクなんかでよければ、ぜひ! オリビアが寮で生活している間、実はすっごく寂しかったから嬉しいです!!」


「あのね、パパ。オリビアもさびしかったよ!」


「あまり堅く考えずに、子どもたちが『楽しく健やかな学校生活』を送る様子を見守っていただきたい……そして有事の際には、どうかこのフローレンス女学院をお守りください、古代竜殿」


「私からも頼む。私の弟子を守ってやってくれ、この通りだ」



 頭を下げるフィリスさんとエスメラルダさん。

 ボクはびっくりして、目を丸くする。



「も、もちろん引き受けます!」



 オリビアがにこにこ顔でボクの顔を覗き込んでくる。

 ボク、オリビアの学校に住むんだ!

 ニンゲンの姿になって、握手とかしたほうがいいかなと思ったけれど、残念ながらさっきの巨大化の影響か、まだニンゲンの姿にはうまくなれないみたいだ。


 ……あれ。そもそもこれから暮らす学院では、どんな姿でいればいいんだろう?

次回から学院生活編スタートです。

魔王さんとクラウリアさんも登場してきますので、お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] 竜神と竜人が混在しているのだが? 別のもの?
[一言] 途中で何箇所か、エスメラルダさんが、エルドラコさんになってたよ?
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